3. 鑑別診断
PHPT に共通する病態生理は、副甲状腺腫大かつ/または副甲状腺細胞上のカルシウム感受性受容体の発現量低下により、血清カルシウム濃度上昇による PTH の発現抑制がかからないことである。つまり、PTH の発現を抑制するためには血清カルシウム濃度が高くなる必要がある (リンク参照)。
PHPT の診断は、高カルシウム血症と PTH 高値を同時に認めることで確定される。高カルシウム血症にも関わらず不適切に PTH が正常値 (PTH >20 pg/mL) の場合も PHPT であると診断して良い。
PTH は、intact PTH を検出する第2世代または第3世代の測定系で測定されるべきである。第1世代の測定系では生理活性のない PTH 関連蛋白と intact PTH を区別できない。
悪性腫瘍や肉芽腫性病変による高カルシウム血症では PTH 分泌は抑制されている。異所性 PTH 産生腫瘍は極めて稀だが、進行した悪性腫瘍において報告されることがある。
画像検査で異常な副甲状腺を認めないことは PHPT の診断を否定するものではないし、手術で根治しないことを意味しない。逆に画像検査で異常を認めることは PHPT の診断を裏付けるものではなく、偽陽性の場合も多い (超音波で甲状腺結節と副甲状腺を区別するのは難しい)。
PHPT と家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症 (familial hypocalciuric hypercalcemia: FHH) は検査所見が似るが、両者の鑑別のために昔から FeCa が計算されている。FeCa く1% は FHH らしいが、FHH と PHPT の FeCa の値についてはオーバーラップを認める。
腎機能が低下している場合、FeCa は低値になるので PHPT と FHH の鑑別には役立たない。その場合は、過去の血清カルシウム濃度 (FHH では一貫して高値のはずである) と高カルシウム血症の家族歴が参考になる。FHH の疑いが高い場合は、CASR 変異 (FHH1 で認める)、GNA11変異 (FHH2 で認める)、AP2S1変異 (FHH3 で認める) の有無を調べても良いだろう。
二次性副甲状腺機能亢進症は、1. ビタミン D 欠乏や 2. 吸収不良、3. 腎臓病、4. 高カルシウム尿症など血清カルシウム濃度が低下するような病態がある場合に PTH 分泌が亢進するものである。結果として、血清カルシウム濃度は低値~正常値になる。
著者らの経験では、二次性副甲状腺機能亢進症の一部の症例ではビタミン D 欠乏などの原因を補正すると、血清カルシウム濃度が高値となり、PHPT を合併していたことが明らかになる。
三次性副甲状腺機能亢進症は、終末期腎不全患者などで長期にわたる重度の二次性副甲状腺機能亢進症が存在する場合、副甲状腺の過形成と PTH の自律的産生が起こることを指す。三次性副甲状腺機能亢進症は透析患者で認めることが多いが、腎移植後でも認めることがある。三次性副甲状腺機能亢進症はふつうは病歴から明らかである。
正カルシウム血症性原発性副甲状腺機能亢進症 (normocalcemic primary hyperparathyroidism: NPHPT) は血清カルシウム濃度が正常だが PTH が高値で、二次性副甲状腺機能亢進症が除外されているものを指す。
4. 症状および合併症
i) PHPT の症状および検査所見
古典的な PHPT は血清カルシウム濃度測定が一般的ではなかった 1970年代以前には見られ、骨、腎、消化器、精神神経症状および死亡率上昇を認めた。
20世紀前半に記述された PHPT の臨床像では、著明な高カルシウム血症 (11.5-16.8 mg/dL) と線維性嚢胞性骨炎 (osteitis fibrosa cystica) が特徴とされた。後者は骨痛および骨折 (特に椎体骨折) を認め、X線写真では脱灰、線維症、褐色腫、嚢胞を特徴とする。また腎結石·腎石灰化、多飲·多尿および腎機能低下もよく認めた。他の症状としては、食思不振、便秘、胃潰瘍、膵炎、筋力低下、精神障害、全身倦怠感がある。
欧米では古典的な PHPT は稀であり、PHPT の80%超が無症候性である。米国では、PHPT の患者で線維性嚢胞性骨炎を認めるのは 2%未満であり、腎結石は過去 70年間で減少し続け、60%から 20%未満に低下した。
診断の契機はほとんどの場合、偶発的に高カルシウム血症を認めることによる。多くの場合、血清カルシウムは基準値上限 + 1 mg/dL を越えない。また PTH は基準値上限の 2倍を越えないことが多い。血清リンは PTH によるリンの尿への排泄により、基準内低値か低値であることが多い。骨吸収の増加と代償性の骨形成を反映してアルカリフォスファターゼが高値であることはあるが、多くの場合は基準範囲内である。ビタミン D の補充量を表す 25-OH ビタミン D はやや低値 (20-29 ng/mL) か明らかに低値 (く20 ng/mL) であることが多い。一方、活性型ビタミン D (1, 25-ジヒドロキシビタミン D, 1, 25-(OH)2 ビタミンD) は正常上限近いか高値であることが多い。
PHPT でビタミン D が欠乏しやすい原因は以下のように考えられている。まず PTH は腎において 1α-ヒドロキシラーゼの発現を誘導し、25-OH ビタミン D から 1, 25-(OH)2 ビタミン D への変換を促進する。また肝臓でのビタミン D の不活化が亢進するため、25-(OH)2 ビタミン D の半減期が短縮する。慢性的にビタミン D が欠乏すると、副甲状腺の過形成が促進され、PTH の分泌がさらに亢進する。
米国の同じ地域で行った実施時期が異なる二つのコホート研究 (1984-1991年と2010-2014年) を比較すると、後者ではビタミン D のサプリメントが普及しているため、25-OH ビタミン D 濃度が上昇し、PTH が低下していた。また、多くの横断研究では、25-OH ビタミン D と PTH の濃度は逆相関することが示されている。以上より、PHPT においてビタミン D 欠乏は PTH の濃度を上昇させるかもしれない。
さらにすべての研究で認めているわけではないが、PHPT においてビタミン D が欠乏すると、血清カルシウム濃度が上昇し、血清リンが低下し、1, 25-(OH)2 ビタミン D が上昇、さらにアルカリフォスファターゼの濃度が上昇する。
PHPT に対するビタミン D 補充が PTH 濃度を低下させることは観察研究およびランダム化比較試験で確認されている。
ii) 骨合併症
DEXA による骨密度の評価では、PHPT は特に皮質骨 (橈骨遠位端など) の骨密度が低下しやすく、海綿骨 (椎体など) の骨密度は比較的保たれる。PHPT における骨粗鬆症の有病率は報告によって異なり、39-62.9%である。
骨密度低下のパターンからは椎体骨折よりも末梢骨骨折の方が多そうなものだが、疫学研究からは椎体骨折も末梢骨骨折も増えることが示されている。PHPT において椎体の骨密度は保たれるにも関わらず椎体骨折が増える原因は最近まで分かっていなかった。骨の微細構造を明らかにする新しい非侵襲的な画像検査 (高解像度末梢定量 CT, high resolution periferal quantitative CT: HR-qCT や海綿骨スコア, trabecular bone score: TBS) は PHPT においては橈骨や脛骨と同様に椎体の海綿骨が疎になることを明らかにした (リンク参照)。しかし、現時点では海綿骨の粗雑化が骨折の危険因子であるかどうかは確認できていない。
PHPT における骨粗鬆症の危険因子は一般集団と同様で、高齢と低体重である。一方、ビタミン D 欠乏はあまり骨密度には影響しないようである。実際、橈骨遠位端の骨密度はビタミン D が欠乏していてもわずかに低下するのみである。しかし、ビタミン D 補充は特に椎体の骨密度を増加させる。他に骨折の危険因子としては骨代謝マーカー高値や PTH 高値がある。
最近の研究では PHPT は無症候性の椎体骨折をしばしば合併することが明らかになっている。そのため 2014 年の無症候性 PHPT についてのガイドラインでは椎体骨折のスクリーニングを推奨している。そして、椎体骨折を認めた場合は副甲状腺摘出を推奨している。後者の推奨については最近のランダム化比較試験で裏付けられている。すなわち、副甲状腺摘出した場合は、観察のみの場合と比較して椎体骨折の再発が少なかった。
iii) 腎合併症
症候性の腎結石は PHPT の 10-20% で認める。2014年の無症候性 PHPT のガイドラインでは腎結石のスクリーニングを推奨している。
腎結石の危険因子としては若年であることと男性であることがある。一方、高カルシウム血症や高カルシウム尿症、PTH 高値の程度などの腎結石との関連については一貫していない。
腎石灰化についてはデータが限られているが、現代では多飲·多尿と同様に頻度の低い合併症であるようである。
腎機能障害 (eGFR く60 mL/min/1.73 m2) も頻度は高くなく、最近の報告では有病率は 15-17% だと報告されている。2014年の研究では、高齢、高血圧、降圧剤の使用、空腹時高血糖などの古典的な慢性腎臓病の危険因子が PHPT における腎機能低下の危険因子である一方で、PHPT の重症度や腎結石は危険因子ではないとされた。また、副甲状腺摘出は腎機能を改善させないことが示されている。
iv) 精神神経症状
血清カルシウム濃度が高い場合は精神神経症状が出現しえる。カルシウムはシナプスにおける神経伝達物質の分泌の制御において重要なはたらきをしており、高カルシウム血症はこの過程に影響しえる。一方、PTH は血管に対する作用があることが知られており、PTH が高値の場合は脳の循環が変わって認知機能や気分に影響する可能性もある。
古典的な PHPT の症状として精神神経症状の記述はあり、そのうちの一部は現代でも認める。一方で、筋力低下や筋萎縮は古典的 PHPT では報告されているが、現代では認めない。多くの観察研究では、血清カルシウム濃度 く12 mg/dL の軽度の高カルシウム血症を認める場合でも、抑うつや不安、倦怠感、生活の質の低下、睡眠障害、認知機能障害との関連が指摘されている。しかし、これらの症状が副甲状腺摘出で改善するかどうかについては一貫した結果が得られていない。
v) 心血管合併症
スカンジナビアの研究から、中等度から重度の PHPT では心血管死が増えると報告されている。無症候性 PHPT についてはデータが限られているが、いくつかの研究では高カルシウム血症が軽度の場合は死亡率は上昇しないと報告されている。
5. 副甲状腺摘出術
副甲状腺摘出は PHPT 根治が期待できる唯一の治療法であり、症候性の PHPT では副甲状腺摘出が推奨されている。
無症候性 PHPT の治療に関する第四次国際作業部会では、臓器障害 (骨、腎) をともなう場合および進行が予測される場合は手術を推奨するとした。具体的には、血清カルシウム濃度が基準値上限 + 1 mg/dL の場合、骨粗鬆症 (T-スコア -2.5以下) または椎体骨折あり、eGFR く60 mL/min、重度の高カルシウム尿症 (>400 mg/day) 、腎結石ありまたは腎結石のリスクが高い、50歳未満の場合は、手術を検討する。
手術による侵襲を最小限にするためには、術前に腺腫の位置を確認しておくことが必要である。頚部超音波は腺腫の同定に有効である。テクネシウムセスタミビ (99mTc) は副甲状腺シンチグラフィとして最も広く行われている。テクネシウムセスタミビは多腺に病変がある場合の感度は高くない。超音波と組み合わせることで、感度が高くなり、正確な腺腫の位置が確認できる。通常の CT の利用価値は低いが、4D CT は腺腫の同定に利用できる。しかし、4D CT も病変が多腺におよぶ場合は感度が低い。
6. 保存療法
手術の適応でない場合、あるいは手術を拒否する場合は経過観察するのが安全である。全身状態不良で全身麻酔を行うべきでなく、誤嚥や睡眠時無呼吸のリスクが高いので局所麻酔も難しい場合は、保存的に経過を見ることになる。
PHPT の自然経過についての観察研究では、生化学的異常や骨密度については数年間は変化がないが、10年を過ぎると皮質骨の骨密度が低下し始め、15年目にはおよそ 40%の患者が 1つ以上の手術の適応基準を満たすようになる。
経過観察する場合は生化学検査と DEXA による骨密度評価を定期的に行うことが推奨されている。また椎体骨折や腎結石が疑われる場合は脊椎や腎の画像検査を再検することが推奨されている。
いくつかの研究では、薬物療法および経過観察よりも手術の方が費用は少なくて済むと報告されている。
経過観察している患者に対しては、飲水励行し、カルシウム摂取を控えないように助言するべきである。食事によるカルシウム摂取で高カルシウム血症が増悪することはない。逆にカルシウム摂取を控えると副甲状腺機能亢進症が増悪し得る。PHPT と骨粗鬆症がある場合で食事からのカルシウム摂取が不十分な場合、サプリメントでのカルシウム補充については推奨はされていないものの、高カルシウム血症や高カルシウム尿症を悪化させることはなさそうである。
最近のガイドラインでは、ビタミン D 補充が PTH 濃度を低下させるという知見に基づいて、PHPT の患者では 25-OH ビタミン D 21-30 ng/mL を目標に 600-1000 IU/日を目標にビタミン D を補充することを推奨している。さらに高用量のビタミン D 補充も利益があるようである。2014年のランダム化比較試験では、PHPT 患者に 2800 IU/日のコレカルシフェロールまたはプラセボを投与し、経過を観察した。その結果、コレカルシフェロール投与群では 25-OH ビタミン D が 20-37.8 ng/mL に上昇し、脊椎の骨密度が上昇した。一方、高カルシウム血症や高カルシウム尿症の悪化は認めなかった。
現在使用できるどの薬剤も単独で、1. 血清カルシウムと PTH、尿中カルシウムの濃度を正常化させ、2. 骨密度を増加させ、3. 骨折リスクを減らし、4. 腎結石を減らす、の全てを達成することはできない (リンク参照)。
72名の PHPT 患者を対象にした後ろ向き観察研究では、健常者とは異なりサイアザイドは血清カルシウム濃度を上昇させないようだった。ヒドロクロロチアジド (12.5-50 mg/day, 観察期間平均 3.1年) は尿中カルシウム排泄を減らすが、血清カルシウム濃度を上昇させなかった。しかし、ヒドロクロロチアジドが腎結石を減らすかどうかは不明である。現時点では PHPT 患者にサイアザイドを推奨する根拠は不十分だが、手術を拒否しているあるいは手術の適応ではなく、腎結石のリスクが高い場合はサイアザイド使用を検討しても良いだろう。
PHPT 患者に対してホルモン補充療法 (エストロゲン 0.625 mg/日+メドロキシプロゲステロン 5 mg/day) を行うと、プラセボと比較して全身の骨密度を有意に増加させることが 1件のランダム化比較試験で示されている。特に椎体の骨密度上昇が大きかった。しかし、骨折を減らすというデータはない。小規模なランダム化比較試験でラロキシフェン 60 mg/day は 8週間の観察期間で骨代謝マーカーと血清カルシウム濃度を低下させた。
いくつかの小規模なランダム化比較試験では、アレンドロン酸は椎体と大腿骨頚部の骨密度を増加させることが示されている。しかし、アレンドロン酸はPHPT の生化学的異常については改善させない。また骨折のリスクを低下させるかどうかについてはデータがない。アレンドロン酸以外のビスホスホネートの PHPT 患者の骨密度に対する効果についてもデータがない。さらに、PHPT 患者におけるデノスマブの効果についてもデータはない。骨粗鬆症をともなう PHPT の患者で副甲状腺摘出を行わない場合は、アレンドロン酸の使用を検討しても良いだろう。
シナカルセトはカルシウム感受性受容体作動薬であり、PHPT 患者において効果的に血清カルシウム濃度を低下させる。しかし、シナカルセトは骨密度を増加させず、尿中カルシウム濃度を低下させない。また腎結石を減らせるかどうかについてはデータがない。シナカルセトは副甲状腺摘出術が行えない重度の高カルシウム血症を呈する PHPT 患者に適応がある。シナカルセトの頻度の多い副作用として、頭痛、嘔気·嘔吐がある。
各薬剤の原発性副甲状腺機能亢進症に対する効果
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6037987/
原発性副甲状腺機能亢進症における椎体の海綿骨の粗雑化
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6037987/figure/F2/?report=objectonly
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6037987/figure/F1/?report=objectonly