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アイデアの散策

仕事・研究・日常の中で気付いたことのエッセイ。

MOT講義レビュー:【第6話】ナレッジ・マネジメント

2011年04月07日 | イノベーション・技術経営
 第6話は、ナレッジ・マネジメントの講義で学んだことを要約してみようと思います。

1.ナレッジ・マネジメントとは
 ナレッジ・マネジメントを直訳すれば「知識経営」。企業が成長・発展し、成功してきた背景には、組織成員が作り出した知識を、ある組織の中で製品・サービス、あるいは業務システム等に具現化するといった、「組織的知識創造」が起きている。
 たとえば、漆器作り等のいわゆる「伝統文化産業」であれば、「匠の技」の伝承はそうである。あるいは、ガラス職人や料理人の熟練された腕どころ(さじ加減)もまた、一種の知識であると言える。一方で、近代的なハイテク産業におけるシステム構築のスキルや、金融商取引における能力、営業活動における作法もまた、知識によるところが大きい。
 ここでは、ナレッジ・マネジメントは次のようなものだと定義する。

 組織の変革力や知的資産などを含めた、総合的業績を向上させるために、適切な技術・組織構造・文化的環境を用いて、組織における知識の創造・活用・共有などの諸プロセスの管理運営を効率的に行うこと。またさらに、知識をベースとする新しい企業の経営、およびそれを探求する研究や実践的ムーブメントのこと。

2.組織における知識の役割
 総合的業績の中には、ブランドイメージや製品への信頼性・安全性といった「見えざる価値」も含まれるだろう。したがって、ナレッジをマネジメントするとは、単なるノウハウにとどまらず、組織における人間関係や社会環境、文化背景をも踏まえた技術や思考の創造・活用・共有がうまくなされる工夫をすることだと言える。
 そして、さらには知識に基づき、組織の活性化や組織の変革が起きうることもあろう。ナレッジ・ドリブン・イノベーションとでも言おうか。近年の、インターネット上でつぶやく「Twitter」は、知識の流通に伴う、新たな「創造の場」になりつつあるとも思う。
 MOTの講義では、NHKスペシャルの番組「変革への世紀」を視聴し、この番組を題材に、次のようなことを議論しあった。

 ・今日(こんにち)の組織はどのような方向に進もうとしているのか
 ・組織を進化(変化)させる原動力は何か

 個人が組織において情報を発信することにどのような意義があるのかを考えてみると興味深い。仲間に認められるだろう。あるいは相手を助けたり補い合ったり、相互連携の力学が働くだろう。いいアイデアを出せば、仲間から尊敬されるだろう。いずれにしても、「発信」することで新たな知的関係が創造されることがある。

3.暗黙知と形式知
 ところで、知識を共有すると言っても知識には類がある。先に例を挙げたガラス職人や料理人の熟練された腕どころというのは、定量的にデータとして共有することは難しい。ガラス職人であれば、ガラスが何度になったとき、液体化したガラスを冷ませばよいか、料理人であれば、どの程度の調味料を加えればよいか、定量的なことはなんともうまく説明できない。なんとなくこれくらい、という勘に頼る知識がある。
 もちろん、定量的な知識もある。化学産業での化合物の合成や機械産業での設計図等は確かな計算に基づき行われる必要がある。
 このような違いから、意識化された知識を大きく次の2つにわけることができる。

暗黙知:目に見えにくく、表現しがたいもの。個人的なもので形式化しにくく、他人に伝達することは難しい。主観に基づく洞察、直観、勘なども含まれる。個人の行動、経験、理想、価値観、情念などにも深く根ざしている。
形式知:明白なもので、言葉や数字で表すことができるもの。厳密なデータ、明示化された手続き、普遍的原則などの形でたやすく伝達・共有できる。
<『知識創造企業』p8,9をもとに編集>

 経験的にも、形式知とそうではない暗黙知といった知識があると解釈することには違和感はないだろう。「暗黙知」という表現は、ハンガリーの化学者・哲学者・社会学者のマイケル・ポランニーが提唱したものではあるが、その後、暗黙知と形式知の連関などは、経営学者である野中郁次郎先生が、その概念を深化させた。

 次回のMOT(技術経営)講義レビューでは、その暗黙知と形式知の連関等について、いわゆる「SECIモデル」関連の話題を扱ってみたいと思う。

追伸:「見える化」という言葉が流行ったことがある。これも知識を形式知化することだが、何もかも「見える化」することが良いとも限らない。見えない状態の方がむしろ良いもの、あるいは特定の集団にのみ見える状態が良いものといった場合もあるだろう。さらには意識化されていない「知識」の特徴については、より詳細に検討してみると面白いと思う。

参考文献
 野中郁次郎・竹内弘高(1996)『知識創造企業』東洋経済新報社

MOT講義レビュー:【第5話】創造のプロセス

2011年03月31日 | イノベーション・技術経営
 第4話に引き続き、イノベーションプロセス論という講義で学んだことの一部をまとめます。

1.3つの推論
 推論には、3つの要素がある。この3つの要素とは、『演繹的推論』(Deduction)、『帰納的推論』(Induction)、そして『アブダクション』(Abduction)を指す。
 ふつう自然科学系の人は『帰納的推論』(特殊から一般へ)を多用し、社会科学系の人は『演繹的推論』(一般から特殊へ)を多用する。『多用』するのであって、常にそうだとは限らない。だとしても、両者の間ではしばしば論理の行き違いが起こり、共通の理解に至らないことはしばしば見受けられることである。企業における研究開発部門と経営企画部門の考え方の食い違いは、論理の癖の違いから起こることがある。

 ところで、『ひらめき』に論理はあるのだろうか。『ひらめき』というと、偶然、脈絡なく、突然に、現れるというイメージがある。その『ひらめき』に欠かせない推論の要素として『アブダクション』がある。仮説思考といった類の推論は、アブダクションによるところが大きいと思う。
 それぞれの推論のプロセスを次に紹介したい。

2.演繹的推論(Deduction)
 演繹的推論とは、【仮説】(大前提・Rule)→【事例】(小前提・Case)→【結論】(Result)と進む推論プロセスをいう。
 たとえば、
  この箱の中の玉はすべて赤い(仮説:Rule)
  これらの玉は、この箱から取り出された(事例:Case)
  これらの玉はすべて赤い(must be)(結果:Result)
という推論プロセスを想像すればよい。

3.帰納的推論(Induction)
 帰納的推論とは、【事例】(小前提・Case)→【結論】(Result)→【仮説】(大前提・Rule)と進む推論プロセスをいう。
 たとえば、
  これらの玉は、この箱から取り出された(事例:Case)
  これらの玉はすべて赤い(結果:Result)
  この箱の中の玉はすべて赤い はず(actually is)(仮説:Rule)
という推論プロセスを想像すればよい。

4.アブダクション(Abduction)
 アブダクションとは、【結論】(Result)→【仮説】(大前提・Rule)→【事例】(小前提・Case)と進む推論プロセスをいう。
 たとえば、
  これらの玉はすべて赤い(結果:Result)
  この箱の中の玉はすべて赤いはず(仮説:Rule)
  これらの玉は、この箱から取り出された はず(may be)(事例:Case)
という推論プロセスを想像すればよい。

 このように、『大前提』から始めれば『演繹的推論』、『事例』から始めれば『帰納的推論』、『結論』から始めれば『アブダクション』で推論を行うことになる。どこから始めるかによって、推論のプロセスが決まるのだ。
 なお、アブダクションという推論は、チャールズ・サンダース・パース(1839-1914:アメリカの物理学者・哲学者・論理学者)が提唱したものである。

 多くの人は、3つの論理を知らず知らずに使い分けて、現実の話(帰納)、あるべき姿の話(演繹)、夢のような話(アブダクション)を話している。ある意味、「独断」は演繹的推論で、「判断」は帰納的推論で、「決断」はアブダクションで行われると言える。

5.創造のプロセス
 前置きが長くなったが、この3つの推論を創造のプロセスにおいて繰り返すことにより、「仮説は確からしいものへと近づいていく」とチャールズ・サンダース・パースは考えた。

<創造における探求の3段階>
 第1段階:アブダクション(仮説形成(新理論の発見、新しい着想)の段階)
 第2段階:演繹的推論(仮説をテストするための準備段階)
 第3段階:帰納的推論(事実とつき合わせて仮説の真理性を検証する段階)

 創造のプロセスはアブダクションだけで成立するものではない。その後の演繹的推論・帰納的推論を行うことで、自分の考えを他者に伝える(暗黙知を形式知にすることも含まれる)必要がある。
 推論の特性、創造のプロセスを踏まえて技術経営を考えると、いろいろ面白いことがわかってくる。

追伸:さらに興味深いこととして、『論理的な癖』は『心理的な癖』と相関関係があると言える。その相関関係については、機会をみて、このMOT講義レビューで紹介してみようと思う。より詳細については、参考文献「創造的技術者の論理とパーソナリティ」を参照。

参考文献
 上山春平(2005)『弁証法の系譜―マルクス主義とプラグマティズム』こぶし文庫
 竹内均・上山春平(1977)『第三世代の学問-「地球学」の提唱』中公新書
 チャールズ・サンダース・ パース(2001)『連続性の哲学』伊藤邦武編訳、岩波書店
 宮原諄二(2001)「創造的技術者の論理とパーソナリティ」一橋大学イノベーション研究センター編『イノベーション・マネジメント入門』第8章、日本経済新聞出版社

MOT講義レビュー:【第4話】技術開発の2つの「場」

2011年03月24日 | イノベーション・技術経営
 今日は、イノベーションプロセス論という講義で学んだことの一部をまとめます。主に講義内容を踏まえ、参考文献の記述を引用しながら整理したいと思います。

1.技術開発の2つの「場」
 企業における技術開発の現場を、2つの「場」に分けて考えることで、それぞれの場におけるマネジメントの違いが見えてくるという。2つの「場」とは何か。

・主として発明や発見に関わりあう「技術創出の場」
・そこで生み出された革新的な技術及びほかのさまざまな技術を適用して商品に仕上げる「商品開発の場」
<「創造的技術者の論理とパーソナリティ」p241より引用>

 「技術創出の場」と「商品開発の場」では、その指向の違いから、異なるパラダイムのもとで活動が行われていると言える。具体的にどう違うのか。掘り下げることとする。

2.技術創出の場
 技術創出の場は、「コンセプト創りの場」、すなわち仮説創造の場と言える。比較的、「科学の領域」に存在し、この場において、イノベーションとは「新しいパラダイムを創ることにある」と言えるだろう。この場の特徴を、参考文献から引用したい。

・視点は「あした、あさって」の将来におかれる
・「何をすべきか、解決するのか」の「質」が求められる
・重要なのは「How」よりも「What」
・「定量的」よりも「定性的」な判断がより重要
・試行錯誤や失敗も許される
<「創造的技術者の論理とパーソナリティ」p242より引用>

 いわゆる基礎研究や要素技術の開発といった類の世界はこのような性格をもっていると思う。比較的、自由な活動が許容されていて、個人の能力を高める戦略が必要な場と言えそうだ。その場における「創造のプロセス」とはどのようなものかについては、記事の長さの問題上、次号で触れてみたいと思う。では、「商品開発の場」とはどのようなものか。

3.商品開発の場
 商品開発の場は、「モノ作りの場」、商品化を目指した場と言える。したがって、比較的、「市場の領域」に存在し、この場においてイノベーションとは「経済的成果をもたらす革新である」と言えるだろう。この場の特徴を、参考文献から引用したい。

・視点は「今、きょう」におかれる
・「性能、歩留まり、コスト、精度、安全性など」の「量」が求められる
・「What」よりも「How」
・「定性的」よりも「定量的」な判断がより重要
・失敗は許されない、業務遂行できる工夫が必要
<「創造的技術者の論理とパーソナリティ」p243より引用>

 いわゆる製造工場や商品設計の検討における世界はこのような性格をもっていると思う。ときには、さまざまな管理をメカニカルにテクニカルに行う必要もあるだろうし、組織の能力を高める戦術が必要な場と言えそうだ。

4.まとめ
 この、「技術創造の場」と「商品開発の場」の、場の違いのコントラストが興味深いと私は感じた。対比しながらもう一度読み直すと、より理解がしみてくる。
 単に「イノベーション」といっても、どの場における、どのパラダイムにおける話題をしているかで、考えるべきマネジメントは異なってくるのだということがわかる。

 2節の終わりで、「創造のプロセス」について次号で触れると書いた。人には、何らかの「思考の癖」がある。それぞれの場において、どのような思考が望ましいのか、ということついては次号のお楽しみとして、第4話はここまでにしたいと思います。

追伸:私が受講していた2008年度の「イノベーションプロセス論」の講義で学んだことをもとに記述しています。

参考文献
 宮原諄二(2001)「創造的技術者の論理とパーソナリティ」『イノベーション・マネジメント入門』第8章、日本経済新聞出版社

MOT講義レビュー:【第3話】MOT講義レビューポリシー

2011年03月17日 | イノベーション・技術経営
 第2話まではイントロダクション。早速内容に入っていこうと思う。その前に、始めに記事内容の扱いについて整理しておきたい。このブログで講義内容を逐次に公開するのは都合が悪い。知識の横流しはナンセンスだし、何より講義はライブに意義があると思う。

 学びの「場」とは、ある「時間」、ある「空間」に、ある「人間」たちが集まり、ある「テーマ」について、各々の人が気づきを得るためにあると思う。リアルなライブの場を超え、その知識だけを切り出すことには無理がある。

 したがって、せいぜい講義のアブストラクト、雰囲気を伝える程度にとどめるべきだと思う。さらに、公刊されていない講義の中だけの表現は控えたい。講義内容も知的財産と言える。フルオープンにはできない。

 では、何が発信できるのかと言われそうだが、情報の整理、知識の編集になると思う。講義では何らかのテキスト・参考図書を扱う。それらと講義の内容を組み合わせ、トピックスやキーワードを整理し編集することで、技術経営を学んだ人には良き復習になり、関心がある人やこれから学ぼうとする人には良き入口になると思う。そういう試みが「MOT(技術経営)講義レビュー」である。

 ただし、悲しいかな、先生によっては、テキスト・参考図書を示していない時がある。正直、どの程度まで紹介すればよいのか、悩み多い。極力丁寧に上記ポリシーに基づいて記事を書くつもりであり、オーバーな表現にならないよう、工夫を心がけたい。

MOT講義レビュー:【第2話】バランスよい授業科目群

2011年03月10日 | イノベーション・技術経営
 2年間、48単位を取得して修了した。修了要件は「38単位以上取得すること」であるから、少し多めに取得したことになる。

 私が受講した授業科目名を列挙してみようと思う。(2010年度より授業科目名の変更等があった。ここでは2008年度、2009年度の授業科目名を記述する。)

☆1年生前期(7科目14単位)
 月:事業化戦略 火:プロジェクト戦略 水:経営学基礎 木:管理会計 土:起業家論 土:イノベーションプロセス論 土:テーマプロジェクトC
☆1年生後期(6科目12単位)
 月:組織行動・リーダーシップ 木:経営組織 金:経営戦略 土:IT・ネット産業論 土:中小企業マネジメント 土:テーマプロジェクトD
☆1年生集中(夏休み期間・冬休み期間)(1科目2単位)
 伝統文化産業論
☆2年生前期(2科目4単位)
 月:技術系経営者論A 土:IT戦略
☆2年生後期(4科目8単位)
 火:ナレッジマネジメント 金:科学エッセイ・古典リーディング 金:ベンチャー・ファイナンス 土:テーマプロジェクトB
☆2年生通年(8単位)
 土:ゼミナール

 時間割と仕事の関係から、受講できたのは上記の20科目とゼミナールだったが、他にも興味深い授業科目はたくさんある。マネジメント領域では、マーケティング、財務会計、経営財務など、イノベーション領域では、コンセプト創造論、開発・プロトタイプ論、知的財産マネジメントなど、まだまだ取りたい授業はあった。授業以外にも合宿や自主ゼミなど学生間の交流も多い。

 入学を考えた頃、東京理科大学専門職大学院が良いと思った主な理由は、優秀な教授陣、バランスよい授業科目、通いやすさ(立地)の3点だった。
 今回は、バランスよい授業科目について記事を書いてみた。マネジメント領域の科目が揃っていること。その上で、技術領域やイノベーション領域の科目が充実していることが私にとっては魅力だった。
 通常MBA系の大学院でも一通りのマネジメント科目が設けられている。その上で、戦略系、組織系、マーケティング系、財務系、会計系と専門的な科目群を発展科目として取ることが多いと思う。一方、MOTでは、イノベーションやコンセプト創造など、how toではない、「考える力」を養う科目が、より多かったことが、自分にとって貴重な財産になったと思う。

 MOT講義レビューでは、それぞれの科目の特徴とその科目で学んだことを少しばかり取り上げます。理解不十分な説明、主観的な解釈も入るかもしれませんが、ノートを見つつ極力正確に整理してみようと思います。

追伸:具体的な最新の授業シラバスを知りたい方は、 東京理科大学専門職大学院の技術経営専攻のウェブページ を参照頂く方が良いです。また、上記に記した履修科目は私の関心に沿った授業科目群であり、標準的な履修モデルとは限りません。

 また、現在東京理科大学専門職大学院の技術経営専攻に通う社会人学生のブログもいくつかあります。参考にリンク先を掲載したいと思います。

 MOT☆烈風伝~文系IT編集者の2年戦争~ (アメブロのページに遷移します)