そのおばあさんが一時帰宅しているというので、さっそくウチの母親が、デコポンを3つほど携えて見舞いに行った。
ほどなく帰ってきた母親に「おばちゃん、どうやった?」と尋ねると、笑いながらこんな話をしてくれた。
このおばあさんのガンは、軽くもなく、かといって重篤でもないらしく、入院して何週間か治療をしては、2~3日帰宅することを繰り返している。ご本人は、ガンとわかって治療をしているため、覚悟を決めて治療を受けている。消化器系のガンだけど、食べるのは大丈夫。
ところがこのおばあさん、けっこうワガママである。特に食事は、病院食を嫌って食べず、息子に車で運ばせている。息子は一日に2~3度、片道30~40分を車で通っているのだ。この息子、腰痛が持病。私よりも年上だが、実に気のいい人で、ニコニコしていつも気を遣っているような人。人当たりのキツイ物言いができない。息子の嫁さんも、近所に住む娘(息子の姉)も、実によく親を気遣い、大切にしている人たちなのだ。まぁ、そんなだからよけいにおばあさんがワガママになるのかも知れない。このおばあさんも、私たちには優しくて親切な人なのだが、やはり家族にはワガママになるんだろう。
そんなおばあさんが、腸かどこかにキズができて、出血して黒い便が出た。さっそく病院では輸血をしたそうで、酸素吸入を経験したという。
病室に戻って、おばあさんは、さすがにもうダメかも知れないと思ったのだろう、娘さんに「今までよく世話してくれたけど、もうアカンかもしれへん」と言った。すると、ふだんはおとなしい娘さんが激しく怒った。
「何を勝手なことばかり言うてるの! 弟が仕事そっちのけで、しかも腰痛をおして何度も通ってくれてるのに、無理して食事を運ばせて、ワガママばかり言っておいて、それで『もう死ぬ』とか、そんな勝手なこと言う気!? もうちょっとしっかり人の言うこと聞いて、病気を治そうと、なんで思われへんの!」
驚いているおばあさんに、その場にいたお医者さんがこう言った。
「ええこと言うてくれはった。そろそろきつく言って懲らしめんとアカンと思うてたんです。おばあさん、ええかげんに病院の言うこと聞いて、ちゃんと療養しなはれ!」
二度驚いたおばあさんは、ウチの母親に「これからはちゃんと言うこと聞くようにするわ」と言ったという。
このおばあさん、いい家族に恵まれてよかったなぁ、と思う。
それにしても、ガンになってもワガママ言いまくるほど、おばあさんというのは、いずこも元気なものらしいですな。

