第10話/サンタクロースごっこ

2006-12-07 13:47:30 | Weblog
30年前のクリスマスツリーは、今も12月になると二人だけの老夫婦の家で明かりを灯して孫たちが来るのを待っている。
「サンタクロースって、やっぱりお父さんだったんでしょう」
クリスマスの朝、サンタからの贈り物に気を良くしていた2年生だった息子が学校から帰るなりそう言った。
「お父さんは知らないよ」
 それでもしらを切ろうとする私に、女房は息子が学校でバカにされては可哀想だからもう教えてやって欲しいと言う。
 私も2年生にもなった息子には、もうサンタの秘密を教えてもいいと思っていたが、息子にサンタの正体を話してしまえば、きっと自慢げに妹にも話してしまう事が心配だった。
 しかし、まだ幼稚園に通っている娘にはもう少しサンタの夢を見続けさせてやりたい。
 
 アイデア親父としてはここは一番、息子にサンタの正体を教えても娘には絶対にその秘密をしゃべらないという方法を大急ぎで考えなくてはならなかった。
 それも、娘がお昼寝から覚める前に・・・。
           
「家族の全員がサンタクロースの秘密を知ってしまったら、もうクリスマスのプレゼントはお終いだが、一人でも知らない子がいるうちはまだクリスマスのプレゼント続くのだよ」
 私は息子の欲にからめた説得をすることにした。

 さらに翌年のクリスマスには息子もサンタの側に引き込んで、娘へのプレゼント捜しは息子と相談しながら買うことにした。
 ただ、息子へのプレゼントは、やはり自分も一緒に買ったのではクリスマスの楽しみがなくなるからと、後日私が一人で買って来てその日までしまっておくことにしたが、これまでは少しくらい息子の気に入らない品物でも、それはサンタさんのせいにしていられたが、今度からはそうはいかない。
 息子の希望のさらに裏をかいて、息子自身が知らないもので納得できるおもちゃを少ない予算の中で探し出すのは大変だった。
 こうして息子もサンタごっこに協力してくれたおかげで、娘は4年生のクリスマスまでサンタクロースを楽しんでくれたが、とうとう夢の破れるときが来てしまった。
「だって、サンタクロースからの手紙が日本語で書いてあるのがおかしいと思っていたんだ」
 娘もやはり学校のお友だちの中で、サンタは居る派と居ない派の論争の中で破れて来たのだろう。
 親心のつもりだったが、娘にしてみれば家族の中で自分一人が子ども扱いをされていたことが不満のようだった。

 こうして二人の子どもがサンタの秘密を知ってしまって、それでもうクリスマスプレゼントは終わったかというと、そうはいかなかった。
 今まで通り知らない振りをするから、そして中身に注文もつけないからと、クリスマスプレゼント続けてほしい・・・ということになり、翌年からはなれ合いのサンタクロースごっこは続けることになった。

 しかし、サンタクロースが持って来ると思っていた頃は数日前に買って、家の中に置いてあっても、子どもたちは気がつかなかったが、知らない振りをすると言いながらも、子どもたちはクリスマスの前日にはもう家の中のどこかにあることを知っているから家の中を捜しまわる。
「何を捜しているの?」
「別に、何も捜していないよ」
 とぼけた振りをしながら子ども探偵は家の中のあちこちを開けてまわる。
 押し入れ、戸棚、冷蔵庫、洗濯機の中まで点検し、それでも見つからないと私の仕事場まで探しに来る。
 広い家ではないから、すぐに見つかりそうなものだが、そこは子どもで大人の読みには勝てない。
 
 子どもたちは一度点検して<ここには無い>と決めたところはもう一度見ることはなかった。
 私が子どもたちの注意を引き付けているうちに、女房が子どもたちの点検済みの場所に移すという連係プレーでプレゼントを隠し、二人の子どもたちが中学に上がるまでの数年間はなれ合いのサ
ンタごっこが続いていた。

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