「ではこれより口頭試験に入ります、携帯等、マナードでお願いします」
試験官の合図でもう一度確認、私は大きく息をすると試験問題をめくった。
「では設問の1からはじめます、2度読み上げますのでしっかり聞いていてください」
初めて?の口頭試験、緊張の高鳴りは問題用紙ではなくて、試験管に向けられた視線だった。一字一句を聞き逃さない静かな会場で、試験官の問題を聞いた瞬間に問題用紙の回答から選択するのである。
大半は1次試験の洗い直しだった。1次で合格するとそこで浮かれてしまって、再度教本を見直すことはかなりの苦痛である。そこをあえてしないとここではまったく機能しないことは聞いていた。
おそらく半分は賭けだったはずだ。自信など迷ったら次の問題に食い込んでしまう。口頭試験は迷う前に回答を済ませてしまわなければならないのだ。
5問目からは慣れてきて、周りを見る余裕もでてきた。どうあがいても今日で終わりだ。長野まで来てるんだ。どうせなら楽しんで行こう。それしか頭になかった。誰が合格しようが、落ちようが誰にもわからないのだ。それなら利口そうな顔して涼しくいこうじゃないの!!
会場では抱え込むように問題用紙にすがって?いるものの中で、私は背筋を伸ばして1問1問、終るたびにわかったように頷いて、まだまだ!!~~~~。と中村獅童の顔をしていたと思います。
口頭試験は以外に早く終った。次の試験までの休憩、彼女の反応を聞いてみたかった。
「どうでした?はやり難しいですよね!!!」
わかりきったことを彼女に聞いてみた。
「自信なくしちゃいました。でもあなたは出来たでしょう??盛んに頷いてたからすごいなって思いましたよ」
「あ~~あ、あれですか?自信などありませんよ。演技演技!!どうせなら笑っていこうと思いましてね」
「そうですね。後ろで見ていてわかってんだなって思ったら余計に焦りました」
「そうでしたか?ごめんなさい。本当はわかってないんですよ」
額を隠す髪がとても素敵で、誰も話し相手のいない会場で、私は彼女がいたからラッキーでした。話す時に焦点を合わすように見つめる仕草がゾクってくる女性でした。
休憩の10分はすぐにやってきました。次はテーステイングです。
これは赤、白4種類のワインがテーブルに置かれます。銘柄、年代、特徴、価格、合う料理、これを当てるわけです。すごいでしょう!!!
そんなのわかるはずはありません。車の免許の試験でいえば、エンジン音を聞いただけで、この車はなんでしょう?と聞くようなものです。
カベルネソービニヨン、メルロー、ピノ ノワール。白ならソービニヨンブラン、シャルドネ、リースリング、ゲベルツトラミネル。
ただ、白ワインの一つはアルコール度数の40度以上のワイン。しかもそれはリキュールかコニャック、またはマデイラ、カルバドスの種類で、このワインについての記載をしっかりやったほうがいいことは、八幡館の河村さんの助言だった。
カベルネとメルローの区別は難しい。間違ってもボージョレなど絶対に出題されないはずだ。白もシャブリなど出てくる可能性は低い。でもないとは言い切れない。
午後の実技を前に、ここでは口に含んでも、飲まないことが理想だ。
味を見るといっても、1つのワインを3度としても12回。最後は度数の高いワインである。酔ってしまってはもう後がない。
ワインの特徴や記載の仕方は通信教育で嫌になるほど叩き込まれた。回答にはこんの書き方がベストであるやり方を繰り返し頭にいれたからである。
ワインの表現で「若々しい、フルーテイな、柑橘系」などの記載はまずだめとなる。あいまいな表現はすべてに通用するからである。
私は不覚にもここで飲んでしまったのだ。
昼の酒は酔いが早い。しかも、最後の白の度数の高いワインは何度飲んでもわからない。何が原材料になっているかがわからないのだ。
回答例からこれはおそらくこれであろう??くらいを推測するしかないのである。
しかし、この酔いが実技で巧妙に私に運を引き込んでくれたのである。