第16話/からくりロボット

2008-07-18 13:28:18 | Weblog
私がまだ小学生だった1940年代の半ば、近所の駄菓子屋で鞍馬天狗だったのか覆面の侍が手にした刀をヒョコヒョコと振り回すだけの単純な動きだが愉快な人形のおもちゃを売っていた。
 おもちゃ屋ではなく、駄菓子屋で売っていたと言うことは工場生産の量産品ではなく、手内職で作られたおもちゃだったのだろう。

 遠い記憶の糸をたぐってみるが、形は思い浮かぶが構造までは憶えていない。
 憶えていないというより、私はそのおもちゃを店先で手にとって動かしたことはあるが、買って遊んだわけでないから構造まで確かめたことはなかった。
 
 わが子が小学校に上がる頃になって、あの素朴な動きのおもちゃの面白さを味わわせてやりたいと思うようになり、試行錯誤で試作をくり返してどうやらそれらしい動きの仕掛けがわかってきたが、あの鞍馬天狗の姿では現代的でない上に作り方が複雑になりそうで子どもの工作としては難しいだろう。
 そこで、形は単純な箱型のロボットにすれば構造がより簡略化出来ることに気がついた。

 その試作が出来上がって数日経ったある日、友人のグラフィックデザイナーからタイミングよく電話があった。
「S社で工作のムック(マガジンとブックの中間的な本という造語)を作っていて、その中でロボットの特集があるのだが、お前も何か考えて参加してくれないか?」
 
 その頃はまだガラクティストという肩書きを使っていたわけでなく、ただ我が家の子どもたちとの接点を求めていただけの工作だったが、昔のおもちゃが復活出来たことの喜びだけで満足していたから、そのまま出来上がって間もないままのロボットを工作特集号に発表した。

 しかし、後になってそのアイデアはもっと改良の余地のあることがわかった。
 それは単純な箱型のロボットの胴体を作るのに、ボール紙で箱を作る展開図から作り方の説明をしていたが、ただ箱を作るだけに余計なエネルギーを使わなくても、石鹸などの空き箱を使えば、もっと簡単に作ることができることに気がついた。
 
 身近にあるものはそれを利用しない手はない・・・という現在の私のおもしろ工作的な発想の原点だった。


 最近は箱に入った石鹸はほとんど見られなくなったが、その当時の石鹸は1個づつ紙の箱に入っていて、その空き箱はからくりロボットを作るのにちょうどいいサイズだった。

 それから数年後の1983年の春NHKの「お達者くらぶ」という番組から「孫と遊ぼう」というテーマでお年寄りたちに新しい工作を教えて欲しいという依頼があり、私は4回の放送のうちそのひとつにこの改良型のからくりロボットも指導して、お年寄りからその動きの面白さをとても喜んでもらえた。

 ところで、この番組の収録が終わったところへ、スタジオの隅で見学をしていた東南アジアからの研修生がこのからくりロボットの見本が欲しいと言って来た。
 身近ながらくたで簡単にできるロボットのコミカルな動きは、外国からの研修生の青年の目にも楽しそうに映ったようだった。
 ロボットは本番で作ったもの他にもリハーサルで作ったもの、さらに料理番組のようにそれぞれの途中まで作った工程見本などもいっぱい残っていて、欲しいだけ持って行ってもらった。

 彼はきっと国へ帰ってから、NHKで学んだ技術をいかしてテレビの仕事をする傍ら、国の子どもたちにもあのロボットおもちゃの作りを教えてくれているだろう。

 そして、収録から1週間後にロボット作りが放送されたあくる日、当時まだ小学校の2年生だった娘の友だちが、その放送を見て作ったといって自作のからくりロボットを持って来てくれた。
 一度放送を見ただけで小学生に作れてしまったという事実に、私はこのロボットのおもちゃが小学生にも作れるまでに簡略化できたことの確信が持て、その後しばらくはいろいろなところでこのロボットの指導をしていたが、次第に石鹸は箱に入ったものが少なくなってロボット作りがしにくい時代になって来た。

 余談だが「お達者くらぶ」に出ていた当時の私はまだ40歳代の半ばで、60歳代後半の人たちに工作の指導をしていたが、今では68歳になった私が40歳前後の学童保育や児童館職員などの研修会に招かれて工作の指導をしていて、当時の私の年令とは逆の立場になっている。

「お達者くらぶ」から25年経った2008年の1月、神奈川県青少年センター主催の「子ども施設指導員セミナー」で久しぶりにこのからくりロボットを指導することにしたが、昔と違うのは材料の石鹸の空き箱が見つけ難くなっていることだった。

 それをどう補うかという問題を解決しないまま指導員さんたちはロボットの作り方を教わっても、受講者たちは子どもたちに教えようがない。
 幸いこの企画は数ヶ月程前から計画されていたので、私も石鹸の空き箱の他にどんな空き箱が使えそうか模索をする期間のあり、空き箱は菓子、薬の空き箱などを似たようなサイズの箱なら何でもいいこともわかり、いつでもというわけにはいかないが、その気になって空き箱を溜め込んでおけば大勢の子どもたちにもこのからくりロボットを作って楽しんでもらえることもようになった。

 私は自慢ではないが、去年や一昨年の新参者ではなく東京オリンピックの前の1963年、まだ花粉症という言葉すらなかった頃からの花粉症があり、毎年2月頃からは毎日鼻水とクシャミを押さえる薬を飲んでいて、1シーズンに2~3箱の薬を服用している。
 そこで、最近ではいろいろ売られている花粉症の薬を選ぶ基準として、効き目はどこの物でも大差はないことから、箱のサイズがからくりロボットの作りやすいサイズかどうかで決めている。
 他にビタミン剤などの薬や孫に買ってやるお菓子も空き箱が使えるかどうかで決めていて、こうして普段から空き箱を溜め込んではいるが、それでもまた50人ものからくりロボットの工作教室を開くにはまだ数年しないことには空き箱が貯まらない。


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