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Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

はかない運命

2021年08月21日 06時00分00秒 | エッセイ


    コンクリートの通路にトンボが一匹とまっていた。
    「とまっていた」と言うより群れからはぐれ
    「さて、どうしたものか」と思案気なふうにしている。
    街中でもよく見るウスバキトンボだ。
    けど、近寄って行ってもピクリともしない。
    あー、大切なお役目を果たしたのと引き換えに
    寿命をはかなく尽きさせたようだ。

              

    ウスバキトンボは「精霊トンボ」とも言う。
    お盆の頃になると、日本各地で群れて飛ぶようになり、
    それで南の方からご先祖様の霊を乗せてやってきたのだ、
    そんな言われ方をしているのである。 
    ちょうど、お盆も過ぎた頃だ。
    ご苦労様。このトンボは立派にお役目を果たしたのだろう。


    真面目な話、ウスバキトンボは熱帯原産で、
    毎年4月から5月になると、大群になって渡り鳥さながらに
    南の国から海を越えて日本にやってくるのだそうだ。
    そして、田んぼで卵を産み1カ月ほどでトンボになる。
    そのトンボが日本列島のあちこちに移動し、
    田んぼに卵を産み、そうしながら数を増やし、分布を広げていく。
    ちょうどお盆の頃、日本中で群れをなして飛ぶことになり、
    それが「精霊トンボ」のいわれになっているわけだ。

        

    もともと熱帯のトンボだから寒さに弱い。
    日本の冬を越すことは、とてもできない。
    お盆の空を埋めんばかりに群れをなして飛び回っていた、
    ウスバキトンボは冬の寒さで全滅してしまうのだ。
    彼らは生まれ育った熱帯の地には決して戻れない。
    それでも春になると、再び日本目指して飛んでくる。
    帰ることは出来ないと分かっていながらだ。
    何とも、はかない運命──。


    そう言えば、秋雨前線が1週間ほども居座って
    雨を降り続けさせ、そのせいで気温も下がった。
    ひょっとすると、あの通路のトンボは気温が下がったせいで
    命を落としたのかもしれない。
    そして、それは秋近しを告げていることにもなる。



    亡骸を通路に放っておくのは忍びない。
    家に連れ帰り、ベランダの植木に乗せってやった。
    また来春新しい仲間たちが海を越えてやってくる。