嵐ファン・大人のひとりごと

嵐大好き人間の独りごと&嵐の楽曲から妄想したショートストーリー

妄想ドラマ『スパイラル』 (9)

2010年12月14日 | 妄想ドラマ『スパイラル』
   妄想ドラマ 『スパイラル』 (9)




夜になって美菜から電話があった。

渉には美菜が無理に明るい声で話しているように思えて仕方がない。

すっかり元気になったこと、舞台を休むことになってとても悔しいことを一方的に話し、

そして渉に謝って電話は切れた。

渉はすぐに自分からかけなおした。


「今から会おう」

「でも渉さんは明日も舞台だし・・・」

「今会いたいんだ。顔を見ないと心配だから」

「私なら大丈夫」

「川崎さんから事情は聞いた。どうして俺にまで元気なふりをするの?

 俺は美菜の支えにはならない?」

返事がない。

美菜が電話の向こうで声を殺して泣いている気配がする。

「30分で行く。マンションの下についたらまた電話するから」

渉は上着を羽織ると、車のキーを握りしめて地下の駐車場へ急いだ。


美菜のマンションから少し離れたパーキングに車を置き、

足早に美菜のマンションへ向かった。

深夜の街は幹線道路から外れると人通りはなかった。

それでも渉はキャップを目深にかぶり、周りを気にしながら歩いた。

美菜に聞いていた目印のカフェの角を曲がると、ビルの陰から美菜が姿を現した。

「美菜、こんなところで待ってたの?」

「渉さん、初めてだからわからないかもと思って」

「誰かに見られるとまずい。行こう」

渉は美菜の手を取りたい気持ちを抑え、少し離れて歩いた。


マンションのドアを閉めた途端に渉は美菜を抱きしめた。

言葉は一言も交わさず、ただしっかりと抱きしめた。

伝えたかったたくさんの思いは言葉にするには多すぎる。

抱き合ってお互いの存在を確かめあっていると、思いはそれぞれの胸に流れ込んで

言葉にする必要を感じない。

しばらくすると渉は体を離し、美菜に微笑みかけて言った。

「お邪魔します」

美菜も微笑んで言った。

「どうぞ、お上がりください」


美菜の部屋は落ち着いた淡いグリーンとクリーム色を基調としたシンプルな内装だった。

その中にポップな小物がアクセントになっている。

渉がパステルカラーのクッションが並んだソファに座ると、美菜が聞いた。

「何か飲む?」

「アルコールがいいな。あればだけど」

「じゃあ、いただきもののワインあるから開けようか?」

「いいね」

美菜がスナック菓子と冷蔵庫にあったチーズを小さなテーブルに並べ、

渉がワインの栓を抜いた。

共演した芸能人との楽しいエピソードや子供のころの夢などを取り留めもなく話した。

しかし、渉が舞台のことに触れた途端、美菜の表情は暗くなった。

「私、怖い」

「怖い?」

「私、自分では気づかずに誰かに憎まれるようなことしたのかな・・・」

「大丈夫だよ。美菜はいい子だ。それは俺が一番よく知ってる」

「きっと私がなんだかうっかりしてたんだと思う。あの日はいろんなことがあって

 バタバタしてたし。ちょっと気持ちも高ぶっていたの」

「忙しすぎたから、少しゆっくりすればいいよ。そんな時間も必要だろ?」

渉は美菜の肩を抱き寄せると、優しく髪を撫でた。




寝たのは2時間くらいだったが、渉はスッキリとした気分だった。

隣に美菜の寝息を感じながら、しばらくベッドの中であれこれと考えた。

もし、誰かが故意に美菜を陥れたのなら、その誰かはアレルギーのことを知っている。

そして美菜の楽屋に出入りができた。

当然、顔見知りということになる。

なにかの間違いであってほしい。

しかし、美菜のことをよくわかっている川崎がそうは思っていないことが

渉の気持ちを暗くした。


目的はなんだろう。

美菜は誤解されやすいタイプだが、人に恨まれるようなことができる人間ではない。

人気を妬んだ嫌がらせだろうか。

それとも美菜を舞台から降ろしたかった?

そこまで考えて、渉は自分の胸の奥に感じている不安を払いのけた。


ベッドからそっと抜け出したつもりだったが、美菜が目を覚ました。

「もう行くの?」

「ああ、人通りが少ないうちに行くよ」

「私たちが普通の会社員とかだったら、一緒に朝ごはん食べて出かけられるのにね」

「いつか時期が来たらそうできるようにしよう」

「えっ?」

「俺たちはなにも悪いことをしてるわけじゃないだろう?仕事終わったら電話する」

渉の言葉を聞いて、美菜はいつもの笑顔になった。




その日の舞台を無事に終えて渉が楽屋に戻ると西野が嬉しそうに迎えてくれた。

「どうしたの?いいことあった?」

「高野渉、初主演映画決定!」

「俺が?」

「そう。今やってる舞台を映画化するそうなんだ。社長はだいぶ前に小田中さんから

 話を聞いてたらしいよ。舞台の評判次第で、渉に映画もやってもらうかどうか決めたいって」

「相手役は?」

「そりゃ美菜ちゃんでしょ。小田中さんの秘蔵っ子だからね」

「そうなんだ」

「なんかすごいやり手のプロデューサーと小田中さんが組んでるらしいよ」

「小田中プロが出資するってこと?」

「だろうね」

映画は今までに何本か出演したがたいした役ではなかった。

主演と聞いて嬉しかったが、今の渉は手放しでは喜べなかった。

川崎はどんな態度に出るのだろうか。

美菜は大丈夫だろうか。

一瞬のうちにいろんな思いが渦巻いた。


 ---------つづく--------10話へ
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