十五年の時が流れて
許 玉 汝
29.電話が鳴った
夕食の片付けも終り ほっと一息ついた時
けたたましい 電話のベルが鳴った
こんな時間に誰だろう
「もしもし… えぇ?!…」
学童の指導員からの電話だった
チャン君がお昼過ぎからいないという
何で今頃電話するのかと ただしたら
いつものように帰って来ると思ったそうだ
今日は遅いから朝一番に来てくれという
どうして朝まで待つことが出来ようか
夫と一緒にすぐ車で伊賀上野に向かった
真っ暗な道をひたすら走り続けた
真夜中の伊賀上野はお化け屋敷のよう
所々ちいさな電球は見えるものの
山道はとてもこわかった
野外センターに着くと
人 人 人で ごった返していた
指導員達は顔面蒼白だ
「いつもの様にふらりと帰って来ると思って
夕食のカレーを 子供達と作っていたんです
すみません。こんな事になるなんて」
警察、村の人々、消防隊、ボランティアと
大勢の人が山の中から続々と帰ってきた
その時新しい情報の電話が入る
服装は違うがチャン君らしき青年が
隣の村をうろうろしていたという
もしやと思いきや すぐ又 訂正の電話
深刻なのは服を着ていないという事だ
勝手に服をぬいで1人で湯船に入った後
裸のまま山の中にはいってしまったのだ
春といえど山の中は寒い
おまけに雨まで降ってきた
神様 チャン君を助けてください
知らぬ間に夜が明けていた