八 詐欺罪(246条)
1 要件
(1) 欺罔行為
(2) 被害者の錯誤
(3) 被害者の処分行為
(4) 行為者の取得行為
(5) (1)から(4)の因果関係
(6) (1)から(5)の故意
2 1項詐欺と2項詐欺
(1) 1項詐欺
財物を取得する場合
(2) 2項詐欺
財産上の利益を取得する場合
(3) 具体例:無銭飲食
① 1項詐欺
初めから所持金がなく支払ができないことを知りながら、レストランで飲食物を注文して給仕を受けた場合
② 2項詐欺
飲食後、代金支払の段階で、初めて所持金がないのに気づき、支払う意思がないのに、後で金を持ってくるなどと欺いてレストランから出た(代金支払を一時猶予してもらった)場合
(4) 2項は1項の補充規定(詐欺に限らず、強盗でも同じ)
被害者を欺罔して金銭支払の約束をさせ、後にその約束に基づいて金銭の交付を受けた場合、約束の時点で2項詐欺の既遂が成立するかにみえるが、最終的な目標が金銭の交付にある以上、約束の時点で1項詐欺の未遂となり、金銭の交付を受けた時点で1項詐欺の既遂となる。
3 欺罔行為
(1) 意義
財物を交付させるために、人を錯誤に陥らせる行為
(2) 種類
① 積極的に虚偽の事実を告げる場合
例:安物の時計を、ロレックスの時計と偽る
② 相手方が誤解しているのに乗じ、態度でその誤解を真実だと思わせた場合(挙動による欺罔)
例:無銭飲食
③ 相手方が錯誤に陥っていることを知りながら、重要事項を告知しない場合(不作為による欺罔)欺罔行為は作為、不作為をとわない。ただし、不作為は、告知義務がある場合に限られる。
例:準禁治産者であることを隠して借金をした場合
例:釣銭詐欺
(3) 欺罔行為がなければ、詐欺罪の実行の着手はない。
4 錯誤
(1) 意義
真実と観念の不一致
(2) 被害者が錯誤に陥らなければ、その他の要件を全て満たしても、せいぜい詐欺未遂罪が成立するにすぎない。
例:被害者が、自分を騙そうとしてくる犯人のことをかわいそうに思って、財物を交付した場合
5 処分行為
(1) 意義
①1項詐欺の場合
→錯誤に基づいて財物を交付すること
例:無銭飲食における、飲食物の提供行為
②2項詐欺の場合
→錯誤に基づいて財産権処分の意思表示をすること
例:無銭飲食における、支払の一時猶予の意思表示
(2) 処分行為者は、被害者と同一である必要はないが、被害者の財産を処分しうる権限または地位を有することが必要。
例:カード詐欺においては、加盟店を騙し、カード会社から加盟店に代金を立替払いさせ、加盟店への代金債務の支払を免れる(被害者はカード会社)という2項詐欺の構成を考えることができる。
(3) 処分行為がなければ、詐欺罪は成立せず、窃盗罪の成否が問題となる。
例:レストランで食事をした後、金がないことに気付いたため、何も言わずに走って逃げ出した場合は利益窃盗になり、不可罰。
6 損害の発生
個別財産について生じればよく、被害者の全体財産が減少する必要はない。
例:1万円の時計を、「10万円のものだが、1万円に値引きする」と偽って売った場合も、詐欺罪である。
7 不法原因給付と詐欺
(1) 1項詐欺の場合→交付を受けた財物が民法上返還義務を負わない場合
例:通貨を偽造して儲けるからと言って出資させた場合
→詐欺罪成立(判例、通説)
交付前の金銭の所有(所持)そのものは保護される。
(2) 民法上請求権がない財産上の利益を免れた2項詐欺の場合
例:欺罔により売春代金を免れた場合
→①詐欺罪成立説(判例)
民事上の責任と刑事上の責任とはその本質を異にする。
②詐欺罪不成立説(有力説)
民法上保護されない請求権を刑法上保護すると、民法で請求権のない債務の履行を強制することになって不当。
8 問題となる詐欺の類型
(1) 国家的法益と詐欺
①旅券の交付、脱税には詐欺罪は不成立←国家、公共団体の統制作用である
②統制物資の不正受給には詐欺罪が成立←国家、公共団体の活動のとはいえ財産権を侵害する行為である
(2) 無銭飲食
①当初から代金支払の意思がない場合
→代金支払意思がないことを秘して酒食を注文する行為自体が「挙動による欺罔行為」であり、酒食の提供を受けた時点で1項詐欺罪が成立する。
②飲食後代金支払の意思がなくなった場合
→そのまま逃走すれば利益窃盗で不可罰。店員に対し、後で持ってくる等言って一時的に支払猶予を受けた場合は2項詐欺罪が成立する。
(3) 釣銭詐欺=釣銭を受けとる際、多いと分かりながらそのまま受け取る行為
→釣銭が多い旨を告知する義務があるので、不作為による欺罔行為があり、釣銭支払者が客をそのまま返す行為が処分行為となる(釣銭を多く払ったという認識はないが、「客をそのまま帰せば」、「もし多く支払っていたとしても返してもらえなくなる」という状態で客をそのまま帰す行為は処分行為といえる)。
(4) 無断で他人のキャッシュカードで預金を払い戻す行為
キャッシュカードを自動支払機に入れて預金を払い戻す行為には、人が介在しないので、欺罔行為も処分行為もなく、詐欺罪は成立しない。しかし、機械から不正に金を抜き取ることになるから、窃盗罪が成立する。
(5) 訴訟詐欺=民事裁判で、裁判所に虚偽の主張、証拠を提出し、裁判所を騙して自己に有利な判決を受け、これに基づき、相手方から財物または財産上の利益の交付を受ける行為
→国家の機関である裁判所も、当事者の提出した主張、証拠によって判断するのであるから、欺罔されたといえる場合もある。そして、裁判所の出した給付判決は、債務名義として強制執行が可能であるから、裁判所が被欺罔者、処分行為者、相手方を被害者とする詐欺罪が成立する(通説)。
(6) キセル乗車
①下車駅標準説(通説)
下車駅で料金精算を免れるべく正規の乗車券を提示した行為を欺罔行為、改札係が改札を通過させる行為を処分行為とする。
②乗車駅標準説(一部下級審判例)
キセルを目的とした乗車券は無効である。その無効な乗車券で乗車駅の改札口を通過する行為が欺罔行為であり、改札係員が被欺罔者、処分行為者(運転士、車掌、鉄道会社という組織体を処分行為者とする説もあり)である。
③否定説(一部下級審判例)
①説は無意識の処分行為を認めることになる。②説は、乗車券は精算できるのだから、無効となるのはおかしい。また、改札係員が処分行為をする権限を有しないし、また、車掌や鉄道会社を処分行為者とすると、被欺罔者たる改札係員の意思支配のもとに処分行為が行われていないことになる。
霰 クレジットカード詐欺=他人のクレジットカードで品物を購入する行為
①加盟店に対する1項詐欺説(実務)
加盟店は会員に支払能力がなければ、クレジット・カードによる取引を拒絶すべきであるから、クレジット契約のもと加盟店から商品の交付を受ける行為が詐欺罪を構成する(加盟店はクレジット会社から代金の支払を受けるが、占有説的立場によれば、商品を失うこと自体を損害といいうる)。
②クレジット会社に対する2項詐欺説
加盟店はクレジット会社から代金の支払を受けるから、加盟店自体には損害はない。しかし、クレジット会社は損害を受ける。そして、クレジット会社は加盟店に対し、代金立替払義務を負っており、加盟店はクレジット会社の財産を処分する地位にあるといえる。すると、加盟店を欺罔し、加盟店に、クレジット会社に代金を立替払いさせるという処分行為をさせ(被害者はクレジット会社)、加盟店に対する代金の支払義務を免れるという2項詐欺罪が成立する。
1 要件
(1) 欺罔行為
(2) 被害者の錯誤
(3) 被害者の処分行為
(4) 行為者の取得行為
(5) (1)から(4)の因果関係
(6) (1)から(5)の故意
2 1項詐欺と2項詐欺
(1) 1項詐欺
財物を取得する場合
(2) 2項詐欺
財産上の利益を取得する場合
(3) 具体例:無銭飲食
① 1項詐欺
初めから所持金がなく支払ができないことを知りながら、レストランで飲食物を注文して給仕を受けた場合
② 2項詐欺
飲食後、代金支払の段階で、初めて所持金がないのに気づき、支払う意思がないのに、後で金を持ってくるなどと欺いてレストランから出た(代金支払を一時猶予してもらった)場合
(4) 2項は1項の補充規定(詐欺に限らず、強盗でも同じ)
被害者を欺罔して金銭支払の約束をさせ、後にその約束に基づいて金銭の交付を受けた場合、約束の時点で2項詐欺の既遂が成立するかにみえるが、最終的な目標が金銭の交付にある以上、約束の時点で1項詐欺の未遂となり、金銭の交付を受けた時点で1項詐欺の既遂となる。
3 欺罔行為
(1) 意義
財物を交付させるために、人を錯誤に陥らせる行為
(2) 種類
① 積極的に虚偽の事実を告げる場合
例:安物の時計を、ロレックスの時計と偽る
② 相手方が誤解しているのに乗じ、態度でその誤解を真実だと思わせた場合(挙動による欺罔)
例:無銭飲食
③ 相手方が錯誤に陥っていることを知りながら、重要事項を告知しない場合(不作為による欺罔)欺罔行為は作為、不作為をとわない。ただし、不作為は、告知義務がある場合に限られる。
例:準禁治産者であることを隠して借金をした場合
例:釣銭詐欺
(3) 欺罔行為がなければ、詐欺罪の実行の着手はない。
4 錯誤
(1) 意義
真実と観念の不一致
(2) 被害者が錯誤に陥らなければ、その他の要件を全て満たしても、せいぜい詐欺未遂罪が成立するにすぎない。
例:被害者が、自分を騙そうとしてくる犯人のことをかわいそうに思って、財物を交付した場合
5 処分行為
(1) 意義
①1項詐欺の場合
→錯誤に基づいて財物を交付すること
例:無銭飲食における、飲食物の提供行為
②2項詐欺の場合
→錯誤に基づいて財産権処分の意思表示をすること
例:無銭飲食における、支払の一時猶予の意思表示
(2) 処分行為者は、被害者と同一である必要はないが、被害者の財産を処分しうる権限または地位を有することが必要。
例:カード詐欺においては、加盟店を騙し、カード会社から加盟店に代金を立替払いさせ、加盟店への代金債務の支払を免れる(被害者はカード会社)という2項詐欺の構成を考えることができる。
(3) 処分行為がなければ、詐欺罪は成立せず、窃盗罪の成否が問題となる。
例:レストランで食事をした後、金がないことに気付いたため、何も言わずに走って逃げ出した場合は利益窃盗になり、不可罰。
6 損害の発生
個別財産について生じればよく、被害者の全体財産が減少する必要はない。
例:1万円の時計を、「10万円のものだが、1万円に値引きする」と偽って売った場合も、詐欺罪である。
7 不法原因給付と詐欺
(1) 1項詐欺の場合→交付を受けた財物が民法上返還義務を負わない場合
例:通貨を偽造して儲けるからと言って出資させた場合
→詐欺罪成立(判例、通説)
交付前の金銭の所有(所持)そのものは保護される。
(2) 民法上請求権がない財産上の利益を免れた2項詐欺の場合
例:欺罔により売春代金を免れた場合
→①詐欺罪成立説(判例)
民事上の責任と刑事上の責任とはその本質を異にする。
②詐欺罪不成立説(有力説)
民法上保護されない請求権を刑法上保護すると、民法で請求権のない債務の履行を強制することになって不当。
8 問題となる詐欺の類型
(1) 国家的法益と詐欺
①旅券の交付、脱税には詐欺罪は不成立←国家、公共団体の統制作用である
②統制物資の不正受給には詐欺罪が成立←国家、公共団体の活動のとはいえ財産権を侵害する行為である
(2) 無銭飲食
①当初から代金支払の意思がない場合
→代金支払意思がないことを秘して酒食を注文する行為自体が「挙動による欺罔行為」であり、酒食の提供を受けた時点で1項詐欺罪が成立する。
②飲食後代金支払の意思がなくなった場合
→そのまま逃走すれば利益窃盗で不可罰。店員に対し、後で持ってくる等言って一時的に支払猶予を受けた場合は2項詐欺罪が成立する。
(3) 釣銭詐欺=釣銭を受けとる際、多いと分かりながらそのまま受け取る行為
→釣銭が多い旨を告知する義務があるので、不作為による欺罔行為があり、釣銭支払者が客をそのまま返す行為が処分行為となる(釣銭を多く払ったという認識はないが、「客をそのまま帰せば」、「もし多く支払っていたとしても返してもらえなくなる」という状態で客をそのまま帰す行為は処分行為といえる)。
(4) 無断で他人のキャッシュカードで預金を払い戻す行為
キャッシュカードを自動支払機に入れて預金を払い戻す行為には、人が介在しないので、欺罔行為も処分行為もなく、詐欺罪は成立しない。しかし、機械から不正に金を抜き取ることになるから、窃盗罪が成立する。
(5) 訴訟詐欺=民事裁判で、裁判所に虚偽の主張、証拠を提出し、裁判所を騙して自己に有利な判決を受け、これに基づき、相手方から財物または財産上の利益の交付を受ける行為
→国家の機関である裁判所も、当事者の提出した主張、証拠によって判断するのであるから、欺罔されたといえる場合もある。そして、裁判所の出した給付判決は、債務名義として強制執行が可能であるから、裁判所が被欺罔者、処分行為者、相手方を被害者とする詐欺罪が成立する(通説)。
(6) キセル乗車
①下車駅標準説(通説)
下車駅で料金精算を免れるべく正規の乗車券を提示した行為を欺罔行為、改札係が改札を通過させる行為を処分行為とする。
②乗車駅標準説(一部下級審判例)
キセルを目的とした乗車券は無効である。その無効な乗車券で乗車駅の改札口を通過する行為が欺罔行為であり、改札係員が被欺罔者、処分行為者(運転士、車掌、鉄道会社という組織体を処分行為者とする説もあり)である。
③否定説(一部下級審判例)
①説は無意識の処分行為を認めることになる。②説は、乗車券は精算できるのだから、無効となるのはおかしい。また、改札係員が処分行為をする権限を有しないし、また、車掌や鉄道会社を処分行為者とすると、被欺罔者たる改札係員の意思支配のもとに処分行為が行われていないことになる。
霰 クレジットカード詐欺=他人のクレジットカードで品物を購入する行為
①加盟店に対する1項詐欺説(実務)
加盟店は会員に支払能力がなければ、クレジット・カードによる取引を拒絶すべきであるから、クレジット契約のもと加盟店から商品の交付を受ける行為が詐欺罪を構成する(加盟店はクレジット会社から代金の支払を受けるが、占有説的立場によれば、商品を失うこと自体を損害といいうる)。
②クレジット会社に対する2項詐欺説
加盟店はクレジット会社から代金の支払を受けるから、加盟店自体には損害はない。しかし、クレジット会社は損害を受ける。そして、クレジット会社は加盟店に対し、代金立替払義務を負っており、加盟店はクレジット会社の財産を処分する地位にあるといえる。すると、加盟店を欺罔し、加盟店に、クレジット会社に代金を立替払いさせるという処分行為をさせ(被害者はクレジット会社)、加盟店に対する代金の支払義務を免れるという2項詐欺罪が成立する。