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MIRO ITO発メディア=アート+メッセージ "The Medium is the message"

写真・映像作家、著述家、本物の日本遺産イニシアティブ+メディアアートリーグ代表。日本の1400年の精神文化を世界発信

新年のご挨拶「さくねんのわれに ことしはかつべし」

2008-01-06 15:36:58 | Weblog
2007年がいつの間にか終わり、2008年が始まりました。

地球温暖化をはじめ、世界がひとつの危機的な転換期にある今、私個人の昨年といえば、ドイツ~アメリカ~日本と20年がかりで旅して求めてきたものが、実は日本文化の源にあり、長年の「見えない本物」をもとめた旅がひとつ終わった年となりました。

日本文化については、主に身体芸術を中心に、前衛から古典まで、これまで米国在住時より数えて5年がかりで取材をしてまいりましたが、それをひとつの形にできました。


★個展の作品55点がNY公立図書館の永久コレクションになりました。

昨年10月15日よりNYでの個展『Men at Dance - from Noh to Butoh:Japanese Performing Arts, Past and Present(能から舞踏へ)』は、NY公立パフォーミングアーツ図書館にて開催されています(2008年1月8日まで)。

http://www.nypl.org/research/calendar/exhib/lpa/lpaexhibdesc.cfm?id=474
http://www.jfny.org/news.html


国際交流基金の助成のもと、在NY日本国総領事館の後援を得て「NY舞踏フェスティバル」とのタイアップ展として、同図書館の主催にて実現いたしましたが、出品作品55点は、NY公立図書館の永久コレクションに寄贈いたしました。

撮影にご協力下さった舞踏家室伏鴻氏の「Quick Silver」、Sal Vanillaの蹄ギガ氏・KIK_07氏他の「inter-active」 、御能の世界からは観世流シテ方の武田志房氏の「高砂」、武田友志氏の「絵馬」、武田文志氏の「敦盛」、そして金春流シテ方の金春穂高氏の「翁白式」など、スタジオでの撮りおろし
によるコラボレーションの作品が、永遠にNYの公立図書館の収蔵品となり、今後、同図書館において教育・研究・展示目的のために、活用されることになります。

ご支援いただきました皆様に改めて深く御礼申し上げます。


★新連載『極意で学ぶ 写真ごころ』開始

昨年6月に上梓しました拙著『魅せる写真術』(MdNコーポレーション刊、日本図書館協会選定図書、ISBN 978-4844359210)にて、アナログからデジタル、アートからドキュメンタリー・広告の世界まで、写真家として培ってきた経験を次世代に託そうと、写真の教本を出版しましたが、この本の発刊がきっかけとなり、昨年11月号より『アサヒカメラ』誌(朝日新聞社)において連載が始まりました。

奈良の宗教行事から能狂言、古武道まで日本文化の中から世界へのメッセージを焙り出そうと、これまでの日本での取材活動を通して、日本はすぐれた「極意」の国であることも実感できました。数多の天才たちが人生のすべてを捧げ、技に託した「かたち」、かたちを超えたこころのあり方を「極意」として探り出しながら、写真のとっておきの技を伝授する講座になります。

モットーは「極意とは基礎なり」_。
デジタル機材の急速な普及により、写真を撮ることは趣味以上に生活に密着した習慣になってきましたが、写真が日常の「記念品」を創るならば、せめて絵を描く時のような「絵ごころ」ならぬ「写真ごころ」を持ってほしい、そんな願いをこめて、写真を撮る「こころ」の大切さを説いていきます。

日本やドイツで美学を学び、絵や写真を通して、美の世界に触れてきた私の持てるすべてを捧げる連載です。
よろしければご高覧ください。


★惜しまれる "The Last SAMURAI"、柳生新陰流前宗家・柳生延春師範逝去

日本文化の取材を通して出会ってきた中で忘れられないお方といえば、柳生新陰流・柳生延春前宗家です。昨年5月4日、88歳にて永眠されました。
(http://www.yagyu-shinkage-ryu.jp/yagyu.html)

戦前から戦後にかけて大転換した日本を古武道ともに生き、500年の道統を尾張の地に護り抜いた柳生延春師範の「武士魂」と兵法は、日本文化のかけがえのない文化遺産です。
私が撮影させていただいた時間はごく短く、前宗家の最後の二年間だけでしたが、前宗家には、まさに「極意の世界」の一端を見せていただきました。

前宗家がいつもおっしゃったお言葉は、

「きのうのわれに きょうはかつべし」____

88年間、どんなときも剣の稽古を欠かさなかった柳生延春師範の日々の鍛錬を支えたお言葉です。いまその言葉の重みを改めて感じるとともに、日本の失った「最後のサムライ」の喪失の大きさに、深い悲しみを感じえません。

延春師範の後を継ぐ柳生耕一現宗家の今後のご活躍を祈念いたすとともに、延春師範のご冥福を改めてお祈り申し上げます。

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私も今年は、延春師範のこのお言葉を座右に置き、

「さくねんのわれに ことしはかつべし」

と、これまでの活動をもう一つ先に進めていきたい気概です。

とりわけ、奈良を中心に日本の身体を通した「奉納」や祈りの文化を、古代から現代まで世界へ紹介する仕事をより包括的にすすめ、2010年を次なる目標に挑戦を続けていきます。

今年もまた遠大な夢に向かって、さらなる研鑽を積んでいきたい所存です。

本年もどうかご支援のほど、よろしくお願いいたします。

2008年1月

伊藤美露
http://www.miroito.com
text and photo by miro ito, all rights reserved.
photo: sky over kamiuma, 1.1.2008

極意で学ぶ写真ごころ -『アサヒカメラ』で連載が始まりました ( by Miro Ito )

2007-11-25 10:45:35 | Weblog
 極意で学ぶ写真ごころ
『アサヒカメラ』誌で新連載スタート

 アサヒカメラ誌で先月より、私の連載がはじまりました。
 日本の伝統の中で「極意」がどう理解され、目指されてきたかを見つめながら、それを作品をつくる上でも役立てたい、という願いをこめて、連載のタイトルは『極意で学ぶ写真ごころ』というものです。

 初心者から上級者までを対象に、写真術の基本中の基本でありながら、極めて大切な「極意」を伝えながら、絵を描くこころを「絵ごころ」と呼ぶように、写真をつくる心である「写真ごころ」を求めていくものです。

  写真にも絵のように、写真ごごろがあります。絵ごころが想像力の表現ならば、
  写真ごころは直観の産物です。ともに「テーマをどう捉えるか」という主張であり、
  発想やものの見方のスタイルといえますが、絵とは違い、写真では、線の代わりに
  光を使います。まずは、光をどう捉まえるか、
  第一回目では「露出の極意」から学んでいきましょう。
  (『アサヒカメラ』2008年11月号「極意で学ぶ写真ごころ」より)

 第一回目となった先月20日発売の『アサヒカメラ』11月号では、5ページで「露出の極意」を伝授しました。
 11月20日発売の12月号では、露出の極意を実践しながら、写真の「花」とは何か、を考えながら、写真ごころをいかに発揮するか、作品づくりを通して学んでいただきます。

 これから連載を通して、多くの方々に、写真術のとっておきの極意と写真をつくる楽しさを伝えていきたいと思います。

 興味のある方はぜひお読みくださいませ。

 2007年11月吉日
 伊藤美露

(ブログの図版は『アサヒカメラ』11月号のp.178-179、(c) text and photo by Miro Ito for Asahi Camera/Asahi Shimbun Co., Ltd.)

 ☆☆☆☆☆ NYにて伊藤美露 個展「能から舞踏へ」開催中 ☆☆☆☆☆
 "Men at Dance - from Noh to Butoh by Miro ITO:
 Japanese Performing Arts, Past and Present"
  開催場所: The NY Public Library for Performing Arts
  (Plaza Lobby-Steinberg Room), 40 Lincoln Center Plaza, NYC, NY 10023

 開催期間: 2007年10月15日から2008年1月5日まで
 開館時間: Tues, Wed & Fri: 11 to 6; Mon, Thurs: 12 to 8; Sat: 10 to 6
 http://www.nypl.org/research/lpa/

 ☆☆☆☆☆ 日本図書館協会選定図書 ☆☆☆☆☆
 『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』
 著:伊藤美露 定価 : 2,079円 B5判/160P/オールカラー    
 ISBN 978-4-8443-5921-0
 発行:株式会社エムディエヌコーポレーション

「ローライのフィルム」を使う、銀塩とデジタルを「空」に喩えてみる

2007-11-18 09:18:30 | Weblog
「ローライのフィルム」を使う、
銀塩とデジタルを「空」に喩えてみる

 ー 穏やかなどこまでも澄み切った空と、気流の乱れで変化を孕む空 ー

 ドイツのローライ(Rollei)から、モノクロフィルムが発売になりました。 
ローライといえば、二眼レフカメラメーカーの元祖です。かつて超小型レンジファインダーのローライも人気機種でした。その「ローライがフィルムを発売!」というニュースは、デジタルにより一変してしまった写真界では、久しぶりの明るいニュースになりました。
 今月15日発売の『コマーシャルフォト』12月号に、ローライブランドの新フィルムの概要が報じられ、私も作品を2ページ(P.104~105)で提供しています。   

 実は『コマーシャルフォト』誌をはじめ、いまアート系や大御所写真家の間では「フィルムを残したい」という気運が高まりつつあります。結論としては、私たちのような「アナログとデジタル」の両方を知っている世代が「フィルム」を残そうと努力しなくては、本当にこのままフィルムが消えてしまうかもしれない…という危機感があるからです。
 来年の写真界はきっと「フィルムを残そう」という気持ちがさらに新しい動きとなっていくのではないでしょうか。

 さてローライの新しいフィルムは、私が長年愛用していたドイツのAgfaフィルムがブランド替えをしたものです。ラインナップは、R3(10~6400の可変感度)、INFRARED(赤外線400)、PAN 25、ORTHO 25、RETRO 100、RETRO 400の5タイプですが、PAN25はかつて世界で最も微粒子といわれたフィルムです。このPAN25とINFRAREDを使って、金春流の能楽師、金春穂高氏の翁(白式)を撮らせていただきました。

 金春穂高氏とのコラボレーション作品は、現在NYで開催中の個展『Men at Dance-from Noh to Butoh』で発表していますが、メインの機材はHasselblad H-1とPhase-ONE(中判デジタル)の組み合わせです(協力:イイノ・メディアプロ)。 このたび4年ぶりにフィルムでも撮影をしてみて、銀塩カメラを使うプロセスがいかに複雑な難行だったか、改めて気づいた次第です。

 撮影後、フィルムで撮ったものと世界最高級の中判デジタルで撮ったものを比較してみて、それらが同じ画像のようで、別物であることも改めて発見しました。
 デジタルでの作品はコンディションがよい状態で撮影すれば、色調といい、コントラスト、鮮鋭度から階調まで、すべてにおいて最高のバランスが再現され、あまりにも完璧です。一方、銀塩フィルムでの作品は「粒子」の存在が独特の効果になっています。

 この違いを「空」に喩えれば、デジタルでの完璧な作品は、雲も風もないどこまでも穏やかに澄み亘った空だとすれば、アナログは気流の動きに揺れ、変化を孕んだ空かもしれません。
 デジタルでは「静」を、アナログでは「動」を感じるのも、粒子の存在によるものなのです。
 そう思うと、粒子こそ、かつては写真のいのちだったのだと、改めて写真の過去を振り返りながら、どちらも写真の未来においては、存続してほしいと願う気持ちがますます強くなっていきます。

 私が今回、金春穂高氏の「翁」を撮った作品でも、空をバックに翁舞いを演じてもらいました。
 そこにフィルムならではの、粒子に秘められたいのちと「動」が感じていただけたらと願っています。(作品は『コマーシャルフォト』12月号にてぜひご覧ください。)

伊藤美露
2007/11/18

 ☆☆☆☆☆ NYにて伊藤美露 個展「能から舞踏へ」開催中 ☆☆☆☆☆
 "Men at Dance - from Noh to Butoh by Miro ITO:
 Japanese Performing Arts, Past and Present"
  開催場所: The NY Public Library for Performing Arts
  (Plaza Lobby-Steinberg Room), 40 Lincoln Center Plaza, NYC, NY 10023

 開催期間: 2007年10月15日から2008年1月5日まで
 開館時間: Tues, Wed & Fri: 11 to 6; Mon, Thurs: 12 to 8; Sat: 10 to 6
 http://www.nypl.org/research/lpa/

 ☆☆☆☆☆ 日本図書館協会選定図書 ☆☆☆☆☆
 『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』
 著:伊藤美露 定価 : 2,079円 B5判/160P/オールカラー    
 ISBN 978-4-8443-5921-0
 発行:株式会社エムディエヌコーポレーション

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 『コマーシャル・フォト』 2007年12月号
 ■2007年11月15日発売
 ■B5 版 定価 1,650 円(税込み)
 ■発行:玄光社

ウエールズの空、Anno Birkin青年のこと

2007-10-27 22:54:27 | Weblog
ウエールズの空、Anno Birkin青年のこと

 リンカーンセンターのThe NY Public Library for Performing Arts の個展「Men at Dance - from Noh to Butoh by Miro Ito」の方は、在ニューヨーク日本総領事館と国際交流基金の後援を受け、15日より無事始まりました。

 リンカーンセンターはパフォーミングアーツのメッカとあって、世界中から舞台芸術に興味を抱き、また学びに来ている方々が訪れる場所ですので、このたびの展覧会開催の目的もそこにあります。ささやかですが、私の展覧会を通して、日本の伝統から前衛までの身体芸能の系譜が、少しでも多くの方々に知られるきっかけになればと願っています。

 NYではまた今週より「2007 NY Butoh Festival」が始まり、私がコラボレーションで作品を撮っている室伏鴻氏が公演とワークショップを開きます。(http://www.nybf.caveartspace.org/)
同時に今年100周年を祝うJapan Societyでも、日本から大野一雄・慶人の両氏をはじめ、麿赤児氏など舞踏の大御所が参加され、「舞踏の秋」が大体的に繰り広げられます。

 来週29日には、開始より2週間遅れて私の個展のオープニングレセプションもありますが、その合間を縫って、イギリス・ウエールズにやってきました。

 ウエールズへは3年半前に訪れて以来ですが、夭逝したイギリスの詩人でソングライターだったアンノ・バーキン(Anno Birkin)さんの故郷に再びやってきました。

 アンノ・バーキンさんのプロジェクトは、すでに私の近著『魅せる写真術』やホームページ (http://www.miroito.com/anno1.html)でも公開していますが、かの野村万之丞さんの偉業を伝えるプロジェクトが「太陽」だとすると、「月」のような位置づけです。私にとってはこちらもまた「招かれた」というか、不思議なご縁を感じています。

 長年ドイツやアメリカに住んでいたものの、イギリスとはほとんど縁がなかったのですが、いまはイギリスがどんどん好きになってきています。とりわけ、地位や教養もあるイギリス人の礼儀ただしさや分け隔てのない親切さには、一種の感動さえ覚えます。「ノブレス・オブリージュ (noblesse oblige)」とは、高貴なものの義務とでも訳される精神ですが、イギリスでは、上層階級だけでなく、チャリティーなどの慈善活動やボランティアなどの奉仕行為が、人として果たすべき大切な社会活動の一環になっています。

 かくいうアンノ・バーキン青年のプロジェクトも、ご家族の努力により、アフリカの子供たちにアートや演劇を指導するプロジェクト「Anno’s Africa」として育ちつつあります。具体的には、アンノ青年の詩集とCDの売り上げ等が献じられて、さまざまな活動に結びついています。詳しくは http://anno.co.ukをご覧ください。

 私がこれまでウエールズで撮ってきた写真や訳詩も、いずれ東京で新たに発表する際には、イギリスの「Anno’s Africa」プロジェクトと連動させた国際チャリティー事業として育てていきたいと願っています。
 そんなことを夢みながら、昨晩はウエールズの夕焼けを撮影しました。

 明日も、そしてそれに続く未来が、どうか少しでも多くの慈愛に満ちたものでありますように...

 ウエールズより 伊藤美露
 2007/10/25

 ☆☆☆☆☆ NYにて伊藤美露 個展「能から舞踏へ」開催中 ☆☆☆☆☆
 "Men at Dance - from Noh to Butoh by Miro ITO:
 Japanese Performing Arts, Past and Present"
  開催場所: The NY Public Library for Performing Arts
  (Plaza Lobby-Steinberg Room), 40 Lincoln Center Plaza, NYC, NY 10023

 開催期間: 2007年10月15日から2008年1月5日まで
 開館時間: Tues, Wed & Fri: 11 to 6; Mon, Thurs: 12 to 8; Sat: 10 to 6
 http://www.nypl.org/research/lpa/

 ☆☆☆☆☆ 日本図書館協会選定図書 ☆☆☆☆☆
 『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』
 著:伊藤美露 定価 : 2,079円 B5判/160P/オールカラー    
 ISBN 978-4-8443-5921-0
 発行:株式会社エムディエヌコーポレーション

NYでの個展が10月15日から始まります (NY公立パフォーミンングアーツ図書館、1月5日迄)

2007-09-30 19:24:01 | Weblog
 [ご案内] NYでの個展が10月15日から始まります
 (NY公立パフォーミンングアーツ図書館、1月5日まで)

 "Men at Dance - from Noh to Butoh by Miro ITO:
 Japanese Performing Arts, Past and Present"

 伊藤美露 写真展「能から舞踏へ:日本の身体表現、過去、そして現在へ」
 開催場所: The NY Public Library for Performing Arts (Plaza Lobby-Wall Gallery),
 40 Lincoln Center Plaza, NYC, NY 10023 /ニューヨーク公立パフォーミングアーツ図書館
(2007 NY Butoh Festivalとのタイアップ展)

 開催期間: 2007年10月15日から2008年1月5日まで
 助成:国際交流基金 (JFK Grant)
 後援:在ニューヨーク日本国総領事館
 協力:Canon USA, Inc., IINO MEDIAPRO CO., LTD., Media Art League L.L.C.

 出品作品:合計50点
 舞踏30点(室伏鴻『Quick Silver』、Sal Vanilla - 蹄ギガ、KIK_07ほか『inter-active』)
 御能 20点(観世流武田志房『高砂』、武田友志『絵馬』、武田文志『敦盛』、
 金春流 金春穂高『翁白式』)

ご挨拶

 かつてNYで体験した「911」以来、身体を通して命の大切さを伝え、祈りや鎮魂、自らを高き世界に捧げるという行為を見える形にしようと、「祈りの身体」「奉納の身体」というテーマで、日本の身体芸術を追いかけてまいりました。

 このほどNYの舞踏フェスティバル(2007 NY Butoh Festival) 開催とタイミングを合わせ、来月より始まる個展「Men at Dance-from Noh to Butoh:Japanese Performing Arts, Past and Presen (能から舞踏まで)」におきまして、日本での4年がかりの撮影の成果の一端を、50点の作品にまとめて発表いたします。

  50点の作品の中で登場する、撮影にご協力くださった方々は、日本を代表する能楽師、前衛舞踏家の皆様方です。 御能の世界からは、観世流のシテ方(主役)の重鎮であられる武田志房(Yukifusa TAKEDA)氏をはじめ、その志房氏を師にシテ方を継がれているご子息の友志 (Tomoyuki TAKEDA) 氏と文志 (Fumiyuki TAKEDA) 氏。そして金春流シテ方として奈良を拠点に活躍され、春日大社・興福寺の薪御能では欠かせない存在である金春穂高(Hodaka KOMPARU)氏。
 また舞踏界では、いまや日本のみならず世界の舞踏家となった、舞踏のベテラン、室伏鴻(Ko MUROBUSHI)氏。気鋭の若手でサイバー空間における舞踏の可能性を追究してきたSal Vanillaの蹄ギガ(Giga HIZUME)、KIK_07の両氏など、舞踏のインターナショナルシーンをリードする方々です。

  この個展では、主に祈りと鎮魂、大いなるものへ捧げる身体という視点から、作品を組み立ててみました。
 御能では「高砂」「絵馬」「敦盛」(観世流)をはじめ、奈良の春日大社の薪御能で演じられる翁白式(金春流)を、それぞれスタジオで撮りおろしています。
 また舞踏では、2006年のヴェネチア・ビエンナーレ(ダンス部門)の公式イメージとなった室伏鴻の「Quick Silver」、六本木ヒルズのオープニングイベントで演じられたSal Vainnlaの「inter-active」 (2003)を、スタジオで撮影。
 御能の特徴である「気と集中力」を、スタジオでの美しい光の中の一瞬の動きの中に見出し、また舞踏では、無意識から電脳空間までに広がる存在の深みを身体に乗せて、モノクロームに近い色彩構成の中で切り取ってみました。

  同展は、NY公立Performing Arts図書館の主催により、第三回目となった「 NY Butoh Festival 」とのタイアップ展として、実現の運びとなりました。私にとっては「ポスト911」プロジェクトとして、「世界発日本精神文化」の第一弾になりますが、コンテンポラリーダンスのメッカ、NYで日本の御能と舞踏の600年に跨がる美の対比がどのように受けとめられるか、身体、そして日本への新たな関心が芽生えてくれることを願ってやみません。

 能から舞踏へ__そこには人間と見えない世界の繋がりや、無意識の宇宙ともいえる「大いなるもの」への祈り、聖なるものへと自らを捧げるという奉納の気持ちが「共通項」として息づいています。このたびの個展「Men at Dance - from Noh to Butoh」では、日本の身体表現の伝統と現在を紹介しながら、このことをテーマにしました。

 同展を通して「奉納」や「祈り」の日本発のヴィジョンが、宗教や民族の違いを越え、人類に共通する願いとして、伝わっていってほしいと思います。

 伊藤美露
 2007年9月吉日
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 Location: The NY Public Library for Performing Arts / Plaza Lobby -Wall Gallery
 40 Lincoln Center Plaza, NYC / NY 10023-7498 / Phone: (212)870-1630
 Exhibition Hours: Tues, Wed & Fri: 11 to 6; Mon, Thurs: 12 to 8; Sat: 10 to 6

 ---------------------- 日本図書館協会選定図書 -------------------------
 『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』
 著:伊藤美露 定価 : 2,079円 B5判/160P/オールカラー    
 ISBN 978-4-8443-5921-0
 発行:株式会社エムディエヌコーポレーション

911から6年ー鎮魂と追悼の祈り

2007-09-11 10:33:12 | Weblog
911から6年ー鎮魂と追悼の祈り

NYで体験した「September 11」から、今日でちょうど6年が経ちました。

かつてニュースキャスターの下村健一さんの依頼で、下村さんがキャスターを務めていた「ネクストステージ」(BSジャパン)という番組での放映用に、詩を綴ったことがありました。

******************************
三つの選択

「その瞬間」に立ち遇ったことで、
NYの人々には大きな選択の時がやってきた。

人間世界の暗黒への「怒り」と「怖れ」を選択し、苦悩し続ける人。
感情で受け止められる以上の「憤り」を感じて「正義の戦い」に邁進する人、
そして「怒り」も「怖れ」も「憤り」も乗り越えて、
人類の新たな「愛」の連帯に目覚める人。

その3つの選択が、写真家である私自身にもやってきた。
写真家として「惨事」を「警告」として伝える人。
「悲劇」を「ドラマ」として切り取る人。
そして「惨事」と「悲劇」の向こう側に、
鎮魂と追悼の「祈り」を見つめる人。

私にできることは、ただひたすら平和のために、
カメラを通して「祈り」、地球を、そして人類を
愛し続けていくことだけだ。

NYではそれでも毎日くり返し、同じ選択が人々の心を駆け巡る。
「怒り」か「祈り」か?
「制裁」か「対話」か?
「戦争」か「平和的解決」か ...?

(詩:伊藤美露、BSジャパン「ネクストステージ:特集ニューヨークの『いま』/
ニュースキャスター、下村健一」 2001年10月6日放映より抜粋)

******************************

その後、私は「鎮魂と追悼の『祈り』を見つめる」選択をし、
身体を通して、見えない世界への橋渡しとなるような作品を作りたいと思い、
日本に戻ってきました。

私が伝えたいのは、身体という「衣」を脱ぎ捨てたとき、魂的にはすべての人が繋がっていること。
草木のすべてに仏性をみる仏教、万物にカミをみる神道など、表現の仕方は違っても、世界のすべてにいのちが宿り、すべては支え合っていること。
このことにもう一度立ち還ることで、誰しも世界への愛、他者への愛を取り戻せるのではないでしょうか。

空が気づきとなるのも、人が大いなる存在に抱かれていることに目覚め、
大いなる自然との繋がりを、意識できるきっかけとなるからでしょうか。

同様に、身体を通して「いのち」というレベルから、
人間の存在の重みが改めて問われるとき、
初めてなにをなすべきかが見えてくるのかもしれません。

911から6年_。
今日も世界が少しでも新たな愛に目覚め、
平和への種をひとつでも育むことを願いながら、
鎮魂と祈りのために、
永遠へと向かう時間の中で、
光を見続けていきたいと思います。


空に鎮魂と追悼の祈りを捧げながら....
合掌 伊藤美露

2007/9/11
text and photo by miro ito, all rights reserved.
sky over kamiuma, 2007.9.7


☆☆☆☆☆☆☆☆ 日本図書館協会選定図書 ☆☆☆☆☆☆☆☆
 『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』
 著:伊藤美露 定価 : 2,079円 B5判/160P/オールカラー    
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 発行:株式会社エムディエヌコーポレーション

野村万之丞さんのこと: 見えない本物を探る旅

2007-09-05 13:57:46 | Weblog
野村万之丞さんのこと: 見えない本物を探る旅

前回、癒しの日本文化の源について、ほんの少しばかり思いを巡らしましたが、海外で写真家・アーティストとして活動した後、立ち還ったのが日本文化です。
この3~4年間は、日本文化の中の祈りだったり、奉納だったり、聖なる世界を見えるかたちにしようと思い、日本の前衛から伝統を繋ぐ身体表現に絞って、日本で撮影してきました。

ドイツやNYに住んでいた私が、なぜ日本の伝統芸能に興味を持ち始めたかというと、そのきっかけは、911同時多発テロ事件です。テロ後のアメリカの大国の論理と世界の混沌の中で、日本文化から世界に対して「共栄共存」のメッセージを発信できないか,というのがその動機になります。

文化的な土壌が違う西洋に対してメッセージを発信しようとするとき、「癒しの哲学」である仏教への関心が深まり、すべての人間に共通する「身体」という土俵から、アートに凝縮された祈りや奉納のかたちを焙り出したい、と思うようになりました。

そのようなテーマを追いかけているとき、不世出の総合芸術家で狂言師の野村万之丞さんとの出会いがありました。
野村万之丞さんは、才能も思考も行動も、天才のみが持つ破格のスケールで、日本を代表するだけでなく、世界的な(そしておそらく歴史に残るような)人物でした。その万之丞さんは、中世の幻の芸能といわれた田楽の復興の後、仮面を通して世界を繋ぐプロジェクト「楽劇 真伎楽」を携えて、シルクロードを逆流する「マスクロード」を推進中に、3年前、44歳の若さで急逝されました。
その後万之丞さんの遺した作品のうち、私が撮影していた写真を、ご縁あって写真集や一周忌の回顧写真展をはじめいくつかの展覧会としてまとめたことが契機となって、日本文化にどっぷりと嵌まってしまった訳です。

野村万之丞さんとのご縁以来、御能や古武道、奈良の宗教行事ほか日本文化の深淵へと取材を進めてきましたが、それは万之丞さんが「見えないシン(神、真、心、信、親….)と呼んでいた「見えない本物」を探る旅となりました。

その一端をこの秋、NYにて「御能から舞踏まで(Men at Dance - from Noh to Butoh : Japanese Performing Arts, Past and Present) 」と題して、「The NY Public Library for Performing Arts」にて個展として発表します (10月15日から1月5日まで、40 Lincoln Center Plaza, NYC, NY 10023)。


さて空を見ていると、時折、野村万之丞さんのことを思い出します。
とくに台風の時は….

野村万之丞さん(本名:耕介さん)は、まさに台風のような人でした。
生前は「伝統芸能界の風雲児」などと呼ばれていたようですが、風雲児などという生温いものではなく、まさに行く先々で嵐を巻き起こす人でした。
嵐のように衝撃的なことを軽々とやってしまうだけでなく、本当に天のエネルギーと直結しているように、有名な「雨男」「雷男」「台風男」でした。天にそれだけ愛された人でした。

いつも大事な公演やお仕事のときには、大雨や雷、台風になったそうです。
案の定、3年前の葬儀のときも、最後の別れのとき、晴れていた空が急に泣き出し、大粒の雨が降ってきたことが思い出されます。最後の舞台となった六本木ヒルズでの公演も、降り続く雨の中でした。

私は雨や雪、霰さえが降っていても「晴れ」てしまう根っからの「晴れ女」なので、野村万之丞さんとは正反対ですが、行く先々で晴れてくれなかったら、写真家にはほとんど不向きだったかもしれません。

思えば、歴史とは、台風のような衝撃的な存在が時々現れて、見えない世界を暴き、次なる時代への橋渡しとなるムーブメントの種を植え付けて、それが一般の人々の心の中に深く実を結んでいくことで、連綿と作られてきたのだと思います。

万之丞さんの撒いた種である「楽劇 真伎楽」は、この秋、中国へ渡ります。
そして私の「見えない本物」を見つめる旅は、さらに続きます….


晩夏の雷雲を眺めながら…

伊藤美露
text and photo by miro ito, all rights reserved.
sky over kamiuma, 2007.8.20

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 『万歳楽ー大きくゆっくり遠くを見る 野村万之丞作品写真集』
 著:伊藤美露 定価 : 3,990円 大型本: 167ページ
 発行: 日本カメラ社 (2004/10)
  ISBN 978-4817920768
  野村万之丞さんのWebサイト http://www.tmdnet.jp

 ☆☆☆☆☆☆☆☆ 日本図書館協会選定図書 ☆☆☆☆☆☆☆☆
 『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』
 著:伊藤美露 定価 : 2,079円 B5判/160P/オールカラー    
 ISBN 978-4-8443-5921-0
 発行:株式会社エムディエヌコーポレーション
 http://www.MdN.co.jp/

癒しの日本文化、その源のかたち

2007-08-26 15:40:59 | Weblog
癒しの日本文化、その源のかたち

大学卒業後、ドイツへ移住し、その後アメリカへ移住した私にとって、好きな街を上げるとしたら….
ストックホルム、ブダペスト、ベルリン・ミッテ地区の博物館島、ヴェネチア、ニューヨーク・マンハッタン島でしょうか。
共通するのはすべて水のある街であること。
ドナウ河の両岸に東西に広がるブダペスト以外は、水に浮ぶ島の上に創られた街です。
島がそのまま都市となったモントリオールも、いつか住んでみたい場所です。

水辺ではないのですが、日本で一番好きな場所は、奈良です。
現在進めている海外向けの展覧会プロジェクト「祈りと懺悔の身体」の撮影・取材のため、奈良の宗教行事は欠かすことができませんが、奈良には癒しの場所が実にたくさんあります。

私にとっての癒しの場所は、例えば、東大寺~春日大社から若草山を見上げる散歩道。
西大寺から佐紀楯列(さきたてなみ)古墳群を巡る古墳の道。
般若寺や奈良豆比古(ならづひこ)神社のある奈良阪町の古い街並です。
そして柳生一族の史跡を辿る柳生街道、生駒山麓の宝山寺、明日香の古墳探訪、吉野の天河神社…等々。
この3年間、足しげく通ったのも、どれも素晴らしいパワースポットだからです。

京都では、嵯峨野の愛宕山にある愛宕念仏寺(おたぎねんぶつてら)を昨年訪れました。
私の敬愛する友人でヒーラーの原田真裕美さん (NY在住) のお勧めのヒーリングスポットです。
千二百羅漢と触れ合ったその足で、愛宕街道、嵯峨野の竹林を抜けて嵐山に向かう道は、何度でも訪れてみたい場所です。
京都は、残念ながらまだあまり探索できていませんが、これから御能や禅の取材がてら、いろいろ訪れてみたいと思っています。

私自身、ドイツ~アメリカを拠点に11年半~12年ほど海外で活動してきたこともあり、日本文化に「癒し」を求め、その出発点に「身体表現」を選びました。
NYから飛んできていた時期も含め、足掛け5年間がかりで、日本文化の源のかたちを取材してきましたが、そのパワー&ヒーリングの源は、実は、水、樹々、石や岩に宿る、カミそのものであることに気づくようになりました。

そう思うと、日本には実にたくさんのカミの姿形があり、カミの降りる聖地があり、聖なる滝があり、聖なる石、聖なる木や山があります。

日本文化を撮影しながら、いつしか日本文化を突き抜けて、さらにその奥底に流れる、自然のすべてに宿る見えないカミの姿を見つめていきたい、思う自分がいます。
もはや西でもなく東でもなく、いま日本文化を通して、限りなくロマン派に近づいていくのです。


今日も美し過ぎる雲を眺めて....

伊藤美露
text and photo by miro ito, all rights reserved.
sky over kamiuma, 07.08.23

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 『魅せる写真術 発想とテーマを生かす撮影スタイル』
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空、そして永遠の祈り

2007-08-20 19:33:05 | Weblog
空、そして永遠の祈り

8月15日の「終戦記念日」の空は、これまでに見た空の中でも最も美しい空のひとつでした。
東の上空に広がる竜巻雲が、地平線の彼方へと沈みゆく寸前の残り陽を浴びて赤く染まり、この世のものとは思えないほど怪しく、畏怖を感じさせるほどの美しい神秘の光を放っていました。

かつてNYで911を体験した時、その前日の東京の夕陽がいかに美しかったか、後になって知人から写真を見せてもらったことがありますが、その異様なまでに鮮やかな赤紫色の雲が、いまでも目に焼き付いています。
8月15日も、その翌朝に地震があったことで、「あれは地震雲だったかもしれない」と一瞬思ったほどです。神戸の震災の前にも「地震雲」が見えた、という話もあったそうです。

さて、空は実際、畏怖を感じさせる以上のものです。
私自身、911以降は、世界に祈りを捧げるプロジェクトとして、日本の伝統と前衛を繋ぐ「奉納の身体」「祈りの身体」という展覧会プロジェクト(※)をスタートさせましたが、空を見ていると、人智を超えた大いなる存在への祈りの原点に立ち戻れる気がします。

鈴木大拙禅匠の「禅は生命そのものであるから、生命の構造をなすものすべてを含んでいる。すなわち、禅は詩である、哲学である、道徳である。生命の活動のあるところ、どこにでも禅がある」(『禅』鈴木大拙著/工藤澄子訳、ちくま文庫より)のことばを思い出します。

以前のブログでも、禅は空(くう)を目指す、と記しましたが、空(そら)こそまさに禅そのものかもしれません。
そして空は詩であり、哲学であり、生命活動のあるところ、どこにでも空があり、空はどこまでも「永遠の祈り」なのです。

過去、現在、そして未来のすべての「終戦」に祈りを捧げて

伊藤美露
text and photo by miro ito, all rights reserved.
Sky over kamiuma,2007.8.15


※「祈りの身体」をテーマにした個展(能から舞踏へ)は、'07年10月15日~'08年1月5日まで、NY公立パフォーミングアーツ図書館(NY Public Library for Performing Arts)で開催予定です。詳細はまたブログでも掲載します。

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光を見続けるー光を観る心

2007-08-11 01:05:18 | Weblog
光を見続けるー光を観る心

人生の嵐の只中にいる時、「葛藤」に捕われないことが、それを乗り切る第一の秘訣です。

人間には「耐えられない試練」はもともと与えられてはいない、と言われますが、辛い経験や悲しみ、苦しみそのものには、人生のよい面をすっぽりと覆い尽くす、圧倒的な闇の力があります。
当事者にとっては、これまでの生き方そのものを否定されるような、大きな災難として降り掛かってきます。
そんな時は、自分の価値観を再検証する時です。
自分を一旦真っ裸にしてみて、人生の目標なり、大切に思うものは何か等、基本的な問いかけを行うときです。

私自身、複数の異国で人生をやり直すほどの衝撃的な体験が何度もありましたが、その時に支えとなったのは、「光を見つけたい」という目標でした。
とはいっても、光は照らすに相応しい対象が現れるまで、見出すことができない、といわれます。
私は写真家として、美学家として、人間が見せる「光」を、作品として見出すことを思い立ちました。

ニューヨークに2000年を機に移住したのも、世界に「光」となる言葉を投げかけていたり、活動をしている人々と出会い、インタビュー集にまとめたい、という目標を抱いていました。
その目標は、NYを離れたいまでは、日本発の展覧会だったり、東西を結ぶ映像作品企画として、形を変えてはいますが、「光」を見つめ続けていると、自分自身がいつしか本当に光の恩恵を受けるようになるものです。少なくとも、大きな力に護られていることに気づく時がやってきます。

闇からの攻撃的な力を感じたら、極力、自分の好きな物、目標としているもの、大切にしてきた世界観など、もう一度胸にしっかりと抱きしめてください。
私自身、アーティストとして三つの国で生きてきた中で、ひとつ声高に言えることは、最後に救ってくれるのは、他でもない自分自身の心の力です。どんな状況にあっても、光を見続ける勇気です。

自分が信じているもの、愛する人々、魂を捧げてきた活動なり、価値を、嵐の中でこそ、心底大切に慈しんでください。

素敵な未来を願って....

伊藤美露
2007/8/11
sky over kamiuma, 07.08.07
text and photo by miro ito, all rights reserved.

空から学ぶことー葛藤を手放す

2007-08-04 18:57:59 | Weblog
空から学ぶことー葛藤を手放す

空を観ることの素晴らしさは、視点が変わることです。
空は多くのことを教えてくれますが、葛藤に満ちた日常にあって、空から学べることは、まず悩みや落胆をいかに手放すか、ということかもしれません。

禅が説くがごとく、「葛藤という束縛」から解放されるためには、「自然や雲の精神そのものになること」「われわれ一人一人に本来備わっているすべての力を解き放つこと」(鈴木大拙)が理想ですが、そこまでジャンプできなくても、一度自分の視点を空の高みにまで、飛翔させることで、何かが変わるかもしれません。

空を見上げていると、全てが瞬時に移り変わるという無常観とともに、それでも空は空であり続ける、という普遍的な力にうたれる思いがします。
その普遍的な力に我が身を預け、すべてをあるがままに受け入れようと決意するなら、いま捕われている経験の別の側面が見えてくるかもしれません。

別の側面とは、苦しみを与えた相手の心の闇だったり、嫉妬や侮蔑などのネガティブな感情だったり…そこまで見え始めたら、相手が差別したり、苦しませる理由は何か、ということも思いつくかもしれません。
といっても、相手の頭の中までを変えることはできないのですが、少なくとも相手と同じレベルで対峙せず、相手も含んだ自分の経験そのものを、あたかも自分の身に起こったことではないことのように眺められるほどの、距離感と冷静さを持つ事が大切です。そうすれば、状況自体を容易に変えられないとしても、辛い状況自体には、もう振り回されなくなります。振り回されなくなることで、原因への洞察を勝ち得、心の中で次の段階を準備できます。

そして太陽が陰り、雨が降り、空が荒れ、嵐があっても、いつかまた日は昇り、太陽が照り出すのを待つのです。
台風シーズンの空の表情は、怒りや悲しみ、葛藤をいかに手放すか、人生という嵐の中で、教えてくれるように思います。

大切なのは、これは私自身の永年の経験ですが、嵐に振り回されず、嵐が過ぎ去るのを、次のステップを準備しながら、忍耐強く待つことです。
忍耐とは、魂の成長のために実に不可欠な階段といえるものですから。

台風の合間に撮った空を眺めながら

伊藤美露

text and photo by miro ito, all rights reserved.
sky over kamiuma, 28/07/2007

七夕の夕陽、思いやりの川

2007-07-21 22:31:11 | Weblog
七夕の夕陽、思いやりの川

 二週間前になりますが、七夕の夕陽の空を撮りました。

 日が沈んだ後は、織女星(こと座のベガ)とひこ星(わし座のアルタイル)の年に一度の逢瀬。
 7月7日が晴れならば、氷のように冷たい星の川を渡るのに、月の船人を頼まなければなりません。
 雨ならば、鵲の群れが天に昇り、天の川の上に翼を広げて橋をつくり、牽牛のもとへと織女を渡す助けをしてくれるそうです。

 夕陽からは、私のこころへと詩が流れ出てきました。

 「空、風、水、火、土。
  大いなる恵みが生まれる前に、最初に言葉があった。
  光はいつも言葉にあった。
  そして言葉には、天へと飛び立つ翼があった」

 翼をもつ言葉、
 それは感謝のことばです。

 ここのところ、日本の台風や地震など災害が相次ぎ、胸が詰まる思いですが、空、風、水、火、土....の、大いなる恵みへの感謝を身近な行動に変え、「思いやりの川」を渡っていきたいものです。

 伊藤美露
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 photo : sky over kamiuma, 07.07.2007


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モノクロームの空:台風一過

2007-07-15 23:12:19 | Weblog
 モノクロームの空:台風一過

 台風4号が過ぎ去った東京の空は、まるでロマン派の絵画のように印象的な光を湛えていました。
 雨雲で墨色に染まった空の「上澄み」では、白い綿菓子のような雲が強風で南西へとどんどん流される中、ほんの束の間、太陽が顔を出すと、まるでそこだけが空に出来た裂け目か光の泉のように見え、光と闇の「追っかけこ」が見え隠れしていました。

 海からの強い風が年中吹き付けるオランダで、よく眼にした、鉛色の空の色です。
 光の巨匠レンブラントを生んだオランダでは、北海からの偏西風の影響をうけ、雲は休むことなく東に流れ、季節に拘わらず強風になることがよくあります。天気の移り変わりが激しく、雲と風と光が絶えずドラマティックな空の表情を見せてくれます。

 そんなロマン派的なモノクロームの空を撮ろうと、工夫を凝らしたことがかつて幾度かありました。
PL(偏光)フィルターはもとより、モノクロの場合は赤色フィルターを使ってコントラストを高める、またコントラストの高い低感度フィルムを使う、赤外線フィルムを使う…などなど。デジタル時代になっても、人為を越えた自然の美しさには、技術など及ばないことを、空を撮っていると改めて実感します。

 台風4号で被害を受けた方々への弔いの祈りを捧げながら、鉛色の空を見上げながら、自然が作りだす美と同時に、その猛威の放つ私たちへの警告に改めて命の引き締まる思いでした。

 台風一過の宵に綴る
 伊藤美露
 2007/7/15
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限りなく月に近づく おぼろ陽

2007-07-02 22:53:09 | Weblog
限りなく月に近づく おぼろ陽


梅雨時のおぼろ陽のたそがれは、憂いの表情のように見えました。


 おぼろ陽の太陽は、嘆きの表情。
 黄昏とは名ばかり。灰色の空に一点だけ、火が灯ったような陽の鏡。
 梅雨の雲の束の間のいたずらか、おぼろ陽の後は、月が醒めた輝きを放つ満月の夜となった。

 灰色に沈む太陽の沈黙。
 輝きを曇らせるのは何に対して?
 闇への? 人類の驕りの? それとも月への抵抗?
 雲がいくら押し寄せても、悲しみの雨は降らせない。
 祈りを捧げても、慈しみの雨ももう降らさない。
 すべてを洗い流すお浄めの力もない灰色の空は、太陽の落胆の表情だ。

 太陽はもはや光ではなく、月も闇ではない。
 梅雨の日暮れに、太陽はいつしかオレンジ色のムーンストーンとなった。
 古代インドで月の宿る石といわれ、愛と希望の象徴とされた石。
 嘆きの中で、それでも太陽は、ムーンストーンの姿を借りて、月に限りなく近づくのだ。


梅雨の最中に綴る
伊藤美露
text and photo by miro ito, all rights reserved.
photo : sky over kamiuma, 27.06.2007

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 ISBN4844359215
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空、そして「空即是色、色即是空」

2007-06-23 22:43:11 | Weblog
空、そして「空即是色、色即是空」

夏至の翌日の夕暮れは、まさに「神の黄昏」という表現に相応しい厳かな風情でした。
このような瞬間に、人は誰しも詩人になり、写真家になるのだと思います。

この世ならぬ力の源へと、自然の中にある神の元へと回帰を目指したロマン派の詩人のように、
詩なり、絵画なり、芸術を通して、鈴木大拙師が説く如く「空や雲の精神」そのものになることができるのかもしれません。

そもそもこの世を超えた力とは、「自然に学ぶ」ように自然に親しみ、自然の懐に身を委ねていくことで、はじめて「光」として感じられるものだと思います。

そして禅が目指すのは、光と一体化し、いつしかそれさえも忘れ、あるがままに「空(無)」へと回帰していくこと。「空即是色、色即是空」とされる大乗仏教の根本のように、一切は空から出て、空に帰することを知覚すること。
宗教の目指す精神の世界の運動も、芸術も目指すものは同じ「空」です。

2007年、夏至の翌日
伊藤美露
2007/6/23
text and photo by miro ito, all rights reserved (sky over kamiuma, tokyo, 2007.6.23).

☆「ZEN」を世界に広めた鈴木大拙師については、多くの文献がありますので、読まれることをお勧めします。

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