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アイデアの散策

仕事・研究・日常の中で気付いたことのエッセイ。

地域ブランドを考えるために

2011年07月10日 | イノベーション・技術経営
 「6次産業化」という言葉がある。

 ウィキペディアによると、6次産業とは、「農畜産物、水産物の生産だけでなく、食品加工(第2次産業)、流通、販売(第3次産業)にも農業者が主体的かつ総合的に関わることで、加工賃や流通マージンなどの今まで第二次・第三次産業の事業者が得ていた付加価値を農業者自身が得ることによって、農業を活性化させよう」という概念である。
 1次と2次と3次を融和すること、すなわち1+2+3=6(たし算)という意味で、6次産業と呼ぶらしいが、相乗効果を発揮、つまり1×2×3=6(かけ算)だという論もある。

 本年3月には、6次産業化を促進するための法律(地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律)も成立し、6次産業の取組が活性化しつつありそう。

 先進的な取組事例(100事例及び123事例)が、下記ウェブページで紹介されています。
 農山漁村の6次産業化(農林水産省のウェブページに遷移します。)

 一例をあげると
・自家生産米からどぶろくを製造・販売【北海道長沼町】
・放牧主体でのジャージー牛乳の生産と風味豊かな乳製品の加工・販売【秋田県にかほ市】
・みかん農園ならではの完熟しぼりジュースの製造・販売【三重県御浜町】
・地元在来種のそばの生産・加工とそば店の経営【佐賀県佐賀市】
・直売所とレストランを併設したブランド豚の加工・販売【宮崎県川南町】

 しばしば「地域ブランド」や「B級グルメ」といった形で、地域の物産が全国区に紹介され、それぞれの地域のさまざまな取組が有名になることがあるものの、経営困難や、宣伝不足のために、なかなか持続的にはうまくいかない事例も多いという。
 地域ブランドをどのように経営すればよいのか。この問題を研究している方が、いま私が通っている大学院の学生にいます。経営学というと、しばしば大企業のケースを取り上げがちですが、こうした問題も十分探究する意義はある。そうした研究に必要な事例素材として、6次産業の取組事例を深堀するのも面白いかも。

イノベーションの帰結

2011年07月08日 | イノベーション・技術経営
 今日は、4月から毎週金曜日、輪読として、講義を通じて読んできたエベレット・ロジャーズ 著、三藤 利雄 訳『イノベーションの普及』の最終回だった。
 
 今回は第9章「イノベーションの帰結」。

 なお、先生から下記の参考図書の紹介があった。上段は、社会心理学について学ぶならばオススメの一冊。下段は、論文を作成する際の参考となる一冊とのことだった。

(参考図書)
T. M. ニューカム他著、古畑和孝訳『社会心理学:人間の相互作用の研究』岩波書店
高宮誠著、岡本康雄、土屋守章監訳『労働組合の組織と闘争性 ―アメリカ炭鉱労働組合の組織論的研究』同文舘

テーマ探しのためのうろうろ

2011年07月02日 | イノベーション・技術経営
 今日は、東京理科大学大学院イノベーション研究科の専門職学位課程1年生向け、ゼミ配属説明会がありました。

 この研究科では、まず、1年目後期に、「ゼミナール1」という形で、どこかのゼミに所属、半年間でゼミ活動は一旦完結します(2年生では、別の先生のゼミに移ってもよいし、継続して同じ先生でもよい。)。

 つぎに、2年目になって、通年(1年間)、「ゼミナール2」という形で、MOTペーパー(修了時に出す、研究論文のようなもの)を作るための指導を受けるという段取り。

 その「ゼミナール1」の説明会が7月2日にありました。

 15人いる先生方が、思い思いの表現で、自分のゼミの「売り」や「様子」を5分程度で紹介する場。60人以上の社会人学生が、じっくり説明を聞いていました。
 ところで聞いていると、各先生の個性や考え方があるので、その多彩さが案外楽しく面白い。

・ MOTペーパーに向けた、テーマ探しのためのゼミ
・ 輪読により、ゼミ生同士で議論し理解を深めるためのゼミ
・ フィールド調査、工場見学も行うゼミ
などなど、多様なスタイルがあって、またそれら進め方もさまざま。

 思えば、僕も2年前、MOTペーパーを書くためのテーマ探しを、うんと頑張っていた(迷走していた)なあと回想しながら、傍聴者として、先生たちのプレゼンを後ろの方でお伺いしていました。

 いろいろ聞くなかで、やっぱり「テーマ探し」が一番重要な作業だと思い、ある先生がおっしゃっていた「テーマ探しのためのうろうろ」は、ゼミの醍醐味のひとつだと思います。その先生のシラバスには
・ 意外な本を読んで、MOTペーパーのテーマを考える(昨年度は、北方謙三の小説『望郷の道』)
・ 街角ウォッチングで、MOTペーパーのテーマを考える
と書いてある。
 なるほど、テーマ探しは本当に「うろうろ」してみることから始まる。

 思えば、仕事でも「うろうろ」するプロセスはよくあること。うろうろしすぎて、さまよったり、もっとよいテーマがあるのではないかといつまでたってもテーマを決められない「青い鳥症候群」になってはだめだけど、いろんなものをみて、「よし、このテーマが面白い、または不思議だ」と思えるテーマを摘み取ることが、はじめの第一歩。
 
 ぜひ、1年生のみなさんが、自分に合うゼミに所属できるよう、まずは配属希望を出すまでの間、どの先生にしようか「うろうろ」していただきたいと思います。

イノベーションと流行

2011年05月17日 | イノベーション・技術経営
 イノベーションに関する話題の記事を書いていると、ときどき「イノベーション」とは、すなわち何か、を立ち止まって考えたくなるときがある。そこで、今日はイノベーションに関して、雑感を書こうと思う。

 イノベーションというと「変革」や「創新」といった、「何か新しい現象、かつてとは異なる何か」が社会でおこるというイメージが私にはある。
 
 ここで一つの疑問だが、「イノベーション」という概念に、ブームやトレンドといった「流行」のような現象まで加えてよいのだろうか。ときどき、そう疑問に思うことがある。
 「流行」という概念もまた、何か新しい現象が社会でおこるときに使われる表現である。

 最近であれば、任天堂DSやiPodなど、あっという間に社会で人気を博した商品がある。Twitterという使い勝手のよいサービスも最近評判だ。少し前であれば、たまごっちという玩具も大ブレイクした。玩具系以外の例をあげるなら、文書作成ワープロ、たとえばシャープの「書院」という製品があった。パソコン(OS)の誕生まで、文書作成ワープロは高く支持されていた。

 イノベーションについて学ぶとき、「創造的破壊」という表現を耳にすることがある。技術の交代とでも言おうか、古い技術を完全に市場から退場させ、新しい技術に移行する現象をイノベーションは引き起こすという意味で「創造的破壊」と表現することがある。確かにそのような現象はしばしば起こる。

 ワープロからパソコンへの移行はひとつの例であろう。いまでは、ほとんど文書作成ワープロはなくなった。完全にはなくなっていないだろうが。

 ところで、JRなどで使われる電子マネーの一つ、Suicaの誕生も、私はイノベーションだと思いたい。ただし、Suicaの誕生によって、切符がなくなったわけではない。まだまだ、切符を使う場合はある。

 イノベーションを「創造的破壊」と古典的には解釈することがあるが、必ずしもあらゆるイノベーションが何かを破壊したとは言えない。先述のたまごっちも仮にイノベーションだったと解釈するとして、たまごっちは何かを破壊しただろうか。すなわち、古い技術を完全に市場から退場させただろうか。任天堂DSやiPodも、同様に真の意味で創造的破壊だっただろうか。

 むしろ、イノベーションには「創造的破壊」だけでなく、「競争的共存」を市場で起こす要素もあると思う。その競争的共存が、「流行」という性格を強める場合もあるような気がする。

 流行はすぐに終わってしまうことがある。流行としてのイノベーションを持続的に継続させるためのマネジメントもまた必要となると思う。
 流行に流されて陳腐化しないための技術経営とは何か。考えてみたくなる。あるいは、「イノベーション」を何が何でも創りだそうと頑張る企業は多い。が、結果として「流行」を生み出す行動に終始していることもある。

 「イノベーション」と「流行」という関係をもう少し今後明らかにしてみたい。

追伸:アナログ放送のための電波は来年7月24日に停波し、地上デジタル放送に完全移行する。技術的には、上記で言う古い技術を完全に市場から退場させ、新しい技術に移行する現象と言える「創造的破壊」という現象かもしれないが、これはポリティカルな、政策的な移行である。イノベーションとも言い難いような気がする。「イノベーション」と「創造的破壊」の関係もまた、若干わかりにくい。

MOT講義レビュー:【第7話】SECIモデルと暗黙知・形式知

2011年04月14日 | イノベーション・技術経営
 第6話に引き続き、ナレッジマネジメントという講義で学んだ概念の一部をまとめます。

1.SECIモデルとは
 知識を「暗黙知」と「形式知」に分けるならば、知識とは「暗黙知」と「形式知」の絶え間ない変換によって創造される。

 たとえば、個人の経験的な知識は、言語化されていない暗黙知であることが多く、そのままでは他者と共有できない。その個人の経験的な知識から新しい知識を創造するために、暗黙知を言語化して形式知に変換し、共有できる状態にする必要がある。
 また、個人が外部から取り入れた形式知を活用するためには、自分でその知識を消化し、暗黙知として自分の身につけるプロセスが必要となる。

 しばしば、学習において「授業を聞くこと」と「授業を理解すること」、そして「授業が分かること」は違うと言われることがある。授業の内容(形式知)が分かるためには、自分の思考(暗黙知)に落し込む必要があるだろうし、また分かった知識(暗黙知)をアウトプットの形(形式知)にすることで、習得した知識を確かめるプロセスが必要である。

 こうした知識の変換プロセスを「SECI(セキ)モデル」という。SECIモデルは、「共同化(Socialization)」「表出化(Externalization)」「連結化(Combination)」「内面化(Internalization)」の4つの変換モードからなる。

2-1.共同化(Socialization):暗黙知を暗黙知に変換する
 たとえば、企業におけるOJT(On the Job Training)や、顧客やサプライヤーとの共感・共体験(直接体験)を通じて知識やイメージを獲得する方法である。顧客の気持ちを掴む洞察や、組織文化や熟練技能の伝承といったものは、この類に入ると思う。

2-2.表出化(Externalization):暗黙知を形式知に変換する
 たとえば、熟練技能を図や言葉を用いてマニュアル化することや、対話を通じて個人の言葉になっていないアイデアや概念を目に見える形に変換する方法である。プロスポーツ選手が運動をしている時の様子を測定し、データ化することもこの類に入るだろう。自己の暗黙知を自ら形式知に表出することもあれば、他者の暗黙知を形式知へ置換・翻訳することもある。

2-3.連結化(Combination):形式知を形式知に変換する
 たとえば、最近のインターネット技術のように、形式知化された知識を収集して結び付けたり、分類・編集・加工し、新たな形式知に変換する方法である。一つの例として、あの人検索SPYSEE[スパイシー](あの人検索SPYSEEのトップページに遷移します。)は、形式知の連結化によるものと言えるだろう。

2-4.内面化(Internalization):形式知を暗黙知に変換する
 たとえば、座学で学んだ知識をもとに、シミュレーションをして体得するといった、理解した知を行動を通じて自己の暗黙知に再び変換する方法である。車の教習場での実地や、料理のレシピを見て実際に作ってみるといったことは、この類に入ると思う。

3.知のスパイラルと自己革新
 このように、共同化→表出化→連結化→内面化→共同化→・・・といったスパイラルを繰り返すことで、個人の知識は集団の知識、組織の知識となり、そしてまた自分の知識となる。冒頭書いたように、知識は絶え間ない変換によって創造される。

 ところで、知識創造が促進される要因は、「組織」「戦略」「リーダシップ」の観点から整理できる。
 まず、知識創造が可能となる「場」の創設・維持が「組織」として必要となる。また、内発的動機付けによるインセンティブ・システムも求められる。
 次に、知を生み出す仕組み、知識資産蓄積のための「戦略」を考えるべきである。あるいは、知の創造に、弁証法的な対話、すなわち正反合の過程が欠かせない。
 そして、何が正しいのかといった「知のビジョン」を明示し、個々の暗黙知を引き出しケアすることができる「リーダーシップ」の存在が重要となる。すなわち、知を軸とするマネジメントを行う必要がある。

参考文献
 授業では紹介された本ではないですが、知識に関してまとまった本があったので、この本の内容を参考に記事を書きました。
 杉山公造他編(2008)『ナレッジサイエンス(改訂増補版)―知を再編する81のキーワード―』近代科学社、pp.26-29