第07話 欲望と大義 The Best Policy
ある製薬会社で新薬の製法が盗み出され、その後市場に出回った偽造薬の副作用で犠牲者が出た。内部犯行を疑う製薬会社の社長から、ライトマンは犯人捜しを依頼される。ところが見つけた犯人は、危険な副作用を引き起こすのは正規の薬だという思いがけない話を口にする。一方フォスターは、ローカーと共に国務省にいた。イエメンで逮捕された姉弟の釈放を求める交渉が難航しており、2人はイエメン代表団の真意を探るべく分析を行う。
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＜ポイント1：声による欺瞞の漏洩＞
人質解放の外交交渉の場面で、米国側は二人の解放を要求する。だが、米国の担当者の声が片方の人質の名前を述べる時に、とりわけ力が入っていたことを嘘の判定スタッフは見抜く。実際には、その一人だけの解放を担当者は求めていたのだと嘘を看破するシーンである。重要な要求の場合には声に強勢が現れるのだ。
通常、嘘をついた瞬間に、なんらかの感情（たとえば、恐怖感、怒り、悲しみなど）が生み出される。そして、この感情は声の変化となって現れる。露見するのではないかという恐怖感はおののいた声の調子を生む。罪悪感による自己に対する怒りの感情なども、同様の声の響きの変化を起こす。こうした精神的動揺を隠蔽しようとしても、声の調子は普段よりも高くかつ大きくなってしまう。しゃべり方の方は、上ずった声の調子を払拭するかのように、早口になるのだ。逆に、嘘をつく自分に対する哀れみや悲しみが生まれていたり、後悔の念があれば、声の調子は低くかつ小さくなるのである。
＜ポイント2：誤った因果の帰属＞
新薬の発表会見で、女社長は臨床試験に言及するたびに、「唇を噛む」しぐさ（強い不安を示すサイン）をした後で、腹心の男性の方へ振り返るシーンがあった。博士の親友であるこの男性は、社長と目を合わせた途端に、「下を向く」動作（罪悪感を示すサイン）をする。これを見た博士は、副作用を隠すデータの改ざんに彼が関与していたのではと疑う。そのため、彼は、「感情を読むプロだと言いながら、人の気持ちなど何も分かっていない」と博士をなじる。彼の罪悪感は、改ざんに関与したからではなく、女社長との浮気から生じたものだった。振り返った女社長の不安な目の様子が、彼の心の中にこの場にふさわしくない理由による感情を呼び起こしたためだったようだ。
このドラマは、特定の感情（ここでは罪悪感）を生み出す原因が一つでないこと（改ざんや浮気）を認識した上で、ある手掛かりに基づき欺瞞を見破る作業を試みるべきことを例示している。この点で、声の手掛かりも同様である。感情の高まりや抑制が、欺瞞の企てとは無縁な事柄によるものか否かをチェックしなければならない。そうしないと、正直な者を虚言者であると判断する「オセローのような過ち」を犯すことになるからである。
こうした危険性を避けるための予防策は、欺瞞を示す行動上のサインが明々白々に得られるような状況を工夫し、自ら演出することである。ドラマの中で、博士が空砲の拳銃を発射したり、ハンバーガーをガツガツ食べながら尋問したりとさまざまな芝居を企てたのは、相手の本心を露呈させ素顔を知るためであった。嘘は核心を突くと現れる。
＜ポイント3：地位を示すシグナル＞
中東の習慣では、権力者は最後に建物に入るという。日本でも、「取り」をとるのは大御所であり、無論露払いや前座ではない。米国を例に挙げると、地位の上位の者は、第一に物理的に高い位置を占めたがる。最高階の執務室、最上階のペントハウス、丘の上の邸宅などである。第二に、広い空間（個室）を占有しようとする。プライベートを保てるからである。第三に、並んだときの左右空間の取り方である。
向かって左側が上位者用の「主空間」、右側が下位者の「従空間」である。
第06話 善意の罪びと Do No Harm
11歳の少女の行方不明事件の捜査を行うライトマンとフォスター。里親が殺害したのではと思われていたが、少女は無事に発見される。何者かに誘拐されていたと言うが、誘拐された少女がもう１人いることを告白し、犯人については堅く口を閉ざす。一方、北ウガンダ出身の平和活動家の拉致体験談の真偽を調査するローカーとトーレス。話につじつまが合わないことを指摘するトーレスに対し、真っ向から否定するローカーだった。
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ここでもまた、ドラマの中心テーマである『人間観察術の大切さ』を象徴するシーンが、様々に見られる。今回は博士たちが相手の心をどのように読み取っていたのか、ドラマに即して再現して、その解読法を《筆者の推測》という短いコメントを付けて検証してみることにしよう。
こうすると、どのように相手の気持ちや目的を考慮すればよいのか、どこをどのように観察し、それをどのように解釈すればよいのかなど、部分的ではあるが、人との関り方に関する実際的な洞察に多少は参考になるかもしれないからである。
＜ポイント1：あなどりの感情の動き＞
ここでは、幼児誘拐と捏造本にかかわるストーリーが展開される。誘拐されたと見られる女児について、博士は友達の男児の家で、女児の写真は寝室にあるのかと尋ねる。すると、聞かれた男児は無言であったが、「口の片方を水平に引く微表情」を浮かべた。聞き手の博士は、男児のこの一瞬の表情を見て《写真の在りかなどあなたに分かるものか》と「あなどりの感情の動き」を示すものと博士は読み取ったであろうと筆者は推測する。
そこで、この表情を見て、博士は寝室に何かあるなと判断する。寝室に入り宝探しゲームだと言いながらあちこち移動し、隠している場所に近いかどうかその男児に尋ねる。寝室を突き止められてしまった心の動揺を抑えながら、男児は再び左の口角を引く。《あなたに分かってたまるか》という博士をなじり軽んずる微表情がまたも顔に現れた。この手掛かりを見透かした上で、この近くだろうと博士が言う。すると、その子は一瞬「目を閉じる所作」をした。博士はこの表情を見て、「隠蔽という嘘」が露呈したものと確信したはずであると筆者は推測する。事実、クローゼットの中から女児のバックが見つかるのである。この間、男児との言葉のやり取りはない。
＜ポイント2：良心の呵責＞
捏造本のほうでは、出版元から新書の内容に捏造がないかどうか調査を依頼されるストーリーである。最終的に、男性のスタッフが、本の内容には嘘があるのではと言うと、女性の著者は恥と反撃を内包する「耳に手をやる」しぐさをし、物語は真実なのかと重ねて問うと、反射的に「顔を下に向け」、その直後に、嘘ではないと懸命に抗弁した。
良心に恥じる行為と知りながら、あえてそうして結局は露見するという「耳を掩（おお）いて鈴を盗む」のたとえの通り、著者の女性は、耳をふさぐような心境で、無意識に「耳触り」の羞恥心と合理化を内包する動作をしたのだと推測される。
一般に、関わり合いの最中で、「顔を下に向ける」しぐさは、服従や恥や罪を意味する。女性がこの2つのしぐさを示したのは、著書の正当性を主張しつつ、一方で、良心の呵責を抱いていたためだと推測する。なお、聴覚は命を終える直前まで機能する最も原初的な器官なのである。
＜ポイント3：嘘を暗示する基本のシグナル＞
嘘をついたときに、子供であれば目を閉じた所作をする。大人の場合には、目線を下げるか、下を向く所作になる。こうした挙動は案外多く見られ、本人が自覚せず無意識に行う行為である。6話には、この両方の手掛かりが示されていた。目線を下げずに平然と嘘をつける人物は、マキャベリアンと呼ばれる。
［FOXより］
大陪審で証言する予定だったドン・クックが死んだ。ドンの運転する車が炎上し焼死したと思われたが、銃創が見つかり射殺と判明。焼けた車にはギャング団「ラ・ティエラ」のサインが残されていた。「ラ・ティエラ」のボスであるアルヴァラードは仮釈放違反で逮捕されていたが、ドンは彼が殺人に関与したことを証言できる唯一の目撃者だった。地方検事補のマディ・クラインは病気で寝込んでいたグリッソムに電話し、捜査を依頼する。
