仙台市内でのパレードの最中、衆人環視の中で首相が爆殺された。
犯人は、元宅配ドライバーの俺、青柳雅春だと報道されている。
なぜだ?まったく見に覚えがない情報がメディアに次々と流され、一人歩きする“犯人としての俺”。
巨大な陰謀に巻き込まれた青年と、それを追う謎の集団の逃走劇の結末は―
※ここから先はネタバレあります。要注意!!
えー、なんとも不思議な小説でした。
ベストセラーだから面白くて読みやすいのかと思いきや、前半(第一部から第三部の半ばまで)を読むのに2週間かかってしまいました。
それなのに後半はものの3時間ほどで読み終わっちゃいました。一体何なんでしょう。
おそらく原因は、前半の張って張って張りまくられた伏線を読み拾うのが大変だったからではないかと。
逆に後半はそれらの伏線を一気に回収するので、とくに新しい情報を仕入れる必要がなくて読みやすかったんだと思います。
伊坂幸太郎を読むのが久しぶりなので、独特のややくせのある文章が読みにくかったのもありますが。
というわけで、読むのは大変でしたが、ベストセラーなだけあって非常に面白かったです。
一度最後まで読んだ後、もう一度読んで「あれはこの伏線だったのか!」と確認する楽しみもあるし。
一粒で何度も美味しい、というのは貧乏であまり頻繁に本を買えない私としてはありがたいです。
メディアによって実像とはかけはなれた犯人に仕立て上げられていく主人公、
ルールを無視して強引に主人公を追い詰める謎(というほど正体は謎じゃないけど)の集団の不気味さ、
氾濫する情報に惑わされず、主人公を信じる旧友たちと、彼らを含む他人を信じる主人公…と、
この小説にはハリウッド映画的な要素がいくつも出てきます。
とりわけその印象が強いのは、近未来SF映画に出てきそうな、セキュリティポッドの存在。
仙台市で起きた連続殺人事件の犯人“キルオ”を捕まえるために、国家が市に設置した監視装置です。
これが出てきた時は「なぜ仙台にそんな大層なものが…」と疑問に思いましたが(仙台の方ごめんなさい)、
このセキュリティポッドというアイテムのおかげで小説のエンターテイメント性が増して気楽に読めるようになりました。
仙台という地方都市が舞台なので、非現実的な設定でもリアリティというか生活感が感じられたのもよかったです。
私は仙台よく知らないからぴんとこなかったけど、仙台に詳しい人や住んでる人だともっと面白いんだろうなぁ。
逃走劇なのでアクションシーンも頻繁に出てくるのですが、主人公が血気盛んな「やってやるぜ」タイプではないせいか、
迫力がなくて淡々としてました。そのへんは物足りませんでしたが、淡々としてるといっても実は結構な数の人が
死んでるので、わざとさらっと流してるのかもしれませんが。
前半に出てきた伏線が後半の展開できっちり回収されるので、クライマックスでは思いきりカタルシスが
得られる…はずでした。しかしその“後半の展開”に「出来過ぎや~ん!」とつっこみたくなるところが
しばしばあったので、興がそがれてクライマックスではいまひとつ盛り上がれませんでした。
それに、このクライマックスの場面は小説で読むより映像で見たほうが面白いでしょうしね。
クライマックスよりも心に強く残ったのは、事件が終わって三か月後の第五部でした。
主人公のその後の話は、クライマックスの高揚感から一気に引きずり落とすほど、切なくてやるせないものがあります。
なので読んだ直後は「よかったね」という気持ちと「なんと後味の悪い…」という気持ちがごちゃ混ぜになったのですが、
それからしばらく経ってみると、今度は
かつての恋人にここまで助けてもらった男の心情ってどうよ
と、それまでとは違うことが気になりだしました。ラストで青柳君の手のひらに押されたスタンプも、
彼のこれからの人生を思うと、切ないというより怖いです。
もうこの先どんな女性が目の前に現れても、青柳君のハートはずっと晴子にロックオンされてそうな気がして。
世の男性方は、別れた恋人にこんなスタンプを押されたら、どんな気持ちになりますか?
ところで。
読み終わってから、映画の公式サイトを見てキャストを確認したんですが、
映画ではキルオは濱田岳君だったんですね。私の脳内では森山未來君だったんですけど。
濱田岳君は「フィッシュストーリー」の時みたいな役でしか見たことないので、意外でした。
どんなキルオだったんだろう。DVDをレンタルするほど気にはならないけど、テレビ放送があったら見て確認しようかな。
しかしなぜポールが香川照之なんだろう。全然イメージ違うじゃねぇか!!
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます