気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Rain

2020-10-12 23:46:39 | ストーリー
Rain






雨は今日で何日目だろう

電車を降り改札を出て傘を広げた



ここから通っている大学までは15分ほど


雨の日の街はモノクロの世界のようだ
そのモノクロの中で花咲いているように傘の色が映える




ーー 田舎から東京に上京して二年

俺はこの都会の街で二十歳になった


授業が終わると直ぐにバイトの飲食店に向かう
厨房の中で皿洗いや雑務

それも生活費にあてるためだ


今夜もクタクタになってアパートに帰宅した

六畳の部屋と小さな台所
おまけみたいについたトイレと風呂

友達も似たような部屋だから貧乏学生の暮らしなんてみんなこんなもんだ


直ぐ側には電車が走っていて越してきた頃は全然熟睡できなかったけれど

人間ってどんな環境でも長く過ごすと慣れてくることを実感した



今日も雨…

俺は玄関の鍵をかけ傘をさして駅に向かった


いつものように電車に乗り

窓ガラスに雨粒があたっては流れていくのをぼんやり眺めていた

心の底から楽しいと思える
幸せだと思えることもなく

毎日毎日 大学とバイトの繰り返し


俺はこんなことがしたくてここ(都会)に来たんだろうか…


電車を降りて大学へと向かう道中にある橋を渡りかけた時

意味もなく自然と足が止まり川の水面にあたる雨粒の波紋を見つめた





「瀬名くん? 」

誰かに声をかけられ振り向いた



わ、可愛い子

俺と似たような年齢の女の子だった

赤い傘をさしていてクマの絵柄が入っている

少し子供っぽい傘だけどさしている女の子がもっと可愛いから違和感はない


でも… 誰だろ

こんな可愛い子なら忘れるはず無いんだけど…



「えーっと、同じ学校…だったっけ?」

「そう!真波 奈津!」



でも名前を聞いても思い出せない

俺が覚えていないその子がなぜ俺の顔と名前をしっかり覚えていたんだろう


「はぁ、どうも… 」

「こっちに出てきて二年も経つのに同郷の子と全く会わなかったから、こんな風に会えたのが嬉しい(笑)」


てことは大学が同じじゃなくて地元で同じ学校だったってことか

地元の言葉がすっかり抜けているその子はもう都会の子として生きている風に見えた


「あ… ごめん。俺、君のこと覚えてないよ…」

「そっか。ならこれから私と友達になってくれない?(笑)」

「は?」




俺と真波 奈津とはそんな出会いだった

彼女は俺とは違う大学に通っているらしい


彼女から電話がかかってくるのは決まって木曜日の23時30分だった



いつも同じ曜日と同じ時間
でもそれも毎週という訳ではないから

話ができるだけで浮かれてしまう


時々彼女が自分のことを話す時は懐かしそうに思い出話をしてくれる

それは決まって小学生から中学の頃の話
楽しい記憶が沢山あるんだろう



クラスの男の子とザリガニを釣ったことや

下校時にブロック壁にチョークで落書きをしたこと

家の人に見つかって慌てて逃げた時は恐かった~!と愉快そうに笑っていた

可愛い子なのにやんちゃな一面がある子なんだと彼女のことを知る度 俺は少しずつ彼女に恋に似たような感情が湧いてきた


「なっちゃん… 俺と… 遊びに行かない?」

『いつ?』

「来週は?来週のシフトだと木曜日が休みなんだけど… 」

『木曜日なら大丈夫(笑)』


今度は会える!
そのことに胸が熱くなった


「最近ずっと雨だけど明日は晴れみたいだよ(笑)」

『そうなんだ(笑) あ、もう直ぐ0時だね(笑) そろそろ寝なくちゃ(笑)』


いつも0時寸前に電話を終えて就寝するの彼女のルーティンのようだ



いつも電話で会話ができるのはたったの30分間だけど俺はデートをしているような気持ちになってる



「でも… 今度は会える… 」


俺はその夜
眠れなかった




ーーー




待ちに待った木曜日

15時半に大学を出て16時に間に合うよう約束の場所に向かった


ここしばらくは晴れが続いていたのに今日は久しぶりの雨

せっかくデート気分で女の子と会うのに雨って俺やっぱりついてないな



傘越しに空を見上げた

ズボンの裾が濡れた路面の雨が跳ね返り歩く度濡れてくる


今までの俺ならそんなこと気にもしなかったのに

彼女と会う今日は少しでも格好良く見られたいという想いがその濡れた裾をダサいと感じさせた


待ち合わせた場所にあのクマの絵柄が入った赤い傘をさしている彼女が待っていた…




「ごめん、遅かったかな、、どうして中で待ってないの?」

「嬉しくて早く着き過ぎちゃった(笑) 外で待ってると直ぐに瀬名くんを見つけられるから(笑)」


そういう可愛いことサラッと言う??
俺のこと好きなんじゃないかって勘違いするでしょ!?



「じゃあ、行こっか」


上京して二年も経つのにどこに何があるのか知らない俺はスマホ片手に街を一緒に歩いた

彼女は可愛いから時々すれ違う人にチラチラと見られる


俺には彼女の周りが輝いて見える

彼女が笑うと花が咲いたように見える

モノクロの世界が色づいて見える



… これが 恋だろう




それでも俺と彼女は

木曜日だけ会話ができる“友達” …




ーーー




大学はもう直ぐ夏休みに入る

休み中は地元に帰るのかと彼女は聞いてきた

盆休み前には帰ろうかと考えていたことを話すと彼女は帰らないと言った

ならまた東京で会おうと約束をした


8月の第4木曜日
俺達が出会った大学近くのあの橋の上で…




ーーー




地元に帰った俺は高校時代の友達と集まって飲みに出た


「なぁ。“真波 奈津”って知ってるか?」

「真波? 芸能人?」

「俺も知らねぇなぁ。誰だ?」


結局 友達は彼女を知らなかった

その時はみんな同じクラスにならなかったんだなということで話は終わったけれど

なにか心に引っ掛かった


高校のアルバムを引っ張りだした

AクラスからGクラスまで全ての生徒を辿っていく


ーー いない…


同じ高校じゃなかったのか?
途中で転校した生徒だろうか…


中学のアルバムを開いた

中学は生徒数がそう多くない


いたら直ぐに見つかるはず

でも
やっぱりいない…



変だな…


電話がかかってきた


地元の中学の友達 “タケっち” からだった

『瀬名、こっちに帰って来てるんだろ?明日祭り行くならカジも誘うから一緒に行こうぜ(笑)』

「おう、行こ行こ!そうだ!タケっち。“真波 奈津” って女の子、小中の頃、いた?」

『マナミ ナツ? そんな子いたっけ? あ!五年に転入してきて六年に上がって直ぐに転校していった女の子はいたよなぁ?その子?名前忘れたけど。』


転校? 全く覚えてない…

「その子の名前わからんかな。」

『女子のことなら女子に聞く方がわかるかも?聞いとこうか?で?その子がどうした?』

「ちょっと気になることがあって。」



本当は直接電話をして聞けば済むことだけど
なぜか彼女は木曜日以外 電話が通じない

それがずっと気になっていたけれど
それは聞いちゃいけないような気がして

俺は気になりながらも 彼女には聞けずにいた



もしかしたら

恋人とかいるのかもしれない

若いけど彼女は既婚者で
木曜日だけは旦那が不在なのかなとか

そんな知りたくない事実がそこにあるような気がして聞く勇気がなかった…




ーーー





翌日 祭りには小中一緒だった女子とタケっちがいた

タケっちが事前に聞いてくれていたからか
女子から転校していった女の子の話をしてきた

転校生はやはり真波 奈津だった


「なんだ、そっか(笑)」

やっぱり彼女と俺はちゃんと接点があったんだと安堵した

「でね、転校していったそのなっちゃんと文通してた妙ちゃんが言うにはね… 」





ーーー





ーー 嘘だ

そんなはずない

だって彼女は ーー




僕は直ぐに家に戻った

荷物をまとめる俺にオカンはもう帰るのかと驚いていたけれど

そんな言葉も振り切って俺は高速バス乗り場に向かった



ーー 今すぐ彼女に会いたい

俺はその気持ち一心だった



新宿バスターミナルに着いたのは早朝
東京はどしゃぶりの雨だった


彼女に電話をかけてもやっぱり出ない



俺は電車に乗り大学近くの橋に向かった





ーー 今日は木曜日


でも彼女と会う予定は来週の木曜日だ

当然彼女はいるはずない




それでも俺は 何故か彼女に会えるような気がした

この道を曲がると橋が見える…




そこには

子供っぽいクマの絵柄が入った赤い傘をさした彼女が橋の上から河面を眺めて立っていた



「…くそっ!なんでいんだよ… 」


ゆっくり彼女の元に歩み寄った


「なっちゃん… 」

声をかけると彼女がゆっくり俺の方に振り向いた



「瀬名くん… 約束した木曜日は来週だよ?」
困った顔して微笑んだ

「うん… わかってる… 」


雨は少し小降りになってきたけれど
ズボンの足元は完全に濡れて冷たくなっている

彼女の足元を見ると
不自然に全く濡れていない



ーー それが悲しくて



「なっちゃんはずっと… ここにいたの?」


ハッとした表情をした

「… もうっ、なんで気付いちゃったかなぁ(笑)」

彼女の瞳から涙が溢れ流れ出した


俺も汲み上げた涙で視界がぼやけ
まるで雨の海の中に彼女が立っているように見えた



同級生の女子が教えてくれた ーー

“なっちゃんね、東京に転校してから一年後に事故で亡くなったの。登校してる時 橋の上で事故に遭って。雨の降る木曜日だったって彼女のお母さんから聞いた。”





「瀬名くんは私の初恋の人だった…

瀬名くんが大人の二十歳になったらまた会いたいってずっと願ってたの

でもここは東京だから会えないんだろうなって思ってた


… でも会えた

奇跡が起こったって嬉しかったの

神様に願いが通じたから会わせてくれたのかなって


でも瀬名くん気付いちゃったから…

もうお別れ…

また会えて嬉しかった… 少しの時間だったけど幸せだったなぁ(笑)」



彼女は悲しそうに微笑んだ




「嫌だよ… 駄目だ!行かないで!」


彼女の手を掴もうとしたけれど
俺の手は何も掴めなかった


「俺がずっと気付かなきゃ一緒にいられたの?なら忘れるから、だからずっとずっと俺と一緒に、、」


「もう時間みたい… 」


微笑む彼女が次第に消えていくのを
俺はただ見ているしかなかった


「行かないで!俺はなっちゃんが好きなんだ!」


“嬉しい… ありがとう… ”


ーー そう言ったような気がした




そして
彼女は消えていき


そこには 空から太陽が光を落とした ーー





ーーー




俺のスマホにあったはずの彼女の電話番号は消えていた

あんなに電話した着信履歴も…


あの楽しかった日々は夢だったのだろうか…



でも 俺は “真波 奈津” に恋をした

三年経った今でも恋しい気持ちはずっと胸の奥底に残っている



ーー 雨の日の木曜日

今でもあの橋の上であのクマの絵柄の赤い傘をさした彼女に会えるように願いながら

俺は雨の中を歩いた



「… え?」

赤い傘をさした女性が河面を眺めていた



胸がドキドキする


歩み寄ると女性が俺に気付いた




「瀬名くん… 久しぶり…

どうして忘れてくれないの?(笑)」




少し大人になった彼女が微笑んでいた







Rain


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