
モノには名前が必要である。名前がなければ「あれ」「それ」で示さなければならず、円滑なコミュニケーションができない。
生物には世界共通の名称である「学名」がある。この命名には一定の規則があり、ラテン語として表記され、それぞれの生物分野の命名規約により取り決められている。例えば動物には「国際動物命名規約」がある。
学名を命名するには、過去に命名されたどの種とも別種であることを証明する手続きが必要とされるため、発見者が命名者になるとは限らない。一般には、その種の特徴、近縁種との区別を明確に示した記載論文を発表するので、その論文の発表者が命名したことになる。
一方で生物には日本語でつけられた名前である「和名」がある。、これは学問規約的に規定された名ではなく、一般に使用されている習慣的な名称である。生物の場合は、一つの種に多くの異なる名があったり、複数の種が同じ名で呼ばれたり、地方によって異なっていたりする。
また種の学名と一対一となるように調整した和名を、「標準和名」と呼ぶ。標準和名は日本国内の範囲では、学名に準じて扱われている。ただし、命名規約等はなく、それぞれの分野で研究者同士のやりとりの中で決まっている。和名をつける機会としては、図鑑を作るときに和名を与える場合や、新種記載をするときに、日本語の記載文に和名を添える場合などがある。
このように和名は習慣的な名称であるため、差別的用語を含むなど問題も昔からある。これに対して、例えば魚類に関して日本魚類学会では「日本魚類学会標準和名検討委員会」を組織し、標準和名に関わる諸問題を検討し解決のために必要な活動を行っている。
日本魚類学会 標準和名検討委員会の概要
http://fish-isj.jp/iin/standname/index.html
さて、上記のように和名は図鑑を作る場合や新種記載の際に命名されることが多いのだが、現在では新種発見の情報が瞬時に世界中に行きわたってしまうために、和名がないのによく知られている生物も多く存在する。
その一例としてPaedophryne amauensis (パエドフリン アマウンシスと読むらしい) を紹介する。
Paedophryne amauensis
https://ja.wikipedia.org/wiki/Paedophryne_amauensis#cite_note-Rittmeyeretal-1
Paedophryne amauensis はパプアニューギニアで2009年8月に発見され、2012年に正式に発表された新種のカエルである。P. amauensis は体長7.7mmで、現在知られる脊椎動物の中で最も小さい。
このカエルは2009年8月に爬虫両棲類学者のクリストファー・オースティンと院生のエリック・リットマイヤーによってパプアニューギニアの生物多様性の研究中に発見された 。この新種は中央州のアマウで発見された。学名はこの村の名前に由来する。 この発見は2012年1月にPLoS ONEで発表された。
P. amauensis は体長7.7mmで、世界最小の脊椎動物とされてきたインドネシア産の淡水魚Paedocypris progenetica (全長7.9mm)より0.2mmだけ小さい。 この種は幼生の形を取らず、卵からいわゆる成体のカエルの形で孵化する。 P. amauensis は体長の30倍の高さに跳ねることができる。行動パターンは薄明薄暮性で、微小な無脊椎動物を食する。オスはメスを昆虫を思わせるような高い周波数(8400–9400 Hz)の鳴声でメスを呼ぶ。
PLoS ONEは、Public Library of Science社より刊行されているオープンアクセスの査読つきの科学雑誌で、科学と医学分野の一次研究論文を扱っている。Paedophryne amauensisの発表は以下リンクのとおりである。
PLoS ONE 2012/1/12 Ecological Guild Evolution and the Discovery of the World's Smallest Vertebrate
http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0029797
発見地は以下の赤で示された箇所だ。

僅か7.7mmで世界一小さいカエル、世界一小さい脊椎動物、アリより小さいカエル・・・ということでとてもわかりやすく、発表時からニュースで取り上げられることが多いPaedophryne amauensisだが、もちろん気になるのはその和名がどうなるかである。
しかしそもそも誰が名をつけるのかがわからない。日本爬虫両棲類学会には「日本産」の爬虫両生類標準和名リストがあるが、このように海外で発見された新種の扱いは不明確だ。
日本爬虫両棲類学会 日本産爬虫両生類標準和名リスト
http://herpetology.jp/wamei/index_j.php
Paedophryne amauensis (種) は、両生綱 - 無尾目 - カエル亜目 - ヒメアマガエル科 - Asterophryinae (亜科) - Paedophryne (属) に分類されるが、亜科・属にも和名がない。しかし既に存在がメジャーになりつつあるPaedophryne amauensisには素敵な和名がつくことを期待したい。「マメツブガエル」「ユビサキガエル」ではがっかりだ。和名に命名規約はないのだから、公募してもいいのではないだろうか。
いつの日かPaedophryne amauensisの和名が決まったら、このブログ上でも発表したい。
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