今日はDentisteで打ち合わせがある。 俺とGulfはそれぞれの仕事が終わり次第、現地で落ちあうことになっていた。
あの日から、プライベートでは一度も会ってない。 時間を作って連絡をしてもGulfの方が理由を並べて会おうとしてくれない。
Phi'Naplanの事で不安を感じているんだろうから説明したいのに、その機会すら与えられない。
久しぶりに顔を合わすチャンスだから、今日は打ち合わせが終わった後に捕まえるつもりだった。
Dentisteに着いて、すぐ目についた姿があった。 頭を抱えて椅子に座るGulfの背中と、その様子を不思議そうに見つめるPhi'Naplan。 頭の中に警鐘が鳴り響く。
俺は足早に2人に近づいた。
「おい、そこで何の話をしてる」
ぱっと振り返ったGulfの目に、気まずそうな陰がかかる。 それとは対照的に、Phi'Naplanは明るい声を出した。
「あら! Mew♪ 今日も会えて嬉しいわ。 Gulfくんに、私たちのこと話してたの」
やっぱり。 Gulfを見やるとうつむいたままこっちを見ることすらしない。
「Phi'、俺たちはもう終わったはずです。 Gulfに余計なこと言わないでください」
思わず硬い声で話す俺の腕に自分の腕を巻き付けながら、Phi'Naplanは心外なように口を開いた。
「そんなこと言わないで、彼がびっくりしてるじゃない。 私達愛し合ってるのに、Gulfくんだって痴話喧嘩に巻き込まれちゃイヤよね?」
「Phi'!」
「もう〜恥ずかしくなるとすぐにおこりんぼになるの、昔から変わってないよね♪」
だめだ。 このままじゃ、Gulfに聞かれたくないことまで言われそうだ。
「Gulf、悪いけど先に上に上がっててくれないか」
「・・・はい」
結局一度も目を合わせもせず、硬い表情のままGulfはその場から立ち去った。 やりきれないけど今は仕方ない。
そして俺はPhi'に向き合った。
「Phi'Naplan。 ほんと、いい加減にしてくれ。 俺には恋人が居るんだ。 あなたとの恋はもう終わったんだ。 わかってくれないか」
Dentisteとこれから付き合っていくためにも、Phi'とのことを荒立てるわけにはいかない。 しかもここはDentiste社内だ。
だからこそ穏便に話し合いをしたいのにのらりくらりとかわされて、どこまではっきり言えばいいのか図りかねるのがもどかしい。
「イヤよ。 恋人が居たって構わないわ。 あの頃の私達は幸せだったじゃない。 今からでも遅くないわ、やり直しましょ!」
「だから、Phi'・・・たのむよ」
本気で頭痛がした。 片手を顔に当てながら懇願する。 あの久しぶりに会った時の嬉しかった気持ちが、今はこんな気持ちになってしまうのが悲しい。
「その癖もそのままなのね。 困った時の癖・・・。 どうして困るの? この前はあなたからキスしてきたのに、あれは何だったの?」
―—よかった、Gulfをこの場から離してて。 うっかり昔の雰囲気に流されてキスしてしまったこと、今は後悔している。
「Phi'Naplan・・・あれは、俺なりのけじめです」
心苦しい言い訳だけど、それしか言えない。
あの頃、確かに彼女との恋は俺にとってすべてだった。 別れたすぐは自暴自棄になって、男も女も漁る日々も過ごした。
その中で、やっぱり俺は男しか愛せないんだと気づくきっかけにもなった。 そして、今はGulfが居る。
「とにかく、俺はここに仕事に来てるんです。 Phi'と付き合うために来てるわけじゃないですから」
Phi'Naplanの腕をやんわりと解き、背中を向けようとするも、案外彼女の力が強くて驚く。
「なら、一度ちゃんと話をしてよ。 携帯番号も変えてるんだもの、連絡もとれないじゃない」
CEOに就任した時、過去とは決別するべく一旦全ての付き合いを清算した時に、携帯番号も変えていた。
「・・・Phi'、本当にやめてください。 ここままだと、お互いのためにならないと思います」
「どうしてよ? 愛し合う私とあなたとの間に何の障害があるっていうの?」
―—だめだ。 ここまでくると、もう無理だ。 俺はDentisteと契約を打ち切る覚悟を決めて彼女と対峙した。
「Phi'、いい加減にしないと、Dentisteとは手を切ることにします。 仕事に個人的なことを挟みたくないけど、俺にも守るものがあるんです」
「Mew・・・」
やっと俺の腕を掴んでいた手の力が抜けて、解放される。
「あなたとの関係は終わっているんです。 理解してください。 俺のためにも、あなたのためにも」
青ざめた顔のPhi'に一礼してからその場を立ち去る。 しかし、これで終われるとも思わない。 一体どうしたらいいのか考えながら、俺はDentisteのエレベーターに乗り込んだ。
7階に着いて、営業部のMookさんを訪ねる。 そこで、伝えられたことに驚愕した。
「えっ、Gulfが帰った!?」
「そうなんです。 気分が優れないって」
「申し訳ありません!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。 うちとしてはGulfくんの体調が1番大事ですから」
笑顔で手を振るMookさんに、平身低頭しながらDentiste社を出る。
秘書に連絡し、慌てて自社に戻る。 そこから自分の車を飛ばしてGulfの部屋へ向かった。
ドアベルを鳴らすと中で気配がする。 なのに、返事がない。 Gulfの携帯に電話をかけると、ドアの向こうでメロディが鳴るのが聞こえた。
居る。 そう確信した俺は、ドアを軽くノックした。
「Gulf、出てきてくれないか」
ベルを鳴らしているのが俺だとわかったのか、カチリと鍵が開けられた。
「・・・Mewさん・・・」
「Gulf、体調崩したって聞いたけど、大丈夫なのか?」
「あ、ええ・・・。 頭痛がひどくて・・・帰りに薬を買って飲んだら、今効いてきたところです」
Gulfの顔色を見るとひどく疲れた顔をしている。 しんどそうなGulfの身体を支えながら部屋の中へ入り、ソファへ一緒に座った。
来る途中立ち寄った店で買った、Gulfの好きなフルーツウォーターのペットボトルを渡すと、やっと少し微笑んだように見えた。
「ごめん、しんどいのに押しかけて。 でも心配だったんだ」
「いえ・・・僕こそ勝手に帰ってしまってすみません」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
お互い核心には触れられず、しばらく無言でペットボトルを傾けた。
「・・・あの」
Gulfが言いにくそうに口を開く。
「あの・・・僕、大丈夫です」
「えっ?」
「僕・・・Mewさんが他の人と付き合うなら、それでも・・・」
「なに言ってるんだ!」
唇を噛み締めながら言葉を紡ぐGulfを抱きしめる。
「俺が愛しているのは、Gulfだけだ」
「でも・・・」
Gulfの言いたいことはわかる。 Phi'Naplanのことだろう。
「Gulf、聞いてくれ。 Phi'Naplanとは、もう終わってるんだ。 今日きちんと断ってきた」
「でも、まだ2人は愛し合ってるって・・・」
「それはPhi'の思い込みだよ」
「ほんとに・・・?」
「俺たちは喧嘩したわけでも、自然消滅でもなく、お互い話し合って別れた。 だから彼女は、お互いにまだ気持ちがあると思い込んでたんだ。 でも、俺にはもうお前がいる」
それでもまだGulfは、不安そうな表情を崩さない。 どうすればわかってもらえるのか、とにかく俺はがむしゃらにGulfの身体をかき抱いた。
「俺の心臓を、今ここに取り出して見せたいよ。 お前のことしか愛してないんだ。 頼む、わかってくれ。 お前のためなら、Dentisteとなんかすぐに手を切る」
「・・・ふふっ」
「Gulf?」
なぜか突然笑ったGulfに戸惑って、顔を見つめる。 少し赤い顔をしたGulfは、恥ずかしそうに唇を尖らせた。
「Mewさん、どこからそんなセリフが出てくるんですか? なんかドラマみたいです」
「そうか? 俺の気持ちのままだよ」
Gulfは面映そうな表情で、ゆっくりと俺の髪に指を入れて梳いた。
「・・・わかりました、Mewさんを信じます。 Naplanさんに、2人は愛し合ってるって言われて、Mewさんの今の恋人を教えろって詰め寄られて・・・どうしたらいいかわからなかったんです。 仕事の事もあるし、下手なことを言って影響が出ても困るし・・・」
Gulfの大きな瞳に、水の煌めきが灯る。 その雫が頬を滑り落ちるのを、俺は自分の掌で受け止めた。
「ごめん、不安にさせて。 自分の過去がお前を苦しめるの、申し訳ないと思ってる」
「ううん・・・。 Mewさんの過去はMewさんのものだし、それに過去がないと、今もないから」
俺たちはどちらからともなく顔を近づけ合った。 チュ・・・
「Gulf、愛してる」
「僕も、愛してる」
でも!と、体を離したGulfが急に顔をしかめた。
「ほんとに何もないの? あんなにMewさんに固執してたし、何年も前に別れた相手に普通あんなになるもの?」
もっともなGulfの指摘に、俺は観念して告白した。
「う・・・ごめん。 久しぶりに会ったあの日、酒飲んでて、つい昔に戻った気になってキスしてしまった・・・」
「Mewさん・・・それはダメ。 浮気だって言われても仕方ないよ」
「ほんと、ごめん・・・」
「次やったら、別れます」
「待って待って! ほんとに、もうしないから!!」
「お酒も禁止」
「わかりました! 俺ってほんとダメな恋人だな・・・Gulfにこんな思いさせて」
「ほんとだよ。 こんなモテモテの彼氏、僕には荷が重いよ・・・」
「だぁ〜! そんなこと言わないで! ね? ね? Phi'は何でもするからぁ〜!!」
「どぉしよっかな~・・・」
「Gulf、Gulf、Phi'の事愛してるって言ったよね? ね? 捨てないで・・・!」
「――CMも断ろうかな?」
「そ、それは・・・Gulfがどうしても嫌なら、ほんとにやめてもいいよ」
「――ふふっ♪」
必死に懇願する俺の顔を見て、Gulfが堪えきれないように吹き出した。
あの日から、プライベートでは一度も会ってない。 時間を作って連絡をしてもGulfの方が理由を並べて会おうとしてくれない。
Phi'Naplanの事で不安を感じているんだろうから説明したいのに、その機会すら与えられない。
久しぶりに顔を合わすチャンスだから、今日は打ち合わせが終わった後に捕まえるつもりだった。
Dentisteに着いて、すぐ目についた姿があった。 頭を抱えて椅子に座るGulfの背中と、その様子を不思議そうに見つめるPhi'Naplan。 頭の中に警鐘が鳴り響く。
俺は足早に2人に近づいた。
「おい、そこで何の話をしてる」
ぱっと振り返ったGulfの目に、気まずそうな陰がかかる。 それとは対照的に、Phi'Naplanは明るい声を出した。
「あら! Mew♪ 今日も会えて嬉しいわ。 Gulfくんに、私たちのこと話してたの」
やっぱり。 Gulfを見やるとうつむいたままこっちを見ることすらしない。
「Phi'、俺たちはもう終わったはずです。 Gulfに余計なこと言わないでください」
思わず硬い声で話す俺の腕に自分の腕を巻き付けながら、Phi'Naplanは心外なように口を開いた。
「そんなこと言わないで、彼がびっくりしてるじゃない。 私達愛し合ってるのに、Gulfくんだって痴話喧嘩に巻き込まれちゃイヤよね?」
「Phi'!」
「もう〜恥ずかしくなるとすぐにおこりんぼになるの、昔から変わってないよね♪」
だめだ。 このままじゃ、Gulfに聞かれたくないことまで言われそうだ。
「Gulf、悪いけど先に上に上がっててくれないか」
「・・・はい」
結局一度も目を合わせもせず、硬い表情のままGulfはその場から立ち去った。 やりきれないけど今は仕方ない。
そして俺はPhi'に向き合った。
「Phi'Naplan。 ほんと、いい加減にしてくれ。 俺には恋人が居るんだ。 あなたとの恋はもう終わったんだ。 わかってくれないか」
Dentisteとこれから付き合っていくためにも、Phi'とのことを荒立てるわけにはいかない。 しかもここはDentiste社内だ。
だからこそ穏便に話し合いをしたいのにのらりくらりとかわされて、どこまではっきり言えばいいのか図りかねるのがもどかしい。
「イヤよ。 恋人が居たって構わないわ。 あの頃の私達は幸せだったじゃない。 今からでも遅くないわ、やり直しましょ!」
「だから、Phi'・・・たのむよ」
本気で頭痛がした。 片手を顔に当てながら懇願する。 あの久しぶりに会った時の嬉しかった気持ちが、今はこんな気持ちになってしまうのが悲しい。
「その癖もそのままなのね。 困った時の癖・・・。 どうして困るの? この前はあなたからキスしてきたのに、あれは何だったの?」
―—よかった、Gulfをこの場から離してて。 うっかり昔の雰囲気に流されてキスしてしまったこと、今は後悔している。
「Phi'Naplan・・・あれは、俺なりのけじめです」
心苦しい言い訳だけど、それしか言えない。
あの頃、確かに彼女との恋は俺にとってすべてだった。 別れたすぐは自暴自棄になって、男も女も漁る日々も過ごした。
その中で、やっぱり俺は男しか愛せないんだと気づくきっかけにもなった。 そして、今はGulfが居る。
「とにかく、俺はここに仕事に来てるんです。 Phi'と付き合うために来てるわけじゃないですから」
Phi'Naplanの腕をやんわりと解き、背中を向けようとするも、案外彼女の力が強くて驚く。
「なら、一度ちゃんと話をしてよ。 携帯番号も変えてるんだもの、連絡もとれないじゃない」
CEOに就任した時、過去とは決別するべく一旦全ての付き合いを清算した時に、携帯番号も変えていた。
「・・・Phi'、本当にやめてください。 ここままだと、お互いのためにならないと思います」
「どうしてよ? 愛し合う私とあなたとの間に何の障害があるっていうの?」
―—だめだ。 ここまでくると、もう無理だ。 俺はDentisteと契約を打ち切る覚悟を決めて彼女と対峙した。
「Phi'、いい加減にしないと、Dentisteとは手を切ることにします。 仕事に個人的なことを挟みたくないけど、俺にも守るものがあるんです」
「Mew・・・」
やっと俺の腕を掴んでいた手の力が抜けて、解放される。
「あなたとの関係は終わっているんです。 理解してください。 俺のためにも、あなたのためにも」
青ざめた顔のPhi'に一礼してからその場を立ち去る。 しかし、これで終われるとも思わない。 一体どうしたらいいのか考えながら、俺はDentisteのエレベーターに乗り込んだ。
7階に着いて、営業部のMookさんを訪ねる。 そこで、伝えられたことに驚愕した。
「えっ、Gulfが帰った!?」
「そうなんです。 気分が優れないって」
「申し訳ありません!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。 うちとしてはGulfくんの体調が1番大事ですから」
笑顔で手を振るMookさんに、平身低頭しながらDentiste社を出る。
秘書に連絡し、慌てて自社に戻る。 そこから自分の車を飛ばしてGulfの部屋へ向かった。
ドアベルを鳴らすと中で気配がする。 なのに、返事がない。 Gulfの携帯に電話をかけると、ドアの向こうでメロディが鳴るのが聞こえた。
居る。 そう確信した俺は、ドアを軽くノックした。
「Gulf、出てきてくれないか」
ベルを鳴らしているのが俺だとわかったのか、カチリと鍵が開けられた。
「・・・Mewさん・・・」
「Gulf、体調崩したって聞いたけど、大丈夫なのか?」
「あ、ええ・・・。 頭痛がひどくて・・・帰りに薬を買って飲んだら、今効いてきたところです」
Gulfの顔色を見るとひどく疲れた顔をしている。 しんどそうなGulfの身体を支えながら部屋の中へ入り、ソファへ一緒に座った。
来る途中立ち寄った店で買った、Gulfの好きなフルーツウォーターのペットボトルを渡すと、やっと少し微笑んだように見えた。
「ごめん、しんどいのに押しかけて。 でも心配だったんだ」
「いえ・・・僕こそ勝手に帰ってしまってすみません」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
お互い核心には触れられず、しばらく無言でペットボトルを傾けた。
「・・・あの」
Gulfが言いにくそうに口を開く。
「あの・・・僕、大丈夫です」
「えっ?」
「僕・・・Mewさんが他の人と付き合うなら、それでも・・・」
「なに言ってるんだ!」
唇を噛み締めながら言葉を紡ぐGulfを抱きしめる。
「俺が愛しているのは、Gulfだけだ」
「でも・・・」
Gulfの言いたいことはわかる。 Phi'Naplanのことだろう。
「Gulf、聞いてくれ。 Phi'Naplanとは、もう終わってるんだ。 今日きちんと断ってきた」
「でも、まだ2人は愛し合ってるって・・・」
「それはPhi'の思い込みだよ」
「ほんとに・・・?」
「俺たちは喧嘩したわけでも、自然消滅でもなく、お互い話し合って別れた。 だから彼女は、お互いにまだ気持ちがあると思い込んでたんだ。 でも、俺にはもうお前がいる」
それでもまだGulfは、不安そうな表情を崩さない。 どうすればわかってもらえるのか、とにかく俺はがむしゃらにGulfの身体をかき抱いた。
「俺の心臓を、今ここに取り出して見せたいよ。 お前のことしか愛してないんだ。 頼む、わかってくれ。 お前のためなら、Dentisteとなんかすぐに手を切る」
「・・・ふふっ」
「Gulf?」
なぜか突然笑ったGulfに戸惑って、顔を見つめる。 少し赤い顔をしたGulfは、恥ずかしそうに唇を尖らせた。
「Mewさん、どこからそんなセリフが出てくるんですか? なんかドラマみたいです」
「そうか? 俺の気持ちのままだよ」
Gulfは面映そうな表情で、ゆっくりと俺の髪に指を入れて梳いた。
「・・・わかりました、Mewさんを信じます。 Naplanさんに、2人は愛し合ってるって言われて、Mewさんの今の恋人を教えろって詰め寄られて・・・どうしたらいいかわからなかったんです。 仕事の事もあるし、下手なことを言って影響が出ても困るし・・・」
Gulfの大きな瞳に、水の煌めきが灯る。 その雫が頬を滑り落ちるのを、俺は自分の掌で受け止めた。
「ごめん、不安にさせて。 自分の過去がお前を苦しめるの、申し訳ないと思ってる」
「ううん・・・。 Mewさんの過去はMewさんのものだし、それに過去がないと、今もないから」
俺たちはどちらからともなく顔を近づけ合った。 チュ・・・
「Gulf、愛してる」
「僕も、愛してる」
でも!と、体を離したGulfが急に顔をしかめた。
「ほんとに何もないの? あんなにMewさんに固執してたし、何年も前に別れた相手に普通あんなになるもの?」
もっともなGulfの指摘に、俺は観念して告白した。
「う・・・ごめん。 久しぶりに会ったあの日、酒飲んでて、つい昔に戻った気になってキスしてしまった・・・」
「Mewさん・・・それはダメ。 浮気だって言われても仕方ないよ」
「ほんと、ごめん・・・」
「次やったら、別れます」
「待って待って! ほんとに、もうしないから!!」
「お酒も禁止」
「わかりました! 俺ってほんとダメな恋人だな・・・Gulfにこんな思いさせて」
「ほんとだよ。 こんなモテモテの彼氏、僕には荷が重いよ・・・」
「だぁ〜! そんなこと言わないで! ね? ね? Phi'は何でもするからぁ〜!!」
「どぉしよっかな~・・・」
「Gulf、Gulf、Phi'の事愛してるって言ったよね? ね? 捨てないで・・・!」
「――CMも断ろうかな?」
「そ、それは・・・Gulfがどうしても嫌なら、ほんとにやめてもいいよ」
「――ふふっ♪」
必死に懇願する俺の顔を見て、Gulfが堪えきれないように吹き出した。