気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

君に花束を     (前編)

2020-03-14 22:19:00 | ストーリー
君に花束を (前編)






俺は市役所の職員

公務員だから安定はしているが やりがいを感じて仕事をしているということもなく

ただ ルーティンのように代わり映えのしない日々を送っていた

冒険心もないし 好奇心もそんなにあるとは言えない

女性から見ると つまらない男に見えているだろう



結婚をして家庭を持つ ということに焦りも興味も感じず独身生活を送ってきた


そんな俺も10年ぶりに中学の同窓会に出席をすることにした




店に向かう道中 偶然女子のグループと鉢合わせした

10年も経って38歳にもなれば別人のように老けた奴もいればそのまんまの奴もいて個人差が出ていた

子育ての真っ只中の女子達は
女というより母親のたくましさが出ていた



「高崎くんは10年前の同窓会ぶりね。あまり変わらないわね(笑)」
ここは喜ぶべきなのか?


「あ、ありがとう(笑)」

「で? もう結婚したの?」
女子(?)は幾つになってもそういうとこを聞きたがる


「いや… してないよ。」

「なんで?10年前は確か彼女いたよね?高崎くんならほら… 」

小声になった
「(他の男子はおっさんになってるけど高崎くんは若く見えるしまだイケる方じゃない?(笑) ) 」


イケる、、のか?


「そうだろうか… (笑) 」

「今はあの時の彼女と続いてるの?」

「とっくに別れてるよ。」



店に向かうと
他の数人がもう店の前で待っていた


「わぁ!久しぶり~!」
女子は口々に懐かしがっている


田中(←男)が肩を組んできた

「(由実ちゃん美人だよな!)」
小声で囁いてきた


その“由実ちゃん” ってどれよ!



「誰が誰なのか、さっぱりわからんぞ。」

田中は笑い出した
「ほら、赤いスカート履いてるのが由実ちゃん。」


え? あんな感じだったっけ?

こりゃ 完全に忘れてるな
やっぱり俺は興味がない人物は覚えてないな




店に入った

個室を貸りていたようで
合流してきたメンバーが盛り上がってる


ちなみに…

俺が好きだった
“栞ちゃん” はやっぱり来てない… ようだな


栞ちゃんは子供の頃は病弱で
クラスの中で一番病欠が多く全校朝礼で倒れてしまう時もあった


うるさい女子達と違って控えめで真面目
花がとても好きだったあの女の子

地味で目立たない子だったけど
俺には可愛かった

多分 俺だけがそう思ってたと思う


俺が初めて “好きになった人” だったから





「あ、確か~高崎くんは栞ちゃんが好きだったよね(笑)」


はぁ!? なんでそれを!!


「それはどっから仕入れた情報だ!?」
これにはさすがに動揺した


「どっからって、みんな知ってたけど。ねぇ?」
同意を求めるように両隣の顔を見た


「うん、だって高崎くん、わかりやすく栞ちゃんに “だけ” は優しかったもん(笑)」


昔の話とはいえ
自分の知らない所で 自分の中だけの想いを周知されていた事に羞恥心がわき上がってきた



「あ、栞ちゃんの連絡先教えようか(笑)」

「いっ、いらんわ!!」

「そんなに顔赤くして拒否ったら余計にまだ好きなのかなって思っちゃうよ~ねぇ?(笑)」


「 そんなはずないだろっ!」

あれは子供の頃のことなんだし!




ーーー




後日 田中から電話があった

「そうだ。“お前が好きだった” 栞ちゃんが働いてるとこ、林(←女子)に聞いてやったぞ!」


「その “お前が好きだった”って部分を強調するなっ」

「あの時お前は否定したけど、本音は知りたいんだろうなと思って聞いてやったのに。」

お節介な奴だな
お前は女子か


「子供の頃の事なんだ。それにお互いもういい歳だし、結婚だってしてるんじゃないのか? 俺は今は、」


「栞ちゃん独身らしいから聞いてやったんだ(笑) 取りあえずLINEで送っといてやる。じゃあな!(笑) 」
勝手に電話が切れた

まったく!人の話を聞けっつーの!

電話を切って直ぐ来たLINEには
店の名前と住所があった





ーーー



栞ちゃんかぁ…

まぁ 確かに気にはなる

今でもまだ病弱なんだろうか


おとなしくて花が大好きだったあの女の子は
やはり花屋で働いているようだ



店はそんなに遠くはない

せっかく田中が調べてくれたんだからな
前を通るくらいは…


その花屋の前は何度か通ったことはあるが
そもそも俺は花を買うような洒落た男ではない

だから当然 その花屋も気にも留めたことはなかった





休日

その花屋が見えたーー


然り気無く 前を通り過ぎる時
店内を見てみたがどうも外から中の様子はあまり見えなかった

もう一度通り過ぎた
やはり見えない

少しドキドキしながら店内に入ってみた


「いらっしゃいませ(笑) 」
奥から花が入ったバケツを持った女性が現れた


… あっ


栞ちゃんだった ーー


「ゆっくり見て行ってください(笑)」

あの頃より当然歳を重ねた感はあるけど
可憐なイメージのままで俺の胸は高鳴った



栞ちゃんは俺のことに気付いてない様子でバケツの花を作業台の上に置き花の茎の処理を始めた


何も言わず、何も買わなかったら俺はただの変質者に思われるかもしれない!


取り敢えず花を買うことにした

「あ、あの… あの篭の花を… 」
プレゼント用にまとめられた篭の花を指さした


「こちらでよろしいですか?」

「あ、はい。」

「ありがとうございます(笑)」
栞ちゃんは透明なフイルムを取り出した


「メッセージとか、書かれますか?」

メッセージ!?
「あぁ、いや、無いです。」

手慣れた手つきで包装に取りかかった


このまま黙って帰るか!?
俺は高崎だと名乗るか!?

焦ってきた


「あっ、あの、やっぱりメッセージ、書きます。」

「はい(笑) では… こちらのカードを使ってください(笑) 」

引き出しからメッセージカードとペンを取り出した


“ また会いたいです 高崎 ”

焦って書いたのがそれだった
俺はアホか!

また会いたいって!



「ではこちらをここに入れておきますね。」

“高崎” という名で何か思い出してはくれないかと少し期待したが

栞ちゃん気付かず花を綺麗に包装してくれた



「また会えるといいですね(笑)」

ーーえっ


「このお花をプレゼントする方に(笑)」

一瞬 俺に気付いてくれたのかと…


「そう、ですね(笑) ありがとう。じゃ… 」

切ない想いで店を出た



でも… 小さなえくぼができる彼女の笑顔は昔のまま
それに病弱そうな感じはない様子

良かった…


子供の頃だけど 本当に好きだった
俺の初恋の女の子


やっぱり…
ちゃんと声かけりゃ良かったかな




持ち帰った篭の花を眺めた

薄い紫やブルーでアレンジされた可愛い篭の花が彼女のように思えた


ーーー


それから俺は決まって休日にはその花屋に通うようになった

毎回メッセージカードに高崎と書いた


「高崎さん、こんにちは(笑)」

俺の名前は覚えてもらったがやっぱり思い出してはくれなかった


「どうも、、(笑) 」


「まだお会いできないんですか?」
丁寧に花束を包みながら彼女は残念そうに微笑んだ


「そうなんです(笑)」


「… こんなに想われている方が羨ましい(笑)」
その言葉にドキッとした


「相手は… 迷惑… なのかもしれません(笑) 」


「そんなことはないんじゃないでしょうか(笑)
お花は心を癒してくれます。その内 お相手の方も高崎さんに心を開いてくれるんじゃないでしょうか(笑) 」



ーー 切ない



「もうひとつ、花束を作ってもらえますか?」
俺は黄色とオレンジの小さな花束を作ってもらった



「その花は… あなたに… 」

「え? 」彼女が驚いた

「あっ、いや今回は、、いつも親切にしていただいているので(笑) 」

彼女は嬉しそうに微笑んで
「本当に私がいただいてもよろしいのですか?(笑) 」とはにかんだ

「ん… 栞ちゃんにとてもよく似合うので(笑)」


彼女は驚いた



「え? 私の名前 … 」

あっ、しまった!
俺は彼女の名前を知らないはずなのに つい…

「前に、、お名前を聞きましたよね(笑) 」

とっさに誤魔化した


そうだったかな?と思い出す表情をしたが直ぐまた笑顔に戻った


「ありがとうございます(笑) 嬉しいです!自室に飾らせていただきます(笑)」


… ホッとした
気付かれずに済んだ

そして喜んでくれた!




ーーー




それがきっかけで
彼女は俺に親近感を持ってくれたのか

週を追うごとに個人的な話もしてくれるようになった


彼女は婚約はしたが結婚には至らず
それきり結婚は一度もしないまま

今は独身の一人暮らしをしているようだ

身体は今でもたまに体調を崩すらしい


そして…
来月 この店を辞めると残念そうに笑った


「えっ、辞めてしまうんですか?」

「入院するんです(笑) 」



やっぱりまだ身体は弱いままなんだ…


ーー 俺が支えてあげたい
そう思うようになっていた



ーーー



俺はいつものように花を受け取り
そのまま実家に向かった


母親は花を持って帰ってきた久しぶりの息子に驚き

“ 何事!? あんたから花を貰える日が来るなんて!明日私死ぬのかしら” と思っていた以上 喜んだ


すまん!母さんのために買った花じゃないんだ ーー
と喜んでいる母には言えなかった(笑)



栞ちゃんと同じ学校に通っていた頃の写真を探した

卒業アルバムに修学旅行の写真
遠足の写真に運動会の写真


どこかに二人が一枚に収まった写真はないかと探したら数枚出てきた

修学旅行先の京都での写真と運動会の写真


その写真と卒業アルバムを持って帰ろうとすると
ご飯ぐらい食べて帰りなと母は俺を引き留めた



オヤジは夕方には釣りから帰ってきて今夜は刺身三昧となった


「お前ももう直ぐ39だろう。いつになったら身を固めるんだ?」

俺が未だに結婚したがらないことをオヤジはやはり気にしていた


「結婚する気がない訳じゃない。相手がいないだけだ。」
その自分の言葉で栞ちゃんの顔が浮かんだ


「じゃあやっぱり見合いだな。お前は公務員なんだからそれなりの良い話も来てるんだ。」
そう言ってビールを飲んだ


「それは嫌だね。」
わかってるさ 早く孫も欲しいからだろう?

これがあるからあまり実家に寄り付きたくなかったんだ

「ちゃんと考えてるから。じゃあ、明日も朝早いからそろそろ俺、帰るわ。」

刺身を数枚食べて実家を出た




帰宅して もう一度
持ち帰った卒業アルバムを開いた


懐かしいなぁ…
田中は完全にオッサン化したな(笑)


彼女と俺が一緒に写ったこの写真を見せたら
彼女はどう思うだろう

知ってて言わなかったことに怒りだすだろうか
気持ち悪がるだろうか

玉砕するだけだろうか…


それでも
客としての“高崎” でこれ以上彼女に近付くのは限界だった

どうしても気付いて欲しい気持ちが消えない


次の休日 卒業アルバムと写真を持って花屋に向かった


「いらっしゃいませ(笑)」
そこにいたのは若い女の子だった


「あの、以前いた藤本さんは… 」

「5日前に辞めました。」




ーー なん、で?

辞めるのは来月だって…



「あの、、それは、来月じゃなかったですか?」

「急に体調が悪くなってしまって、、お知り合いですか?」


体調って…

「具合どうなんですか? あ、僕は同級生で、、」

「辞められてからはちょっと私にはわからないです… 私はオーナーの親類で急に手伝いに入ったばかりなので、、」

女の子は困惑顔になった



そのオーナーらしき年配女性が奥から出てきた

彼女が病弱なのを承知の上で雇い入れていたようだ


「本当に花が好きで真面目な良い子だったからねぇ。また元気になったら帰ってきて欲しいんだけど(笑) 」


そう…
俺が知っている彼女もそうだ

オーナーには入院先を教えて貰ったが
親類ではないため 容易には会えないかもしれないよと僕にアドバイスをくれた

病院で彼女への面会を希望したが
やはり身内しか受け入れないよう本人が希望を出していたようだった



俺は彼女のメールアドレスや電話番号を知らない

田中や林に聞けばわかるのだろうが
彼女から直接聞いてもいないのにメールをすることはできない


俺は手紙を書き

病院の受け付けに
花束と手紙を本人に渡してもらうようお願いした




手紙には

身体の具合はどうなのか 心配していて
元気になったら またあなたに会いたいという想い

そして最後に
俺のフルネームにメールアドレスと電話番号

俺が あの同級生の高崎だということは
書かなかった

フルネームを彼女に伝えるのは初めてだ
これでもしかすると思い出してくれるかもしれない



ーーー



それから1ヶ月が過ぎた頃
彼女からメールが届いた

彼女から返事をもらえた

体調は良くなってまた元の一人暮らしの部屋に戻ってこられたことや

またあの花屋の店で働かせてもらえることになったと書かれていた


良かった… ほんとに良かった!

でも俺のことはまだ思い出してないようだ…
まぁ、うん 元気になったならそれでいい


『良かった。本当に。またあの店で会えるかな。』

『はい!来週月曜日から働かせていただきますのでまたお待ちしておりますね!』


明るい返事が嬉しい反面
店員と客にまた逆戻りしたようなその返事は少しの寂しさを感じるが…

俺は翌週 彼女に会いに行くことにした



ーーー



私がまた店に戻れて直ぐ
高崎さんは店を訪ねてくれた

「高崎さん、、いらっしゃいませ(笑) 」

「こんにちは、、元気になって良かった(笑) 」


高崎さんが毎週ここを訪れてくることを
私は知らない内に待つようになっていた


毎週お花を贈っている相手はどんな人なんだろうといつの間にか私は気になるようになっていた


高崎さんはお客さまだから
プライベートな事は聞けない

だからそれに触れたことはなかった

本当は凄く… 聞きたい


きっと 想う女性がいるんだろうと …




入院先にお花とお手紙をわざわざ届けてくれた高崎さん…

“誰か”へのメッセージじゃなく
私宛てに初めて手紙をくれたことがとても嬉しかった


でも きっとその手紙には深い意味はない

とても律儀な方というだけなんだと思うようにした

だって高崎さんには毎週お花を贈るような想う人がいるんだから …



「また… お花を贈られますよね(笑) 」

「あぁ、うん(笑) えーっと… どれにしようかなぁ(笑) 」

嬉しそうな横顔 …


「この花をメインで… もらおうかな(笑) 」

高崎さんが指定した花を中心に他の花を混ぜて
こんな感じではどうかと訊ねるとそれでお願いすると笑顔で返ってきた

私はいつものようにメッセージカードを差し出した


ーー あっ
その瞬間胸がグッと苦しくなった


“ また会えて良かった 高崎 ”
メッセージカードにそう書かれていた



「会いたい方に… お会いできたんですね。」

「あぁ、、(笑) そうなんだ。」

嬉しそうに花を見つめていた


そうなんだね
ずっと会いたかった人なんだもの

とても幸せだよね


ちゃんと応援しなきゃ…


「良かったですね(笑) 」

「ん… 」優しく私に微笑みかけた


その笑顔 … 私には辛い


「ちゃんと彼女に想いを… 伝えようと思う(笑) 」
相手の方が羨ましい…


「やっぱり… 好きな人、なんですね。」

「…ん 初恋の人(笑) 子供の頃好きだった人なんだけど… また、、ね(笑) 」


ズキン ーー
胸に強い痛みが走った


初恋…
そう、なんだ…



「きっと… 高崎さんの想いは届いていますよ(笑) 」

「本当に… そう、かな。」
真剣な目で私を見つめた

その視線で
高崎さんがどれだけその方を真剣に想っているか

思い知らされた…


私は自分の想いを胸に閉じ込め
精一杯 笑顔を返した









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