十兵衛と語ろう

十兵衛と語ろう

月之抄4

2010-11-12 23:19:49 | 月之抄
 習いの目録の事
目付の事 二星 嶺谷 遠山
二星の目付の事
親父殿が言うには、二星とは敵のこぶしと両腕の事である。このはたらき(動き)を把握することが重要である。爺様の目録によると、二星とは常に意識すべき眼のつけどころの事で、左右のこぶしの事であると書いている。私に言わせれば、二星に付けた色(気配)を察する心構えが大事である。この意味は、二星は視線の当てるところである。この二星の動きが色(気配)となって現れる。二星を見ようとする心構えより、色(気配)に察する心掛けが第一なのである。重々心がけるべき内容であり、極意に至るまでこの心掛けを使うこと。また、二つの星をみるというよりも、二つを同時に見る心持を持つべきであり、二つは一つである。
さらに、目付八寸の心持という考え方もある。つまり、二星と太刀の柄八寸の動きを意識していれば、二星の色(気配)もその中にあると考えることができるだろう。この二星の教えは第一の教えである。この考え方から、色々な心掛けがあるので、初めに心がける内容だと知りなさい。親父殿の書いた目録には、二星に眼を付ける教えは、常に用いるものだ、と書いているものがある。
さらに、二星とは敵の両手に眼を付ける心持の事だと書いてある目録もある。
嶺谷の目付の事
親父殿は言った。右の腕の曲がるところを嶺と言い、左を谷と言う。この曲がる部分に心を付け、自分の太刀先をその方へ向けると、地太刀にならないようになる。二星(両のこぶし)より嶺谷までの間の動きを見るのが、根本の目付であると定めている。
爺様の目録には、「嶺-身のかかり右の肘、谷-身のかかり、足踏み、左の肘」このように書いてあるものもある。また爺様曰く、「嶺谷に付けて相太刀にならない事」、とだけ書いた目録もある。
親父殿の目録に、「嶺谷と同じく片手太刀は、いずれも地太刀にならないための目付の事である」と書いたものもある。
 遠山の目付の事
親父殿は言う。自分の両肩へ打取り、押し合い等になる時、この教えを用いること。敵の太刀先が自分の右の肩先に来る時は、敵の右へ外しなさい。左に来る時は、まっすぐ上から押し落として勝つのである。自分の太刀先はいつも、嶺の目付をして、敵の胸に心を付けて打ちこみなさい。また曰く。組もの打ちあいの時、敵味方の太刀先の使い方は身を開く事が大事である。また、目録の先頭書きに、遠山に付けた目付は、組ものになる時の心持であるとも書いてある。さらに、自分の方から、敵の両肩の間である胸へ太刀先を付けること、と書いてある。また、捕縛、居合はいつも身の近くにしてこの心掛け専らの大事である。このことから、身の近くの心掛けは、色(気配)に出るものだ。爺様の目録には、「遠山の事、切り込みの時、両の肩」とだけ書いてある。
 五個の身の位の事
親父殿曰く。身を一重(相手に対して正対するのではなく、垂直に向く)にすること。敵のこぶしの高さに、自分の肩先の高さを比べるくらい身を沈める事。自分のこぶしを相手との間に置き、楯とすること。左のひじを伸ばすこと。前の膝に体重を載せ、後ろの足を延ばすこと。これは、その場より後ろへひき退く者を追いかけて打つときに良い。爺様の目録では、第一に身を一重にすること。第二に敵のこぶしに自分の肩先を比べること。第三に身を沈めて自分のこぶしを下げない事。第四に身をかがめて、前の膝に体重を載せ、後ろの足のえびらをひしぐこと。第五に自分の左の肘を曲げない事。また、構えはいつも相構え(相手と同じ構え)とすること、とも書いている。