内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2021/12/27

2021-12-27 23:34:20 | 日記
骨粗鬆症治療薬のレビュー
Lancet Diabetes Endocrinol 2017; 5: 898-907

1. SERMs

1940年代に Fuller Albright が女性の骨代謝におけるエストロゲンの重要なはたらきを発見してから、エストロゲンを骨粗鬆症の治療に用いることが試みられてきた。

Womens Health Initiative では、閉経後の女性にエストロゲンを投与すると、5.6年間の観察期間で骨折のリスクを 24% 減らすことが示された。しかし、エストロゲンは子宮内膜過形成の他、乳癌や心血管疾患を増やすことが明らかになった。

そこで、骨のエストロゲン受容体に選択的に作用する薬剤として開発されたのが、選択的エストロゲン受容体調整薬(selective oestrogen recepter modulator; SERM) である。ラロキシフェンは椎体骨折は減らすが、椎体以外の骨折は減らさない。また乳癌のリスクは減っているが、ホットフラッシュと静脈血栓症の副作用がある。


2. カルシトニン

現在、ヒト由来のカルシトニンとサケ由来のカルシトニンが骨粗鬆症の治療薬として使用できる。両者で効果に差はない。

他の骨粗鬆症治療薬と比べて骨折予防の効果が劣り、長期使用で癌が増える可能性があることから、あまり使用されていない。


3. ビスホスホネート

世界で最もよく使われている骨粗鬆症治療薬。骨粗鬆症に対しては、アレンドロン酸、リセドロン酸、イバンドロン酸、ゾレドロン酸の4種類が使用できる。

椎体骨折を4-7割、大腿骨頚部骨折を4-5割減らせる。副作用に非定型大腿骨骨折と顎骨壊死がある。5年以上使用した場合の効果はよく分かっていない。

もともとビスホスホネートは主に腐食防止剤として使用されていた。他にも繊維の錯化剤、肥料、石油工業で用いる試薬として使用されていた。その後、石灰化と骨吸収を抑制する作用があることが分かり、臨床応用された。

薬理は臨床応用から何十年も経ってから明らかになった。ビスホスホネートはファルネシル二リン酸合成酵素の活性を阻害する。この酵素はイソプレノイド合成を触媒し、破骨細胞の生存と機能に必要な単量体G 蛋白の翻訳後修飾に関わる。


4. テリパラチド

Fuller Albright は臨床での観察からパラトルモンは慢性的に過剰な場合は骨吸収を促進させるが、骨形成を促進する作用もあると報告している。その後、ヒトや動物での研究で間歇的にパラトルモンを投与した場合、骨吸収以上に骨形成が促進されることが分かった。なぜ間歇的に投与すると骨形成が促進されるのかは分かっていない。

パラトルモンのアナログであるテリパラチドを20mcg/day で投与すると、椎体骨折が 65%、椎体以外の骨折が 53%減った。強い骨折予防効果があるが、骨肉腫を増やす可能性(ラットを用いた動物実験の結果による)から FDA は 24ヶ月以上の使用は認めていない。しかし、市場後調査ではテリパラチドの使用後に骨肉腫が増えたという報告はない。

最近、第2世代パラトルモンアナログ製剤(正確には PTHrP アナログ)のアバロパラチド(商品名: オスタバロ)が承認された(日本は 2021/3 承認)。


5. デノスマブ

2000年は骨粗鬆症治療薬創薬の分水嶺というべき年だった。2000年以前の骨粗鬆症治療薬はビスホスホネートのような偶然の産物か、骨代謝に関わるホルモンそのもの、あるいはその類似物だった。2000年以降の新しい骨粗鬆症治療薬は1990年代後半に飛躍的に進歩した骨代謝のしくみ(リンク2参照)の理解に基づいている。この新しい骨粗鬆症治療薬の元祖がデノスマブである。

骨代謝の理解についての進歩は骨代謝と関係ない研究領域からもたらされた。

ラット胎児の腸管に発現している遺伝子の cDNA ライブラリから TNF 受容体スーパーファミリーに属する新しい受容体が発見された。この遺伝子をマウスで過剰発現させると骨量が増加した。これより、新しい受容体はラテン語で「骨を守る」という意味のオステオプロテグリン(OPG)と名づけられた。

OPG を特異的に発現抑制すると、重度の骨粗鬆症と石灰化を認めた。これより、OPG は骨代謝で重要なはたらきをしていると考えられ、リガンドの探索が行われた。こうして同定されたリガンドが RANKL である。

RANKL は骨芽細胞や骨細胞に発現しており、破骨前駆細胞に発現している RANK と結合することで破骨細胞の分化を誘導する。OPG はRANKL のデコイ受容体(結合はするが、シグナルは伝えない受容体)だった。

以上の骨代謝のしくみを元に開発されたヒト抗 RANKL モノクローナル抗体がデノスマブである。FREEDOM trial ではデノスマブは椎体骨折を68%、大腿骨頚部骨折を40%減らした。


6. アバロパラチドとテリパラチド

パラトルモンアナログ製剤は強い骨折予防効果を持つが、骨形成と同時に骨吸収を促す。

パラトルモン受容体1型には、R0 と RG の2つのコンフォメーションがあり、前者は比較的長時間 cAMP 濃度を上昇させるのに対し、後者はより短時間 cAMP 濃度を上昇させる。アバロパラチドはテリパラチドと比較すると RG と高い親和性がある。そのため、アバロパラチドの方が短時間の受容体刺激ができるので、骨形成を誘導しやすいのではないかと予想された。

実際、第2相試験では椎骨および大腿骨頚部の骨密度はテリパラチド 20 mcg/day でそれぞれ 5.5%、1.1% 上昇させたのに対し、アバロパラチド 80 mcg/day では 6.7%、3.1%上昇させた。

第3相試験では、アバロパラチド 80 mcg/day はテリパラチド 20 mcg/day と比較して画像上の大骨折が 65% 少なかった。ただし、臨床的な骨折および非椎体骨折については有意差は認めなかった。


7. 新しい骨粗鬆症治療薬

骨硬化症および van Buchem's 病は骨量の増加と骨折しにくさを特徴とする稀な疾患である。いずれも Wnt シグナル経路のインヒビターであるスクレロスチンの機能欠失性変異で起こる。そこで新しい骨粗鬆症治療薬として、スクレロスチンの阻害薬が開発されている。同じく Wnt シグナル経路のインヒビターである DKK-1 も治療標的となっている。

スクレロスチンに対するモノクローナル抗体であるロソモズマブの第2相試験では、12ヶ月の観察期間で偽薬、アレンドロン酸、テリパラチドとの間で骨密度の変化が比較された。その結果、ロソモズマブは骨密度を椎体で11.3%、大腿骨頚部で4.1%増加させ、アレンドロン酸やテリパラチドよりもより大きく骨密度を増加させた。

第3相試験では、骨粗鬆症の閉経後女性7180名を対象に12ヶ月の観察期間で骨折の頻度を偽薬と比較した。その結果、ロソモズマブでは骨折が73%少なかったが、臨床的な骨折の85%超を占める非椎体骨折については有意差がつかなかった。またロソモズマブ投与群で顎骨壊死2例、非定型大腿骨折1例を認めた。骨折減少効果は投与開始3ヶ月後から認めるので間歇投与でも良いかもしれない。

さらに、アレンドロン酸やテリパラチドと治療効果を比較する第3相試験が行われた。


8. ビスホスホネートの副作用

ビスホスホネートの副作用として非定型大腿骨折と顎骨壊死があるが、いずれも稀である。

非定型大腿骨折の発症率は 3.2-50/10万・人である。骨折のリスクが高い骨粗鬆症患者では、ビスホスホネートの使用による非定型大腿骨折1例あたり50-8000例の骨粗鬆症性骨折を予防できる。非定型大腿骨折の前駆症状としては、鼠径部や臀部の疼痛がある。

顎骨壊死はビスホスホネートを処方されている患者 1-10万に1例の頻度で起こる。予防のためには口腔内の衛生を保つことが重要。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5798872/

骨代謝のしくみ
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2019.910529/data/index.html