気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

たしかなこと 2 (9)

2020-05-22 19:54:00 | ストーリー
たしかなこと 2 (9)






「あっ、、もっと、、もっと欲しい!」

香さんは色っぽい声でおねだりをしてきた



「もっと?」


香さんの茶碗にご飯を “盛った”

今夜は香さんが僕の部屋に泊まる夜
僕も明日は休みで一緒に引っ越し準備を始める


「最近ご飯が美味しくて美味しくて!なんだかちょっと太ってきちゃったんです… 結婚式前なのにマズイ…」


身体がふくよかになってきたという香さん
それも愛らしいと思う


「僕は構いませんよ(笑) それはそれで可愛い(笑)でもドレス大丈夫ですか?」


「やっぱりダイエットしないと!」



気合いが入った言い方だけど
本当にダイエットするのかな


「香さん。ご飯じゃなくて 僕を欲しがって欲しいんですがねぇ? 」


意味がわかっていない顔をした


「え??」


「ここしばらく貴女に触れさせてもらえていません。貴女は僕を欲求不満にする気ですか?(笑) 」


理解したのかハッとした


「このお腹は見せられないです(汗)」

焦った表情でお腹に手を当てた



「なんだ(笑)そんなことが理由?」


「恥ずかしいからダメですっ」


「んー。なら…」


渡そうとした香さんの茶碗を引っ込めた

「しばらく白米抜き!」


「そんなぁ、、」泣きそうな表情をした


「冗談だよ(笑) 沢山お食べ(笑)」

茶碗を差し出すと笑顔で受け取った



香さんのこの美味しそうに幸せそうに食事をする姿が僕は大好きだ

初めて一緒に食事した時からそうだった


この人と一緒に食事をするのが楽しくて何でも美味しく感じる


「なんですか?」


「いいえ?なんでもないですよ(笑)」


福福したというお腹を今夜は見せてもらうとするかな(笑)





一緒に布団に入り 香さんに触れようとしたら本当に避けられた


「本当に駄目なんですか?」


「駄目なんですぅ~」と口を尖らせた

その言い方も顔も可愛くてズルい



「ならもっと暗くしたら?」

部屋を真っ暗にしてカーテンを開いて薄いカーテンだけにすると月明かりが差し込んだ


「そんなにしたいんですかぁ~?」

困ったような声で目だけ布団から出して僕を見ている


「だって香さんと久しぶりにこうして一緒にいられる夜ですから。


「嫌わないでくださいね?」


「僕が貴女を嫌う訳ないでしょう(笑)」

微笑んで髪を撫でた





香さんに触れる
手に伝わる感触と体温

少しだけふくよかになり 柔らかで滑らかなその女性らしい肌に触れると僕の心と身体は高揚してきた


月明かりの下の貴女はとても美しい

指先や唇で優しく 時に強く触れながら全身に愛撫をすると艶かしく陶酔していく


いろんな表情が見たい 声が聞きたい

貴女の中にゆっくりと入り
緩急をつけながら貴女を奏でると

それに合わせるように吐息混じりの艶っぽい快楽の声を上げはじめる




ねぇ 香さん…

僕はね
恒久的に変わらず存在するないものなんてこの世界にはないと思っていたんだ

ーー たとえ 愛でさえも


いつか消えてしまうからこそ
壊れないよう いつまでも大切にして

いつもどんな時も心は繋がっていようと意識し続けてきたけれど


もしかすると本当に恒久的に変わらない愛が
この世界にはあるのかもしれないと

貴女に出逢えたことでそう思える


貴女の この柔かな唇に唇を合わせながら

“ねぇ香さん こうして僕らが出逢えたことは奇跡だと思わない?”


そう 心の中で貴女に問いかけた

もし本当に神がいるなら 心から感謝をするよ




ーーー




紘隆のインスタに

今度の日曜に国営昭和記念公園で撮影する予定と書かれていた

イチョウが色づいている時期だからそこに行けば紘隆に会えるかもしれない





ーー 日曜



撮影で訪れるのは何時頃だろうか
予想がつかないから朝から待ってみたけれど

紘隆はなかなか現れない



すると 一人の男性が僕に話しかけてきた


「今日は暖かくて良かったな(笑) あれ?カメラは?」

どうやら紘隆と間違えている様子だった
やはり紘隆はここに今日必ず現れる ーー


「私は白川宣隆と申します。紘隆は私の弟です。」

「は?(笑)」


紘隆と待ち合わせをしているのかを問うと待ち合わせてはいないが紘隆は13時頃にここに来ると言ったようだ

13時まであと15分… か


彼は初対面の僕にも気さくに
紘隆と本当によく似てると笑顔で話しかけてくれた


彼は紘隆とは写真仲間で今度写真のコンクールにチャレンジしてみるらしい

そんな紘隆の近況が聞けて良かった


「あ、来ましたよ。」

振り返ると紘隆がスマホを見ながら歩いてきた
顔を上げ 僕に気付くと立ち止まった



“…なんで”

口の動きがそう呟いたように見えた



紘隆に歩み寄った

「元気、だったか。」

「まぁ。…変わらず。」

僕から視線を外した

まだわだかまりがある様子だった



「すまないが、場所を変えて今から話せないか。」


「突然だな。まぁ、構わないよ。」



近くの喫茶店に入った

僕と弟の紘隆とこうして膝をつきあわせて会うのは17年ぶりだ

歳を取っても
僕らはやっぱり似ていた



「悠太くんはもう大きくなったか?(笑)」


「悠太はもうガキじゃない。25で今は一人暮らししながらつまんない会社員なんかやってる。」



あぁ こいつはこういう奴だった

変わらないな


あの頃のように僕に対して反感は持っている様子だが強く反発する嫌悪感まではもう無いように見える

紘隆は僕と見た目はよく似ているけれど性格は正反対

冷静に客観視する僕に対し 弟の紘隆は感覚で判断し自分の感情に素直だ

好きな女性に対しても
僕は好きだからこそ慎重になるけれど
紘隆は玉砕覚悟で猛アピールをする

フラれて一時的には落ち込むけれど直ぐに立ち直れるタフな男

会社員なんてクソみたいなつまんない仕事なんかできるか!という紘隆は割烹料理屋で板前として修行をしいずれ自分の店を持ちたいと言っていた

きっと もう自分の店を持っているかもしれない



本題である母に対する僕の謝罪の気持ちや
当時の思いを伝えると

紘隆は表情ひとつ変えず
腕を組んで黙って僕の話を聞いていた



紘隆の僕への気持ちを聞いた


「別に俺は… もう何も。」


「なら何故 連絡してくれなかったんだ。」


「俺と兄貴はそもそも性格合わなかったろ。それに俺は俺で自分の店出して軌道に乗せるまで大変だったんだ。」


「そうだとしても僕はずっとお前のことを心配してたんだ。」


「兄貴がそれ言う? 兄貴だって母さんに会いに行かなかったろ。人のこと責められる立場じゃないだろ。母さんも同じ思いだったんだ。兄貴のことばっかずっと気にしてたよ。ずっと心配してたんだ。」



ーー 胸が痛んだ



「そう、だな。すまない…」


「話ってそれだけ?なら俺、用事あるから。」

席を立った


「待て、連絡先を教えてくれ。」


「なんでだよ。必要ないだろ?」


「今度 再婚するんだ。」


驚いた表情をした
「…再婚?」


「彼女がお前を見かけたと言っていた。お前にも結婚式に来て欲しい。」



怪訝そうな表情をした

「は?なんで俺が参列しなきゃならないんだ。」


「お前は唯一の兄弟だからだ。お前に彼女を会わせたいんだ。」


渋い表情で少し考え
財布から一枚の名刺を取り出し僕に差し出した

「…結婚式に出るかどうかはわからない。じゃ。」


完全に心が打ち解け合えたとは言えないが
連絡先を教えてくれたことは大きな成果だった


香さんに紘隆と会えて話せたことを報告すると喜んでくれた

その夜 名刺に書かれているメールアドレスに

会えて良かったというメッセージと僕の電話番号と結婚式の日時と場所を記して送った





ーーー




香さんと暮らす家を一緒に決めて
一緒に引っ越し準備をした


やることが多くて大変だけど香さんとの作業はとても楽しい


引っ越しを済ませて 一緒に暮らし始めた翌月に予定通り僕達は結婚式をおこなった


披露宴などはなく 後日こじんまりと身内だけで食事会を開いた


結婚式は弟の紘隆は来てくれなかったけれど
結婚式の当日 手紙が届いていた


メールでも電話でも簡単に言葉が伝えられるこの時代に手紙か、と思ったけれどそれもあいつらしいと思った


“結婚おめでとう 今度は幸せになれよ”


ぶっきらぼうに
ただそれだけしか書かれていない手紙


それでも僕は嬉しくて涙が溢れた

「相変わらず下手くそな字だ… (笑)」


香さんは嬉しそうに 隣で微笑んでいた







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