地理講義   

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31.中国の農業  農業生産の限界

2011年02月15日 | 地理講義
一人当たりの耕地面積の狭さ、水の不足、機械化による負債増加など、中国農家を取り巻く状況は厳しい。
農産物の輸入が増えている。


(図録:中国の農産物貿易)


[中国の小麦栽培]
内陸乾燥地域の貧困地帯が、小麦栽培の中心である。毛沢東の死後、人民公社制から生産責任制に移行した結果、小麦農家の生産意欲が向上し、小麦の生産量と輸出量が増加した。中国の小麦は麺類・餃子・饅頭などの伝統的食品には適している。しかし、パンの大量生産には、小麦の品質が適していない。中国人のパンの需要が高まるとともに、パン用の小麦輸入が増加傾向でにある。
中国政府は、パン用小麦の普及に努力はしているが、農村では伝統的な粉食文化があり、パン用の小麦栽培が進まない。
アメリカとの貿易摩擦解消のため、中国はアメリカ産のパン用小麦を大量に輸入しなければならず、中国政府が国内小麦農家に、パン用小麦の多くの増産を期待していない。

[中国の米生産]
中国の米の主産地は長江より南の沿岸地域(華中、華南)である。中国全土では世界の米の3割を生産する。1990年代、中国経済の進展とともに、米米栽培にも、農業機械・肥料・農薬が投入され、豊作が続いた。余剰米の安値による輸出が増加した。
しかし、米の安値と、沿岸地域の工業化の結果、沿岸農民は、重労働の二期作をやめたり、水田を貸したりした。このため、米は2000年代には減少傾向となり、中国は米の輸入国になった。
中国東北地方では、日本の東北・北海道の米の改良品種が栽培されて、食味のよいジャポニカ米の需要が伸びた。東北地方ではジャポニカ米が増産されたが、中国全体の需要を満たすことはできない。
沿岸米作農民の工場労働者への転換、農業用水の工場・都市用水への転換、農地の工場への転換のため、中国の米の増産は難しい。

[中国産のトウモロコシ]
中国は、日本へのトウモロコシ輸出国であった。しかし、1994年の気候寒冷化の影響で、中国ではトウモロコシ生産が激減した。減産は一時的であったが、中国はトウモロコシの需要増加が著しく、トウモロコシは輸入する状態になった。中国人の肉類消費が増加し、飼料穀物としてのトウモロコシ・大豆の需要が爆発的に増えているのである。中国の穀物輸入が、世界の穀物不足と価格高騰の原因になった。
中国政府は、飼料用トウモロコシを大増産し、国内の需要をまかなうとともに、日本への輸出増加をめざしている。

[中国産の大豆]
中国はアメリカ産大豆の輸入が急増している。中国人の食生活の高度化が進んで、食用油の増加が増えた。また、肉牛・豚・鶏などへの、大豆需要が増加した。中国産で伝統的品種には油分が少なく、食用油は輸入大豆に依存する。沿岸工業地帯には輸入大豆から油を絞る大工場が林立するようになった。
中国政府は、中国東北地方を中心に大豆増産を進める計画であるが、アメリカとの貿易摩擦の問題が深刻になり、アメリカ産大豆を増やさなくてはならない状況である。国内の自給率は当分低迷するであろう。

[中国の野菜・果実の生産]
中国内陸農民の所得は、沿岸農民の3分の1である。中国政府は、貧しい内陸農民の所得向上のため、価格の安い穀物栽培から、野菜・果実への転換を進めている。野菜の生産量は1990年から2003年までに3倍以上に増加し、穀物の合計を越えた。
リンゴ生産は世界第1位、ミカン生産は世界第3位である。しかし、輸送・保存・加工が遅れたままであり、飲料市場が成長しているにもかかわらず、濃縮ミカン果汁の輸入に依存している。
1戸当たりの農地が1.2haの中国農家には、土地利用型の穀物と比べ、労働集約型の野菜・果実の生産は、高い価格競争力が期待できる。政府は、果実・野菜産地に、日本などへの加工・輸出基地の建設を進めてきた。
野菜の輸出については相手国第1位が日本であるが、化学肥料や農薬の不適切な利用が、加工輸出した日本で、大きな問題になった。日本では「食の安全性」をスローガンに、中国の果実・野菜の生産と加工を、厳しく見るようになった。中国政府は、農産物の輸出を増やすために、農民・加工場経営者に、輸出相手国の安全基準を遵守することを求めている。
これまでは安価な輸出をめざすことが唯一の目標であったが、現在は安全な水と土地を使い、化学肥料と農薬を適切に使用する知識が必要な時代になっている。中国政府は、農民を含め、食品関連労働者に意識改革を求めている。

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