曾根崎キッドの日々

現実の街、大阪「曽根崎デッドエンドストリート」。そこで蠢く半架空の人物たちによる半現実小説、他ばか短編の数々。

その69

2008-05-10 13:35:42 | 続き物お話
 さゆりは「また落ちる」と思ったが、その前のような孤独感はなく、何かに繋がれているという確信があり、そして落ち方にしても頭からではなく足や腰が何かに引きずられていくようだったから、危機感は感じなかった。そして時間が割れ続け、その外には出ることが出来ないような予感もあり、しかし、こだまし続ける声と同期する身体の奥の疼きにズレはなく、落ちながらも幸せなのだった。割れていく時間の中であるオトコのことを思い出しそうになった。やんちゃでばかで誠実でかわいくて、「でも一体誰だったのかな?」そんなヴィジョンが脳裏をよぎった時、疼きの中心を破滅的にえぐるような衝撃がさゆりを襲った。そして意識はなくなった。

 その横にはオトコがいて、しばらく立ち尽くし、小刻みな足音が始まり、しばらくするとその足音は遠ざかっていった。

 さつきとミファソのおじいさんが部屋の中に入って来た時、部屋の中に甘く気だるい匂いと血の匂いが充満していて、さつきは少し胃がムカムカした。廊下を通ってリヴィングまで行くと、その匂いはさらに強烈で、そしてそこにある光景もまたそうなのだ。さつきとミファソのおじいさんは倒れているさゆりを見て駆け寄った。さゆりはオトコの身体に重なるように倒れていた。ミファソのおじいさんが抱き起こそうとするとオトコの身体も一緒に付いてくる。
 「えらいことになっとんな」
 「さっちゃん,119番や」                                        (つづく)