夭折した研究者 楢木範行のこと
渡辺一弘
昨年は宮崎県の民俗学界にとって記念の年であった。日本民俗学の創始者、柳田國男が『後狩詞記(のちのかりことばのき)』を刊行して九〇周年。その舞台となり、民俗学発祥の地として知られる宮崎県東臼杵郡椎葉村の椎葉民俗芸能博物館では、その記念として様々な企画展が行われた。また、地元紙でも柳田國男特集を組むほどであった。
そうしたなか、えびの市出身で、柳田と交流 . . . 本文を読む
江口 司「宿り木」
今、私は「宿り木」に夢中になっている。
それというのも一昨年、
民俗学者・谷川健一さんと九州山地を横断する小さな旅の機会を得、
話を聞いた折り、
九州山地の宿り木の方言について調べるよう依頼されたことからである。
今年の谷川さんからの年賀状にも、そのことを記してあり、
ようやく先月の二十五日に湯布院で、
宿り木に関する次のようなレポートを提出することができた。
熊本県の五 . . . 本文を読む
江口司「ヒロ」
「我々から見れば沖縄は言葉の庫である。
内地の方で損じたものが島では形を完うしている。」
と言ったのは、柳田国男である。
そんな南島では、
蝶を「ハビラ・ハビロ・ハベロ」と呼び、先祖の霊魂だとしている。
このところ私は、その蝶に逢いに、いそいそと奄美や沖縄に出かけている。
ハビロとの出逢いは、
一九八八年から八九年にかけ、
熊本県の蘇陽・高森両町を含む、五ヶ瀬川流域の山 . . . 本文を読む
「桶職人と和太鼓奏者の不思議な出会い」
渡辺一弘
「もう私の代で終わりですわあ」と力無く語ったのを覚えている。
宮崎市花ヶ島の桶職人、川村知義さん(六八歳)に
お会いしたのはもう五年前のこと。
当時、宮崎県総合博物館の傷んだ桶類の修理をお願いしたり、
桶の作り方を記録撮影させていただいた。
しかし、いくら綿密に記録をとっても
職人の繊細な技術を残すことはできないと、
ある種の無力感を感じた。
苦 . . . 本文を読む
竹細工を通じて国際交流
渡辺一弘
"A Basketmaker in Rural Japan"という
一冊の英文による展示図録がある。
宮崎県西臼杵郡日之影町の竹細工職人、廣島一夫さんの
作る道具の美しさとその人柄に、
二人の人物が惹かれ、
日米の三人による国際交流から生まれたものである。
昨年、この本が廣島氏の黄綬褒章のお礼に
皇后美智子様に届けられたことが話題となったが、
今後もこの本を . . . 本文を読む