ミケ猫の菌星探査機(きのこ日誌)

全力で飛んでく・きのこブログ

キノコの胞子の旅立ち戦略

2018-04-03 22:15:17 | 日記






このあいだ鈴なりに赤い花をつけた大きなツバキの木の下を通りがかった。

あの今大はやりの(一部の民衆の間で)ツバキキンカクチャワンタケが生えていないかを確かめたくなった。

降り積もったツバキの花をどけると、さらに枯れたツバキの葉が積もっていた。

何層にも重なったその落ち葉をどけると、ぶわっと煙が立った。






煙の元を確認すると、あった、ツバキキンカクチャワンタケだ。






キノコ以外でこの煙、こういう風景どこかで見た。

そもそもこの煙はなんだろう。

ご想像通りキノコの胞子だ、チャワンタケの傘の表側から胞子が飛び出してきたのだ。



そもそも自力でキノコが煙を出すことは珍しい。

ホコリタケやツチグリの仲間も、

雨の雫などの外力(いたずらっ子の嫌がらせを含む)がキノコの外側にかかると胞子が空中を舞う。

実はキノコを作るモノの多くは、キノコ本体から胞子が離れるために自力で射出する構造を持っているいることが多い。

しかしいろいろなキノコを目にしてきたが、

自力で胞子を飛ばすものに肉眼で煙が立った!とわかることはほとんどなかった。




ホコリタケの胞子は3μmくらい。実はすごく小さい。
小さくてもしっかり煙が見えるのは数で勝負してるからなのかなあ。これはツチグリ。



何が違うのだろう?

見えるということは、胞子のサイズが大きいのだ。

子嚢菌の場合、顕微鏡で見ると思わずでかっと叫びたくなるほどほかのキノコより胞子が大きい。

シイタケなどの担子菌は5μm前後、子嚢菌の胞子は約10倍の50μm前後だ。



何に例えようか。

先日読んだ本に、大腸菌とウイルスのサイズを比較するのに

大腸菌をラグビーボールだとすると、ウイルスはピンポン玉だと書いてあった(生物と無生物のあいだ)

ちょうど比率が同じくらい、同じキノコでもそのくらい胞子のサイズが違うのだ!

(大腸菌:ウイルス≒子嚢菌の胞子:担子菌の胞子≒ラグビーボール:ピンポン玉)



なんだかなにがすごいのかわからなくなってきたぞ(^_^;)。

大きい方の子嚢菌の胞子がちょうど風媒花の花粉のサイズとソックリなのだ。

花粉は虫媒と風媒で花粉のサイズがやはり10倍近く異なる。当然、風媒の方が花粉が小さい。

それでも小さい方の風媒花の花粉は、大きい方の子嚢菌の胞子とサイズが近い。



さて、ここでたわわについたスギの雄花をブルブルっと振ってみよう。

きっと立派な黄色い煙が立つことでしょう(´▽`)/!・・・あなおそろしや。

その映像は鼻炎薬のコマーシャルなどを見るとして、

花粉の場合、ただの垂れ流しではなく風で強く枝が揺すられた振動で花粉が花から飛び出し、

その風に乗って花粉が数百km移動する。

スギ花粉が舞い散るところ

・・・ツバキキンカクチャワンタケはどうだろう?

この胞子の煙の風景、風媒花から花粉が飛び出した時の風景に似てるんだ。



逆にほかのキノコはどうして煙が立たないんだろう?と思った。

普通の担子菌から胞子が飛び出してくる光景は

2016年に亡くなられた、埴 沙萠(はに しゃぼう)さんが非常に美しく映像に収めていらっしゃっる。



シイタケから胞子が飛び出すところ



見ていただいたらわかるように、胞子の煙が立つというよりは、

胞子の混ざった空気が液体のように流れ出ている、といった感じがする。

インクの雫を水に垂らしたあとのように、だんだん広がって胞子の液体(気体?)が消えていくのだろうか。

実際、墨汁を水に垂らすと液体のインクのように水に混じり合っていくが、

墨汁は小さい方の担子胞子のこれまた10分の1ぐらいのサイズの粒子でできていて、その粒子が水に散乱していくのだ。

ツバキキンカクチャワンタケの場合、肉眼で煙が立ったようにしっかり見えた。

シイタケから胞子が流れ出てくるところは、特殊な撮影方法できついコントラストをつけて

見えないものを魔法のように見せてもらっているが、シイタケを手に取っても胞子は見えない。




これはイッポンシメジ属の顕微鏡写真。胞子がどれかわかるかな(^_^;)。
この胞子は四角い。四角い胞子の中に丸い粒が入っている。約5μm。



20年前、埴 沙萠さんの撮られた植物写真に惹かれて写真集を買った。

写真をきれいに撮る人はたくさんいるが、写真に生(せい)を吹き込むことのできる人は少ない。

図鑑を精読し、証明写真のような写真を撮る人にはできない。

埴 沙萠さんが複雑かつ爆発しそうな好奇心を持っていることは、写真を見てすぐわかった。

この人にしか思いつかない目線で撮られた写真に心惹かれた。

(インクの描写の部分についてはミミクリーズ3:00~4:00ごろを見て欲しい)



話が逸れた。

そう、この胞子は小さいので、風の振動がなくても遠くのおっさんが放った鼻息位の空気の動きでも

(おっさんごめんなさい)

胞子が液体同士のように空気に混ざって遠方に行ける自信がありそうだ。



しかし同じ風媒でもサイズが10倍違うと、垂れ流しでは遠くへ行けないと自覚した(?)子嚢菌は

さらに刺激を受けたあと空中に胞子をロケット発射!をすることで

より強い風に胞子をのせようとしているのだと思われるのだ。

風もないのにロケット発射をしたらどうなるのか?これも埴 沙萠さんの映像を見てみよう。

風媒の花粉とほぼ同じサイズのものに、シダの胞子がある。

これを無理やり刺激をあたえて胞子を飛び立たせるとどうなるのか?


ツクシの胞子が撒かれる様子


重いですね、このくらいツクシを振動させたのが風ならもっと遠くへ行けただろうに。



胞子のサイズが小さくなるということは、散布の距離のことを考えると有利なんだなあ。

そう思うとキノコの小さい方の胞子の移動距離って・・・風媒花の針葉樹で数百km、

ていうことは、数千kmとか、一周回って(地球を)元のところに帰って来たりする奴がいたりするのかな。



胞子や花粉のサイズが同じぐらいであると、

シダ、針葉樹、キノコ、と生き物として全く別ものであるというのに、

やはり散布の戦略が同じだというところがおもしろい!



こういう観察をや考察を積み重ねて、

キノコの進化や見えないキノコの生態やほかの生き物との関わりを考えていきたい。

などと、思っておるんす。はいヽ(´▽`)/!




(もちろん自由なキノコさんのことです、大量の例外を含みます)
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