晩発性皮膚ポルフィリン症についての総説
Liver Int 2012; 32: 880-893
晩発性皮膚ポルフィリン症 ( porphyria cutanea tarda: PCT ) は世界で最も多いポルフィリン症である。他のポルフィリン症は先天的な代謝異常であるのに対し、PCT は後天的な肝疾患であり、アルコール多飲、鉄過剰、慢性 C 型肝炎、エストロゲン療法、喫煙が誘因になる。他に HFE 遺伝子の変異も認めることがある。
PCT の病態生理は複雑で、一様ではないが、肝における過剰な鉄蓄積と酸化ストレスが中心的な役割を果たしていると考えられている。PCT における鉄蓄積はふつう軽度~中等度で、本格的なヘモクロマトーシスと比べると軽度である。アルコール多飲と C 型肝炎ウイルス感染は HFE 遺伝子変異と同様に肝細胞におけるヘプシジンの発現を低下させる。ヘプシジンが低下すると腸管からの鉄の吸収が亢進し、肝に鉄が蓄積する。その結果、肝の酸化ストレスが亢進すると、ウロポルフィリノーゲン脱炭酸酵素 (uroporphirinogen decarboxylase: UROD) の発現が低下しポルフィリノーゲンが蓄積する。ポルフィリノーゲンは非酵素的にポリフィリンに酸化される。皮膚に沈着したポルフィリンは波長 400-410 nm の可視光を吸収するため、光線過敏症の原因となる。
活動性の PCT の 治療は瀉血 ( phebotomy ) と貧血にならない程度の鉄制限である。低用量の抗マラリア薬 ( キニーネ, cincona alkaloid ) も有効である。
1.臨床像
PCT の有病率は地域によって異なり、5000-70000 人に 1 人である。
PCT は典型的には緩徐に進行する慢性の皮膚障害で、水疱、小水泡や粟粒腫を手背や前腕に認める。
臨床症状は肝臓の UROD の活性が 75%以上低下しないと出現しない。UROD はヘム合成経路の 5番目の酵素である。UROD 欠乏の多く (75-80%) は後天的だが、一部 (20-25%) に家族性の PCT があり、遺伝的に UROD の活性低下 (~50%) を認める。しかし、後者の場合でも後天的な要因が加わって UROD の活性が 75% 以下に低下しないと PCT を発症しない。
2. 病態生理
PCT は 3つのサブタイプに分けられる。タイプ I は 75-80%を占める後天性のもので、肝臓に限局して UROD の活性が低下する。タイプ II は全身の UROD の酵素活性が遺伝的に低下 (~50%) もので、20-25%を占める。タイプ III はおそらく未知の遺伝子変異により、肝臓に限局して UROD の活性が低下するもので極めて稀である。
PCT の病態生理は今までのところは以下のように考えられている。まずアルコールの過量摂取やエストロゲン療法によってチトクロム P-4501A2 の活性が亢進し、鉄が過剰になると活性酸素種が発生する。その結果、ポルフィリノーゲンあるいはヒドロキシメチルビラン (ウロポルフィリノーゲンの前駆体であるテトラピロール) に由来する UROD の阻害因子が蓄積する。UROD の活性が低下すると、ウロポルフィリンとヘプタカルボキシルポルフィリンが蓄積する。両者ともに多くのカルボキシル基を持ち、水溶性なので細胞質やリソソーム内に蓄積する。また尿や便中に排泄される。ポルフィリンは 400-410 nm の波長の光を吸収するため、PCT 患者の露出部には光による皮膚障害を認める。
晩発性皮膚ポルフィリン症についての総説その3。
臨床症状、血液・尿所見、病理所見、危険因子
PCT 患者では日光に曝されてから、数日から数週間後に手背や前腕などの露出部に水疱、小水泡、粟粒腫を認める。これらの皮膚病変は夏季に増悪し、数週間から数ヵ月間持続する。慢性的な皮膚の障害により、水疱や粟粒腫が生じた部位の皮膚が瘢痕化したり、色素沈着したりする (リンク参照) 。他の皮膚所見としては眼瞼のヘリオトロープ疹、顔の側面の多毛、ざ瘡、皮膚硬化、潰瘍をともなう異栄養性石灰化、脱毛、爪甲剥離がある。
PCT の患者では大量のポルフィリンが尿中に排泄されるため尿が、ピンク、赤、茶色に変色することがある。特に尿を空気や光に曝すと変色がはっきりする。ポルフィリンは鉄を含んでいないので、ヘム (鉄イオンが配位結合したポルフィリン)、ヘモグロビン、ミオグロビンを検出する尿検査は全て陰性となる。
活動性の PCT 患者では血清のアミノトランスフェラーゼや γ-グルタミルトランスペプチダーゼが軽度上昇する。ルーチンの血液検査では、PCT に特異的な所見はないので、PCT を診断するためには特異的な検査が必要である。最初に行う検査とし有用なのは、直接血漿を分光測定することである。症候性の PCT 患者では、血漿のポルフィリンは~400 nm の波長の光で励起され、~620 nm の波長の光を放出する。これらの蛍光パターンが観察されたら、診断確定のために、尿中のポルフィリンおよびポルフィリンの前駆体、あるいは便中のポルフィリンを測定する。
PCT 患者では、尿中のウロポルフィリン、ヘプタカルボキシルポルフィリン、便中のイソコプロポルフィリン、血漿の 7-, 8-カルボキシポルフィリンの濃度が上昇している。一方、赤血球のポルフィリンはほとんど上昇していない。尿中のデルタ-アミノレブリン酸は正常~軽度上昇 (基準値上限の 2倍以下) で尿中ウロポルフィリノーゲンは正常である。後者は急性肝性ポルフィリア (acute hepatic porphiria) との鑑別に有用である。
肝組織は固定しない状態で赤い蛍光を認める 。他に不均一な脂肪肝、鉄沈着、炎症、壊死を認めるが、いずれも PCT に特異的な所見ではない。PCT におけるヘモジデローシスはふつう軽度~中等度である。他に針状の親水性の細胞内封入体を認め、ウロポルフィリンまたはヘプタカルボキシルポルフィリンの結晶であると考えられている。これらの封入体はフェリチン顆粒の近傍にあり、鉄によってポルフィリノーゲンが酸化される結果、ポルフィリン結晶が形成されるのかもしれない。
鉄がウロポルフィリンの過剰産生を引き起こす機序についてはいくつかの経路が考えられている。ひとつは活性酸素種がウロポルフィリノーゲンやポルフィリノーゲンからそれぞれウロポルフィリン、ポルフィリンへの酸化を促進するというもの。もうひとつは鉄が UROD の活性を阻害する分子 (ヒドロキシメチルビランかウロポルフィリノーゲンに由来する分子が疑われている) の産生を促すというもの、3つめは鉄がウロポルフィリノーゲンやウロポルフィリンの原料であるアミノレブリン酸の細胞内の濃度を上昇させるというものである。
PCT の病態生理において鉄の沈着は重要だが、鉄の沈着だけではウロポルフィリンの過剰産生には不十分で、他の誘因が必要である。現在までに知られている PCT の危険因子としては、飲酒、喫煙、UROD の遺伝子変異、肝毒性がある芳香族炭化水素、P4501A2 およびグルタチオン-S トランスフェラーゼ GSTM1 の遺伝的多型、肝腫瘍 (良性、悪性、転移性) 、透析、サルコイドーシス、エストロゲン療法、C 型肝炎ウイルスや HIV の感染がある。
4. 治療
他の皮膚ポルフィリン症と同様に日光を避けることが皮膚障害を予防するためには最も効果的である。日光を避けるためには、遮光効果の高い服や亜鉛や酸化チタンを含む日焼け止めを使用する。日光を避ける以外に PCT の誘因を除去または制御することが重要である。
PCT の病態生理に基づく根治療法としては鉄制限と肝臓やその他の組織からポルフィリンを除去する作用がある抗マラリア薬がある。これらの治療の中で、瀉血は安価で安全で効果的であることが示されている。
具体的な瀉血の方法としては、血清フェリチン 25 ng/mL 未満になるまで毎週または隔週に 400-500 mL の瀉血を行うことが推奨されている。臨床的な治療効果は 2-4 L を瀉血したあたりから明らかになってくる。実際、推奨されている瀉血のレジメンを継続すると、2-3ヶ月で水疱、6-9 ヶ月で皮膚の脆弱さを認めなくなり、13ヶ月で生化学的な異常を認めなくなる。瀉血を行うときの注意点として、瀉血を行う前には Hb 11 g/dL 未満にならないようにする必要がある。貧血や低蛋白血症は瀉血の相対的禁忌である。
食事からの鉄摂取の制限 (レバーや赤身肉) の制限も推奨される。鉄を除去すると、反応性に鉄の吸収が亢進するからである。瀉血により、血中のヘプシジンが低下すると、フェロポエチンの発現が亢進し、腸管からの鉄の吸収が促進すると考えられている。ヘム鉄は特に吸収が良いので、ヘム鉄 (赤身肉など) を制限すると効果的に鉄摂取量を減らせる。
瀉血が行えない場合の第2選択として、低用量クロロキン (125 mg 隔日) 服用が行われることが多い。低用量クロロキンは瀉血と比較して早期に再発するが、寛解導入率は同等で、安価である。クロロキンはリソソーム内で 8-, 7-カルボキシポルフィリンと結合し、水溶性の複合体を形成し、尿から排泄できるようにする。クロロキン服用開始後に血清中のアミノトランスフェラーゼとポルフィリンの濃度が上昇することがある。これらはふつうは軽度で 2ヶ月以内に正常化する。クロロキン服用で臨床的に症状改善を認めるまでには少なくとも 3ヶ月以上がかかる。生化学的な完全寛解までには 1年以上かかる。ヒドロキシクロロキン (200 mg 週2回) も効果があるが、クロロキンよりも早期に再発するので好まれない。
瀉血とクロロキンを併用した場合は、それぞれ単独で治療した場合よりも早く寛解が得られるようである。ただし、これについてはランダム化比較試験では検証されていない。
鉄のキレート剤であるデフェロキサミンによる鉄排泄は瀉血が行えない PCT 患者の代替治療として報告されている。16名の PCT 患者に対してデフェロキサミン 40-50 mg/kgBW を夜間に 8-10時間かけて週5回、皮下注射したところ、尿からのポルフィリン排泄は正常化した。瀉血のように安価でも簡便でもないが、デフェロキサミンは PCT の病態生理に関わると考えられている反応性の高い非ヘム鉄を除去することができる。
国によっては経口の鉄キレート剤 (デフェラシロックス、デフェリプロン) が使用できる。これらの薬剤も PCT 患者、特にフェリチンが高値で貯蔵鉄が多い患者では比較的安全に鉄を除去できる。しかし、いずれも PCT 治療の有効性についてはランダム化試験で検証されていない。
PCT の皮膚所見
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3418709/figure/F2/?report=objectonly
PCT の肝組織所見
元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3418709/