第2次世界大戦前のイギリスに、新しい国王が誕生した。
王の名はジョージ6世(コリン・ファース)。父親のジョージ5世(マイケル・ガンボン)の没後、
即位した兄のエドワード8世(ガイ・ピアース)が王位よりも既婚女性との恋を選んだために、
兄の後を継いで国王となったのだった。
しかし、幼いころから吃音というコンプレックスを抱えていたジョージには、国民の前で
何度もスピーチをしなくてはならない国王という立場は重圧でしかなかった。
妻のエリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)はジョージのために、言語聴覚士の
ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)のもとを訪ね、夫の治療を依頼する。
型破りなライオネルの治療は効果をあらわし、3人の間には身分を超えた絆が生まれるのだが、
折しも英国はナチスドイツとの開戦を余儀なくされてしまう。
不安におびえる国民に向けて、ジョージは国王としてスピーチをしなくてはならなくなるのだが―
「英国王のスピーチ」公式サイト
※ネタバレしてるよ!ここから先を読む人は気をつけてね!
イギリス王室をテーマにした映画が、またしてもオスカーを獲りました。
いやー、イギリス人ってほんと王室が好きですねぇ。日本じゃ考えられません。
それだけ、イギリス王室が国民に親しまれているってことでしょうか。
まあ、親しすぎて礼儀を忘れている人も多そうですが…マスコミとか。
残念ながら私はイギリス王室の歴史についてあまり詳しくないので、この映画の時代背景や
シェークスピア絡みのエピソードがいまいちわかりませんでした。古田新太の舞台を見てるから、
映画で一番大きく取り上げられてる「リチャード三世」はわかったんだけど。
幼いころから吃音でうまくしゃべれないことに悩んでいた、ヨーク公アルバート王子。
それなのに、王室の一員として国民の前でスピーチをしなくてはならない…。
つっかえつっかえ(というかスピーチになってない)喋る王子に落胆する聴衆の顔が、次から次へと
アップになる映画冒頭のスピーチの場面には、王子には失礼ながら「あ~わかるわかる」と
うなづいてしまいました。いたたまれないんですよねぇ。別に責めるわけじゃないんだけど。
「未来の国王の弟なんだから、どんな立派なスピーチをしてくれるかと思ったら…」
って。いや、何事も期待し過ぎちゃいけないってのはわかってるんですけどね。
やっぱりトップに立つ人にはそれなりのカリスマ性を期待しちゃうもんですし。
その点が、オーストラリア人のライオネルにはどう映ったのか。彼はイギリス人ではないけれど、
熱狂的なシェークスピアマニアでもある。イギリス王室に対する彼の思いは、他のイギリス人よりも
複雑だったのでは。普通にイギリスで生まれ育った人よりも、王室にロマンチックな夢を抱いて
いたかもしれません。そんな王室の人が自分の初体験がどーのこーのと言い出したら…そりゃこっちも
負けずにズケズケとモノを言ってしまいますわなぁ。
ライオネルはジョージ6世を愛称の「バーティ」と呼び、治療をする上ではあくまでも対等な関係に
あろうとします。それはバーティにとっていい効果をもたらしましたが、同時にバーティの中にある
誰にも触れられたくない部分を土足で踏みにじってしまうことになり…この、霧の公園で2人が口論
する場面は、シェークスピアうろ覚えの私にも、バーティの苦しみと彼を助けてやりたいと言う
ライオネルの気持ちが伝わってきて苦しかったです。それはバーティの戴冠式直前、バーティが
大司教からライオネルのある秘密を知らされる場面でもそうでした。この場面では「えーまた2人は
ケンカ別れするの?」って一瞬不安になりましたが、そうならずにサクサク話が進んでよかったです。
さすがアカデミー賞脚本賞をとっただけあります。
クライマックスのドイツとの開戦を伝えるスピーチは、名演説といえる内容ではないけれど、それを
すべての国民が、静かに、じっと聞き入っている姿は感動的でした。特に、バーティがヨーク公時代に
スピーチをしに訪れた工場(?)の人たちは。自分たちの前でうまく喋れなかった王子が、国王として
少したどたどしさは残るものの、それでもしっかりと、強く語ってくれたのだから。
「あの小さかった子がこんなに立派になって…」
と、昔近所に住んでたガキんちょがいつの間にか大きくなってお嫁さんもらってついでに子供もできた
ことを知った時のような感慨が胸に広がったことでしょう(←違うだろ)
ジョージ6世の妻エリザベスを演じたヘレナ・ボナム=カーターは、久しぶりに普通の人間の役を
やってるのを見ました。「何を演じてもヘレナ・ボナム=カーター」と揶揄される彼女ですが、
今回は普通でした。いや、「並」とかそういうんじゃなくて、いい演技という意味です。けして
「物足りない」って言ってるんじゃないんです。ただ、いつもあまりにもトゥー・マッチだから…。
ライオネル役のジェフリー・ラッシュは、
不思議なくらい、
演じていました。ユーモアがあり、シェークスピアへの情熱があり、家族への愛情があり、そして
自分のコンプレックスを受け入れる強さと、相手を思いやれる冷静さがあり…強い信頼関係はあるけれども、
自分たちとは違う立場である国王のバーティを見つめるまなざしが、ほんの少し寂しげに見えたのは
私だけでしょうか。
ガイ・ピアースは、バーティの兄であり「王冠を賭けた恋」で有名なエドワード8世を、ナンパで嫌味で
憎たらしいアニキとして好演。弟役のコリン・ファースより7つも若いのに、バーティに対して尊大に
ふるまう姿は、確かにジャイア…じゃなくてアニキに見えました。まあでも「ウィンザー・ノット」など
洒落者としてファッション史に名を残しているエドワードは、ガイ・ピアースにぴったりですね。
「プリシラ」でドラァグ・クイーンを演じていただけあります。
ジョージ5世役のマイケル・ガンボンとチャーチル役のティモシー・スポールは、出演していることを
知らなかったので、ハリポタファンの私としては嬉しいサプライズでした。しかしイギリス映画って、
少なくとも一人は絶対ハリポタ俳優が出てるような…あ、ヘレナ・ボナム=カーターもそうだった。
ハリポタでは俺様にこき使われてえらい目に合っているティモシー・スポールがチャーチル役というのに
少し驚きましたが、ダンブルドア先生が国王の役ってのにも不思議な感じがしました。
「生き返った!」と思ったら「また死んだ!」なんて。
ジョージ6世は第2次大戦後まもなく、50代の若さで亡くなったそうです。
それは大戦中の激務と精神的疲労に、生来の病弱な体が耐えられなかったからとかなんとか。
悲しい事実ですが、それでも彼は国王としての職務を放棄することなく、「善良王」として国民に慕われて
生涯を終えました。映画ではこれらのことは語られずハッピーエンドで終わりましたが、別にあっても
よかったんじゃないかな、と個人的には思います。日本人だから?
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