一一 背任罪(247条)
1 本質
(1) 背信説(判例、通説)
信任関係に違反して財産を侵害する犯罪とみる。したがって、背任行為は、第三者に対する関係のみならず、本人に対する対内的関係についても認められ、また、法律行為のみならず、事実行為についても認められる。
(2) 権限濫用説
法的な代理権を濫用して財産を侵害する犯罪とみる。したがって、背任行為は法律行為に限られ、代理権の消滅後の行為や代理権を喩越した行為には背任罪は成立しない。
2 要件
(1) 他人のために事務を処理する者
(2) 図利加害目的
(3) 任務違反の行為
(4) 本人に財産上の損害(全体財産の減少)
(5) (3)と(4)の因果関係
(6) 故意
3 他人の「事務」
財産上の事務に限られない。
4 「他人の」事務
(1) 売買契約の当事者間の義務
→債務の履行については、自己の事務とされる。
(2) 賃借人の目的物の使用
→自己の事務とされる。
(3) 二重抵当における登記協力義務
→自己の事務と競合するが、主として他人の事務である。
5 図利加害目的
故意犯であるから、結果である本人の損害の発生の認識が必要である(この限りでは未必的認識で足りる)。しかし、247条は、さらに、図利加害目的を要求している。この中には①自己または第三者の利益を図る目的と②本人に損害を加える目的の2つがあるが、①は主観的超過要素であるから特に問題はない。議論のあるのが②である。故意以外にあえて図利加害目的を要求した趣旨から、本人の損害の発生の「確定的な」認識を要求すると解する説が有力である。しかし、意欲ないし積極的認容までは不要である。
6 財産上の損害
→全体財産に対する罪であるから、本人の全体財産の損益計算がされた結果、損害が生じていることが必要。ただし、その損害は、「経済的に」算定する。現金の代わりに同金額の不良債権を得た場合は、経済的に見て財産は減少しているとする。
7 横領罪と背任罪の区別
難しい問題となるのは、対象が「金銭」のとき
(1) 学説
①(背任罪の背信説を前提として)横領罪は財物の侵害、背任罪は財産的利益の侵害であり、両者は特別関係である。
②(背任罪の権限濫用説、横領罪の越権行為説を前提として)横領罪は権限を逸脱した行為、背任罪は権限の範囲内で行われる行為であり、両者は特別関係である。
③(背任罪の背信説を前提として)横領罪は不法領得行為であり、横領罪が成立しない時に背任罪を考慮し、背任罪は委託事務の範囲内の信頼違背であり、両者は択一関係である (有力説)
(2) 判例
本人名義、本人の計算の場合は背任罪、自己の名義または自己の計算の場合は横領罪という分類のようである(確立した判例はない)。
(3) 検討
横領と背任の区別が問題となる事例では、業務性に問題のない事例が多いので、横領であれば業務上横領罪が成立する。そうすると、業務上横領の方が背任より重いことは明らかであるから、横領罪の成否から先に考えればよい。横領ということができれば、横領を認定すればよいし、認定できなければ、背任罪が成立するかを検討すればよい。
一二 盗品等に関する罪(256条)
1 類型
客 体 行 為 親族特例
256条1項 財産罪の被害品 無償譲受け ○
256条2項 財産罪の被害品 運搬、保管、有償譲受け ○
有償処分あっせん
※財産罪の正犯は主体に含まれないが(不可罰的事後行為)、教唆者、幇助者は含まれる。
2 本質
(1) 追求権説(通説・判例)
本犯の被害者の被害品への追求を困難にするところに本質がある。
(2) 違法状態維持説
犯罪によって違法に成立した財産状態を維持・存続させるところに本質がある。
3 盗品性
(1) 以下の物などは盗品性が存続するとされている。
①盗んだ通貨を両替したもの
②盗んだ小切手を換金した現金
③盗品に工作を加えたが、工作者が所有権を取得しない場合
④即時取得されたが、民法193条の適用がある盗品
(2) 他方、
①不法原因給付物
②漁業法違反、狩猟法違反により捕獲された鳥獣
については、追求権説を徹底すると盗品性は否定されることになる。しかし、判例も、盗品等に関する罪の犯人庇護罪的側面を否定しないので、盗品性を認めると思われる。
4 行為
(1) あっせん罪の「あっせん」
→あっせんの事実で足り、売買契約等が成立したことは不要。
(2) 保管
→保管中に盗品等であることを知った後も保管を続けた場合は、保管にあたる。
5 親族間の特例(257条)
(1) 刑の必要的免除
(2) 身分関係は誰と誰の間に必要か
①本犯者との間に必要とする説(判例、通説)
・盗品等に関する罪の犯人庇護的性
・親族の関与は利益の分配や盗品の処分への関与において類型的であり、また、親族が犯人のために盗品等の処分を行うことも無理からぬ面があり、期待可能性が減少する。
②本犯の被害者との間に必要とする説
・追求権説の徹底
一三 毀棄・隠匿罪
1 信書の破棄行為(判例はない)
(1) 信書隠匿罪説
隠匿は毀棄の一態様にすぎず、信書隠匿罪は器物の中でも信書の価値が相対的に軽微だから規定されたものであり、信書隠匿罪は毀棄の場合も適用される。
(2) 器物損壊罪説
信書は重要な財物であり、信書隠匿罪は隠匿が毀棄よりも態様が軽いことを前提として立法されたものである。
1 本質
(1) 背信説(判例、通説)
信任関係に違反して財産を侵害する犯罪とみる。したがって、背任行為は、第三者に対する関係のみならず、本人に対する対内的関係についても認められ、また、法律行為のみならず、事実行為についても認められる。
(2) 権限濫用説
法的な代理権を濫用して財産を侵害する犯罪とみる。したがって、背任行為は法律行為に限られ、代理権の消滅後の行為や代理権を喩越した行為には背任罪は成立しない。
2 要件
(1) 他人のために事務を処理する者
(2) 図利加害目的
(3) 任務違反の行為
(4) 本人に財産上の損害(全体財産の減少)
(5) (3)と(4)の因果関係
(6) 故意
3 他人の「事務」
財産上の事務に限られない。
4 「他人の」事務
(1) 売買契約の当事者間の義務
→債務の履行については、自己の事務とされる。
(2) 賃借人の目的物の使用
→自己の事務とされる。
(3) 二重抵当における登記協力義務
→自己の事務と競合するが、主として他人の事務である。
5 図利加害目的
故意犯であるから、結果である本人の損害の発生の認識が必要である(この限りでは未必的認識で足りる)。しかし、247条は、さらに、図利加害目的を要求している。この中には①自己または第三者の利益を図る目的と②本人に損害を加える目的の2つがあるが、①は主観的超過要素であるから特に問題はない。議論のあるのが②である。故意以外にあえて図利加害目的を要求した趣旨から、本人の損害の発生の「確定的な」認識を要求すると解する説が有力である。しかし、意欲ないし積極的認容までは不要である。
6 財産上の損害
→全体財産に対する罪であるから、本人の全体財産の損益計算がされた結果、損害が生じていることが必要。ただし、その損害は、「経済的に」算定する。現金の代わりに同金額の不良債権を得た場合は、経済的に見て財産は減少しているとする。
7 横領罪と背任罪の区別
難しい問題となるのは、対象が「金銭」のとき
(1) 学説
①(背任罪の背信説を前提として)横領罪は財物の侵害、背任罪は財産的利益の侵害であり、両者は特別関係である。
②(背任罪の権限濫用説、横領罪の越権行為説を前提として)横領罪は権限を逸脱した行為、背任罪は権限の範囲内で行われる行為であり、両者は特別関係である。
③(背任罪の背信説を前提として)横領罪は不法領得行為であり、横領罪が成立しない時に背任罪を考慮し、背任罪は委託事務の範囲内の信頼違背であり、両者は択一関係である (有力説)
(2) 判例
本人名義、本人の計算の場合は背任罪、自己の名義または自己の計算の場合は横領罪という分類のようである(確立した判例はない)。
(3) 検討
横領と背任の区別が問題となる事例では、業務性に問題のない事例が多いので、横領であれば業務上横領罪が成立する。そうすると、業務上横領の方が背任より重いことは明らかであるから、横領罪の成否から先に考えればよい。横領ということができれば、横領を認定すればよいし、認定できなければ、背任罪が成立するかを検討すればよい。
一二 盗品等に関する罪(256条)
1 類型
客 体 行 為 親族特例
256条1項 財産罪の被害品 無償譲受け ○
256条2項 財産罪の被害品 運搬、保管、有償譲受け ○
有償処分あっせん
※財産罪の正犯は主体に含まれないが(不可罰的事後行為)、教唆者、幇助者は含まれる。
2 本質
(1) 追求権説(通説・判例)
本犯の被害者の被害品への追求を困難にするところに本質がある。
(2) 違法状態維持説
犯罪によって違法に成立した財産状態を維持・存続させるところに本質がある。
3 盗品性
(1) 以下の物などは盗品性が存続するとされている。
①盗んだ通貨を両替したもの
②盗んだ小切手を換金した現金
③盗品に工作を加えたが、工作者が所有権を取得しない場合
④即時取得されたが、民法193条の適用がある盗品
(2) 他方、
①不法原因給付物
②漁業法違反、狩猟法違反により捕獲された鳥獣
については、追求権説を徹底すると盗品性は否定されることになる。しかし、判例も、盗品等に関する罪の犯人庇護罪的側面を否定しないので、盗品性を認めると思われる。
4 行為
(1) あっせん罪の「あっせん」
→あっせんの事実で足り、売買契約等が成立したことは不要。
(2) 保管
→保管中に盗品等であることを知った後も保管を続けた場合は、保管にあたる。
5 親族間の特例(257条)
(1) 刑の必要的免除
(2) 身分関係は誰と誰の間に必要か
①本犯者との間に必要とする説(判例、通説)
・盗品等に関する罪の犯人庇護的性
・親族の関与は利益の分配や盗品の処分への関与において類型的であり、また、親族が犯人のために盗品等の処分を行うことも無理からぬ面があり、期待可能性が減少する。
②本犯の被害者との間に必要とする説
・追求権説の徹底
一三 毀棄・隠匿罪
1 信書の破棄行為(判例はない)
(1) 信書隠匿罪説
隠匿は毀棄の一態様にすぎず、信書隠匿罪は器物の中でも信書の価値が相対的に軽微だから規定されたものであり、信書隠匿罪は毀棄の場合も適用される。
(2) 器物損壊罪説
信書は重要な財物であり、信書隠匿罪は隠匿が毀棄よりも態様が軽いことを前提として立法されたものである。