早稲田に多浪しました--元浪人による受験体験記です。

二浪計画で早稲田に受かるはずが――予想外の「三浪へ」。
現実は甘くないっすね。

予備校での過ごし方

2006年05月31日 | 勉強法
 前項で、私は予備校中心の勉強をすすめた。では、予備校でどのように過ごせばいいのだろうか。
 まず講義の取り方であるが、内容が重ならないようにすること。「英文法、英語長文、現代文、古文、漢文、小論文…」というように、ひとつずつ取ればいい。
 どの講師がいいかは、ガイダンス講義を受ければ分かる。ガイダンス講義は、どの講師も力を入れて自分のエッセンスを詰め込んでくる。なにせ、その出来によって受講者数が決まるのだ。人間的にその講師を好きになれるかどうかも十分に見極めること。ネットで講師の評判を調べるのもいいが、いくら評判がよくても自分に合わなかったら取らない方がいい。
 さて、そうやって取るべき講義は決まった。あとはその講義に毎回出席すること。もちろん、講義を受けただけで安心してはいけない。復習、そしてテキスト付録の暗記も必須だ。もはや他の参考書に手を出すヒマはないだろう。
 このように、講義を中心として充実した一年を過ごすことができれば、必ず成績は伸びる。
 参考書は、あくまで講義を補佐するものだと考えよう。講義でわからなかったところを追求したい場合に見る程度だ。予備校の講義を受けているのに、「英文解釈教室」のような濃い本をバイブルとして使ってしまうと、焦点がぼやける。焦点は、あくまで予備校にしぼること。
 もちろん、講師が参考書を出している場合は、それを買ってみるのもいいだろう。それは講義の補佐として役立つはずだ。他には、単語帳・熟語帳のような基本的な暗記本も必要だ。赤本も買わなければならない。
 だが、それ以外の本を中心においてはいけない。そのことをしっかりと頭に入れておこう。

 勉強は、予備校の自習室を利用しよう。自分の部屋ではどうしてもだらけてしまう。閉館時間までねばるべきだ。
 予備校から帰宅すると、ヘトヘトになる。夜も遅いだろうから、風呂に入って食事して…という風にしているとあっという間に0時をまわってしまう。そこで頑張って勉強してしまうと、次の日に悪影響を与えるから、寝た方がいい。
 寝る前に、部屋を暗くして電気スタンドをつけて、参考書を読むこと。そのうち眠くなる。
 (ちなみに、寝る直前に学んだことは、脳に深く刻まれる。これは、人間の記憶が睡眠中にシステム化されるためだ。寝る直前の気楽な勉強は、昼の数時間の勉強に匹敵するのだ)

 次の朝になれば、すでに一日はスタートしている。朝食をとって早めに家を出ないと講義に遅刻してしまう。
 そして、季節は過ぎ、あっという間に冬になる。冬になると、いよいよ予備校生たちは「予備校」から「受験」へ向けて巣立っていく。
 直前講座を取らない限り、講義は全て終了する。この時期も、予備校の自習室には通い続けよう。問題演習を繰り返すこと。そうすることで、講義で学んだエッセンスを試験問題で生かすことができるのだ。

 ここで話がそれるが……
 予備校生にとって、「冬」は寂しいものである。予備校の友人達も本格的に志望校対策に力を入れる。だから話題が講義から離れるし、実際、予備校の自習室にも来なくなる。特に私の場合は小さな予備校だったので、凍えるような寒さの中、自転車で予備校の自習室まで行ってみると誰も来ていなかった、なんてこともしょっちゅうだった。普段、自習室の席取り合戦に勝利するために私は早めに行くことにしていたが、誰もいないとなるとかえって寂しいものだ。
 ましてや、本当に直前期になると、私も上京の準備のために予備校に行くヒマがなくなる。そんなとき、窓の外を見ると雪が次々と降下している。人間というものは、そういう物体の規則的な流れを眺めると、考えごとにふけるものらしい。
 私も例外ではなく、目の焦点がだんだんとぼやけてきて、雪の粒ひとつひとつが、目の水分のせいで結晶のように輝いて見えてきたものだった。
 「みんなも、頑張って欲しいよなあ」
 そんな風につぶやいたことは一度や二度ではない。もちろん、つぶやいた瞬間に我にかえる。他人の心配をしている段ではない。これから受験に向けて、自分も旅立たなければならないのだ。

 私の場合は、現役~三浪と合計四回、受験の上京には夜行列車を利用した。京都や名古屋といった大きな街も、夜中だとさすがに街全体が眠りきってしまっている。ときどき、線路の工事をしている人たちが何やら電線をいじっているのが見えるが、すぐに通過してしまう。
 そして私は、「自分は、これから試験を受けに行く旅人なのだ」と改めて感じる。

 「アイデンティティ」という言葉は使い古されている。だが、人間、本当に勝負をかけるときに心の支えになるのは、まさにその「アイデンティティ」なのだ。自分が生まれ育った街、学校、家族――それらに「根付いている」感覚がないと、自分がふらついてしまう。
 試験会場で、試験用紙を目の前にして思うのは、自分がどんな浪人生活を送ってきたか、ということだ。そのときに、自分が巣立ってきた場所はどこかを思い出すことができれば、安心して試験に向かうことができるだろう。

 ……話を戻そう。
 予備校ほど受験に適した機関はない。もちろん、自分専用の学校ではないから、不必要な講義もたくさんある。そういうものを捨てつつ、自分でうまく組み替え、冬にはいい具合に巣立てればいい。「巣立つ」とは、「自分で積極的に問題演習に取り組む」ということだ。個人指導でない限り予備校もそこまで面倒はみてくれない。
 スキーのジャンプと同じで、滑走路で勢いをつけて、いい具合に飛び立つ。このふたつのことができるかどうかが、あなたの合否を決めるのだ。

 予備校生は、滑走路が与えられた存在だ。その幸せを認識しながら、巣立ちの日を待とう。