地理講義   

容量限界のため別ブログ「地理総合」に続く。https://blog.goo.ne.jp/morinoizumi777

23.日本の米 農家は米をどこに売ったか

2011年01月16日 | 地理講義
米作農家の米の流通経路の例(1950~60年)

(1) 政府米として供出
食糧管理法による政府買上米であり、政府から供出量が割当られた。実際業務は地元農業協同組合が代行した。政府による供出割当制は、1960年に農家の事前売渡制に変更された。豊作が続いて米が余った。農家は余剰米も政府に、政府買入米として全量買上させた。味の悪い米、前年産の古米、冠婚葬祭で近隣が持ち寄った米が含まれると、味が悪かった。

(2) 自家用米
農家の家族用米。家族で食用として消費する米は、農家が大量に保管した。農家は、新米を正月以外には食べず、新米を貴重な財産として保管し、翌年以降に消費したり、高値で売ったりした。

(3) 決済手段としての米
自家用米として保管している新米を、魚行商・衣類行商・職人への支払いなどに使った。新米で支払う方が、現金で支払うより、喜ばれた。行商人は行きには商品、帰りには米を運んだ。

(4) ヤミ米集荷業者に売る米
新米のうちでも最も味の優れた米を、農家の庭先で、ヤミ米専門業者に売った。政府価格米よりも味が良いので高値で売れた。しかも、庭先での現金支払い、領収書なしのヤミ取引であった。専門業者の元締めは都会の米穀商であり、実際に田舎を奔走してヤミ米を買い集めるのは、その子分の「買い子」と呼ばれる、小型トラックを所有する、正体不明のブローカーであった。

(5) 特定米穀取扱集荷業者に売るくず米
特定米穀取扱集荷業者は農林大臣の許可が必要であったが、味噌・せんべいなどに加工するくず米を扱うので、許可を得やすかった。実際に農家の庭先で買い集めるのは、くず米だけではなかった。前年あるいはその前年から持ち越した古米も買い取った。それを新米ブローカーに転売した。新米と古米が混合された新米が米穀店で売られた。特定米穀取扱集荷業者は、くず米・古米・新米など、どんな米でも集めるので、米作農家にとっては便利な存在であった。くず米は相応の価格であったが、保存状況の良い古米を新米の価格で農家から買うこともあった。

(6) 縁故米
食糧管理法で、例外的に米作農家は、親戚・縁者に米を安く売ることができた。あくまで例外的な米の売買だが、政府買入米の申し込み量を減らして縁故米の数量を増やす農家が、年を追って増加した。縁故米の合法的名目で、ヤミ米ブローカーなどに直売するための方便であった。

(7) 冠婚葬祭の米
農村の冠婚葬祭は、例えば婚礼であれば祝儀として現金3,000円、しかしこれでは3日間の飲み代としては不足であり、米1升ずつ持ち寄る。40人が来ると、ちょうど米俵1表分である。たいていは古米であり、いくら大量に炊いてもおいしくない。
農家では冠婚葬祭用に、古米を蓄えておく。その古米は火事見舞い、寺社への奉納、子どもの修学旅行の持参米、そして、自分のふだんの食事用である。米作農民は、ふだんは古米から順に食べ、新米は数年後までの備蓄である。


改正食糧法(2004年)以後の米の流通

食糧管理法(1942~1995年)を引き継いで新食糧法ができた(1995~)。新食糧法では自主流通米(ヤミ米)、政府米、輸入米(ミニマムアクセス米)の扱いを定めた。ヤミ米が自主流通米として公認されたが、現実の肯定に過ぎなかった。農政としての具体的政策は10年後の改正食糧法(2004)で示された。


日本の米の年間収穫量は800万トン、一人当たり年間米消費量は年60kgである。日本の米生産量は減反政策や農民の高齢化にもかかわらず、年100万トンが生産過剰である。しかもミニマムアクセス米として将来の輸入を国際公約とし、現在は輸入規制をしつつ輸入する米が70万トンもある。年間100万トン以上の余剰米を減らす農業政策が必要である。


(1) 米作農家の直売 [計画外流通米=ヤミ米]
1995年に戦時立法であった食糧管理法が廃止され、食糧法が施行された。ヤミ米が合法化され、米作農家が米を直売することが可能になった。従来とおりの農協以外に、登録米穀商(8万業者)あるいは一般消費者への直売が可能になった。大型スーパマーケットでは、農家から直接仕入れた米を販売することが可能になった。農家はインターネットなどで消費者からの注文を受けて直接販売することが可能になった。米作農家によって、小売店・消費者に売られる米が、計画外流通米である。
(2) 米作農家が農協経由で登録米穀店に売る [自主流通米]
米作農家は政府買上によらないで、農協(登録出荷業者)を通して米を売る。農協の自由な裁量で、全農を通して卸売り業者に売ったり、登録米穀商に売ったりする。農協の役割は、かつてヤミ米業者の果たしていた役割そのものである。
(3) 政府米は存在する[政府備蓄米]
米は自由流通・自由売買が原則である。しかし、国内産米が不足したり、米価急騰の危機的状況に陥ったりした時のため、政府備蓄米を政府が保管管理することになっている。政府備蓄米は、食糧庁が農協から、年100万トン~200万トンを購入する。


ミニマムアクセス米

日本政府が、アジア諸国からの米の輸入自由化要求を拒否するため、1995年から年70万トン~80万トンの米をアジア諸国から輸入している。ミニマムアクセスとは最低限の輸入のことである。
ミニマムアクセス米の用途は次のとおりである。販売価格は、国内米の6~8割程度である。
(1) 主食用
大手スーパーマーケットなどの店頭安売り目玉商品として売られる。中国で栽培される日本米が、ミニマムアクセス米とし輸入されたものである。ミニマムアクセス米70万トンの10%程度である。
(2) 加工用
ミニマムアクセス米の30~40%が加工用として、政府が民間会社に売却する。味噌・醤油・せんべい・菓子用などとして使われる。国産米価格の7割程度である。ミニマムアクセス米としての用途としては、最も多い。日本の米加工品の価格が安いのは、この安価な輸入米を使うからである。
(3) 援助用
ミニマムアクセス米の30~40%が、海外で大規模な自然災害や戦争が起こり、人道的な援助が必要な時に、政府援助米として無償あるいは有償で援助される。ただし、日本の海外援助が国際価格の変動要因とならないように、少量ずつの援助になってしまい、在庫として残る。将来の大災害時に、大量供給が可能である。
(4) 在庫
ミニマムアクセス米の20~50%は、在庫として残る。食糧庁が民間の冷蔵倉庫を借りて保存しているが、品質の低下が進む。3年の保存が限度であり、それより古い輸入米は、家畜飼料用として輸入価格の2~3割の安値で払い下げられる。あるいは廃棄される。かつて、これを、加工用米・主食用米と偽って高く転売して利益を上げた仲介業者があった。












最新の画像もっと見る