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Be Water (PARTⅡ)

2007年05月15日 02時12分43秒 | records/cds
2002年9月の関西ツアー中に、もう僕はレコーディングをしようと構想を練り始め、天野丘がレコーディング予定しているというレーベルが有るというのを聞いていたので、本人に確認したところ、「ホワッツ・ニュー・レコード」というレーベル名が彼の口から出てきた。

ツアーを終えて暫らくしてから、社長兼プロデューサーの佐藤氏に連絡を取った。一度、NEW4のライブが見てみたいとおっしゃる。そこで、SONOKAのライブに来て頂く事となった。現役のエンジニアと言う事もあり、「音が大変気に入りました。」というコメントを頂き、レコーディングの話が進み始めた。制作するにあたり、今までと比べて条件も格段によくなり、何より嬉しかったのは時間をたくさん取れて納得が出来る作品が作れそうだと言う事だった。ただ、当時はスタジオを有するレーベルではなかった為、自分でスタジオを探さなければならなかった。そこで、所沢のNさん(ご自身もボーカリストでミュージシャンに大変親切な方)宅に広い地下スタジオが有ると知り、頼み込んで2日間使わせて頂く事にした。深夜までかからなければ良いという事で、ご迷惑を承知で使わせて頂く事になった。これでかなりの経費節減とはなったものの、録音スタジオで無いため、当然、録音自体が相当難しかった。しかしながら、録音技師としての佐藤氏のプロ根性に逆に火を点け、結果的には迫力の有る作品に仕上がった。

NEW4TETは当初スタンダードを演奏するバンドだったのだが、気が付くとこのバンドにフィットする曲想というのが自分でも分かって来て、あれほど嫌だったオリジナルをたくさん書き、演奏するようになっていた。このバンドを結成する前に書いた「アンコンシャス・ディシジョン」は結局はこのバンドにしか演奏できない曲だったし、この曲を演奏するためにNEW4を組んだと言う事も逆に出来る。また、僕は元々民俗音楽に興味が有ったのだけど、この頃にはブラジリアンやラテンやアルゼンチン・タンゴなどを周りの色んな人の影響で聞いていたし、オリジナル曲も選曲も今までとは比較にならないくらいバラエティに富んだものとなっていた。実際、レコーディングで普通に4ビートのSWINGの曲はスタンダードの「イージー・トゥー・ラブ」を含め2曲しかない。僕が聞いて育ってきたものはジャズだけだったわけではないし、子供の頃から色んなジャンルが自然と耳に入ってくる環境に居たわけで、これが自然な成り行きであり、SWINGのみに拘るというのが僕にとっては逆に不自然ではあった。「本当にやりたい事をやる!」という事は僕にとってはこう言う事だったのだ。

音楽は勿論、音質にも拘りたかった。それが可能だったのは、やはり佐藤氏がエンジニアだったと言う点である。バンドが出す音色と言うものにライブの時から僕は拘っていた。ジャズのハコでギターにディストーションをかける事に躊躇していた天野丘に思いっきりかける様に要求したのは僕だし、当時弾いてなかったアコースティック・ギターを彼の押入れから引っ張り出させたのも僕だ。ギターにかけるリバーブの深さまで話し合った。橋本学のシンバルやスネアの音色にまで口出ししてたし、日常のライブでもサウンド・チェックにとんでもないくらい時間をかけていた。池田聡のベース・アンプを椅子の上に置くか床に置くかだけでも何度もチェックを重ね、納得しなければ客入れさえも遅らせた。ここまで、音に拘ったのは、最終目標としてのレコーディングが有ったからだ。勿論、録音後に別日に用意されたMIXには立会い、バランスや音質、空間系の処理にも自分の考えを取り入れてもらったし、マスタリングに関しては何度もやり直ししてもらって、その度に自宅にCDRを送ってもらった。

2003年3月1日から8日間に渡る関西ツアーを決行し、万全の準備を終えたNEW4は同月23、24日の2日間のレコーディングに入った。ツアー中に感染した風邪で録音1週間前のリハはボロボロになるというアクシデントも有ったものの、録音は概ね順調だった。この作品には僕がラテンバンドで一緒に活動していたパーカッションの石川雅康もゲストで参加してくれて、大いに彩を加えてくれた。彼の出すグルーブは周りの人間を非常にハッピーにしてくれる。2曲だけだったけど、今聴いてもこの2曲のグルーブ感は彼が居てこそ得られたものだと疑いは無い。そうそう、いつもそうなんだけど、レコーディングに入る時は既に僕の中にはアルバム・コンセプトと言うものが出来ており、全く『企画モノ』では無いこのアルバムのコンセプトは何かというと、ジャズのマンネリ化からの脱却であった。自分の父の世代のお客さんに多いのだが「ジャズはこうでなけりゃ!」っていう先入観と固定観念に結構嫌気がさしていて、自由にやらせてよ!っていう想いが有った。「ジャズは人生を語らなきゃ」と言うのであれば、僕の人生の中でSWINGが占める確立は大多数ではないのだから、正直に克つ自由に僕の人生を語ったとすれば過去の因習とはかけはなれたモノとなって当然だ。NEW4TETの『NEW』は過去に囚われず固定観念を排除した新しいものという意味だ。ただし、決して過去の遺産を蔑ろにするという意味ではない。

このアルバムのタイトル"Be Water"は、かのブルース・リーが唱えた「水の理論」の一文である。水にはどの様な容器にも入る柔軟性を持っていながら、川の流れは岩をも砕くパワーを持っている。水になりなさい・・。この頃、普段の生活でTVを見ても本を読んでもやたらとこの言葉が入ってきた。啓示だったのだと思う。ジャズはまさにこの水の理論で時代の流れの中で進化してきた音楽だ。ビートルズなどのロックによって衰退に追い込まれても、クロスオーバーやフュージョンと名を変える事によって今日まで生き残っている。その歴史に目をつぶり過去の栄光ばかり追い求めるのは如何なものかと僕は思う。確かに自分の演奏活動は恵まれたものでは無いかもしれないけれど、全てを受け入れる柔軟性さえ有れば乗り越えられるのではないか?と。そして、人生の中で聴いてきた全ての音楽を受け入れた結果が「ビー・ウォーター」なのである。思い返すと、「アンコンシャス・ディシジョン」を作曲した時は前述の宮地5を続けても果たして意味があるのだろうか?と悩んでいた時期だった。直感に従え・・という意味の曲だったのだけど、迷いに迷って結局は最初に感じた通り思い切って休止にした事により、このNEW4TETというバンドが生まれたのである。時間によって熟された運命を受け入れる事は勇気も要るし困難だが、その柔軟性を持たなければ次のステップには行けない。

強い拘りと複雑な想いから制作されたアルバムである。引退覚悟でヤケクソで作ったNEW4だったが、今までの支援者を一部失ったと同時に、ジャズをあまり知らない新しいタイプのお客さんを獲得する事に成功した。「知らない」という事は固定観念が無いわけだから、音楽そのものが良くなければ彼等は去って行ってしまう。だから、自分にとってはよりシビアなのだ。いつもと言うわけではないが、たくさんのお客さんに恵まれ、しかも皆楽しそうに聞いてくれているのが分かった時は本当に僕も幸せになる。そういったお客さん達に教えられた事は、音楽って演奏者が楽しんでなかったらお客さんが楽しい筈が無いってこと。凄いテクニックも理論も必要無い。まずは楽しむ事のみだ。

2日間のレコーディングはテイクを何度も重ねる事を可能にはしたけど、一発録りというジャズの基本姿勢は全く変わっていない。自分のキャリアの中で初めて「じっくり作った」と言い切れるアルバムである。

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2 コメント

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Be Water (Yoshi)
2007-05-24 04:02:47
Be Waterは昔買わせて頂きました!
すごく好きなCDの内の1枚です。
宮地さん、これからもさらに御活躍されることを祈っております!
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ありがとうございます! (SGURU)
2007-05-24 08:42:09
そう言って頂けるととても嬉しいです。
爆発的に売れるアルバムより、人の心に残るアルバム作りを目指してきましたので・・。
新作「Eternity」もご期待下さい!
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