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『幸腹グラフィティ』第6巻、一番遠くて一番近いあなたに伝えたい想い

2016-02-07 14:15:00 | まんがタイムきらら
『幸腹グラフィティ』第6巻 感想





幸せが詰まった一冊

『幸腹グラフィティ』もついに6巻目に突入と思うと凄く感慨深い。「まんがタイムきららミラク」が月刊化した記念すべき2012年3月号から連載が始まったからもう4年が経つんですもんね。

連載開始から1年も経たずに表紙を飾る作品にまでなり、去年にはアニメ化もしましたし、もう完全にミラクを牽引する看板作品にまでなった『幸腹グラフィティ』。僕の中ではもう幸腹の掲載されていないミラクは考えられない...。他の姉妹誌へのゲストも何度もこなしているのに、川井マコト先生は一度としてミラク誌面で休載をしたことがないですし。


『幸腹グラフィティ』って最初はやっぱり独特の食事シーンの豪快さが際立っていて、ミラクでも結構イロモノ的な雰囲気もあったかなというのが個人的主観です。でも、連載が進むにつれておばあちゃんとの思い出のなかで一人過ごしていたリョウさんが、きりんや椎名さんと出会い、3人がお互いに影響を与えたり与えられたりを繰り返しながら成長していく、その過程に目が離せなくなっていく魅力があった。そして、徐々にそれぞれの家族模様が描かれ、その心温まるお話にグッと惹きこまれていく。


以前にTwitterでも触れましたが、これはひとえにキャラの表情やモノローグといったキャラの心情描写を丁寧に描く川井先生の技量あってのものなんですよね。家族のあり方や友達との距離感。そういった正解のない幸せのカタチは人と人のつながりの分だけあっていい。そういう風に感じさせてくれます。

加えて、『幸腹グラフィティ』の作中で描かれている料理が特別に豪華だったり珍しいものでないのは、あくまでもこの作品が「食事を通して深まっていく家族や友達の絆」を描いているからで、高級な食材だから美味しいのではなくて、大切な誰かと一緒に食べることが幸せというメッセージが込められているからなんだろうなと。アニメでもそんな原作のあたたかい雰囲気をきっちり残してくれていたのが良かったです。


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さて、今回の6巻はズバリ言って、「家族」をテーマにした1冊でした。連載誌で読んでいても、何度も噛み締めたくなる。そんな深い味わいを覚えるのが『幸腹グラフィティ』の素晴らしいところ。一冊でまとまった時の破壊力は悶絶ものです。


変わっていくもの、変わらないもの ~森野家の大阪食い倒れ旅行~






「成長」していく娘を見て、ぎこちなさと寂しさを感じる凛さん。この先も、どんどんきりんは自分の世界や時間を広げていって、お母さんと会って、話して、旅行してという時間は少なくなっていくかもしれない。親離れを子供がしていくように、親も子離れしなければならない時はいつかやってくるもの。


でも、旅行が苦手なお母さんのために拙いながらも下調べをして計画をしていたきりんの姿を見てきっと娘が「成長」していくこと、変わっていくことはきっと幸せなことだと気付けたようで。寂しいと感じるのは子供の成長の証ですからね。


「あぁ 変わったなぁ」と思うこともあれば、「相変わらずだなぁ」と感じることもあって、変わっていくものもあれば、変わらないものも確かにある。そういったことを改めて確認できた旅行になったんじゃないかなと思います。




すれ違っても、きっとどこかで重なりあう ~内木姉妹の過去と現在と未来と~






幼少期のすれ違いから、お互いに距離を置いてしまっていた内木姉妹が思い出の場所へ行くエピソードも6巻の見所の一つ。自分の想いを心の内側にしまいこんでしまう姉のユキさんとそんな姉を見て自分の言いたいことを言ってしまうあっさりした性格の妹のアキさん。


子供の頃のちょっとしたすれ違いのはずなのに、凝り固まった「意地」が素直になることを許してはくれなくて。時間の経過がそのズレを大きくしていってしまう。


でも、思い出の場所で過去を振り返って、お互いのことを少し理解して、誤解していたことがあると分かったりもして...。原因はお互いを良く知ろうとしなかったこと。でも、それは当たり前でこどもの頃には難しいものです。


だからこそ、「いまになって」、わかることがある。変わってしまった関係は元には戻らないけれど、でも変わらない「過去」の思い出は、「いま」確かに二人の中で大切なものだったと理解できて、これからの「未来」の二人の関係に繋げていける。合わないところは確かにあるけれど、一緒にいて楽しいと思えることもある。子供の頃にはわからなかったその距離感をあたたかいと思えるのは大人になった証ですよね。
 


一番遠くて一番近いあなたに伝えたい想い ~町子家のあたたかいお正月~




最後は町子家の物語。常々言っていますが、明さんとのキャンプの回であったり、おばあちゃんのお墓参りのお話であったり、町子家のお話は本当に胸がチクリと切なくて、でも心がじんわりとあたたかくなる魅力に溢れていて、町子リョウさん好きの僕としては涙腺が決壊して大変なのですが、中でもお母さん絡みのお話はもう悶えに悶えまくってヤバイんです。


年末年始のリョウさんと緑さんのやり取りはひかえめに言って、めちゃくちゃ感動しました。やはり、ミラクは最強だと。『幸腹グラフィティ』は最高だと心の底から溢れ出る想いが止められなくなるほどに。



言えなかったこと


リョウさんが高校一年生だった、去年のお正月過ぎ。リョウさんの元に現れた緑さんと親子水入らずで一緒に町に買い物に言ったエピソードがありました。僕はこのエピソードが大好きでたまらないのですが、この時、緑さんはリョウちゃんに言いたくても言えないことがありました。


喉まで出かかって、でもこの言葉を言う資格が自分にあるのかと。何もかもしっかりしていて、大きくなっていく娘の姿を見て、自分は娘にとって必要な存在ではないんじゃないかと思うと踏み込めなくて...。もう自分とリョウさんを繋ぐものはないんじゃないかって...。


でも、それから進路のことで話したり、おばあちゃんのお墓参りで思い出を共有したり...。別々に住むようになって、すっかり大人っぽくなってしまったけど、でもまだ子供の部分もあるんだなって実感することもあって...。ずっと、一人にしてしまったことを謝りたくて...。そして、本当に伝えたいことがあって...。


一番遠くて一番近いあなたに伝えたい想いがある。ずっと、ずっと、一歩を踏み出せないでいた緑さんが大きな壁を壊す時がついにやってきました。そして、そんなお母さんの本当の想いを知って、ずっと、ずっと、言えなかった9年間分の想いをリョウさんはお母さんに告白します。
 


1年前緑さんが言えなかった、「私の事どう思ってる?」という問いかけに、涙ながらに「大好き」と答えるリョウさん。もはや、感動しないわけがありません。

お母さんのお仕事が忙しくて、寂しかったけどわがままを言って心配を掛けたくなくて...。大好きなのに、いや大好きだからこそ踏み込めなくて...。ずっと本当の気持ちを伝えられなかった。でも、そんな不器用で優しい心を持った二人を繋いでくれたのはおばあちゃんとの思い出でした。


おばあちゃんに背中を押されて、あと一歩お互いに対して踏み込むことのできたリョウさんと緑さん。母から子へ、子から孫へ。『幸腹グラフィティ』の根底にある「家族の絆」を深く感じるエピソードであり、一つの節目ともなる重要なお話だったと思います。


ミラクではもう、志望校の違う3人がそれぞれの夢に向かって動き出す、高校生活最後の1年に突入したけれど、やっぱりずっとずっとリョウさんたちの日常を見ていたいなぁと。でも、以前に「もし離れ離れになってもさ ご飯を食べれば二人の事思い出せる」ときりんが言っていたように、「もし最終回を迎えてもさ ご飯を食べれば幸腹グラフィティの事思い出せる」と永遠に言い続けると僕は思います。

とは言っても、まだまだ続いていくわけですから、ミラク共々、これからも『幸腹グラフィティ』を楽しんでいきたいですね。


1 コメント

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Unknown (ゆらぎ)
2016-02-11 09:00:56
同じくミラクを愛読するものとして素晴らしいレビューをありがとうございます。

リョウさんとお母さんのエピソードに関しては目から鱗でした。1年前に言えなかった想いがこうして共有できたこと、それはこの1年間に2人が積み重ねてきたものが確かにあったからと思うとあたたかい気持ちになります。リョウさんとお母さんが歩み寄ることが出来たのは、おばあちゃんはもちろんのこと明さんの助言も大きかったなと思います。
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