内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/02/10

2022-02-10 07:51:47 | 日記
免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害の総説
Endocr Rev 2019; 40: 17-65

免疫チェックポイント阻害薬による内分泌障害としては、下垂体機能低下症、甲状腺機能異常、1型糖尿病、原発性副腎皮質機能低下症が知られている。

下垂体機能低下症は特に 抗 CTLA-4 抗体と関連し、甲状腺機能異常は抗 PD-1 抗体と関連する。1型糖尿病と原発性副腎皮質機能低下症は稀だが、速やかに診断し、治療を開始しなければ命に関わる。抗 CTLA-4 抗体と抗 PD-1 抗体を併用すると、内分泌障害の頻度が高くなる。

ほとんどの場合、内分泌障害は免疫チェックポイント阻害薬を使用し始めてから 12週以内に出現する。しかし、数ヵ月、場合によっては数年経ってから出現することもある。

内分泌障害の多くは一過性だが、中枢性副腎皮質機能低下症や甲状腺機能低下症のほとんどは永続性である。内分泌障害の治療は基本的にホルモン補充と対症療法である。

今後明らかにされるべき問題としては、1. 高用量ステロイドは内分泌障害 (特に下垂体機能低下症) の重症化予防に有効か、2. 腫瘍に対する治療効果と内分泌障害の出現頻度の間には関連があるのかがある。

1. 免疫関連有害事象 ( immune related adverse events: irAEs )

最近数年間で免疫チェックポイント阻害薬 ( immune checkpoint inhibitors: ICPis ) は癌治療を大きく変えつつある。これらは免疫チェックポイントに関与する分子に対する、モノクローナル抗体 ( monoclonal antibodies:mAbs ) であり、T 細胞の癌細胞への攻撃を可能にする。一方、免疫チェックポイントは免疫寛容のしくみにおいて重要なはたらきをしており、ICPs は副作用としてさまざまな自己免疫機序の障害を引き起こす。これを免疫関連有害事象 ( immune related adverse events: irAEs ) と呼ぶ。

irAEs の障害臓器で多いのは、皮膚、腸管、肝臓、肺、内分泌器官である。頻度は少ないが、腎臓、眼、神経系、循環器系、筋骨格系、血液が障害されることもある。

内分泌障害は irAEs で最も頻度が多く、下垂体炎、甲状腺機能障害、インスリン依存性糖尿病、原発性副腎皮質機能低下症が含まれる。

2. 免疫チェックポイント

免疫チェックポイントに関連する分子は T 細胞の細胞表面に発現しており、免疫反応の恒常性、免疫寛容、免疫反応の期間と強さの調整に関与する。

免疫チェックポイントを構成する分子のうち、CD28, ICOS, CD137, OX40, CD27 は T 細胞を活性化する促進性のシグナル伝達に関与する。一方、CTLA-4, PD-1, LAG3, TIMs, BTLA は T細胞を不活性化する抑制性のシグナル伝達に関与する。

CTLA-4, PD-1, PD-L1 を標的にしたいくつかの mAbs が進行癌の治療薬として FDA に承認されている。

3. 下垂体機能低下症

下垂体機能低下症は irAEs において最も頻度が高い内分泌障害のひとつである。典型的には ICPis 投与開始から数週間~数ヵ月後に出現する。

下垂体機能低下症の症状は非特異的で、最も多い症状は頭痛と倦怠感である。

欠損する下垂体ホルモンは 単独の場合も複数の場合もある。TSH, ACTH, LH/FSH は欠損することが多い。成長ホルモンとプロラクチンは欠損することは少ない。尿崩症は極めて稀である。

ICPis に関連する中枢性甲状腺機能低下症、中枢性性腺機能低下症は一過性のことが多い。一方、中枢性副腎皮質機能低下症はほとんどの場合で永続的である。

MRI では多くの場合で下垂体全体の軽度~中等度腫大を認める。下垂体腫大は数週間以内に軽快する。下垂体腫大によって視交叉圧排などの腫瘍効果を認めることは稀である。

治療は対症療法および欠損したホルモンの補充である。

4. 甲状腺機能異常

甲状腺機能障害は irAEs において最も頻度が高い内分泌障害のひとつである。典型的には ICPis 投与開始から数週間~数ヵ月後に出現する。

ICPis に関連する甲状腺機能障害は、典型的には軽度~無症候性の一過性の甲状腺機能亢進を認め、その後甲状腺機能が正常化するか機能低下に陥る。機能低下に至った場合は長期間のレボチロキシン補充が必要になる。

甲状腺機能低下を認めた場合は甲状腺原発であるか、下垂体性甲状腺炎かを鑑別する必要がある。

甲状腺機能亢進は軽度であることが多いので、対症療法で経過を見る。必要に応じてベータブロッカーを使用する。

ほとんどの甲状腺機能異常は軽度なので、ICPis 投与は中止する必要はない。

5. 糖尿病

糖尿病は irAEs においては稀な内分泌障害だが、対応が遅れると命にか関わる。

ICPis に関連する糖尿病のほとんどは抗 PD-1 抗体または抗 PD-L1 抗体によるものであり、抗 CTLA-4 抗体によるものは稀である。

ICPis に関連する糖尿病の特徴は急速な経過で高血糖となり、内因性インスリン分泌が低下することであり、速やかにインスリン治療を開始しないと糖尿病ケトアシドーシスを発症する可能性が高い。

ICPis を投与している患者とその家族には、高血糖と糖尿病ケトアシドーシスの症状を説明し、そのような症状を認める場合には受診するように伝えておくことが重要である。

ICPis に関連する糖尿病ではインスリン分泌は完全に失われ、長期間にわたるインスリン治療が必要になる。基礎インスリンとボーラスインスリンからなるインスリン頻回注射が治療の中心である。

6. 原発性副腎皮質機能低下症

原発性副腎皮質機能低下症 (primary adrenocortical insufficiency: PAI) は irAEs においては稀な内分泌障害であり、文献上は数例の報告があるのみである。

イピリムマブ、ニボルマブ、ペンブロリズマブで PAI 発症の報告がある。

PAI では、コルチゾールは正常~低値で ACTH は上昇している。ACTH 刺激に対するコルチゾール分泌反応の低下を認める。副腎皮質球状層の障害により、アルドステロンが低値になり、レニンが高値になる傾向がある。

ICPis 投与中に副腎皮質機能低下症を認めた場合は PAI と下垂体性副腎皮質低下症とを鑑別する必要がある。前者ではコルチゾールだけでなく、鉱質コルチコイドの補充が必要になる。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6270990/


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