えん日記

NPO法人暮らしネット・えんのつぶやき

介護報酬改定の影響 ③

2015-02-12 14:06:50 | Weblog
 はたらけど
 はたらけど猶わが生活(くらし)楽にならざり
 ぢっと手を見る

また介護報酬が下がって、思い出したのが石川啄木のこの歌。
日本中の介護にかかわる仕事に就く人々も同じ思いではないでしょうか。
低い介護報酬がもたらす人手不足、さまざまな事情を抱えた利用者への配慮、悪化する家族介護状況、そんな中で精一杯がんばってきたのに、処遇改善加算を除けば介護保険スタート最大幅の減額なんて。職員にどう説明すればよいのか。
介護報酬改定の影響で一番大きいのは、モチベーション低下なのかもしれません。
実はこれがたいへん怖い。介護職は離職に、事業所は閉鎖に直接つながります。

さて、解せない点です。在宅介護や地域密着型サービスまで一律に引き下げたこと。
介護保険の改正作業、報酬改定の議論の中で、施設の報酬を下げる話はずいぶん出ていました。
出てきた結果は「在宅への誘導」するはずなのに施設も在宅も「平等」に引き下げ。
どんな力が働いたのでしょうか。

介護報酬改定の影響②

2015-02-11 10:19:41 | Weblog
今回の改定最大の問題点は、軽度中度者の在宅ケア不在です。
ケアマネから施設まで、医療連携が必要な重度には加算などがつきます。
特に認知症の初期から中期までの無策には頭を抱えてしまいます。
「超高齢社会の最も大きな課題は認知症」なのに、「施設から在宅へ」を謳った地域包括ケアシステム構築への礎のはずなのに、在宅で支えられるような工夫が全く見られません。
たとえば、訪問介護で20分という短時間訪問が可能になりました。通常間隔を2時間以上あけることとした規定も除外されています。これをして訪問介護の「認知症対応」というのでしょうか。現場を知らないにもほどがある、と申し上げたい。
例えばこれを1日4回入れたとしても「徘徊」などを防ぐことはできません。また、このケアを毎日プランに入れると、それだけで要介護2の限度額を超えてしまいます。居宅介護の限度額が在宅ケアの実態とかけ離れているという抜本的な対策は必須ですが、それ以前に認知症在宅介護を本気で考えた形跡がありません。
かろうじて小規模多機能型介護という「切り札」はあります。しかし、これも基本報酬を約1千単位引き下げています。訪問対応をつきに200回以上実施しそれに当たる常勤職員が配置されていればこのマイナスをクリアできる程度の加算が用意されています。「通いを中心に」をコンセプトにしてきた小規模多機能型ですが、在宅維持に訪問は重要です。考え方は十分理解できます。しかし、人手を確保したうえで加算を取得して現行とほぼ同額の収入が得られるのでは、事業所にとって負担が大きすぎるのです。認知症に適した切れ目が少ないケアを提供できる小規模多機能型を本気で増やしたいのなら、今どうしてこんな形で報酬改定をするのでしょうか。特養ホームは要介護2で1ヶ月約20万円、小規模多機能型は15万円強。要介護5でようやくほぼ同額です。自宅へ伺う介護はスタッフの移動時間ひとつとっても同じ屋根の下にいる施設より手間隙かかります。納得できません。

介護報酬改定の影響①

2015-02-09 14:58:47 | Weblog
先週末、栃木県鹿沼市の「男女共同社会づくりリーダー研修」の記念講演にお招きいただきました。
わたしに与えられたテーマは「介護は誰がすべきか どうする?どうなる?これからの介護 男と女で 地域で」。
これまで、男女共同参画という視点から話をしたことはなかったので、試行錯誤しながらレジュメを作りました。大きなテーマで、十分考え抜かれていないと感じていたのですが、鹿沼市の皆さん、とても熱心に聞いてくださいました。これを機会に、このテーマしっかり掘り下げてみます。よい機会を与えてくださってありがとうございました。

さて、土曜日に怒りにまかせて「どうして?」と書き連ねた介護報酬改定、わがえんの運営にどう影響するか試算も含めてご報告したいと思います。
まずは、例に出したグループホームえんについて。
1ユニットの認知症共同生活介護は以下のように改定されます。
特養ホームのそれと比較してみました。
数字は1日当たりの報酬単価で、左が現行、右が改定後の1日あたり単価、括弧内はユニット型特養ホームのものです。

 要介護1 805(663)→ 759 (625)
 要介護2 843(733) → 795 (691)
 要介護3 868(807)→ 818 (762)
 要介護4 886(877)→ 835(828)
 要介護5 904(947)→ 852(894)

グループホームえんは、一人当たり1日500円マイナスなので1ヶ月1万5千円、9人で13万5千円。年間160万円ほどの減収になります。
介護報酬が下がると、その分利用者負担が下がります。利用者にとってメリットはあります。
今でもギリギリの人数でようやく回っているのに、この減額相当の人員削減をすることは不可能です。どこをどうやって切り詰めればよいのか。他のサービスでは多少プラスになる加算もあるのですが、グループホームには見当たりません。

次に、特養ホームと比較してみましょう。
今後特養ホームには原則として入れなくなる要介護1,2はグループホームが高いのですが、要介護5になると特養ホームの方が高くなる。
下げ幅は公平に5.5パーセントですが、利用者人数が少なくスケールメリットがないグループホームの方が影響が大きいといってよいでしょう。
人員配置は、グループホームは日中3:1以上.夜間9:1以上。
特養ホームは日中10:1以上、夜間20:1以上。
もちろん、医師や看護師の配置の義務付けがあるなど、単純比較はできません。
しかし、実際にケアにあたる介護職員数の差は非常に大きい。
要介護5にいたっては、特養ホームがグループホームより1ヶ月にすれば1万2千円ほど高い。


また、今回の改定で、グループホームは特養ホームとの併設が可能になり、職員の兼務ができるようになりました。
また1箇所当たり2ユニットだったのが3ユニットまで可とされました。介護保険スタート時には3ユニットだったものが、最初の改定で2ユニットまでに変わり、今度また3ユニット。
この2点からは、大規模化の意図が透けて見えます。
「小規模で家庭的なケアが認知症の周辺症状などの緩和によい」と生まれたグループホームを、いったいどこに連れて行こうとしているのでしょうか。

認知症の激増に備えて首相の肝いりで「新オレンジプラン」が発表されたばかり。介護保険サービスでいくつもない「認知症専用サービス」に対するこの改定とどう整合するのでしょうか。







どうして?

2015-02-07 11:08:57 | Weblog
昨日の介護給付費分科会で、4月から3ヵ年の介護報酬が決まりました。
いろいろ、いろいろあるけど、びっくりなのは、新聞(視てないけどテレビも?)報道。
「訪問介護に手厚く(共同通信)」、「認知症高齢者受け入れる施設には加算
(読売)」。
施設系はもちろん下がったけど、同様に訪問介護やこれからの地域包括ケアシステムの中心になるという小規模多機能型介護まで軒並み減額。
認知症の中重度に手厚くと言いながら、認知症グループホームまで下げました。
確かに、職員給与などに反映させる目的の「処遇改善加算」は上がりました。
「加算」というおまけは増えましたが、大規模な事業所なら取れるようなものがほとんど。
乱暴にまとめると、グループホームはパート職員を1人首にしたうえで、残った職員の給与が上げられる、そういう構造です。
そんなことしたら、ますます過重労働になって離職が増えます。
ちょっと数字を読み込めばわかること。
どうして、こういう報道になるのか理解できません。


ユマニチュード入門研修のこと

2015-02-03 10:49:13 | Weblog
1日、市内十文字学園女子大学の主催(文科省『地(知)の拠点』事業)で「ユマニチュード入門」講演会がありました。
講師は、えんの認知症研修を何度かお願いした伊東美緒さん。
看護介護の現場をよく知っている素敵な元気印です。
彼女自身の体験を交えた、わかりやすい講義に聴講者一同「目からうろこ」の連続でした。
『ユマニチュード』は、認知症だけでなく、フランス発の「技法」。
ベテラン職員なら自然とできていることなのですが、これをきっちり分析、組み合わせて「技法」にしているのが魅力です。
たとえば、ケアのために入室するには「3回ノックして、三秒待つ。また3回ノックして3秒待つ。それで返事が無かったら入室してベッドボードを1回ノック…」などとたいへん具体的なのです。
茶道の作法は、所作がひとつずつ決まっていますが、たいへん理にかなっているものだといいます。
こうした所作は、経験と理論の積み重ねで出来上がっています。
介護のそれは、ボディメカクスといったからだの動かし方など合理的な技法はありますが、そこに人間の、特に認知症の人など、患者さん、利用者さんの心理や特性を重ねる技法が作られていませんでした。
『ユマニチュード入門』の本の表紙に「攻撃的になったり、徘徊するお年寄りを”こちらの世界”に戻す様子をさして「魔法のような」とも証されます。しかし、これは伝達可能な《技術》です」とあります。
実は、この数年立ち上げメンバーの悩みは、どうやって『認知症ケア』を次の世代に伝えていくか、でした。
「勘と経験だけで「見て盗め」って無理だよね、職人芸じゃないんだから」と悩んでいたのです。
日本に紹介した方々は、NHKでの放映以来爆発的な「ブーム」にびっくりしていらっしゃるようですが、それだけ「認知症ケアの技法」が待たれていた結果でしょう。