楽しむことが最優先

庭で花や野菜を育てて楽しむ北海道民です。
趣味関連を中心に日々のあれこれを、
マイペースに綴って行くつもりです。

ドタバタお祓いセレモニー

2023-10-27 21:54:00 | 日記
「ミルくん、明日……
 龍の怒りを鎮めに行くよ」


知らない人が聞いたら、
『お前は何を言っているんだ』状態ですが。

とりあえず大丈夫、
状況は把握できています。

納得しているかは別として

現場は龍信仰が強い土地で、
『龍にゆかりのある木を移植しようとしたら
 作業員が次々と倒れたり負傷した
 龍の祟りだと噂になっている』とのこと。

形だけでも構わないから、
お祓いや浄化をして安心したい。
要はそういう依頼です。


「お焚き上げ用の写経も書いたし、
 買い物も行ってきたし──……
 こっちの準備はできていますよ」

「当日の服装は?」

「安心感を持ってもらいたいので、
 ほどほどにカッチリとした服にしようかと
 秋だしプレッピーなファッションとか」

「面白くない」

面白さはいらないよ?


「いや、そこはムード重視で‼︎
 いかにもなファッションにしようよ‼︎
 全身に数珠を巻いて手には杖を持って、
 頭にドクロをかぶっちゃうようなやつ‼︎」

邪教かよ

「安心感を与えに行くんですよ?
 恐怖心を煽ってどうするんですか」

「セレモニー的なお祓いなんだから、
 形や見た目も大事だと思うんだよ」

「目立ちたくないし」

「それが本心だね?」

「当然です」

ただでさえ注目を浴びそうなのに、
見た目でさらに注意をひきたくはない。

「自分は極力、喋りませんから
 ギャラリーの相手はお任せします」

「はいはい」



そんなわけで、翌日

色々と不安要素はあるものの、
社長が運転する車で現場へと到着。



「懐かしいです、この場所
 のどかで良いところですね」

「ミルくんと出会った時はお互い、
 ゆっくりできる状況じゃなかったからね」

「まぁ……今もそうですけれど……」


自然豊かなこの場所で、
自分と社長は出会って……
そして彼の会社に誘われ、そして

現在に至る


「どうしてこうなった……」

目の前には龍が宿っているという低木
周囲にはお祓いの様子を見にきた住民たち

そして社長の親戚だという
お婆ちゃんに取り押さえられる、
戦闘モードのお爺さん


「お爺ちゃん、落ち着いて

「離せ‼︎
 お前らは騙されている‼︎
 こいつらは詐欺師だ、俺が追い払う‼︎」

「ごめんなさいね、すぐに黙らせますから」


…………。

いや、あの
何なの、この状況


「稲刈りが終わった後の田んぼも良いね」

「和の風景ですね
 紅葉もとても綺麗です」

「晴れてよかったよ」

「ははは……」

「ふふふ……」


目の前の光景から目を逸らし、
中身のない会話で場を繋ぐしかない2人。

心はひとつ。
早く帰りたい





「お爺ちゃん、怖がりなのよ」

「違う‼︎
 霊を信じてないだけだ‼︎」

「でも小学生の頃だって、
 肝試しに来なかったじゃない」

「う……うるさい‼︎」

お爺ちゃん……図星なんだね


「祟りなんて気のせいだ‼︎
 俺が証明してやる──……貸せ‼︎」

低木の移植作業も手伝おうと、
倉庫から持ってきたシャベル2本。

その内の1本を手に取ると。

掘りかけたまま放置されていたという、
低木に力任せに差し込み──……


ばきっ




盛大に音を立てて折れるシャベル。
カランと転がる金属音が妙に響く。


「も……もう片方、よこせ‼︎」

お爺ちゃん、頑張る。
もう後にはひけないのかもしれない。

そして──……


めきっ

今度は鈍い音を立てて、
くの字に折れ曲がるシャベル。




「ひいぃぃ……‼︎」


頭を抱えて座り込み、
そのままガタガタ震え出すお爺ちゃん。

何というか……
コントかな?

いや、恐慌状態のお爺ちゃんには
ちょっと悪いのだけれども──……

なんだかとても、
シュールな光景です


「もうだめだ……
 俺は呪われた……
 祟りだ……龍の祟りだ……」

お爺ちゃん、しっかりしろ
戻ってこい

ぶつぶつ言いながら震えるお爺ちゃんに、
とりあえず手を差しだしてみる。

振り払われるかな──……と、思いきや。


「あんた、霊能者なんだろう⁉︎
 早く……早くお祓いしてくれ‼︎」

「うおお⁉︎」


追い払われるどころか、
がっしりとホールドされてしまう自分。

ま……まぁ、攻撃的な状態よりはマシかな。

とにかく
これで当初の予定通り事が進められます。


「社長、すみませんがカバンから、
 お焚き上げ用写経と供物をお願いします」

「あ……ああ、これだね
 写経と塩と……これは君のオヤツかい?」

「いえ、それが供物です」

「…………」

腑に落ちない、という表情の社長。
しかし、そんな顔をされても困る。


「事前に接触を試みたのですが……
 龍というより犬や猫といったペットが、
 その木を依代にしているみたいなんです
 おそらく昔、この辺りで飼われていて、
 家が無くなった後も留まっているようで」

「そう言われてもねぇ……
 この辺りは雑木林だったのよ?
 開発の話があがったのも、ここ最近だし」

「霊媒で供物のリクエストを聞いてみたら、
 栗と甘酒に思い入れがあると言われました
 なので、用意してきたのですが……」

「犬や猫が甘酒なんか欲しがるのかい?」


社長の手には、甘栗のパックと甘酒の缶。

困惑するのもわかる。
でも、聞いたからには用意しないと。


「少なくとも野生動物ではなさそうでしょ?
 だからペットかな、って思ったのですが」

「ああ……‼︎
 秘密基地だ‼︎」

「え」

突然、声を上げたお爺ちゃん。
なにやら心当たりがあるらしい。


「ここらは昔から、俺たちの遊び場だった
 トタンやブルーシートを拾ってきて、
 秘密基地を作って皆で集まったものだ」

「ああ……そういえば野良犬を拾ったわ
 ちょうど今頃ね、秘密基地で飼ってたの」

「神社裏に栗の木があって、
 拾って帰ると婆様が茹でてくれたんだ
 それを秘密基地に持って行って、
 俺たちのオヤツにしていた……」

「甘酒もよく飲んだわ
 ちょうど新米の季節でしょ?
 水加減を失敗したご飯で作ってくれるのよ
 鍋ごと持っていって秘密基地で飲んだわ」


小学生の頃からの付き合いらしい、
お爺ちゃんとお婆ちゃん。

当時の記憶がよみがえったのか、
思い出話の勢いが止まらない。

2人の瞳の輝きは小学生に戻ったかのよう。

まぁ……
なんというか

楽しそうでなによりです。


「あの犬、どうしたんだったか……」

「秘密基地では冬を越せないって、
 お米屋の兄さんが引き取ってくれたの」

「ああ……そうだったか……」

しんみりとした空気で、
思い出話が終了した。


「今の時期なら栗、まだ拾えるだろ
 ちょっと神社までいってくる」

「それなら私は甘酒を作ってくるわ」

どうせなら当時の味を再現しよう、と。
やたらと乗り気なお爺ちゃんとお婆ちゃん。

とんとん拍子に話が進んで、
置き去りにされるギャラリーたち。

ええと、この場合、自分たちは──……


「それじゃあ、手伝いましょうか」

「そうだね」

お爺ちゃんから軍手をかりて、
神社裏にあるという栗の木へ。


「それにしても、よく信じましたね
 最初の攻撃的な姿とは大違いです」

「60年以上も前の、
 それも一部の者しか知らない話だ
 それを知っていた時点でな……」

「しかもミルくん、
 その話を犬から聞いたんだね……」

「霊能者ってのは、犬とも会話できるのか」

んなわけあるか


「言葉ではなく感情でのやり取りです
 会話は出来なくても気持ちはわかるでしょ
 お腹空いてるな、とか不機嫌だな、とか
 ペットを飼ったことがあるなら、
 なんとなく覚えがあると思います」

「ああ、わかるよ
 なるほど……そんな感じか」

「供物に関しては、
 霊媒をしてから店を訪れて……
 自分の体経由で手に取ってもらいます」

「へぇ……」


そんな会話をしている内に、
目的の神社に到着。

小さいながらも綺麗に手入れされた神社です


「ほら、これが栗の木だ
 さっさと拾って茹でるぞ」

「はい」

3人で手分けして栗拾い。
こんな形で秋を満喫するとは思わなかった。




丸くてツヤツヤの栗をたくさん拾い、
鍋で煮ることしばし──……

湯気に混じって甘い香りが漂ってきます。


「よし、そろそろか」

茹でたての栗を包丁で真っ二つ。
シンプルかつ豪快な秋の味覚です。

栗を手に現場に戻ると、
甘酒の鍋と湯呑みを用意した
お婆ちゃんが手を振ってくれていました。

よし
準備は整いました。


ここからは自分の役目。

引き受けたからには、
しっかりとこなしましょう──……


「当時、秘密基地で飼われていた犬……
 その子にとっても、ここでの思い出は
 とても大切なものだったのでしょうね
 今でもこの低木を依代として、
 番犬として秘密基地を守っています」

「はい」

「今からお焚き上げをして、
 犬の魂を天国まで誘導します
 お2人はその犬に対して、
 『もういいよ、お疲れさま』と
 労いとお別れを告げてあげてください」

「はい」


黒魔術は悪魔の力を借りる魔術ですが、
自分が使う白魔術は土地神や精霊、
自然界のエネルギーなどを借りて行います。

供物を並べて、皆で手を合わせて。

火を灯した写経用紙はフワリと浮き上がり、
白い灰となって天高く昇って行きました。



その後

シャベル2本、折れたのが嘘みたいに、
すんなりと掘り起こされた低木は移植され。

低木の周囲には季節の花が
植えられる予定だそうです。



「龍の祟りではなかったんだねぇ……」

「とある一匹の忠犬が、
 長い務めを果たし終えたんですよ」

「まぁ、俺としては、
 龍だのなんだの言われるより、
 犬の方がずっと信憑性があるけどな」

「お爺ちゃんたら……
 あんなに怯えていたのに」

ギャラリーたちが去った後、
茹で栗を頬張りながら甘酒で乾杯。

一仕事終えた後の体に、
程よい甘さが沁み渡ります。


「それにしても……
 あのイタズラボウズが、
 今では社長だなんて驚きね」

このお婆ちゃん、
社長の親戚なだけあってパワフルです。

たぶん、この場で1番強い。


「ミルくん、だっけ?
 こんな社長で大変でしょ」

「はい」

「ミルくん‼︎
 そこは否定してよ‼︎」

だって事実だし

今回だって社長の無茶振りで、
ここに連れてこられたからね……


「この子、面白くて良いわ
 もし50年前に出会っていたら──……」

お婆ちゃん……

50年前は自分、
生まれてすらいません……


「それにしても……お前さん、
 本当に謝礼金は受け取らないのか?」

「ミルくんは基本的に、
 霊能関連で現金は受け取らないよ」

そもそも自分、
霊能者を名乗っていません

社長が勝手に言ってるだけなんですよ……


「それじゃあ畑の野菜を後日、
 送らせてもらうよ」

「ありがとうございます」

「そうだ2人とも、
 この飲み物を受け取ってちょうだい
 甘酒を作ったから出しそびれちゃった」

お婆ちゃんがいつの間にか、
ペットボトルを手にしています。

 
「お茶とコーヒー、
 どっちが好きかわからなかったから……
 混ぜたのを用意したの

なぜ混ぜた⁉︎

「野菜の詰め合わせも、
 楽しみに待っていてね」

急に不安になってきました


「そ、それじゃあ……
 日も暮れてきたし、そろそろ帰ろうか」

「そっ……そうですね‼︎
 早く帰りましょう……‼︎」

これ以上、変わったものが出てくる前に、
逃げるように車に乗り込む社長と自分。

夕焼けに染まる田んぼの風景が、
やけに目に沁みました……


とりあえず

セレモニー的なお祓いとはいえ、
なんとか形にはなりました。

住民たちも安心してくれたようで、
こちらとしても一安心。

最終的にお婆ちゃんが持ってきた、
謎のコーヒーに全て持っていかれたけれど。



抹茶×コーヒーだってさ
こんなのあるんだね……