楽しむことが最優先

庭で花や野菜を育てて楽しむ北海道民です。
趣味関連を中心に日々のあれこれを、
マイペースに綴って行くつもりです。

予測可能、回避不可能・2

2023-12-17 10:36:00 | 日記
※前回からの続きです


日が暮れてからが本番

12月のススキノは、
今日も喧騒に包まれていました




時計を確認すると、
まだ時間には余裕があります

焼き魚の汚れを付けたまま、
仕事には行きたくないし──……

よし、洗いに行くか

目指すは近くの公衆トイレ
鏡があれば髪のチェックも出来るから良いね

……魚の骨が残っていないか確認しないと


トイレの中は幸いにも空いていました

先客の男性が鏡の前で、
ヘアスプレーを手に髪のセット中

彼の隣に並ぶと、まずはしっかり手を洗って

それから鞄の中から、
ウェットティッシュを取り出す
仕事中は色々と汚れるからね……

ウェットティッシュは
仕事用鞄の中に常備しています
手だけでなく道具も綺麗に出来て便利

ただ、髪を拭くとなると、
ちょっとキューティクルが傷みそうだけれど


とりあえず髪を下ろして、
魚が乗っていた辺りを念入りに拭いてみる

……良かった、特に汚れてはいなさそう

生臭さも消えてくれたし、
これなら問題なく仕事に専念出来そうです

髪をコームで軽くとかして、
慣れた手つきでポニーテールに結い上げる

よし、これで完成──……



「…………?」


ふと視線を感じて、
何となく横を向くと

そこには全力で睨みつけてくる男性の姿

何で?

気が付かない間に、
何か悪い事をしてしまった?


「あ、あの」

「お前……」

「はい?」

「何だその頭は‼︎」

!?

「フサフサしやがって‼︎
 自慢か?見せつけてんのか?
 ああそうさ羨ましいよクソが‼︎

一気に捲し立てられた


「俺はな、ついさっきフラれたんだ‼︎
 ハゲた男は愛せないって言われてな‼︎
 この頭のせいで……髪のせいで……‼︎」

流れる涙を手の甲で拭う男性

チラリと見えた、
握られたままのヘアスプレーのラベルには
 
育毛トニックの文字


あー……

髪をセットしていたのではなく、
育毛に励んでいた所だったんだね……


「ちくしょう……
 ハゲろ……お前もハゲろ……ッ‼︎」

唐突な呪詛

呪う薄毛
巻き込まれるロン毛

何て悲しい光景なんだ

理不尽に怒鳴られた筈なのに、
何故かちっとも怒りが湧いてこないよ

むしろ、見ているこっちまで
目頭が熱くなってくる


そっとウェットティッシュを差し出してみる

断られるかな、と思ったけれど、
意外と素直にそれで顔を拭く男性

「すまないね……」

「いえ」

「少し風にあたって頭を冷やすよ
 お詫びとしてコレ、受け取ってくれ」

すれ違い様に渡されたのは、
使いかけの育毛トニック(特大サイズ)

要らねえ……


でもここで断った結果、
彼がまた泣き出しても困る

間違っても『自分には必要ない』などとは、
絶対に言えないムードがそこにあった……




ススキノ中心部から少し外れた場所

昭和感たっぷりな出立ちの、
小さな飲食店が今回の現場です

メインの客層は周囲の飲食店店員

スナックのママやバーのマスターなどが、
仕事上がりに軽く立ち寄って
情報交換をする場となっているらしく

今の時間帯は殆ど客がいないらしい


『暇を持て余しているから、
 営業時間中でも構わずに来て欲しい』

そんな要望もあって、
今日は暗くなってからの出勤です

SNSが主流の時代だけれども

客商売である彼らだからこそ、
直接顔を合わせて行う情報交換の時間を
とても大切にしているらしい

そんな場を提供している今回のお客さんも、
人と接することが大好きなタイプです

良い人なんだけど、かなり話が長いんだ……



比較的小さめの店が並ぶ狭い道は、
街灯よりも店が放つ照明の方が明るい

店先にはクリスマスリースや、
スパイスで飾られた果物が飾られています

店内から漏れて流れるメロディに
急かされるように歩みを早めていると、
突然耳に飛び込む不協和音──……


「はぐらかさないでよ‼︎
 アンタがやったんでしょ⁉︎」

「言い掛かりは止めて下さいよ、
 どうせ証拠なんてありませんよね⁉︎」


あっ……

これ、喧嘩だ

もう少しで目的地に着くというのに、
言い争い真っ只中の2人が道を塞いでいる

色鮮やかなコートを着た、
喉仏を持つ美女達が喧嘩している

渋いバリトンボイスが夜の空に良く響く
わりと良い声だけど、だからこその迫力だ

凄く恐い


えっ……
ここ、通るの?

わかってる
わかってはいるんだ

通らなきゃダメなんだよね
そうしなきゃ現場に行けないもん

でも
そんな勇気ねぇよ……‼︎


どうしよう

暇しているって言ってたし、
電話掛けて迎えに来てもらおうか

でも、それには彼らと距離が近すぎる

もし助けを求める通話が、
彼らに聞こえてしまったら

かなり気まずい事になる


迷っている間にも2人の争いはヒートアップ

口論では埒があかないと思ったのか、
片方がコートのポケットから何かをつかんで

思いっ切り地面に叩き付けた

何か破片のようなものが飛び散り、
こっちの足元まで勢い良く転がってくる

幾つかがブーツに当たったらしく、
爪先にコツコツと軽い振動が伝わった


「うわっ……と⁉︎」

あっ……
どうしよう

思わず叫んじゃった

咄嗟に手で口を覆うも、
全てがあまりにも遅すぎて


「………………」

あー……
見られてる

さっきまで罵り合っていた2人が、
無言でこっちを見つめてくる

どうしよう
目が合っちゃった……


先に口を開いたのは、
地面に何かを叩き付けていた方

「ごめんなさいね、怪我は無かった?」

「えっ……あ、はい……」

「だから暴力はダメだって言ってるでしょ
 怯えてるじゃないですか、可哀想に……」

「本当にごめんなさいね
 いつもの痴話喧嘩なの、気にしないで」

痴話喧嘩かよ


「コレ、分けてあげる
 よかったら使ってみて」

コートのポケットから取り出した物──……
先ほど地面に叩き付けていた物の一部だろう

不規則に角ばった形のそれは、
手のひらの上で無造作に転がされている


「あの、これは……?」

「砂利」

砂利かい


「いや、あの……
 渡されても、どうすれば良いか……」

「大丈夫よ
 ビニール袋に入れてあげる」

運搬スタイルの心配はしてねえ


「光るんですよ、この砂利
 蓄光性というやつです
 ロマンティックな夜の演出にどうぞ」

「へぇ……」

ロマンティックな夜を、
一緒に過ごす相手がいないんですが……

まぁ、いいか
何かに使えるかも知れないし

とりあえず痴話喧嘩も落ち着いた様で一安心

こうして仕事鞄の中には、
特大サイズの育毛トニックに続き、
暗闇で光る砂利が新たに加わりました




仲直りしたカップルに別れを告げ

やっと本来の目的地に向けて、
歩き出せるようになりました

ふふふ……

信じられるか?
まだ仕事現場にすら着いていないんだぜ……


現在までに起きたトラブル

・全裸の男に焼き魚を投げられる
・公衆トイレで薄毛に呪われる
・痴話喧嘩のカップルに砂利を撒かれる

トラブルのリストは、
これから更に増えて行きます


自分でも状況を把握し切れていなかったり、
どう説明したら良いかわからない展開が
盛り沢山で書き出すのに時間が掛かっています

長丁場になりそうですが、
宜しければお付き合い下さい


つづく




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2 コメント

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Unknown (dpmmiv9374)
2023-12-17 18:43:55
毎回、楽しい内容でついつい笑ってしまいます。
次回も楽しみにしてます。
  ちいかわより
Unknown (milkylotus)
2023-12-19 22:54:06
@dpmmiv9374 ちいかわさん、こんばんは。
楽しんで頂けて、こちらも嬉しいです。

今日は何気なく蕎麦屋に入ったら、
中では店主と常連客が熱くラップバトルを繰り広げていました。
年末も近付き蕎麦屋も本気を出してきたようです。

何かと忙しくなる時期ですが、
お体に気をつけてご自愛くださいね。
コメントありがとうございました。

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