Saxophonist 宮地スグル公式ブログ

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屈折した生い立ちとJ-POP

2007年09月10日 01時46分40秒 | Weblog
今日レッスンで、マイルスの「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」のレコードをかけた。その時、不意に口が出た。「こんなもん、子供の頃から聞かされてたら屈折するよなぁ。」

そう、僕は幼少の頃から父と母にジャズを聴かされて育った。当時はまだジャズが流行っていたんだから仕方ない。特に父の好きだった「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」はしょっちゅうターンテーブルの上に乗っていた様な記憶が有る。でも悲しいかな、そのストレート・メロディーを知ったのはサックスという楽器に出会い、アドリブを取る様になる十数年後である。マイルスのフェイクしまくって殆ど原型を留めないメロディー・ラインでは全く理解できなかった。どの曲を聴いてもそうなんだけど、どういうテーマか全然分かっていなかった。でも、バンドが作り上げる「展開」だけは身体が覚えてしまっている。ハービーやトニーがどう来るかとか、ジョージ・コールマンのソロの入り方とか・・

子供の頃、日曜のサッカー・クラブから帰ってくると、太陽がさんさんと輝く南向きの窓のカーテンを完全に閉ざし、部屋を真っ暗にしてグラスを傾け洋酒を愉しむ父が必ず居た。BGMは殆どマイルスのそれか、クインシーやエリントン。こういう生い立ちを羨む人もいるけれど、僕はこの環境のお陰で暫らく音楽が嫌いで仕方なかった。特に訳の分からない難しい音楽/ジャズに対する嫌悪感は、ジャズミュージシャンになった今でもトラウマの様に有る。車で家族旅行に行ってもカーステではその大嫌いな音楽をかけられる。学校の友達はみんな西城秀樹やらキャンディーズのレコードを買っていた時代である。でも、父は「あんなもん音楽やない!」とTVを見てる僕の横でずっと文句を言っている。

マイルスのアルバムには好きなものがたくさん有る。「ネフェルティティ」なんて「マイ・ファニー」より更に難解なはずなんだけど大好きだ。やはり「マイファニー」の"IN CONCERT"という赤い文字で書かれた副題とブラックスーツに苦みばしった顔のマイルスがやたらと重厚過ぎて、このアルバムは身構えてしまう。

母には小学1年の時にエレクトーンをやらされたんだけど、僕は本当は友達が習っていたピアノがやりたかった。しかし母の新しいモノ好きが災いして僕の希望は受け入れられず、あまり興味の無かったエレクトーン教室のおけいこに行かされ、家では最新鋭のエレクトーンで全く興味の無い練習曲をやらされた。あの時、ピアノを習っていれば、すんなり音楽に溶け込み、絶対音感が付いて今の様な苦労は全く無くて済むわけだ。結局、2年も経たないうちに辞めてしまった。それから本当に音楽が嫌いで仕方ない少年期が暫らく続くのだ。

そんな僕が音楽にのめり込むキッカケになったのは、TVコマーシャルで突如として流れてきた「ライド・オン・タイム」という曲だった。中学生の時である。山下達郎という天才アーティストとの出会いである。でも、本当は小学生の頃にも尾崎亜美の「マイ・ピュア・レディー」とか所謂ニューミュージックには心惹かれていた。(映画好きだった僕は映画音楽にもかなりはまっていたけど。) そのニューミュージックにも流行歌は当時たくさん有ったけれど、僕の琴線に触れたものは、今考えるとやはりドラマチックな展開や変わったハーモニーや、結構凝ったホーンやストリングスのアレンジが有る様なものだった。音楽好きの友達の間ではせいぜいチューリップが流行ってたくらいなんだけど、一番の聞かせ所の大サビを冒頭に持ってくる財津さんの曲の作り方がどうも僕にはダメだった。紆余曲折が有って、その聞かせ所に辿り着いた時の達成感というか開放感が無いと僕にはダメなのだ。それはもしかしたら、マイルスのバンド・エクスプレッションと相通じるものが有るのかも知れない。逆にジャズでも、ただテーマやってソロ回してテーマに戻るというお座成りの演奏形態には退屈極まりないものを感じる。

こういうポップスには何より「歌」が有る。メロディーも分かり易くて、ちゃんと展開もある。そして、ジャズで使われるような楽器のソロが間奏に有ったりする。子供と大人の中間地点だった中学生の僕には非常に満足の行く音楽がタツロウだった。それからは毎月のお小遣いでアルバムを1枚づつ買い漁った。シュガーベイブやナイアガラ・トライアングルまで収集してる中学生は当時、中々居なかっただろうと思う。(笑)

その一方で、シンプルなものを、ついつい退屈だと感じるのは先程述べさせて頂いた、屈折した生い立ちのせいに他ならない。もし、家にマイルスが流れてなくて、エレクトーン教室に通っていたら、何のためらいも無く綺麗なコード進行を覚えて、それにフィットしたモノはこうに違いない!と断言できるメロディーを弾いているかも知れない。また、ピアノを希望通り習っていたら、もしかしたらマイルスが流れていてもクラシックに興味を持っていたかも知れない。まぁ、今、音楽を職業として、僕より才能の有る人達と仕事をする度に思うんだけど、自分はミュージシャンには向いていないな・・と。(苦笑) ただ、この屈折した生い立ちが無い限り、僕のオリジナルな音楽を生み出す事は不可能だと断言できる。両親に感謝してよいやら・・フクザツである。(苦笑)

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8 コメント

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J-POP&JAZZ (kazunori)
2007-09-10 05:46:53
マイルスからシュガーベイブと来ましたか...
先進的というか実験的な楽曲に、宮地さんの好き嫌いとは別のところで本能的に興味のスイッチが入るのでしょうね。
個人的な話で恐縮ですが、シュガーベイブ系統でしたら解散後の大滝詠一や大貫妙子の初期の楽曲が好きです。
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せやったんですか (事務職)
2007-09-10 07:17:02
学生の時、宮地さんはイケイケのJazzマンの印象でしたから、意外でした。
パラドックスの楽曲がキャッチーだったのはポップス影響だったんですね~(笑)

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ごちゃ混ぜ人生です。(笑) (SGURU)
2007-09-10 11:31:32
おはようございます。

kazunoriさん、

大貫妙子は今、FMで流れてきてもいいなぁ・・と思いますね。シュガーベイブでは「いつも通り」が好きです。MAMALAID LAGの田中拡邦は歌い方が大滝さんそっくりですよねぇ。最近のJ-POPも好きで、専らFMで聞いています。僕の場合、ワールド・ミュージックも入ってくるからややこしいのですが。(笑)

事務職くん、

PARADOX(大学時代のフュージョンとキング・クリムゾンなどのプログレを融合させたオリジナルをやるバンド)はOBさんからはJAZZじゃない!と軽く批判されてましたが。(笑) 大学に入る前は「ジャズ以外は音楽じゃない!」という環境でサックスを猛練習してた高校時代が有りましたからね。そういう印象しか持たれなかったのも仕方ないでしょう。まぁ、僕もそのイメージ通り行動していたので、誰にも言いませんでしたが軽音楽部のポップス畑の人達と本当は仲良くしたかったんですよ。(笑)

書いてませんが、少し後になると両親はポップスも好きになってました。専ら洋楽でしたが。バート・バカラックやトム・ジョーンズ・・母は午後のテータイムで紅茶を飲みながらFMでポップスをよく聞いてました。その頃の僕は映画音楽にのめりこんでましたけど。てな感じで同時期に色んなジャンルを聞くというのは子供からの習慣でして。さすがに父が谷村新二、母が浜田省吾に走り始めた頃には、今までの音楽性からかけ離れていたので、ついて行けず決別を余儀なくされましたが。(爆)
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イン・コンサート (どくたあ)
2007-09-10 23:59:29
SGURUさんのBlog読んでいたら無性に聴きたくなり、今聴いています。
確かに苦い。
あらゆることを考えてみても、この孤独感が出せるのは60年代のマイルスしかいないのではないかと感じます。
SGURUさんのお父様のことは以前お聞きしたことがありますが、谷村新二のことまでは聞いていませんでした。(笑)
戻って、このイン・コンサート、”ステラ”で段々と熱くなっていって観客が思わず声を上げてしまうところが忘れられませんね。
このアルバム以降ショーター加入からアガパンのころまで、好きだけど今だわからないことだらけで、多分折に触れて一生聞き続けるでしょうね

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その歓声ですが (SGURU)
2007-09-11 01:01:29
先日、とあるピアニストから「あの歓声は、コンサートを見に来ていたディジーが感極まって叫んだ声って知ってます?」と言われ超驚きました。子供の頃から僕も「お客が熱くなってる」と思っていたものですから。

ショーターが入ってから暫らくはハービーもコンピングを入れていましたが、結局は当時流行のフリージャズがマイルスもやりたくなったんだと思います。グルーヴあるいはサイズはキープしつつコードは外して自由にって感じですよね。僕もバークリー時代はこれにのめり込んでいました。

ロックが入ってくるとベースのパターンをキープさせてモードの様なモードでない、結局はロックビート上のフリー・インプロヴィゼイションになったのだと思います。
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そーなんですか! (どくたあ)
2007-09-11 14:30:31
「マイルスを聴け!」にも”感極まった観客が・・”と書かれていたし、ディジーとは。
驚きました。

ショーター後といえば「ESP」は取り上げやすい曲が数曲あり聴きやすいのですが、「キリマンジェロ」あたりになると、いいのかどうなのか判断に苦しみます。「ソーサラー」「ネフェルティティ」は芸術品の香りがあります。
すごいなと思うのはライブではスタジオと関係ない既存の曲ばかりやっている「プラグド・ニッケル」。
これはたまに聴いています。

エレクトリックになってから一番すきなのは「ゲット・アップ・ウィズ・イット」で、おもちゃ箱のようにいろいろなものが入っていて、楽しい。
「アガルタ」もいいですね。
このあたりが、エレクトリック・マイルスの到達点かなと思っています。
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う~ん。ハイソ。 (みやまえ)
2007-09-11 23:43:22
僕なんかジャズ事始めは山下(洋輔)さんからだかんね。

大枚1,800円(LPの値段。当時のこづかいの2/3だ)出したものの、全然ワケわかんなくて泣きそうになりました。
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マイルス (SGURU)
2007-09-12 00:08:41
>どくたあさん、
僕は結構、キリマンジャロもインナ・サイレント・ウェイも好きです。ビッチェスは2枚組みのため、聞くのには気合が必要ですけど。(笑)
エレクトリックなら、僕はやはり「オン・ザ・コーナー」が好きですね。ドライなリズムにローズにエフェクトキメまくりのラッパ。クラブ系の連中はこのあたりの真似をしてるんですよね。あの独特なグルーヴ感が堪りません。

>みやまえ君
ジャズの入り口ってのは難しいよね。レコード屋のオヤジにアドヴァイス貰ったり、先輩の家で聞かせて貰ったりってのが順当なのかしらねぇ。でも、大体最初にキッツイの聞いた人の方がしっかりプロになってたりするよね。(笑)
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