A.N.A.L. Co., Ltd. Executive Office of the President

“ 嵐が吹き消した 恵みのろうそくを 再び取り上げ、それに新しい明かりを灯さなければならぬ。” 教皇ヨハネ二十三世

file.no-47 『逝きし世の面影』

2006-02-20 00:09:49 | 書籍
幕末、維新、明治、大正を経て、日本はどう変わっていたのでしょうか。
正確に言えば、『日本』がではなく『日本人』がどう変わったのでしょうか。

多くの古老たちは、「今日の日本人は、戦後間もなくの頃のソレとは大きく異なってしまった・・・」とそう云います。私も、それには賛成です。多くの書物、写真、証言が今に伝える当時の日本人の姿は、今日のそれとは全く異なっていますから。

では、古老たちの時代以前の『日本』はどうであったのでしょうか・・・。
即ち、昭和以前の時代・・・幕末や明治のこの国や人々の姿は・・・?
今回は、そんなこの国のかつての姿を主題に扱った書物のレヴューです。

『逝きし世の面影』
 渡辺京二:著  葦書房:発行  1998年

この書物は2004年ごろまでは再版され続けていましたが、版元の経営悪化と昨年、平凡社ライブラリーから文庫化されるにあたり、絶版されてしまいました。
私の手元にあるのは、2000年の初版第7刷目にあたるものです。先月、三重からの帰路の際に滞在した高知の古書店で2000円ほどで入手したのです。
文庫版のほうが、サイズが小さく、価格も安く、書棚に納めるにも便が良いのですが、なにぶん文字が小さくなりますもので・・・私はあまり文庫版というものは好きではないのです。

タイトルに『逝きし世の面影』とあるように、この書物は、今では絶えてしまった日本人の特質や国の在りようを、幕末当時来日した外国人たちの手記や写真、絵画を通して明らかにしたものです。

昨年、『さゆり』という映画が・・・チャン・イーモウ主演でしたか・・・公開された事をご記憶でしょうか。ニューズウィーク誌でも、映画公開に併せて『かつての日本』特集みたいな事を掲載していましたが。
『さゆり』は、外国人が視た日本人像が結実したもの、そう云って良いと思います。今日でこそ、日本人といえば“奇人変人、金の亡者で理解し辛いニヤニヤ笑いをする人々”といったもの。ですが、かつての日本は、それはそれは西洋の人々を魅了した美しい国だったと云われます。
まさしく、世界は、日本に恋をしたのです。

『逝きし世の面影』でも、引用された外国人の手記の多くで、日本の美点や美徳について語られています。
それは、老婆の幼子への思いやりに、お盆の先祖の出迎えに。
海辺で、道端で笑い遊びあう子供たちの姿に。
もろ肌脱いで、肉体労働に精を出す男たちの姿に。
着物と呼ばれる衣装に、髷に結われた頭髪に。
面白いところでは、『たたかう女』として、亭主に馬乗りになって殴りつける日本人女性についても言及が。

彼ら、外国の人々の眼には、幕末の日本の姿のすべてが、眩しいばかりに輝いてみえたのでしょう。彼ら自身が触れた日本の文明から、自分たちの文明を反省するということさえも行っています。
ですが、幕末の日本人自身の西洋文明偏重が進行するうちに、『古い日本文明』に翳りがみえはじめ、やがては、かつての愛すべき日本は消えうせたとあります。

世界が恋した古い日本は死に絶え、世界が憎む新しい日本の誕生へ。
列強に参加するほどになった日本を、後進地域であったアジア諸国はかつては賛嘆したと云われてます。しかし、その成長は、いったい何を犠牲にしたのでしょうか。
著者は言います。文化は死なぬが、文明は死ぬのだ、と。
江戸時代と明治時代以降には、文明の大きな隔絶があります。

かつて、子供たちが正月に空に揚げた凧。
その図案は、かつての金太郎、鎧兜の武者から、アニメのキャラクターへ。
凧揚げという風習は、今に残っていても、それが象徴するモノは全く異質なものに。
それが何を意味するのかは、私たち一人一人のモノの見方なのかもしれませんね。
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« file.no-46 『ケルンの聖女』 | TOP | 落日にささやかな幸せを見て。 »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 書籍