Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

朝井まかて「恋歌」

2015-01-22 23:45:16 | 読書感想文(時代小説)


朝井まかての直木賞受賞作、「恋歌」を読みました。読もうと思った理由は、スマスマで女優の杏ちゃんがお薦めしていたからです。ミーハーですいません。


時は明治。作家で歌人の三宅花圃は、歌の師匠である中島歌子が病の床にあると聞き、見舞いに向かう。花圃は、歌子の身の回りの世話をしていた内弟子の澄とともに、歌子の自宅へ書類の整理をすることになる。そこで二人が見つけたのは、歌子がかつて登世と名乗ってた頃の、若き日の回想録だった。江戸で富裕の娘として育った登世は、尊皇攘夷に燃える若き水戸藩士・林以徳と恋に落ち、水戸へと嫁いだ。しかし幕末の動乱の中、登世の夫は水戸藩の内乱に巻き込まれ、登世もまた罪人の妻として投獄されてしまい…


樋口一葉の歌の師匠として有名な中島歌子の生涯について書かれた本、と聞いていたのですが、直接本人にその人生を語らせるのではなく、弟子の花圃が歌子の書いた手記を読み、師匠の激動の生涯に思いを馳せる、という凝った仕掛けになっていました。そのおかげで、登世の生きた幕末と、花圃がいる穏やかな明治の対比がはっきりしていて、ほんの数十年の間に世界はこれほどまでに変わるのかと驚かされました。うーん、教科書に載るほどでない人を主人公にしても、マイナーな事件を題材にしても、ここまで面白い幕末小説が書けるのなら、なぜ今年の大河は(以下自粛)

この時代について疎い私は、幕末の水戸といえば、徳川幕府最後の将軍・慶喜が水戸徳川家出身ということと、その父親の徳川斉昭のことくらいしか知りませんでした。なのでこの小説に出てくる天狗党の乱についてもまったく知らず、その凄まじさ、特に天狗党の妻子が受けた過酷な仕打ちを読んで、「攘夷だ開国だと騒いでいたこの時代に、国内で、しかもひとつの藩の中で、こんな戦をしていたのか」と愕然としました。もっとも、歴史の大きなうねりの中にこういった争乱が起きるのはよくあることかもしれませんが、水戸は徳川家、しかもこののち将軍が立つというのに。水戸藩というところが特殊な事情を抱えていたこともあるのでしょうが、この頃の徳川幕府がいかに不安定で、武士の世が終わりを迎えようとしていたことがよくわかります。

天狗党の乱に夫が加わっていたことで投獄された登世が牢屋で見た地獄は、この本の「恋歌」というタイトルからはほど遠い過酷さでした。しかしその過酷な生活の中で登世が見出したものが、夫と自分をつなぐ「恋の歌」だったこと、そしてそれが歌人・中島歌子の始まりだったことがわかると、このタイトルの意味の奥深さにうならされました。徳川の時代が終わって明治が始まり、時代の主流が替わり、都合よく己の主義主張を翻す人々が多い中、登世の歌に対する思いだけは変わらなかった。中島歌子と名前を変え、歌塾「萩の舎」を開いて多くの子女を弟子とし、そして多くの男と浮き名を流しても、夫を恋い慕う気持ちは消えなかった。花圃や澄から見れば、日常の細かい手仕事がまったく不得手で、鷹揚すぎて塾の経営も危なっかしかった歌子でしたが、それでも憎めず最後まで寄り添う気持ちになったのは、歌子の中にあった歌と夫への一途な思いを感じ取っていたからでしょう。

そして、激動の人生を歩んだ歌子の回想録には、最後にあっと驚く仕掛けが残されていました。確かに、振り返ってみると伏線は張られていたわけですが、トンマな私は種明かしがあるまでそれに気づきませんでした。作者と歌子が用意した、予想外の仕掛けとは…?それは、これから読む人のために伏せておきます。まあ、勘の鋭い方なら驚かないとは思いますけどね…。

登世の、慣れない水戸での生活を支えていたのは、実家から一緒にやってきた爺やの清六でした。中盤、この清六がもう泣かせてくれるわけですが…これも詳しいことは伏せておきます。みなさん、ハンカチは2枚用意してくださいね!

歴史好きな杏ちゃんがお薦めする本なのに「恋歌」って、「ずいぶんロマンチックなタイトルだな~やっぱ新婚だから?」と思って読んだら、やっぱり杏ちゃんが進めるだけの本ではありました。セリフの中に一回出てくるだけだけど、久坂玄瑞の名前も出てくるけどね(笑)。それは関係ないのかな?今年の大河では天狗党の乱の話には触れないだろうけど、桜田門外の変について触れないわけにはいかないだろうから、その時に水戸の尊王攘夷派の話が出てくるかもしれませんね…ってあの調子だと多分無理だな。うん。

直木賞受賞作だし映像化しないかな~という期待もありますが、これで杏ちゃんが主演だとお薦めしてたのはそのためかい!と興ざめになるので、するなら別の人が主役でやってもらいたいです。杏ちゃんは登世より花圃か澄の役で、明治モダンの女性を演じてほしいです(←結局出るんかい)。



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