六 共犯と身分
1 身分の意義
一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位または状態
性別、国籍、親族関係、公務員の資格などの関係に限られない。
→「目的」なども身分
2 真正身分犯(65条1項)
その身分により、初めて犯罪が構成される場合
例:収賄罪の「公務員」、偽証罪の「宣誓した証人」、強姦罪の「男性」、横領罪の「占有者」等
3 不真正身分犯(65条2項)
その身分が、刑の軽重に影響を与える場合
例:常習賭博罪の「常習者」、業務上横領罪の「業務者」等
4 業務上横領罪のように、不真正身分(業務性)と真正身分犯(占有)とが複合している犯罪については、65条1項、65条2項の双方が適用になる。(判例は、業務上横領罪に非占有者かつ非業務者が加功した場合、その者にも業務上横領罪が成立し、委託物横領罪の刑で処断されるとする。)
七 共犯と錯誤
1 具体例
甲が乙に、「Aを傷つけろ」と教唆したが、
(1)乙がBを傷つけた場合
(2)乙がBを殺した場合
2 処理→単独犯の応用である。注意が必要なのは、正犯にとっての客体の錯誤が、共犯とっては方法の錯誤となる場合があることである。
(1) (1)の場合
錯誤について法定的符合説の立場をとれば、甲には傷害教唆罪が成立する。
(2) (2)の場合
原則として過剰責任は負わない(個人責任の原則)。
→甲に殺人教唆罪は成立しない。
しかし、結果的加重犯においては、因果関係があれば、故意・過失がなくても重い結果について責任を負うので、教唆者も責任を負う。
→甲には傷害致死罪が成立する。
3 異なる共犯形式間での錯誤
(1) 間接正犯の意思で客観的には教唆犯にあたる行為をした場合
実質的にみた場合、間接正犯の故意は教唆犯の故意を包摂する→教唆犯成立
(2) 教唆犯の意思で客観的には間接正犯にあたる行為をした場合
→教唆犯の成立
八 予備と共犯
(1) 予備の共同正犯
①肯定説(判例、通説)
修正構成要件である予備罪自体にも、その「実行行為」は考えうる。60条の実行を43条の実行と同義に解する必要はない。
②否定説
60条にいう「実行」は、実行行為のことであり、修正構成要件たる予備はその実行行為には含まれない。
(2) 予備の教唆犯、幇助犯
①肯定説(判例、通説)
修正構成要件である予備罪自体にも、その「実行行為」は考えうる。
②否定説
62条の「正犯」は、実行の着手を前提とする。実質的にも、予備罪の処罰が例外的であるのに、さらに間接的な予備の従犯までを処罰するのは不当。
九 未遂と共犯
1 共同正犯の未遂
(1) 意義
共同正犯者の共同実行行為によって、全く結果が発生しなかった場合
→一部の者の行為が未遂に終わっても、他の者の行為が既遂に至れば、既遂犯が成立する。
(2) 中止犯
①自己の行為を中止し、かつ、他の共同者の行為も未遂に終わらせなければならない。
→他の者の行為が既遂に至れば、既遂犯が成立し、中止未遂とはならない。
②中止未遂は、責任の減少と刑事政策的理由から刑が必要的に減免される。したがって、中止した者のみが中止未遂となり、他の者は障害未遂が成立するにすぎない。
→a全員が合意の上で中止した場合
→全員について中止未遂
b一部の者が中止し、他の者の行為も未遂に終わらせた場合
→中止した者は中止未遂、他の者は障害未遂
2 共同正犯からの離脱
→離脱が認められれば、離脱の後の行為には責任を負わない。
(1) 意義
共同正犯者のうちの少なくとも一人が実行行為に着手した後に、他の一人が翻意し、犯罪遂行を中止したが、他の共同正犯者の以後の行為によって結果が発生した場合、生じた結果について中止した者が刑事責任を負うかにおいて最も問題となる。
(2) 要件
① 離脱の意思を表明し、他の共謀者が明示的または黙示的に了承したこと
他の共謀者に気付かれないうちにやめても、他の共犯者への影響、犯罪への因果性は断ち切られていないから。
② 離脱は既遂前ならば可能。
→実行着手後に離脱した場合は、未遂犯は成立する。そして、この場合は、さらに中止犯も考え得る。
(3) 共同正犯からの離脱と中止犯との関係
→離脱を先に検討し、次に中止犯を検討するとよい。
①実行着手前に離脱した →無罪
②実行着手後結果発生前に離脱した →未遂罪→中止未遂の成否を検討
③離脱はなかったが、結果は発生していない →未遂罪→中止未遂の成否を検討
④離脱なく結果発生 →既遂罪
3 教唆犯、従犯の未遂
(1) 意義
正犯が未遂に終わった場合
→教唆したが、被教唆者が決意しなかった場合や被教唆者が実行に着手しなかった場合は、不可罰(共犯従属性説)
(2) 中止犯
教唆者、幇助者が、被教唆者、被幇助者の行為を既遂に至らせなかった場合
1 身分の意義
一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位または状態
性別、国籍、親族関係、公務員の資格などの関係に限られない。
→「目的」なども身分
2 真正身分犯(65条1項)
その身分により、初めて犯罪が構成される場合
例:収賄罪の「公務員」、偽証罪の「宣誓した証人」、強姦罪の「男性」、横領罪の「占有者」等
3 不真正身分犯(65条2項)
その身分が、刑の軽重に影響を与える場合
例:常習賭博罪の「常習者」、業務上横領罪の「業務者」等
4 業務上横領罪のように、不真正身分(業務性)と真正身分犯(占有)とが複合している犯罪については、65条1項、65条2項の双方が適用になる。(判例は、業務上横領罪に非占有者かつ非業務者が加功した場合、その者にも業務上横領罪が成立し、委託物横領罪の刑で処断されるとする。)
七 共犯と錯誤
1 具体例
甲が乙に、「Aを傷つけろ」と教唆したが、
(1)乙がBを傷つけた場合
(2)乙がBを殺した場合
2 処理→単独犯の応用である。注意が必要なのは、正犯にとっての客体の錯誤が、共犯とっては方法の錯誤となる場合があることである。
(1) (1)の場合
錯誤について法定的符合説の立場をとれば、甲には傷害教唆罪が成立する。
(2) (2)の場合
原則として過剰責任は負わない(個人責任の原則)。
→甲に殺人教唆罪は成立しない。
しかし、結果的加重犯においては、因果関係があれば、故意・過失がなくても重い結果について責任を負うので、教唆者も責任を負う。
→甲には傷害致死罪が成立する。
3 異なる共犯形式間での錯誤
(1) 間接正犯の意思で客観的には教唆犯にあたる行為をした場合
実質的にみた場合、間接正犯の故意は教唆犯の故意を包摂する→教唆犯成立
(2) 教唆犯の意思で客観的には間接正犯にあたる行為をした場合
→教唆犯の成立
八 予備と共犯
(1) 予備の共同正犯
①肯定説(判例、通説)
修正構成要件である予備罪自体にも、その「実行行為」は考えうる。60条の実行を43条の実行と同義に解する必要はない。
②否定説
60条にいう「実行」は、実行行為のことであり、修正構成要件たる予備はその実行行為には含まれない。
(2) 予備の教唆犯、幇助犯
①肯定説(判例、通説)
修正構成要件である予備罪自体にも、その「実行行為」は考えうる。
②否定説
62条の「正犯」は、実行の着手を前提とする。実質的にも、予備罪の処罰が例外的であるのに、さらに間接的な予備の従犯までを処罰するのは不当。
九 未遂と共犯
1 共同正犯の未遂
(1) 意義
共同正犯者の共同実行行為によって、全く結果が発生しなかった場合
→一部の者の行為が未遂に終わっても、他の者の行為が既遂に至れば、既遂犯が成立する。
(2) 中止犯
①自己の行為を中止し、かつ、他の共同者の行為も未遂に終わらせなければならない。
→他の者の行為が既遂に至れば、既遂犯が成立し、中止未遂とはならない。
②中止未遂は、責任の減少と刑事政策的理由から刑が必要的に減免される。したがって、中止した者のみが中止未遂となり、他の者は障害未遂が成立するにすぎない。
→a全員が合意の上で中止した場合
→全員について中止未遂
b一部の者が中止し、他の者の行為も未遂に終わらせた場合
→中止した者は中止未遂、他の者は障害未遂
2 共同正犯からの離脱
→離脱が認められれば、離脱の後の行為には責任を負わない。
(1) 意義
共同正犯者のうちの少なくとも一人が実行行為に着手した後に、他の一人が翻意し、犯罪遂行を中止したが、他の共同正犯者の以後の行為によって結果が発生した場合、生じた結果について中止した者が刑事責任を負うかにおいて最も問題となる。
(2) 要件
① 離脱の意思を表明し、他の共謀者が明示的または黙示的に了承したこと
他の共謀者に気付かれないうちにやめても、他の共犯者への影響、犯罪への因果性は断ち切られていないから。
② 離脱は既遂前ならば可能。
→実行着手後に離脱した場合は、未遂犯は成立する。そして、この場合は、さらに中止犯も考え得る。
(3) 共同正犯からの離脱と中止犯との関係
→離脱を先に検討し、次に中止犯を検討するとよい。
①実行着手前に離脱した →無罪
②実行着手後結果発生前に離脱した →未遂罪→中止未遂の成否を検討
③離脱はなかったが、結果は発生していない →未遂罪→中止未遂の成否を検討
④離脱なく結果発生 →既遂罪
3 教唆犯、従犯の未遂
(1) 意義
正犯が未遂に終わった場合
→教唆したが、被教唆者が決意しなかった場合や被教唆者が実行に着手しなかった場合は、不可罰(共犯従属性説)
(2) 中止犯
教唆者、幇助者が、被教唆者、被幇助者の行為を既遂に至らせなかった場合