今日は、東京理科大学大学院総合科学技術経営研究科(注)MOT専攻・イノベーション研究センター、日本経済新聞社が主催する「東京理科大学大学院MOTシンポジウム」『大技術転換期のMOT-自動車の未来を考える-』が、大手町の日経ホールで開催されたので参加した。
基調講演は、内山田竹志氏(トヨタ自動車株式会社取締役副社長)による『次世代車両とトヨタの技術戦略』。その後、東京理科大学専門職大学院の伊丹教授がコーディネータとなって、内山田氏を含む4名のパネリストによるパネルディスカッションが行われた。
前置きが長くなったが、興味深い話題だったので簡単に触れてみたい。
1.基調講演
この先「石油」の採掘量は減少する。環境・エネルギー対応として、石油の消費を少しでも減らすべく、「省石油」あるいは「脱石油」のための自動車燃料を考える必要がある。
近年「電気自動車」が話題だ。トヨタでは1997年から、ハイブリッド自動車「プリウス」を量産し、現在累計250万台を販売している。
今後、電気自動車がよいのか、水素自動車がよいのか。あるいはハイブリッド自動車がよいのか。電気自動車は話題ではあるが、必ずしも電気自動車が万能ではない。電気のエネルギー密度はガソリンの約1/50ではあるが、電気自動車の課題として、1.航続距離、2.コスト、3.充電時間、4.専用充電インフラ、5.電池寿命などがある。
日本の場合、自動車使用の過半数が日当たり走行距離は20km以下だという。たとえば、電気自動車は近距離用途として、中距離用途ではハイブリッドで駆動するという方が、搭載する電池の大きさも小型化できる。あるいは、水素などの燃料電池を自動車燃料とする選択肢もある。どの自動車燃料を用いて、技術開発をするかは各企業の戦略である。具体的な講演内容はあまり赤裸々には書けないが、おおむねこのような基調講演だった。
2.パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、まず新興国市場、特に中国市場に向けてどのような戦略を取るべきか、議論になった。
やはり、先進国の技術をそのまま新興国に持っていっても、必ずしもうまくいくとは限らない。国地域の特徴、文化等にあわせた技術展開する、多様化する必要がある。
議論を通じて、自動車産業の大技術転換期において、2つの意味の多様性が見えてきた。一つは、「燃料源の多様性」、もう一つは「社会インフラの多様性」。
興味深い問いとして、「いつ、どこの国のマーケットで、電気自動車の新車販売台数が全新車販売台数の20%を超えると考えるか」を、各パネリストとコーディネータが答えた。回答はさまざまだ。2020年頃という答え、日本よりも中国が先といった答えもあったが、そんなに早くない、経済合理性の中では20%のハードルは高いという答えもあった。
また別の問いとして、「電気自動車を作る(売る)メインプレーヤーは誰だと考えるか」について。既存の大手企業か、新規のベンチャー企業か、それとも。
これもさまざまな答えが飛び交った。自動車産業以外にも電気自動車を作ることができるという意見もあったが、そう簡単に大きな企業が新規プレーヤーにはやられないという答えも。私もそう思った。
3.おわりに
他にも多彩な議論があったが、話題が尽きないので、このあたりでこの記事の括りとしよう。コーディネータの伊丹教授がおっしゃっていたことを、一部アレンジしている。
ある企業は、電気自動車に注力する。また別の企業は、電気自動車だけでなく、むしろ燃料電池の研究開発やハイブリッド自動車の製造など、全方位戦略をとる。戦略の取り方の違いはどこにあるのだろうか。
技術者が実権をとるような企業は、リスクマネジメントをしつつ、全方位戦略をとると言えないか。一方、マーケットばかり見ていると、移ろいやすいマーケットに惑わされはしないか。迷いがあるから、「とりあえず」全方位戦略をとっているわけでもなさそうだ。
エレクトロニクス業界では、この70年近くに大きく2度の大転換があった。真空管からトランジスタへ。そしてトランジスタから集積回路へ。その大転換の過程で、アメリカでは先行技術の企業は次々と撤退、なくなっていった。一方、たとえば東芝は真空管もトランジスタも集積回路も、それぞれの技術に対応してきた。
新たな技術の登場によって、国によって、企業の対応が異なる。その差は何か。
日本の自動車産業の企業は、新たな技術を前に、どう立ち向かっていくのだろうか。
追伸:この記事は、講演会の内容を極力正確に思い出し、個人的に整理したものです。一部不正確なところがあるかもしれません。その点ご容赦ください。
(注) 2011年4月、「総合科学技術経営研究科」は「イノベーション研究科」へ、名称変更されます。
基調講演は、内山田竹志氏(トヨタ自動車株式会社取締役副社長)による『次世代車両とトヨタの技術戦略』。その後、東京理科大学専門職大学院の伊丹教授がコーディネータとなって、内山田氏を含む4名のパネリストによるパネルディスカッションが行われた。
前置きが長くなったが、興味深い話題だったので簡単に触れてみたい。
1.基調講演
この先「石油」の採掘量は減少する。環境・エネルギー対応として、石油の消費を少しでも減らすべく、「省石油」あるいは「脱石油」のための自動車燃料を考える必要がある。
近年「電気自動車」が話題だ。トヨタでは1997年から、ハイブリッド自動車「プリウス」を量産し、現在累計250万台を販売している。
今後、電気自動車がよいのか、水素自動車がよいのか。あるいはハイブリッド自動車がよいのか。電気自動車は話題ではあるが、必ずしも電気自動車が万能ではない。電気のエネルギー密度はガソリンの約1/50ではあるが、電気自動車の課題として、1.航続距離、2.コスト、3.充電時間、4.専用充電インフラ、5.電池寿命などがある。
日本の場合、自動車使用の過半数が日当たり走行距離は20km以下だという。たとえば、電気自動車は近距離用途として、中距離用途ではハイブリッドで駆動するという方が、搭載する電池の大きさも小型化できる。あるいは、水素などの燃料電池を自動車燃料とする選択肢もある。どの自動車燃料を用いて、技術開発をするかは各企業の戦略である。具体的な講演内容はあまり赤裸々には書けないが、おおむねこのような基調講演だった。
2.パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、まず新興国市場、特に中国市場に向けてどのような戦略を取るべきか、議論になった。
やはり、先進国の技術をそのまま新興国に持っていっても、必ずしもうまくいくとは限らない。国地域の特徴、文化等にあわせた技術展開する、多様化する必要がある。
議論を通じて、自動車産業の大技術転換期において、2つの意味の多様性が見えてきた。一つは、「燃料源の多様性」、もう一つは「社会インフラの多様性」。
興味深い問いとして、「いつ、どこの国のマーケットで、電気自動車の新車販売台数が全新車販売台数の20%を超えると考えるか」を、各パネリストとコーディネータが答えた。回答はさまざまだ。2020年頃という答え、日本よりも中国が先といった答えもあったが、そんなに早くない、経済合理性の中では20%のハードルは高いという答えもあった。
また別の問いとして、「電気自動車を作る(売る)メインプレーヤーは誰だと考えるか」について。既存の大手企業か、新規のベンチャー企業か、それとも。
これもさまざまな答えが飛び交った。自動車産業以外にも電気自動車を作ることができるという意見もあったが、そう簡単に大きな企業が新規プレーヤーにはやられないという答えも。私もそう思った。
3.おわりに
他にも多彩な議論があったが、話題が尽きないので、このあたりでこの記事の括りとしよう。コーディネータの伊丹教授がおっしゃっていたことを、一部アレンジしている。
ある企業は、電気自動車に注力する。また別の企業は、電気自動車だけでなく、むしろ燃料電池の研究開発やハイブリッド自動車の製造など、全方位戦略をとる。戦略の取り方の違いはどこにあるのだろうか。
技術者が実権をとるような企業は、リスクマネジメントをしつつ、全方位戦略をとると言えないか。一方、マーケットばかり見ていると、移ろいやすいマーケットに惑わされはしないか。迷いがあるから、「とりあえず」全方位戦略をとっているわけでもなさそうだ。
エレクトロニクス業界では、この70年近くに大きく2度の大転換があった。真空管からトランジスタへ。そしてトランジスタから集積回路へ。その大転換の過程で、アメリカでは先行技術の企業は次々と撤退、なくなっていった。一方、たとえば東芝は真空管もトランジスタも集積回路も、それぞれの技術に対応してきた。
新たな技術の登場によって、国によって、企業の対応が異なる。その差は何か。
日本の自動車産業の企業は、新たな技術を前に、どう立ち向かっていくのだろうか。
追伸:この記事は、講演会の内容を極力正確に思い出し、個人的に整理したものです。一部不正確なところがあるかもしれません。その点ご容赦ください。
(注) 2011年4月、「総合科学技術経営研究科」は「イノベーション研究科」へ、名称変更されます。