どうも!今住んでいる所に引っ越してきてからずっと通っていたTSUTAYAが先月の頭に閉店してしまい寂しい醤油。です!中学生の時に「スポンジ・ボブ」や「こち亀」などのDVDをたくさん借りてお世話になりました。ちなみに今回参考資料として使ったDVDはそこの閉店セールで買ったものです。
さて、今回は「ダック・ディーゼル三部作」の二作目です。「ディーゼルの たくらみ」(Dirty Work)。原題は「汚れ仕事」的な意味ですね。「きかんしゃトーマス」のアメリカ版では"Diesel's Devious Deed"というより分かりやすいタイトルとなり、日本語版でも「ディーゼルのわるだくみ」と直訳されています。原作の時点で米題に近いのは面白いですね。
さて、前回ダックにより屈辱的な目に遭わされたディーゼル。そんな彼の仕返しが始まります・・・
間違った貨車を牽いて壊してしまい、それを貨車たちに歌にされるという屈辱を味わったディーゼル。歌を止めないいたずらな貨車たちについて謝るダックですが、ディーゼルはどうしても彼を許す気にはなれません。
貨車たちを笑わせたのはお前だろう、とダックを責めるディーゼルを擁護したのはゴードン・ヘンリー・ジェームスの三台の大型機関車たちです。ダックたち機関車は考えは違えど、貨車たちにそんなことを吹き込まない、と。それは、「はじし・・・・・・はじ・・・・・・。」とヘンリーが言いかけるとすかさず・・・
「はずかしいことだよ。」と、ゴードン。
「はしたないことだよ。」と、ジェームズ。
「はじしらずなことだよ。」と、ヘンリーが さいごに いいました。
(ウィルバート・オードリー作/ジョン・ケニー絵/桑原三郎・清水周裕訳「ダックとディーゼル機関車」(1974)ポプラ社、P34)
どうです。この「は」から始まる三連発。三台合わせたストライキを実行したトリオなだけあって(「やっかいな機関車」に出ています)、一体感があります。「ことだよ」が揃っているのもいいですね!
さて、元の英語版がどうなっているかというと・・・
"That would be des - des..."
"Disgraceful!" said Gordon.
"Disgusting!" put in James.
"Despicable!" finished Henry.
(Awdry (1958) "Duck and the Diesel Engine", Egmont, P34)
見事な"Dis"の三連発("Despicable"は"Des"ですが発音は同じ)ですね。日本語版もそのニュアンスをうまく反映できていて素晴らしいと思います。あまりによくできた翻訳だからか、「汽車のえほん」とはかなり言い回しや訳が異なる「きかんしゃトーマス」でも、この訳がそのまま流用されています(同じ言い回しが出てくる「ディーゼルとぼうし」では残念ながら「全く面目丸つぶれだ」「ホント、ムカつくよ」「見下げはてたやつだ」と逐語訳になっています)。
これらの単語の意味を少し深堀りしてみましょう。
まず英語版。英英辞典には"Disgraceful"は”bad, embarrassing, or unacceptable”(「悪い」、「恥ずかしい」、もしくは「受け入れられない」)、”Disgusting”は、”extremely unpleasant and making you feel sick”(とても不愉快で、気分を悪くする)または”shocking and unacceptable”(衝撃的で受け入れられない)、そして”Despicable”は、”extremely bad, immoral, or cruel”(「非常に悪い」「非道徳的」または「冷酷」)だとあります。
日本語の定義も見てみましょう。引用するのは明鏡国語辞典です。「はずかしい」は「自分の失点・過失などが意識されて、人に合わせる顔がない気持ちだ。面目ない。引け目が感じられて体裁が悪い」、「はしたない」は「礼儀にはずれていて見苦しいさま。慎みがなく下品なさま」、「はじしらず」は「恥を恥とも思わないこと。恥になることをして平然としていること。また、そのような人。」とされています。
一番意味が原語に近いのは「はしたない」ですね。「はずかしい」についてはここでは自分自身のことではなくディーゼルについて語っているため少しずれる気もしますが、他人についても使われる表現であるので適切だとは思います。「恥知らず」も"despicable"に含まれる意味を「恥」が包含していると考えると腑に落ちますね。先ほども言いましたが、形式も意味もずれていない、作品内でもトップと言える素晴らしい訳だと思います。
さて、ディーゼルは貨車たちに取り入ってあることを吹き込みます。
(ウィルバート・オードリー作/ジョン・ケニー絵/桑原三郎・清水周裕訳「ダックとディーゼル機関車」(1974)ポプラ社、P37)
「きみたち、じょうだんが すきなようだね。きのうは、ずいぶん ぼくをからかってくれたじゃないか。ぼくも、はらをかかえて わらったさ。ところで、ダックから きいたんだけどね。ゴードンたらさ、まるで・・・・・・・・・・・いいかい、このことは ないしょだよ。ぼくが いったなんて、ゴードンにいうんじゃないよ」(ウィルバート・オードリー作/ジョン・ケニー絵/桑原三郎・清水周裕訳「ダックとディーゼル機関車」(1974)ポプラ社、P36)
この場合の「ゴードンにいうんじゃないよ」はもちろん本当に言ってほしくないのではなく逆心理を使用しているわけで、いわばバラエティ番組の「押すなよ・・・絶対に押すなよ・・・」みたいなものです。ちなみに「きかんしゃトーマス」では「昨日は君たちの面白い冗談に僕は大いに笑ったよ!」と訳されてていかにも翻訳調だと思った記憶があります。というか、主語が重複しちゃってますね。
というわけで、ディーゼルはゴードン、ジェームス、ヘンリーのトリオについての悪い噂を広めていきます。貨車たちに笑いものにされた彼らは何が起こったのかすぐに気が付きました。
「はずかしいことだ。」と、ゴードン。
「はしたないことだ。」と、ジェームズ。
「はじしらずなことだ。・・・・・・ゆるせない。」と、ヘンリーが いいました。
(ウィルバート・オードリー作/ジョン・ケニー絵/桑原三郎・清水周裕訳「ダックとディーゼル機関車」(1974)ポプラ社、P38)
先ほどの「は」から始まる三つの言葉を繰り返した後、三台はダックへの仕返しを実行します。
疲れ切って機関庫に帰ってきたダックは先ほどの三台に通せんぼされます。
(ウィルバート・オードリー作/ジョン・ケニー絵/桑原三郎・清水周裕訳「ダックとディーゼル機関車」(1974)ポプラ社、P41)
「ばかなまねは よせよ。こっちは つかれてるんだ。」
「こっちも おまえに うんざりだ。おまえなんかより、ディーゼルのほうが ずっと いいよ。なんだい、貨車に ぼくたちのかげぐちなんか いって。」
「そんなこと いわないよ。」
「いったじゃないか。」
「いわないってば。」
「いったよ。」
(ウィルバート・オードリー作/ジョン・ケニー絵/桑原三郎・清水周裕訳「ダックとディーゼル機関車」(1974)ポプラ社、P40)
と、口論になるわけです。英語版だと最初のダックの"I'm tired"にゴードン・ジェームス・ヘンリーが"So are we," "We are tired of you."と返すのですが、この"tired"という言葉の両義性が日本語だと失われてしまっているのがまた惜しいところです。
さわぎを止めにふとっちょのきょくちょうことトップハム・ハット卿がやってくるわけですが、そこでゴードンには<すっとびソーセージ>("galloping sausage")、ジェームスには<赤さびの ふる鉄>("rusty red scrap-iron")、ヘンリーには<ふるぼけ車輪の しかくあし>("old square wheels")という仇名が付けられていたことが分かります。
「きかんしゃトーマス」ではそれぞれ「走るソーセージ」「錆びた鉄屑」「コチコチの堅物野郎」と訳されているこれらの悪口を真面目に分析するのもバカバカしい感じがしますが一応真面目に分析していきます。
まずゴードンの"galloping sausage"の訳についてはそこまで変わりませんが、"gallop"という単語に注目しようかと思います。英英辞典だと"if a horse gallops, it moves very fast with all its feet leaving the ground together"(馬が"gallop"すると、足が一斉に地面を離れることで、速く移動する)、またもっと単純に、"to move very quickly"(とても速く移動する)となっているこの言葉。急行列車を牽き、この三部作が収録されている「ダックとディーゼル機関車」の1話目「こぶなし機関車」(Domeless Engines)でも時速100マイル(160キロ)で走った機関車シティ・オブ・トルーローに対抗し飛ばしまくった結果ドームを吹っ飛ばされるゴードンにピッタリの仇名ですが、実はゴードンのモデル機と同じく技師のナイジェル・グレズリーによって設計された実在するロンドン・アンド・ノース・イースタン鉄道のW1形蒸気機関車の仇名でもあったという、鉄オタの内輪ネタでもあるわけです。
(ロンドン・アンド・ノース・イースタン鉄道の公式サイトより)
"gallop"に話を戻しますと、そのニュアンスを忠実に再現できているという点では「えほん」の「すっとび~」に軍配が上がるところですが、「走る~」もそのインパクトを考えると捨てがたいです。実際に子供の頃「走るソーセージ」という言葉のパワーワードっぷりに笑った覚えがあります。
次にジェームスの"rusty red scrap-iron." 自慢の赤いボディを錆びたスクラップのようだと揶揄しているわけですが"red"が入っている分えほんの訳の方が原文に近いわけですね。"Rusty"(錆びた)と"Red"(赤い)で見事に頭韻を踏んでいますが前者は次の巻に出てくるラスティーというディーゼル機関車の名前にもなっています。その小さなディーゼル(なぜ「彼」でないかは今度書く・・・かもしれません)の登場回にも薄っすら今回の事件の影響が・・・読んでからのお楽しみ。なおラスティーは性格のいいディーゼル機関車とだけ言っておきます。
最後のヘンリーの"old square wheels." これは何が何だか初見ではよく分からないですね。翻訳者も解釈に困ったのか、全く違う訳になっていますね。とりあえず"square"という単語に注目してみましょうか。英英辞典で見るとまず"SHAPE-having four straight equal sides and 90゜angles at the corners(四つの同じ長さの直線と、90度の角を持つ形)"と出てきます。こちらの解釈を使ったのが原作の「ふるぼけ車輪の しかくあし」という訳です。しかしどうも腑に落ちませんね。当たり前ですが、四角い車輪だと走れませんし。大人向け海外アニメ「サウスパーク」に出てくるカナダの車じゃあるまいし。
ここで注目するのが別の意味です。"square"には"someone who is square is boring and old-fashioned"、つまり「つまらなくて古臭い人」という意味合いもあります。だから"old"という形容詞も自然と導き出されるわけですね。日本語的には「堅物」とでも訳しましょうか。そう、ここで「堅物野郎」の根拠が出てきます。「コチコチの」は語感でしょうね。後のシリーズでは気弱で優しい側面が定着したヘンリーですが、初期のヘンリーは雨で濡れたくないからと自分勝手にトンネルに閉じこもったり(「三だいの機関車」に出ています)、ストライキ中に働きに来たパーシーに嫌がらせをしたり(「やっかいな機関車」に出ています)とかなり嫌なやつとしての側面も強いです。必ずしも「つまらなくて古臭い」という定義には当てはまりませんが、とりあえず「何か嫌なやつ」というニュアンスなら合っていますね。いや合っているのかな。まあ悪口に深い考えなんてないか。
ちなみにこの"square"の両義性を利用したのが「きかんしゃトーマスのテーマ2」のトビーの歌詞です。"Toby, well let's say - he's square"という歌詞なのですが、路面機関車の四角い(Square)な形と古くから働いていて真面目な(Square)トビーの性格を掛けているわけですね。キャラソン「トビーのうた」の「むかしかたぎで かしこくて」(He's quaint and old-fashioned)ともどこか通じるようなこっちの"Square"はややポジティブなニュアンスを含んでいる感じもしますがそれでもどこかシュールさはぬぐえませんね。ちなみに日本語版は(またも)この両義性が失われ「トビー!しかくいなかま」とさらにシュールな歌詞になっています。こちらは聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
とにかくそのような酷い悪口を浴びたことで怒り心頭の機関車たちですがダックはそんなことは絶対にしないと抗議します。そこにぬけぬけと機関庫の後ろから現れ、事情を聞かれても知らぬ存ぜぬの態度を貫くディーゼル。結局局長はダックにしばらくエドワードの駅に行くよう命じます。機関車たちの信頼を壊すディーゼルの作戦は見事に大成功。「車庫のくらがりでは、かちほこったディーゼルが、にやにや わらっていたのです。」(ウィルバート・オードリー作/ジョン・ケニー絵/桑原三郎・清水周裕「ダックとディーゼル機関車」(1974)ポプラ社、P44)
(ウィルバート・オードリー作/ジョン・ケニー絵/桑原三郎・清水周裕「ダックとディーゼル機関車」(1974)ポプラ社、P45)
どうです。ディーゼルの悪魔のようなこの笑顔。子供向けの絵本にしてはあまりにも後味の悪い終わり方です。「きかんしゃトーマス」でも毎回最後に流れるエンディングのイントロが流れないという、悲劇的な終わり方になっています。トップハム・ハット卿もいじめに加担したみたいに見えますね。
ダックがあまりに可哀想なので、先ほどのダックの抗弁の中で面白かったところを挙げましょう。
三台の機関車たちが自分に付けられた悪口を告発した後、どうなんだとトップハム・ハット卿に聞かれたダック。次のやりとりは「えほん」の訳からは丸ごと削られ、「きかんしゃトーマス」でも途中までしか訳されていません。
"Well Duck?"
Duck considered. "I only wish Sir," he said gravely, "that I'd thought of those names myself. If the dome fits..."
Awdry (1958) "Duck and the Diesel Engine", Egmont, P42
おおまかに訳すと「どうだねダック?」「こういう名前、自分には思いつきません」といった感じで、「きかんしゃトーマス」でも「どうなんだ、ダック。」「ソーセージや鉄屑なんて言葉、僕には考えつきません」と訳されているこの箇所ですが、"If the dome fits..."が気になりますね。ここが両方の訳から削られているところです。
直訳すると「ドームが合うなら~」になりますが、なぜここでドームが出てくるのかというと、これはきっと先ほどの「こぶなし機関車」で爆走した勢いで自分のドーム(安全弁)を失くしたゴードンのことを揶揄しているのでしょう。"I only wish I'd thought of these names myself"(こういう名前を考え着いたら)と前置きした上で実際に悪口を考えちゃってるんでしょう・・・
だなんて執筆段階では思っていたのですが、どうやら"If the cap fits, wear it"という言い回しの"cap"を機関車風に"dome"に置き換えたものだそうです。「言われていることが当てはまるのなら、それを自分のことと思いなさい」という、いわば「人の振り見て我が振り直せ」みたいな意味ですね。それでも、何となくこの場においては違和感のある発言ですね。「悪口を言われる側にも原因がある」的なことを言いたいんでしょうか・・・わざわざ"dome"をチョイスするのも、先ほど言ったような理由でなんか悪口っぽい。
ちなみに英語圏の作品では擬人化された(本来の意味です。決して萌え美少女化ではない)キャラクターが自分達に合った少々変わった言葉の使い方をすることがあり、「汽車のえほん」「きかんしゃトーマス」では他にトーマスが"Sh*t!"みたいな感じで"Cinders and Ashes!"(消し炭と灰!)みたいな言い回しをすることがあります。体の中にあるもの繋がりでしょうか。「トーマス」関連以外だと、海底が舞台の「スポンジ・ボブ」では"Oh my god!"が海の神ネプチューンを引用した"Oh neptune!"みたいな言い回しになっていたり"f*ck"にあたる表現として"barnacles(フジツボ)"が使われていたりします。
ダックに話を戻しますと、彼はその後もう一回、本当にそういうことを言ったのかを局長に問われるわけです。そこでもダックは胸を張って(あるいは「ボイラーを膨らませて」でしょうか・・・)こう断言します。
「とんでもない。じょうき機関車が、そんな ひきょうなことを するもんですか、きょくちょうさん。」(ウィルバート・オードリー作/ジョン・ケニー絵/桑原三郎・清水周裕「ダックとディーゼル機関車」(1974)ポプラ社、P42)
立派に聞こえるこの発言も、またもや引っかかりますね・・・そう、わざわざ太字でじょうき機関車、と強調しているのです。英語版でも"No steam engine would be as mean as that."と"steam"を斜体にして強調しているこの発言。裏を返せば「蒸気機関車以外はそのようなことをするだろう」みたいな意図を引き出せるわけで、かなり差別的なニュアンスを帯びていますね。今まさにいじめられている側にもあるそういったことに繋がりかねない考えがあることを炙り出す、この上なくブラックユーモアに満ちたセリフだと思います。
もう一つ追記するとしたら冒頭でダックが貨車たちに言う"Shut up!"でしょう。英語に詳しくない人でも有名な、この「黙れ!」を示す言い回し。「汽車のえほん」では頻出ですが、「きかんしゃトーマス」では今回含め実は3回しか使われていません。それも全部2期の使用。3期以降似たようなシチュエーションがあった際にはより丁寧な"Be quiet!"に置き換えられているのですが、やはり子供向け作品にふさわしくない言い回しだから、ということなのでしょうか。ちなみに全3回の"Shut up!"のうち2回はダックの発言です。1回は騒ぐ貨車に、もう1回はエドワードをからかう機関車たちに言っています。わりと熱しやすい性格なのかもしれませんね。
さて、ダック絶対絶命。そんな彼にも次回、名誉挽回のチャンスがやってきます…
ちなみに今回、2年生の時に取った授業のレポート向けに調べた内容をちょっとだけ流用しています。前の調査で出来なかったことを補ったり、違う角度から膨らますことができて満足感があります。長い事研究(?)を続ける醍醐味と言うのかな。
参考文献・資料
- Awdry (1958) "Duck and the Diesel Engine", Egmont
- ウィルバート・オードリー作/ジョン・ケニー絵/桑原三郎・清水周裕「ダックとディーゼル機関車」(1974)ポプラ社
- 「きかんしゃトーマス じょうきはディーゼルにまけないぞ!」、ソニー・クリエイティブ プロダクツ、2011、DVD
- "LONGMAN Dictionary of Contemporary English 6TH EDITION" Pearson Education Limited, 1978, 2014
- 「明鏡国語辞典 第二版」<大修館書店>(2011-2016)
- LNER Encyclopedia: The Gresley W1 4-6-4 'Hush-Hush' Locomotive
- 英語「if the cap fits, wear it」の意味・使い方・読み方 | Weblio英和辞書