曾根崎キッドの日々

現実の街、大阪「曽根崎デッドエンドストリート」。そこで蠢く半架空の人物たちによる半現実小説、他ばか短編の数々。

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その3

2008-07-15 21:39:57 | 続き物お話
 昼間に見るデッドエンドストリートは光の飛んだ写真の中にあるような気がいつもする。その蜃気楼のようなはかない存在感はまた、そこを通る人間に、放っておけばそのまま消えてしまうのではないか、という気にさせる。地上げ関連の人間が昼間にこの界隈を歩いたならば、こんなもの、潰されて当然という感想を持つのかもしれない。仕事にヤル気がでるだろう。
 ただ、それが、陽が落ち夜がやってくると何故かその輪郭が際立ってくる。闇と建物の境目は夜の方がはっきりして、そこには露地の体温のようなものが立ち上がってくる。

「なんかにゃーにゃーうるさいなあ」
「駒芳んとこのネコやろ」
「おばはん、またネコ飼ってんの」
「ねずみ対策らしい」
「は、なんて言うた今」
「ねずみたいさく」
「いまどき?」
「なんかその発想、おばあちゃんの時代の薫りやんな」
「おばあちゃんやん」
「かんなりエロはいったおばあちゃんすけどねえ」
「だはは、で、閉じ込められてんの、閉め出しされてんの」
「今は閉じ込めちゃう。営業中は閉め出し」
「完全なるねずみ対策要員やな」
「今回はオスみたい。よう来んねん。トドムンド。かわいいよ」
 
 一匹目のネコはMタキが強奪した。虎子という名をきじ子に代えてナチュラリーで飼っている。ナチュラリーは2階・3階とあり、3階は物置及びMタキの寝室である。文字通りデッドエンドストリート住民と言える。トドムンドのユルフン・コックことN井もよく帰れなくなって泊まっている。最初の頃あまりに泊まり過ぎてSKG会のエラいさんであるN井のおかんが、息子は「拉致」されている・と騒いだことがあった。その犯人はN井のおかん曰く、トドムンドの社長だ・という話だったのだが、それを一度確かめに来た時に見た「チェ・ゲバラ」のポスターを見て「ほら・やっぱり」と、なにがほらやっぱりかわからないのだが、彼女の疑惑は深まってしまった。革命→キューバ→共産主義→日本共産党→SKG会の歴史的敵・なんて風に連想が進んだのだろう。その後、おかんはおとんを伴って、社長の家へと怒鳴り込みに来たらしく、社長は豊津界隈でおかんを見たなら、くるっとUターンをして逃げる習慣になっているらしい。

 曾根崎キッドはある日の昼間、ふらりと露地に来てしまい、たばこを吸っていたら、昼間なのにトドムンドの店内に灯りが見え、ドアの円形の窓から覗いてみるなら、こちらを向いた社長が4番テーブルに座っていたのだった。幸いに目は合わず、すっとしゃかんで耳をそばだてると声が聞こえてきた。社長の声ではなかった。
「まず、保証金の250万は引きなくすべてお返しします。そしてトータルで1000万、これねえ、そこの「あん」さんとかもこんな金額でやってもうてるんですわ」
「それに今即答はできませんけど、そんなことよりも、ここを潰す大義みたいなものをぼくは聞きたいんですわ。これよりいいものができるんですか? それともただ意味もなく潰すから潰すねん・ということなんですか? ここの人たちね、みんな好きなのよ、この露地。みんなの前で一回説明会開いてよ」
「いや、ここのみなさんにはまだ言えませんねん。なんでかいうたらね、土地はうちが取得したんやけど、ウワモンには家主さんちゅうのがいますやろ。そことの交渉が終わって店子さんはそこからですねん。マスターんとこはたまたまうちが上も下も所有したから、これを言いにこれますねん」

 曾根崎キッドはえらいもんを立ち聞きしてしまった・と思った。抜き足・差し足でその場を立ち去った。<つづく>
  
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