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民法総則⑫

2005年02月07日 | 民法
一一 詐欺・強迫
1 詐欺の要件と効果
  他人を錯誤に陥らせ、その錯誤によって意思表示をさせようとして、事実を隠したり虚偽の表示をすることを詐欺という。詐欺による意思表示は取り消すことができる(96条1項)。
  詐欺といえるためには、他人を錯誤に陥らせようとする故意と、その錯誤によって意思表示をさせようとする故意の二つの故意が必要である。
  また、事実を隠したり虚偽の表示をすることを欺罔行為というが、欺罔行為の結果として意思表示をしたという因果関係があることが必要である。取引社会では、一定のかけひきや誇張は許されるので、欺罔行為は、社会通念上違法視されるものであることが必要である。もっとも、詐欺者が事業者で相手方が一般消費者であるような場合には、事業者の給付する商品やサービスにつき両者に知識・情報量の格差があることに注意すべきであり、信義則の観点から事業者の義務を厳格に解し、詐欺の成立を比較的広く認めることになろう。
  第三者が詐欺を行った場合には、相手方がその事実を知ったときに限って意思表示を取り消すことができる(96条2項)。

2 第三者との関係
 (1) 第三者の意義
   詐欺による取消の効果は、善意の第三者には対抗することができない(96条3項)。善意の第三者とは、詐欺の事実を知らないで、詐欺による法律行為に基づいて取得された権利について、新たな法律上の利害関係に入った者をいう。売主Aを欺いてAの不動産を買ったBから転得した者、抵当権の設定を受けた者などである。詐欺による意思表示の結果として反射的に利益を取得した者は含まれない。
  例:一番抵当権者であるBが詐欺によって抵当権を放棄したときの二番抵当権者Cは、第三者に当たらない(したがって、Bが詐欺を理由として抵当権の放棄を取り消した場合、取消の効果はCに対抗でき、Bははじめから一番抵当権者だったことになる)。
(2) 無過失の要否
   通説は、96条3項の第三者は善意であれば足り、無過失を要しないとする。
   しかし、最近では、無過失を要するという学説が有力化している。あえて虚偽の外観を作出する虚偽表示の揚合と比べて表意者を保護すべき必要性が高いので、第三者が保護されるための要件は厳格でよいことを理由とする。

3 錯誤と詐欺
  詐欺は、欺罔行為によって表意者の錯誤を生じさせることであるから、そこでの錯誤が要素の錯誤に当たる場合には、詐欺の要件と錯誤の要件の双方を充たすということがありうる。これは、いわゆる二重効の一場合であり、詐欺と錯誤のどちらでも選択して主張してよいとするのが通説である。この場合、詐欺を主張すると取消の効果を善意の第三者に主張しえないが(96条3項)、錯誤を主張すると第三者にも無効を主張しうることになる。

4 強迫の要件と効果
  相手に畏怖を生じさせ、それによって意思表示をさせることを強迫という。強迫による意思表示は取り消すことができる(96条1項)。
  強迫といえるためには、相手に畏怖を生じさせる故意と、それによって意思表示をさせようとする故意の二つの故意が必要である。また、強迫行為の結果として意思表示をしたという因果関係があることが必要である。さらに、強迫行為は、社会的に違法視されるものでなければならない。
  強迫と評価される場合としては、生命・身体・財産に害悪を加えることを告知する場合のほか、精神的に害悪を加えることを告知する場合も含まれる。
  なお、表意者に意思決定の自由が全く存在しない場合(ピストルを突きつけて契約させた場合など)には、意思表示そのものが成立せず、取消を待つまでもなく無効となる。
  第三者が強迫を行った場合については、詐欺におけるような規定(96条2項)がないので、常に取り消すことができる。また、詐欺におけるような第三者保護規定(96条3項)がないので、強迫による取消は、善意の第三者に対しても主張することができる。
  取消後の第三者との関係では、詐欺の場合と同様に、対抗問題となるとするが、従来の通説・判例である。

5 対抗要件の要否
  96条3項の第三者として保護されるためには、対抗要件を備えていることが必要かについては、96条3項の第三者として保護されるということは、第三者との関係では詐欺による意思表示も有効なものとして扱うということであり、そこでは、177条の対抗問題は生じないから、対抗要件の具備は不要とするのが多数説である。
  なお、判例は、詐欺に基づきAから農地を買い受ける契約をして知事の許可(農地法5条)を条件とする請求権を取得し、仮登記を得たBが、その権利をCに譲渡し、Cが仮登記の付記登記を得た後に、Aが取り消したという場合に、Cは96条の第三者に当たるとしている(最判昭和49・9・26民集28・6・1213)。
  これに対して、最近の有力説は、対抗問題が生じないことを認めたうえで、第三者に「権利資格保護要件」として登記を要求する。

6 第三者はいつまでに利害関係に入ることを要するか
  不動産についてAからBへの物権変動があった後、無能力または詐欺・強迫を理由としてAがこの行為を取り消したが、他方ではBからの転得者Cがいるという場合に、AはCに対して取消の効果を主張しうるか。
  判例は、大判昭和4年2月20日(民集8・59)は、Aの取消前(取消原因は強迫)にB・C間の取引があったというケースで、Aの取消による物権変動の遡及的消滅(121条)は、登記(たとえば、「A→Bの移転登記」の抹消登記)なくして当然に、Cに対してこれを対抗しうるとした。
  ところが、これに続く大判昭和17年9月30日(民集21・911)は、Aの取消後(取消原因は詐欺)にB・C間の取引があったというケースで、取消の効果をBからAへの復帰的物権変動と捉え、これとBからCへの物権変動とが対抗関係に立つとして、Aは登記がなければCに対して権利の回復を対抗しえないとし、この立場は、最高裁(最判昭和32・6・7民集11・6・999)でも採用された。
  このように、判例は、取消前に登場した第三者との関係では取消の遡及効を貫徹させ(96条3項はその例外となる)、取消後に登場した第三者との関係では、これを対抗問題として取り扱う。
  通説も、96条3項の第三者は、取消の意思表示がなされる前に利害関係に入ることが必要であるとしている。これは、96条3項は取消の遡及効から第三者を守るための規定であると理解し、取消によりすでに確定的に無権利者となった者から権利を譲り受ける場合には、無権利者と取引をした者の保護一般の問題であり、同項の適用外であると見るものである。取消後の第三者については、取消により、取消をした者のもとに目的物が復帰するとして、これにつき対抗要件を要するとする。
  これに対して、次のような批判がある。
 (a) 取消前の第三者との関係では取消の遡及効により問題を処理するのに対して、取消後の第三者との関係では復帰的物権変動を考えるのは、理論的に一貫性を欠く。
 (b) 取消前の第三者に対しては原則として(96条3項は例外)取消による物件変動の遡及的消滅を主張しうるとすると、取り消しうるにもかかわらず、取り消さずに放置する者は、早々と取り消した者よりも有利になり妥当でない。
 (c) 取消後の第三者との関係を対抗問題とするのは、登記を信頼した第三者を保護する趣旨と解されるが、177条の「第三者」につき原則として善意・悪意を問わないとする判例・通説の見解を前提にする限り、第三者は悪意でも保護され、登記に公信力を認めた場合以上の保護を与えることになる。
2 学説
 (1) 対抗問題説
   取消権の要件が具備し、かつ、取消権の存在を知りながら取消権者が取消権を行使せず、その結果、物権復帰の登記をしないで放置している場合には不利益を与えられてもしかたがないとして、「取消権発生の原因が止み、かつ、取消権者が取消の理由あることを知ったとき」以後に登場したCとの関係では、取消による物権復帰を対抗するためには登記が必要である。
   判例の、「取消前の法律関係については、取消によって生ずる物権の復帰をあらかじめ登記することができない以上、Aは登記を回復しなくてもやむをえないが、取消後のCとの関係では、取消の意思表示をした以上、Aは登記を回復することができるから、これを怠ったAは権利を失ってもやむをえない」という考え方を徹底したもの。
 (2) 無権利説
 (a) 取消権発生の原因から自由になり、取り消しうべき行為の外形たる登記を有効に除去しうる状態になりながら、なおそれを除去せずに放置することは、虚偽表示に準ずる容態」だとして、Aが「取消しうべきものであることを了知し、かつその追認を有効になしうる状態」以後に利害関係に入ったCのために94条2項を類推適用する。
 (理由)
   取消の遡及効は、取消の相手方を無権利者とすることにほかならず、B・C間の取引は、取消の前後を問わず無権利者との取引であるから、判例が取消後のCとの関係を対抗問題として処理したのは、登記に公信力のない制度のもとで無権利者からの権利取得者を保護しようとしたものであり、第三者保護の問題と対抗問題とを混同している。
 (b) 取消前の登記除去放置については94条2項を類推適用すべきではなく(詐欺の場合に96条3項の保護があるのみ)、取消後の第三者にのみ94条2項を類推適用する。
 (理由)
   登記除去の放置といっても取消前におけるそれと取消後におけるそれとは、怠りの程度に顕著な差がある。また、登記除去・追認可能状態時という基準はあいまいである。
 (c)  脅迫による取消の場合については(a)説と同様に解して取消前のCの保護を図りつつ、詐欺については取消前のCは96条3項で保護されるから、取消後に94条2項の類推適用を認める。