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第3章 裁判所

2005年01月29日 | 憲法
第1 司法権の意味と範囲
1 司法権
 ・「具体的な争訟」について法を適用し宣言することによってこれを裁定する国家の作用
 ・「具体的な争訟」=事件性の要件=一切の法律上の争訟(裁判所法3)
2 法律上の争訟
 ・①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であってかつ②それが法律を適用することにより終局的に解決することができるものに限られる
 ・非訟事件は権利義務関係の存否に関しての争いではない→「その他法律において特に定める権限」
3 司法審査がおよばないもの
 ・事件性の要件が欠ける場合(裁判所3「法律上の争訟」)
  ①当事者間の具体的権利義務,法律関係に関する紛争の存在:国家試験の合否の判定には及ばない。
  ②法律適用による終局的解決可能性:板まんだら事件(宗教的事項には及ばない)
  (※法律上の訴訟ではないが法律により特に認められた訴訟類型→機関訴訟など)
 ・司法権の限界に関わる場合
  ①国際法上の限界→外交官の治外法権・安保条約による裁判権の制限
  ②憲法上明文の限界→弾劾裁判(64条),資格訴訟(55条),内閣による恩赦の決定(73⑦)
  ③憲法上の含意的(解釈上)限界:統治行為論,自律権論,裁量論,部分社会の法理(内部的事項),事情判決の法理,プログラム規定説
 ・客観訴訟:当事者の具体的利益と直接関わりなく法規の適用の客観的真正を確保することを目的とする訴訟。法律上の争訟であることは必要。当事者の具体的利益に関わらないでもよいというだけ
 ・民衆訴訟:客観訴訟の一つであり,国又は地方公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で,選挙人たる資格その他自己の法律上の利益に関わらない資格で提起するもの
   例)選挙無効訴訟,当選無効訴訟(公選202条以下),住民訴訟(地自242条の2)
 ・統治行為:政治部門の行為のうち法的判断が可能であっても(法律上の訴訟であっても)その高度の政治性故に司法審査の対象とされない行為
   根拠:①自制説
      ②内在的制約説
   判例:砂川事件・苫米地事件
 ・部分社会の法理
  ①国家内部に存する各種団体(部分社会)は②その公私を問わず③特殊的法秩序を形成しており,④それ故に当該団体内部の紛争は,(a)団体からの排除のごとき重大事項,一般市民法秩序と直接関係を有するもの,一般市民として有する権利を侵害していると認められるべき場合などを除き,(b)原則として国家法秩序,すなわち,一般市民秩序を予定する方を適用して解決すべきではなく,当該団体の「内部規律」の問題として,その終局的解決は当該団体の自治ないし自律に委ね,司法審査の対象とならないとする法理であり,⑤法秩序多元論を憲法上の司法権の限界に反映した理論
  (判例)
  ①地方議会の懲罰としての除名処分について,
   「重大事項であり単なる内部規律の問題に止まらない」として司法審査が及ぶとした=審査が適正手続にそってなされたか否かに限らない 
  ②政党の内部自治について
   「規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り・・・適正な手続に則ってされたか否かによって決すべき」。ただし,公序良俗に反している場合には審査は適正手続にそってされたか否かに限らない

第2 裁判所の組織と権能
1 「特別裁判所」(76Ⅱ前段)の設置不可
 ・「特別裁判所」=特定の人間または事件について裁判するために通常裁判所の体系から独立して設けられる裁判機関
 ・根拠
  ①14条,32条の保障の徹底
  ②司法権の総合的行使=法の統一的解釈
  ③裁判の民主化
2 実質的証拠法則(76Ⅱとの関係)
 ・行政機関により認定された事実につきこれを立証する実質的な証拠があるときはこれに拘束されるが,その実質的証拠の有無は裁判所が判断し,これがないと判断すれば,裁判所は行政機関のなした裁決を取り消すことができ,その限りにおいて76Ⅱに反しないとするもの
  ※「法の解釈・運用」は司法の核心を形成するのでこの点についての行政機関の判断に裁判所が拘束されるとするのは司法権の侵害である 
3 裁判官の任命(79Ⅰ,6Ⅱ)
 ・最高裁判所長官:天皇が任命(内閣が指名)
 ・その他の最高裁裁判官:内閣が任命(内閣が指名)
  ※最高裁判所裁判官に任期はなし(80Ⅰ後段参照) 
   最高裁判所裁判官には明文で定年が存在する(79Ⅳ)
 ・任命資格を法律で定めても違憲ではない
 ・法律で最高裁裁判官選考委員会を設けて内閣は同委員会が推薦した者を任命又は指名しなければならないとすることは内閣の最高裁判所裁判官任命権を侵害するおそれあり
 ・下級裁判所裁判官は最高裁の指名(名簿),内閣の任命
   任期は10年(80Ⅰ)
   定年あり(80Ⅰ但書)
4 最高裁判所(81条)
 ・最高裁判所から違憲立法審査権を奪うのは違憲
 ・高等裁判所が上告審でも憲法違反を理由とする場合には更に最高裁判所への上訴が認められなければならない 
 ・内閣の補助機関として現行法の合憲性についての諮問機関を設立しても,最高裁判所から憲法適合性についての最終的審査権を奪わなければ憲法違反ではない
 ・違憲審査する場合に必ず大法廷で裁判しなければならないわけではない。大法廷で合憲と判断したものと同意見の判断をする場合には,小法廷で裁判することができる(裁判所法10条)
 ・国民審査の制度趣旨(79Ⅱ,Ⅲ)
   最高裁判所が憲法の最終的解釈権限を持つことから(81条)
   主権者たる国民の監視のもとに置こうとする
 ・国民審査の法的性質(大ざっぱに分けて二つの説)
  ①解職制度(通説・判例)
   不信任されなければいい→身分保障としてはより強い
   罷免を求める者の数が分かればよい
  ②任命行為の完結
   信任される必要がある=身分保障としてはより弱い
   任命を可すなわち罷免を不可とする者の数が分かればよい。
  ※罷免制度とすれば審査される裁判官は特別利害関係人として投票できないとするのは違憲とはいえない。
  ※罷免を可とされても5年間最高裁裁判官に任命されることはできないが,下級裁判所裁判官に任命される資格は失わない。
5 裁判の公開(82条)
 ・「裁判」の「対審」と「判決」は「公開法廷」にて行う。
  「判決」は絶対的に公開しなくてはならない 
  「対審」は公開しなくてもよい場合がある(82Ⅱ)→裁判官の「全員一致」で「公の秩序又は善良の風俗を害する虞」があると決したとき
 ・対審を絶対的に公開しなければならない場合
  ①政治犯罪
  ②出版に関する犯罪
  ③憲法第三章で保障する国民の権利が問題となっている事件
 ・下級裁の各裁判官の意見は非公開
  最高裁判所では国民審査もあることから各裁判官の意見を表示することになっている(裁判所法11条)
 ・「裁判」とは
  →性質上純然たる訴訟事件(判例)
   家裁が親権者を定める場合は非訟事件→非公開としても82条に反しない
   訴訟事件:既存の権利義務の確定を目的とする事件
   非訟事件:実体法の適用による権利義務の存否の判断ではなく裁判所の裁量的判断による形成的処分が要請される事件
 ・「対審」とは
  →口頭弁論・公判手続
   口頭弁論期日外に裁判官が本人尋問するのを非公開にしても82に反しない
   「決定」「命令」は対審を要しないものとすることは可能(民訴法87Ⅰ但書)
 ・刑事裁判で録音などを裁判所の許可にかからしめているのも合憲(判例)
   法廷の秩序維持・被告人などの利益保護
6 陪審制(裁判所法3Ⅲ参照)
 ・大陪審(刑事,起訴陪審)
 ・小陪審(刑事,民事,審理陪審)
 ・陪審制の採用の可否
   「すべて司法権は・・裁判所に属する(76Ⅰ)」に反しないか
   「裁判所において裁判を受ける権利(32条)」を奪うことにならないか
   陪審の意見に裁判官が従うのは裁判官の独立(76Ⅲ)を害しないか
 ・参審制:素人たる参審員を裁判官と同席させ合議に加わらせる制度。憲法が任期など専門の裁判官を予定していることから陪審制以上に採用は困難であると考えられている 

第3 司法権の独立(76Ⅰ,Ⅲ)
 [趣旨]
 ・裁判が公正に行われ人権の保障が確保されるためには,裁判を担当する裁判官が他の諸々の権力による圧力,干渉を受けずに,公正無私な立場で職責を果たすことが必要
 ・司法権は法の支配実現の任務を負い,少数者の人権保障の最後の砦であるから,裁判を通じて人権を保護するにあたり政治的権力の圧力,干渉を排除する必要がある
 ・司法権は非政治的権力であり,政治性の強い立法権,行政権から侵害される危険性が大きい
1 司法権の自主性(独立=政治部門からの独立)
 ・最高裁判所の規則制定権(77Ⅰ)
 ・司法行政権(77条,裁判所法80Ⅰ)
 ・下級裁判所裁判官の指名権(80Ⅰ)
 ・裁判官の懲戒権(78後段)
2 裁判官の職権行使の独立(76Ⅲ)
  判決確定後でも再審に類する国政調査はできない
3 裁判官の身分保障→裁判官の職権行使の独立を確保する
 ・定年は「法律」で定める(規則では不可・79Ⅴ,80Ⅰ但書)
  ※定年をいきなり下げて,その年齢に達している裁判官を一律に退官させることは許されない 
 ・「定期・相当額」の報酬の保障(79Ⅵ,80Ⅱ) 
 ・任期制(80Ⅰ)
 ・罷免事由の限定(78前段・79Ⅲ)
  ①公の弾劾(64条・弾劾裁判),②心身の故障による執務不能の裁判(78条前段),(③最高裁判所裁判官国民審査(79ⅡないしⅣ))のみ
 ・「懲戒処分は,行政機関がこれを行うことはできない」(78条後段)
   裁判官の懲戒は戒告と「過料」のみで,懲戒免官はなし。「裁判手続」による。
 ・裁判官は「その意思に反して免官・転換・転所・職務の停止・報酬の減額」をされることはない(裁判所法48条)
 ・裁判官の執務不能の裁判(78条)
   高等裁判所の裁判について抗告可
   ※議員の資格争訟(55条)は抗告不可。
4 最高裁判所の規則制定権(77Ⅰ)
 ・訴訟に関する手続,弁護士,裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について下級裁判所に規則制定権限を委任することができる(77Ⅲ)
 ・規則で一般人を拘束する事項(いわゆる一般的・抽象的法規範)を定めることもできる。
 ・裁判所規則と法律
  ①規則事項について法律で定めることはできるか
   (a)専属事項説:裁判所規則の専属事項で法律で定めることはできない
    →②規則優位説へ
   (b)競合事項説:法律で定めることもできる(通説・判例)
    →②のいずれの説でも可能(ほとんど法律優位説に結びついている)
   (c)一部専属事項説:「裁判所の内部事項及び司法事務処理に関する事項」については規則の専権事項であり,「訴訟に関する手続,弁護士」については競合所管事項
    →②のいずれの説でも可能(専属事項は当然に規則優位)
  ②規則と法律の競合を認める場合の両者の効力関係
   (a)法律優位説:41条の趣旨
   (b)規則優位説:規則制定権の趣旨(裁判所の自主独立性の確保・実務に精通した裁判所の専門的・技術的判断の尊重)
   (c)同位説:「後法は先法を廃する」
5 最高裁判所長官任命について国民審査は必要か
 ①必要説
  ・79Ⅰ(任命)では両者は別個の「官」であると考えている
  ・15Ⅰはあらゆる公務員の罷免制度を憲法上要請している
  ・国民審査もできる限り広く認めるべき
 ②不要説(判例)
  ・79Ⅱ(国民審査)は「最高裁判所の裁判官」としており区別していない
  ・15Ⅰはあらゆる公務員の罷免制度を憲法上要請しているとはいえない
  ・裁判官は身分が保障されている(78条)のだから国民審査の対象はできる限り狭く介すべき
6 裁判所に対する民主的統制手段
 ・国民代表機関による民主的統制
  ①国政調査権(62条)
  ②司法権の組織,運営は法律に基づく(76Ⅰ)
  ③弾劾裁判(64条,78条)
  ④内閣の裁判官任命・指名権(6Ⅱ,79Ⅰ,80Ⅰ)
 ・国民が直接行う民主的統制
  ①最高裁裁判官国民審査(79Ⅱ)
  ②裁判の公開(82条)
  ③裁判批判(表現の自由・21条)
  ④陪審制度(立法論)
  ⑤リコール制(立法論)