図書館で本を探しているときに、朝井リョウの「もういちど生まれる」が目に入ったので借りて読みました。朝井リョウといえば高校を舞台にした「桐島、部活やめるってよ」が有名ですが、この「もういちど生まれる」に出てくるのは、高校を卒業して大学や専門学校に進んだ、二十歳前後の若者たちでした。もしかするとこのパターンで、社会人編の話もあるのかな~?
高校のスクールカーストを、えげつないほどリアルに描いた「桐島、部活やめるってよ」に比べると、この「もういちど生まれる」は、登場人物がそれぞれ少し大人になっているせいか、卑屈さも高慢さもややマイルドになっていました。その分もの足りない気もしましたが、自分自身が大学生になった時の、解放感を思い出すと少しだけ納得できました。少しだけ。
そう、少しだけ。…だって、この5編からなる連作小説に出てくる若者たちのほとんどは、私から見れば
眩暈がするほどリア充
なんですもの。貧乏学生でもないし、見た目に不自由しているわけでもない、むしろ恵まれてすらいる。まあ、そんな文句たれても仕方ないですが。彼らのしている“心がひりひりするほどの片思い”だって、したことないよりゃしたほうが良いんですし。打算なく誰かを好きになれるのは、学生のうちだけですからねぇ(遠い目)。なんだ、河口湖でクラス合宿って。いまどきの学生はそんなのやるんかい。サークルならともかく、クラスって。こちとらクラス単位で仲良くした記憶なんかねーよ。ついでに出てくるアイテムとか芸能人の名前にジェネレーションギャップを感じてしょっぱい気持ちになりました。MDウォークマンが古いって。私の頃はウォークマンと言えばカセットテープだったわい。
はい、というわけでいろいろ脱線しましたが、各話の感想です。(※ネタバレあります。)
「ひーちゃんは線香花火」
超美人のひーちゃんと、美人の汐梨、草食系イケメンの風人は大の仲良し。そして汐梨の彼氏の尾崎(これもイケメン)。汐梨は風人が自分のことを好きだと思ってふわふわするけど、実は…という話。他の3人に対して尾崎は少し距離のある描かれ方をしていたので、こいつは何者なんだろう?と警戒しながら読んだのですが、尾崎は意外といいやつでした。それでも3人の仲とは距離あるけど。
汐梨が誤解していることは最初からうすうす気がついたので、結末まで読んでも「ふーん」くらいにしか思えず、やや肩すかしな感じがしました。尾崎がいい奴でよかったなー、てくらい。
ストーリーとあまり関係ないけど、汐梨がアパートに帰ると部屋でひーちゃんがお味噌汁とご飯を用意していて、汐梨が買ってきた鮭を焼いて食べるシーンが印象に残りました。フライパンで焼いた鮭に味噌をつけて食べるのは美味しそうだけど、学生が住むアパートで魚を焼くと部屋中魚臭くなるよな…とちらっと思いました。
「燃えるスカートのあの子」
汐梨たちと同じR大学に通う翔多は、同じクラスの椿を狙っている。椿は読者モデルをしているくらいの超絶美人。翔多は椿の情報を聞き出そうと、バイト仲間で椿の高校時代からの友人のハルになにかと話しかけるが…。作中でこれでもかというくらいに描写される、椿(佐々木希に似ているらしい)に恋する翔多の舞い上がりまくりな姿は、読んでて微笑ましく思いました。ああ、私も大学生の頃はこんな感じだったのかも…と、痛い過去を思い出してしまったりして。でも、舞い上がる翔多の横で、そっけない態度を取るハルの本心も、読んでると伝わってきて切なくなりました。うん、そうだよね。ついそういうつっけんどんな態度を取っちゃうんだよね。で、後で後悔するんだよね。
結局、椿には他に好きな人がいて翔多はフラれるわけですが、その「椿の好きな人」というのが…!「レオン」って私が大学生の頃の映画で、当時は絶賛されてたけど今はどうなんでしょう。この作品の中では、一応「イケてる」映画として扱ってもらえてるのかな…?
「僕は魔法が使えない」
こんどはR大学ではなく、美大の学生の新が主人公。美大に進学する前に、突然の事故で父親を失った新。才能あふれる先輩アキを慕っている。そして1年たった今、新は母親に交際中の男性を紹介されるが、どうしてもうまくいかず…。椿のクラスメートの結実子が、新の絵のモデルとして登場します。結実子は麻生久美子に似ているという設定だったので、結実子がソバージュだと知って驚きました。ソバージュの麻生久美子…。
父親を失った悲しみから抜け出して、母親と向き合う、という主人公の選択は正しいと思いますが、父親が不慮の事故で亡くなって1年足らずで新しい恋人を息子に紹介するのはどうだかなーとひっかかりました。まあ、恋人は良い人そうだけど。死んだ父親の得意料理であるカレーをいきなり作っちゃうのは、デリカシーないんじゃないかと思いますけどね。
カレーに玉ねぎペーストを入れると美味しいのはわかるけれど、玉ねぎペーストって市販のものがあるの?自分で作らないといけないと思ってました。自分で作ったほうが美味しいだろうし。
「もういちど生まれる」
佐々木希似の美女・椿の双子の妹、梢が主人公。双子だけれど梢は椿より若干容姿が劣っている(本人談)らしく、ついでに推薦入学でR大に入った椿に比べ、梢は2浪中。それだけでもコンプレックス感じそうなのに、母親が2人を比べるというダメ押し付き。劣等感でぐずぐず煮詰まっている梢の姿は、なにかしらコンプレックスを抱えているすべての人が共感できそうです。かくいう私も…。卑屈になりがちな梢と、順風満帆で生きているかのように見える椿のすれ違いの描写がリアルでした。卑屈になると、相手のすべてが嫌味に思えてくるんだよなぁ。私も気をつけよう。
表題作だけに、この「もういちど生まれる」は、読み終わった後心に気持ちのいい余韻が残りました。表紙の写真も、最初は特に意味のないモノだと思っていたけど、この話を読んだ後改めて見ると「ああ、そういうことだったのか…」と納得して、とてもいい写真に思えてきました。
「破りたかったもののすべて」
「燃えるスカートのあの子」に出てくる、ハルこと遥が主人公。遥は大学生ではなくダンスの専門学校生で、高校時代はダンスで注目を浴びてたけれど、いざ学校に通うと周りに埋もれてぱっとしなくなってしまう。彼女のことを“すごい”と称賛してくれるのは、バイト仲間の翔多だけ…。うーん、狭い世界(この場合は高校時代)にいたころはぶいぶい言わせてたのに、いざ広い世界に出てみると自分のちっぽけさを知って愕然となる…というのは誰でも経験のある話なので、遥の迷いや苦しみ、悲しみは痛いほど伝わってきました。
小説の最後まで、彼女の迷いや苦しみは、兄であるアキにも友人の翔多にも伝わっていませんが、いつかそれが伝わるといいな、と思いました。そして私も、自分の気持ちを出来る限り相手に伝えられるようになりたいな、と。…って自分、この小説に出てくる若者の倍はトシ食ってるんだけどな!いまだに心(精神年齢)はハタチのままだぜ!!ヒューヒュー!!
朝井リョウの青春群像劇、高校生編と大学生編を読んだので、次は就活編の「何者」を読もうかな。就活なんて、これもまた遠い昔の記憶過ぎて思い出せないけど…。
確かに、もちきちさんの言われるとおり、カレーに入れるのはもったいない感じです(自分でいためたほうがいい)、野菜肉いための隠し味に使うとか、かな。
こんばんは~
「オニオン・キャラメリゼ」ってのがあるんですね。紀伊国屋とかの高級スーパーで売ってるのかな?
私の地元では手に入りそうにないので、自分で作ってみようかな。ちょうどいま家の畑で採れた玉ねぎがたくさんあるし。
うまく作れるかどうかあまり自信がないけど…(-_-;)