お客さんから柿が届きました。
会社宛てではなく、
直接我が家に届いたから驚きました……
まぁ、果物は大好物です。
旬の味覚を楽しむことにしましょう。
高級なんだ……
箱からして普段から食べ慣れている、
スーパーの柿とは違うオーラを感じます。
わー……おっきい……
さすがに1人では食べきれないので、
実家にお裾分けを持って行くことに。
「まぁ、立派な柿ね」
「お客さんからもらったんだ」
母親に柿を渡し。
まぁ、お茶でも──……と、誘われて。
『ちょうど今、お汁粉を作っていたの
たくさんあるから食べていきなさい』
そういわれた自分は今、
窮地に立たされています。
「あ、あの、母さん……」
「なぁに?
もうすぐお餅が煮えるわよ」
「いや、あの」
お汁粉……
母さんが作っているのは、
お汁粉なんだよね?
ええと……
そのお汁粉、
なぜ緑色なの?
「草餅を使ったのよ
良い香りがしそうでしょ?」
「いや、あの、でも」
汁まで緑にはならんだろ
「カボチャも入れたの
少しでも栄養を多くとりたいでしょ?」
うん
そうだね
カボチャも入ってるね
ほんのりと緑に染まってるけど
「アズキの缶詰め、少し量が足りなくて
ずんだ餡を一袋入れてみたの
そうしたら甘くなりすぎちゃって
だから味をマイルドにしようと、
牛乳を入れてみたら、こんな色に……」
「あ、うん、そっか……」
我が家の母上様。
料理をすること自体は、
そう嫌いではなさそうなのですが……
キッチンが時々、魔女の実験室と化します。
そのせいで、と申しますか
そのおかげで……と、申しますか
一人暮らしをするまでは、
自分が我が家の料理担当でした。
料理を始めた切っ掛け?
緑や紫に染まった弁当を広げて、
クラスで話題になるのを避けたかったからだね
自分、目立つことが苦手だから……
「ミルや、最近……仕事はどう?」
「同僚の家で手伝いをしたり、
社員同士の仲が良くて楽しいよ」
「あら、よかったじゃない」
「仕事先の稲刈りが終わったら、
龍の相手もしなきゃならないんだ」
正直言って、この仕事は気が進まないけれど
「龍か……なるほどねぇ……
やっぱり、そういう縁があるのかもね」
「縁って?」
「龍女、龍男って知ってる?
解釈は色々とあるのだけれど、
龍が憑いている人のことを指すの」
「いや、初めて聞いた」
カーチャン……
いきなり、何を語りだすんだ
「お前が生まれた後に、
神社でお参りをしたんだけどね
その時に神主さんにいわれたのよ
『この子から龍の気配がする、
鱗のアザが体にありませんか?』って」
「いや、さすがにウロコなんてないよ⁉︎」
「生まれつきアザがあるでしょ?
楕円形のやつが右足に3つも
それのことを言ってるみたいなの」
正確に言えば4つです。
4つ目は消えたり現れたりを、
不定期に繰り返しているのですが……
どちらにしろ、単なる偶然でしょうに。
「龍女、龍男の特徴について調べてみたの
そうしたら意外と当てはまったわよ?」
「そう言われても困るよ?」
「でも雨男や雨女で、
1人で行動することが好きで、
霊感があってお酒好きでしょ?
あと目力があってトラブル慣れしてる」
言い掛かりだ
「まぁ、使えるものは何でも使いなさいよ
龍ってのはエネルギー体のことらしいの
上手く取り込めばプラスに働くわ」
「取り込むって……」
「龍にも好みがあってね
まぁ、要するに波長が合って、
エネルギーを得やすい特徴──……
ってことなのだろうけど」
急に冷静だね
「龍はザックリというと、
綺麗好きな髪フェチ面食いのヤンデレで」
唐突な暴言
「あと友だちとの距離感に気をつけて
龍女、龍男の近くにいる人間は、
突然スピリチュアル体験をしたり、
霊能力に目覚めることがあるらしいから」
なんて迷惑な
「龍女、龍男は龍から力を得るけれど、
龍女や龍男から力を吸うタイプの
人間も存在するから気をつけてね」
世知辛いな……
「龍の力は浄化能力が高いらしいから、
ヒーリングと組み合わせると、
相乗効果が狙えて更にパワーアップ」
「あー……
そう言えば昔、通りすがりの白魔術師から
『弟子にならないか』って、
突然スカウトされたことがあるよ」
「龍の力を持った白魔術師なんて、
まさに天職のヒーラーだものね」
まぁ、自分は職人志望だったから、
ヒーラーの道には進まなかったけれども
それでも土地の浄化やお祓いを頼まれたり、
それっぽい依頼が時々来るのは何故なのか
「あ、あの─……」
背後から遠慮がちな声がかけられる
振り返ると、
ドアの隙間から顔を覗かせる父親の姿
「父さん、そんなところで何してるの?」
「ちょっと、ひとことだけ、
ツッコミを入れたくなって」
わざわざ突っ込む前に、
断りを入れるという律義さ
「どうぞ?」
「ありがとね」
促すと気合いを入れているのか、
深呼吸を始める父
スーッと大きく息を吸い込むと──……
「どんな会話してるんだ‼︎
しかも何を食ってるんだ‼︎
見ていて凄く怖いんだよ‼︎」
怖かったんだ……
親子が親しげに語らうリビングルーム
2人が囲んでいるのは、
緑色の鍋(お汁粉)
交わす言葉の内容は、
龍について(我が子は龍憑き)
ああ
うん
父の目線で見ると、
確かにちょっとしたホラーかもね
でも、まぁ
事実は小説よりも奇なり
……って言うからね、うん
「この柿、立派でしょ?
ミルがお客さんから貢がれたの」
貢がれた言うな
感謝の思いが、
なんだか俗っぽく感じちゃうよ⁉︎
「どんなことでも感謝されることは、
とても良いことだからね
迷わずに、どんどんやりなさい」
「ちなみに柿をくれたお客さんには、
どんな内容の仕事をしたの?
かなり気に入られてるみたいだけど」
「あまり大きな声では言えないんだけど……
お客さんの子供が最近元気ないって聞いて
じゃあ自分と年齢が近いし様子見がてら、
話し相手になってこようかな、って」
「へえ……」
「それで、彼のアパートに行って
様子を見に行ったんだけど……」
「うん」
「結論から言うと、
天井から吊り下がってた」
いわゆる第一発見者。
大家さんが隣にいなかったら、
そのまま悲鳴をあげて逃げ出したと思う。
「頭の中、真っ白になってさ
結局自分は何も出来ずに終わったんだ
通報や手続きも全部、大家さんがやったし
だからお礼って言われてもねぇ……」
「でも……まぁ……
お前が見に行くって申し出たからこそ、
彼を発見できたわけだから……」
「最初はお金を包まれたんだけど、
流石にそれは受け取れなくってさ
そうしたら、かわりに果物を
送ってくれたみたいなんだよ」
「へえ……
それで、柿ねぇ……ふぅん……」
指先で柿を突きながら、
どこか含みを持った物言いの母。
なんだか嫌な予感……
「柿の花言葉って知ってる?
一般的には『恵み』とか『優美』とか、
素敵な意味合いのものが多いんだけど」
「うん?」
「その中のひとつにね、
『広大な自然の中で私を永遠に眠らせて』
……っていう穏やかじゃないものがあるの
彼、ちゃんと成仏できてるのかしら?」
母さん……
唐突にホラー要素を入れないでくれ……
ホラー耐性がゼロどころか、
マイナスの父さんが涙目になってるよ?
「だからさぁ……
2人とも──……
話の内容が怖いんだよッ‼︎」
うん
魂の叫びっぽいね
「あなた──……どんまい♪」
ホラーやサスペンスが大好きな妻と、
オカルト事件に巻き込まれがちな我が子。
この2人に挟まれる、
ホラー耐性マイナスの父──……
うん
なんと言うか
……頑張れ、父さん……