あるパーティが行われていた。前の日に現実に行われていたパーティの出席者たちの何人かもその中にいた。
ホールとなっている立食のフロアがこちら側にあり、学校の講堂のような重たそうなドアのガラスから見える奥の部屋には学食の食堂のようなテーブルと椅子が整然と並べられ、そこそこの人数がそこで思い思いの食事をし,ワインなどを飲み,談笑していた。
良く知っている、ほぼ身内の女の子と、おれもワインを飲みながら談笑していた。前日のパーティで会って話した長い髪のオトコとも話をしていた。何を話したのかは忘れてしまったが、概ねいいムードの中、話は続き、そのオトコは離れて話をしている時にはさほど大きく見えないのだが、近寄るとおれよりも30cmほど背が高く、おれは見上げ過ぎて首が凝ってしまった。そして目を離している隙に、そのオトコのシルエットが変化していた。驚くほどアタマが小さくなっていて、別人に見えた。
なんだか今風の、両サイドを刈り上げ、残った髪を後ろで結んだスタイルに変わっていた。
同じオトコなのだが、そうなると、もう見上げる必要は無く、首も凝らなくなった。
おれは、尿意を覚え、周りに失礼して、トイレへと向かう。重たいドアを開け、思い思いに談笑する人々を横目に見ながら、その家を出る。トイレは別棟にあって、おれは「どうしてそんな造りなのだろう」と不思議に思う。どうしてその会場内にトイレがないのだろう。
トイレに入る時に、不釣り合いな路を見た。パーティという概念からはとても不釣り合いな路だった。
郊外も郊外の、その奥に温泉でも存在するか、というような言わば「田舎」の路だった。
用をたして戻ってくると、パーティ会場は消えていて、その田舎の路はおれがやって来た方向・つまり、パーティ会場だった方向にも延びていた。そちらの方は鉄道の線路が走っている住宅街で、見覚えがあった。つい最近まで住んでいた街の近くによく似ていた。線路を左に曲がって上っていくと私立大学がある街だ。
一人の女が、後ろ向きに立っていた。妙な身体の動きをしていたが、その動きには見覚えがあった。100%確信があったわけではなかったが、声をかけてみた。声をかけ、彼女が振り返る時に、おれが思っていた彼女のフォルムに再構成されるかのように輪郭が確定した。
「ひさしぶりや。なにしてんの」
彼女は何も言わず、ただ微かな微笑みを浮かべこちらへ近づいて来た。良く考えると、彼女の実家はこの路を少し降りたところだった。
その時、少し向こうで悲鳴が聞こえた。その声は中年女性のもので、その声の方向の暗闇からねずみ色の集団が、現れた。10人ほどの集団が、人を蹴散らしながらこちらへ進んで来ている。緊張した。彼女を路端の窪みの少し高くなったところへ抱え上げ、そこへ座らせた。ねずみ色の集団からは死角になると思えたからだ。さらに緊張していると、ねずみ色の集団は進む方向を変えた。線路の踏切を渡った。その後には人が大勢倒れていた。動かない。みんな死んでしまったのだろうか。ねずみ色の集団には「慈悲」などというものは一切感じられず、クールな野蛮人そのもので、人を傷つけることに対する感情さえもなさそうに思えた。緊張は続いた。おれの手は彼女の内股に触れていた。そんな情況にも関わらず、彼女にそこまでの危機感はないようだった。ねずみ色の集団は、線路を挟んだ一本左手の路をこちらへと進んでくる。おれの手は彼女の体温を感じていた。彼女はおれの手が左右の太ももの間にあることを拒否していなかった。それはおれにセックスの予感をもたらした。
その時に気付いた。自分はセックスそのものよりも、その資格や可能性こそを、求めているのだ、ということを。そして、これまでのほとんどすべての女の子との付き合いは「間違っていた」ということも。
そんなことを考えている間にも、ねずみ色の集団はこちらへと近づいてくる。彼らのルックスが明らかになってくる。それでも街頭の灯りが逆行になって、はっきりとは見えない。その表情はわからない。しかし,全員がまったく同じであることはわかる。クローンかなにかだろう。そして感情は、ない。おれはセックスの予感と恐怖の感情の中で引き裂かれそうになる。ねずみ色の集団が全員同時に武器を振り上げる。鋭利ではない重たそうな刃物だった。それでつけられた傷は一生消えることはないだろう。左手の肉の温もりは相変わらずだ。このまま死んでいくのだろうか。いや、これは割にいい死に方ではないのか。鈍く光る刃物はおれの5mほどにまで迫っている。彼女だけは守らなければ。かなりこれは英雄的でもある。
何かに罰せられることが必要なのだ・というヴィジョンが浮かんだ。おれは最後に彼女の太腿の温もりを確認した後、ねずみ色の集団の前に立ちはだかった。ねずみ色の集団はおれの2mほど前にまで迫って来ていた。おれの頭に、肩に振り下ろされるはずの刃物に街頭が反射し、鈍い光を放っている。おれは覚悟を決めて、その女の子の名を最後に叫ぼうと思ったが、名前も声も出てこなかった。ねずみ色の集団は、その集団の呼吸が聞こえるところまで迫っている。その呼吸も全員一致していた。二度吸って二度吐いていた。長距離走者のような一糸乱れない呼吸だった。おれは深く息を吸い、そこで止めた。その空気が一気に吐かれるときが、おれが死ぬときだった。
しかし、頭にも肩にもいかなる衝撃は来ず、その代わりに胸と胃と股間に風圧を受け、おれは数m吹き飛ばされてしまった。腰と頭を強く打ち、しばらくは動けなかった。何が起こった?
目を開けるのが怖かったが、静かに目を開けてみた。輪郭がぼやけて闇と街灯だけが見えた。頭が痛い。ずきんずきんと脈打つ血管が意識された。そのずきんずきんはねずみ色の集団の呼吸と同じビートだった。振り返ってみたがねずみ色の集団は姿が見えなかった。
やつらはおれの血管の中に吸収されてしまったのかもしれない。
ホールとなっている立食のフロアがこちら側にあり、学校の講堂のような重たそうなドアのガラスから見える奥の部屋には学食の食堂のようなテーブルと椅子が整然と並べられ、そこそこの人数がそこで思い思いの食事をし,ワインなどを飲み,談笑していた。
良く知っている、ほぼ身内の女の子と、おれもワインを飲みながら談笑していた。前日のパーティで会って話した長い髪のオトコとも話をしていた。何を話したのかは忘れてしまったが、概ねいいムードの中、話は続き、そのオトコは離れて話をしている時にはさほど大きく見えないのだが、近寄るとおれよりも30cmほど背が高く、おれは見上げ過ぎて首が凝ってしまった。そして目を離している隙に、そのオトコのシルエットが変化していた。驚くほどアタマが小さくなっていて、別人に見えた。
なんだか今風の、両サイドを刈り上げ、残った髪を後ろで結んだスタイルに変わっていた。
同じオトコなのだが、そうなると、もう見上げる必要は無く、首も凝らなくなった。
おれは、尿意を覚え、周りに失礼して、トイレへと向かう。重たいドアを開け、思い思いに談笑する人々を横目に見ながら、その家を出る。トイレは別棟にあって、おれは「どうしてそんな造りなのだろう」と不思議に思う。どうしてその会場内にトイレがないのだろう。
トイレに入る時に、不釣り合いな路を見た。パーティという概念からはとても不釣り合いな路だった。
郊外も郊外の、その奥に温泉でも存在するか、というような言わば「田舎」の路だった。
用をたして戻ってくると、パーティ会場は消えていて、その田舎の路はおれがやって来た方向・つまり、パーティ会場だった方向にも延びていた。そちらの方は鉄道の線路が走っている住宅街で、見覚えがあった。つい最近まで住んでいた街の近くによく似ていた。線路を左に曲がって上っていくと私立大学がある街だ。
一人の女が、後ろ向きに立っていた。妙な身体の動きをしていたが、その動きには見覚えがあった。100%確信があったわけではなかったが、声をかけてみた。声をかけ、彼女が振り返る時に、おれが思っていた彼女のフォルムに再構成されるかのように輪郭が確定した。
「ひさしぶりや。なにしてんの」
彼女は何も言わず、ただ微かな微笑みを浮かべこちらへ近づいて来た。良く考えると、彼女の実家はこの路を少し降りたところだった。
その時、少し向こうで悲鳴が聞こえた。その声は中年女性のもので、その声の方向の暗闇からねずみ色の集団が、現れた。10人ほどの集団が、人を蹴散らしながらこちらへ進んで来ている。緊張した。彼女を路端の窪みの少し高くなったところへ抱え上げ、そこへ座らせた。ねずみ色の集団からは死角になると思えたからだ。さらに緊張していると、ねずみ色の集団は進む方向を変えた。線路の踏切を渡った。その後には人が大勢倒れていた。動かない。みんな死んでしまったのだろうか。ねずみ色の集団には「慈悲」などというものは一切感じられず、クールな野蛮人そのもので、人を傷つけることに対する感情さえもなさそうに思えた。緊張は続いた。おれの手は彼女の内股に触れていた。そんな情況にも関わらず、彼女にそこまでの危機感はないようだった。ねずみ色の集団は、線路を挟んだ一本左手の路をこちらへと進んでくる。おれの手は彼女の体温を感じていた。彼女はおれの手が左右の太ももの間にあることを拒否していなかった。それはおれにセックスの予感をもたらした。
その時に気付いた。自分はセックスそのものよりも、その資格や可能性こそを、求めているのだ、ということを。そして、これまでのほとんどすべての女の子との付き合いは「間違っていた」ということも。
そんなことを考えている間にも、ねずみ色の集団はこちらへと近づいてくる。彼らのルックスが明らかになってくる。それでも街頭の灯りが逆行になって、はっきりとは見えない。その表情はわからない。しかし,全員がまったく同じであることはわかる。クローンかなにかだろう。そして感情は、ない。おれはセックスの予感と恐怖の感情の中で引き裂かれそうになる。ねずみ色の集団が全員同時に武器を振り上げる。鋭利ではない重たそうな刃物だった。それでつけられた傷は一生消えることはないだろう。左手の肉の温もりは相変わらずだ。このまま死んでいくのだろうか。いや、これは割にいい死に方ではないのか。鈍く光る刃物はおれの5mほどにまで迫っている。彼女だけは守らなければ。かなりこれは英雄的でもある。
何かに罰せられることが必要なのだ・というヴィジョンが浮かんだ。おれは最後に彼女の太腿の温もりを確認した後、ねずみ色の集団の前に立ちはだかった。ねずみ色の集団はおれの2mほど前にまで迫って来ていた。おれの頭に、肩に振り下ろされるはずの刃物に街頭が反射し、鈍い光を放っている。おれは覚悟を決めて、その女の子の名を最後に叫ぼうと思ったが、名前も声も出てこなかった。ねずみ色の集団は、その集団の呼吸が聞こえるところまで迫っている。その呼吸も全員一致していた。二度吸って二度吐いていた。長距離走者のような一糸乱れない呼吸だった。おれは深く息を吸い、そこで止めた。その空気が一気に吐かれるときが、おれが死ぬときだった。
しかし、頭にも肩にもいかなる衝撃は来ず、その代わりに胸と胃と股間に風圧を受け、おれは数m吹き飛ばされてしまった。腰と頭を強く打ち、しばらくは動けなかった。何が起こった?
目を開けるのが怖かったが、静かに目を開けてみた。輪郭がぼやけて闇と街灯だけが見えた。頭が痛い。ずきんずきんと脈打つ血管が意識された。そのずきんずきんはねずみ色の集団の呼吸と同じビートだった。振り返ってみたがねずみ色の集団は姿が見えなかった。
やつらはおれの血管の中に吸収されてしまったのかもしれない。