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Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

巨人VS怪物

2021年01月29日 06時00分00秒 | エッセイ
    背後からの電柱の光を浴び、前方に黒づくめのシャドー巨人が出現した。
    両腕を横に大きく広げ、対峙するのは全身を鋼で包み黒光りする怪物である。
    そのいかつい巨体の怪物が今にも向かってきそうで、
    シャドー巨人がそれを阻止しようと身構える。

                                                         

                                      
 
    その怪物の愛称は「キューロク」と言う。
    図体に対して、何とも可愛げな名がついている。
    かつての花形蒸気機関車・9600型29612号である。
    決戦の場は、すっかり日の落ちた「豊後森機関庫公園」(大分県玖珠町)。
 

JR九大本線豊後森駅、そのすぐ側にある。
ここは、昭和9年から廃止された同46年までの間、九大本線の石炭、水などの
補給基地、あるいは機関車の入れ替え作業など重要な役割を担ってきた。
直径が20㍍弱の転車台を中心に放射線状に線路が機関庫へと延び、
それに従い機関庫は扇型となっている。
原形のまま残る機関庫は、九州ではここだけで、
国指定の登録有形文化財・近代化産業遺産である。

    90年近くもの間、雨風に打たれ続けてきた機関庫は、
    打ち捨てられたビルのようにコンクリートの壁面は黒ずんだ灰色をさらす。
    また、ところどころに戦時中米軍機に機銃掃射された
    痕を残しているのだというが、
    どれがそうなのか確かめようはない。
    割れるにまかせた窓ガラスは、もうその役割を放棄し、
    その破片が窓枠にしがみつく。
    転車台、そこから機関庫へ延びる線路は、言うまでもなく赤茶けている。
    そして、機関庫と転車台を後ろに従えるように、
    あの怪物「キューロク」がいる。
    夜になり、それらノスタルジックな構造物がライトアップされると、
    幽玄の世界となって浮かび上がり、フォトジェニックな世界ともなる。
            
    

    僕は、シャドー巨人となって「キューロク」と向かい合っている。
    80近い爺さんの一人遊びである。
    すると、機関庫の奥の方に、
    いくつもの小さな光がチカチカと飛び交っている。
    季節からしてホタルではない。
    遠くを行き交う車のライトが、割れた窓ガラスに乱反射しているのか。
    分からない。幽玄の世界に迷い込んだらしい。