ふわふわな記憶

日々精進。

四月は君の嘘 10巻 感想

2014-10-23 14:30:00 | レビュー
 

四月は君の嘘 10巻 感想



 (未読の方はネタバレにお気をつけください。)
  前回までの感想はこちら⇒四月は君の嘘 感想 「君のために弾く音楽」






四月の出会いはお互いを色付ける



 8巻の終わりで、「あたしと心中しない?」と『いちご同盟』のヒロイン・上原直美のセリフを公生に向けて言い放ったかをり。
 そのセリフに対して、公生は「心中はできないよ..... 君と肩を並べるチャンスをください もう一度 僕と一緒に弾いてください」と自分の想いをかをりに告げる。




「受けたいです 手術」


 自分は病気なのだと諦めて、投げやりになってしまっていたかをりが、「公生とまた一緒に弾きたい」、その想いで手術を受ける覚悟を決める。「君といる時間への未練」が生きることへの執着を与える。ただ一生懸命にかをりの後ろ姿を追いかける公生の姿を見て、みっともなくても、悪あがきでも、一生懸命あがいて、ほんの僅かな希望にすがるために歩き出したかをりの姿には感動です。




 またいつかヴァイオリンを弾けるようになった時のために、体力や筋力を落とさないようにリハビリをするかをりの姿を見ていると、本当にこの作品はそれぞれのキャラが前に向かって進んでいくお話なんだなぁと改めて思い知らされます。

 公生がかをりに出会って、モノトーンのような世界がカラフルに色づいたように、かをりもまた公生に出会って、灰色だった心が色づいていたんですね。カラフルなかをりにも実は灰色のような一面があって、公生の見る世界にもかをりの見る世界にもやはり「君」の姿がいて、お互いがお互いを導いているんですね。

 母の幻影との決別や才能あふれるライバルたちとの競い合いなど、公生も一生懸命にあがいてきた。一生懸命に、ひたむきに、その姿はきっといつか、人の気持ちも動かすはずです。あがくことがカッコ悪いことだと感じる人もいるかもしれないし、何かに躓いて諦めてしまいたくなることだってある。でも生きている限り、あがいてでも自分の道を進んでいきたいですね。無様だって、空回ったって、カッコ悪くたって、人は誰しもが、たった一人の主人公なのですから。



ヒーローに憧れた相座武士の音楽



 そして、いよいよ東日本ピアノコンクールが始まる。小学校時代から公生に憧れてきた2人の天才、井川絵見と相座武士が再び公生の前に立ちはだかる。




 相座武士は、「完全無欠」・「正確無比」、精一杯手を伸ばしても消えてしまう蜃気楼のように遠くに居る孤高の演奏家である有馬公生に憧れた。2年間、自分の越えるべき目標である完全無欠の公生が帰ってくることを信じて、公生の後ろ姿を追い続けてきた。



 
 一方で井川絵見は「本当の有馬公生は 初めての演奏の中にしかいない」音楽の楽しさを体現しているかのような1度だけの演奏にただただ感動し、それ以降の公生の「譜面の指示通りに弾く機械のような演奏」を否定し続けてきた。


 2人とも公生に憧れ追い続けてきたが、2人が憧れ続けてきた「有馬公生」は違うのだ。それゆえに5巻で、譜面の鏡写しのように弾くのではなく「君のために弾こう」と自分の音を奏でた公生を見て、井川絵見は微笑み、相座武士は困惑したんですよね。
 井川絵見が憧れてきた有馬公生はかをりが「やっと帰ってきた」と言っていた公生そのものだったのでしょう。だからこそ、7巻で井川絵見は完全に覚醒し、今まで自分の目標だったヒーローを見失った相座武士は調子を落とすことになった。


 だが、今回の東日本ピアノコンクールで相座武士もまた表現者として覚醒する。




「いつだって そうだった 世界を拡げてくれるのは お前だ――」


 2年ぶりに再会した有馬公生は、自分の理想の姿である完全無欠のヒーローではなかった。蜃気楼のように遠ざかっていく公生の後ろ姿に憧れ、乗り越えるために努力してきた自分の2年間が裏切られたと思うほどに絶望した。しかし、凪との演奏で公生の音楽が人を突き動かすものであることに気付く。「音楽の自由に憧れ 人の弱さを愛した」公生と自分の求めていたものは違ったのだと、公生の蜃気楼との決別を果たすシーンはすばらしい。公生の音楽を理解することで、自分の音楽を更に進化させるというのはおもしろいです。


 これで、3人が本当の意味で自分の音楽の方向性を確立することができたのだと思います。全身全霊でぶつかれる敵がいたからこそ、ここまで来ることができたんですよね。かをりと公生がお互いを支えあってきたような味方同士の支え合いだけが支え合いの形ではない。敵同士でもまた相手の存在が自分を支える。まさに「逸材が同時期に3人揃ったのではなく、3人で競い合ったからこそ逸材たりえた」のです。


椿の告白とそれぞれの想い







 「君のことを 考えると 渡のことを 考える」

 
 公生は渡に嫉妬しているというよりは憧れているんだなという印象を受けます。かっこよくて、スポーツができて、面倒見がよくて、みんなに好かれる渡になることは出来ない。自分はただの「友人A」なんだと、一歩引いてしまうところに公生の自信の無さが表れています。


 


 一方で、渡も公生においてかれないように頑張っていたりするんですよね。こういう対比もおもしろいです。
 かをりはみんな大好きと言っていて、本当の真意は明言されていないんですよね。かをりが公生に抱いている感情はただ単純に「好き」なのか、少し疑問ではあります。「好き」なのかもしれませんが、今までの描写を見ていると様々な感情を抱えているように見えるんですよね。





 そして、渡にもまた同じ疑問が湧きます。渡がかをりに抱いている感情はどうなんでしょう。渡は公生がかをりを好きなことも、かをりが公生に特別な感情を抱いていることも知っているんですよね~。この関係性もラストに向けて気になるところです。





 「公生にはちゃんと心がある...... だから私がみつけてあげる 迷わないように 後悔しないように ずっと そばにいてあげる 公生のことなんて なんでも知ってるんだから」

 本当に椿はいい子なんですよね。ずっと近くで公生を見てきて、ずっと公生のことを見守ってきて、止まってしまっていた公生の時間を動かすためにかをりと公生を引き合わせたのも椿。きっともう少し早く、自分の感情に気付いて素直になれていれば、もしかしたら違った未来があったかもしれない。

 そして、公生がかをりに惹かれていくと最初からわかっていたとしても、椿の性格を考えると、椿は公生のためにかをりと公生を引き合わせたんだろうなと思います。時間が止まってしまったあの日からどこにも行けずに立ち止まる公生の日常を変えたい、それが椿の願いだったのですから。
 



 
「あんたは 私と恋をするしかないの」


 ついに、椿が大きな一歩を踏み出す時が来ました。やっと椿の時間も動き出したんですね。このシーンは本当に鳥肌ものです。
 公生がかをりのことを好きなことなんて知っている。公生が椿の側にいたように椿は公生の側にいたのだから、公生のことなんかすぐ分かってしまうのだ。公生がかをりのお見舞いを避けようとしたのも、かをりと渡が笑いながら話しているのを傍らで見ているのが辛いから。それはそのまま公生とかをりが音楽の話で笑っている時に椿が抱えていた感情と同じものだから。だからこそ、痛感してしまう。

 友達のことが好きな女の子を好きになってしまった公生と友達のことが好きな男の子を好きになってしまった椿。二人は本当によく似ているけれど、気持ちの向かう先にはズレが生じていて本当に切ない。


 でもあきらめないと決めて進みだした椿の強さにはただただ感動させられました。そして、公生もまた自分の気持ちを自覚して、公生も椿も自分の気持ちに向かって動き出したんだなぁと思いました。









 そんな中、かをりの症状が悪化して...次回に続く。
 公生にとっては本当に辛い展開、まさに「鬼の通る道」なのが怖い。間近に迫るコンクールとかをりの手術。お母さんや黒猫のチェルシーのように公生を残してかをりは亡くなってしまうのか。それとも――。

 主人公がピアニストであることやヒロインが病気であることなど、この作品は『いちご同盟』に少なからず影響を受けていて、『いちご同盟』ではヒロイン・上原直美は亡くなり、主人公の北沢良一は最後に直美の死を乗り越えて強く生きていくことになります。しかし、「四月は君の嘘」と『いちご同盟』で違う点は 直美は自分の運命を受け入れた一方で、かをりはカッコ悪くてもあがいて公生と生きることに執着をしたことである。「君といる時間への未練」が奇跡を起こすのではないかと僕は思っています。



まとめ



 10巻を読んで改めて、この作品はキャラクターたちの時間が止まっては、動いて、また止まっては動いてという風に展開されているように思います。だからこそ、公生やかをりたちを見ていると、彼・彼女らは生きているんだなぁと実感します。

 次の単行本11巻で完結なのは正直さみしいですが、物語のゴール地点という点では丁度いい頃合なのかもしれませんね。そして、11巻の発売が来年の5/15なのでアニメの方が先に完結してしまうんですよね~。正直、この作品は原作でラストの結末を知りたいので、月刊マガジンを購読し始めました。10巻の続きの41話も読みましたが、もう本当に素晴らしいです。2人に奇跡が起こることを祈るばかりでした。とにかく、今後の展開には期待ですね。





2 コメント

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Unknown (あかり)
2014-10-24 14:50:48
まっすぐな椿の気持ちがまぶしい
今の椿は輝いてますね
どういう形で完結するのかになります
Unknown (icyhairysneerer)
2015-02-06 05:46:21
thanks for sharing

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